Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
休み時間。俺のところにやってきたオルコットは、腰に手を当ててそう言った。
といっても、俺のところに来る前に一夏のところで同じようなことを言っていたから、この後の展開も容易に想像がつく。
「まあ? 一応勝負は見えてますけど? 流石にフェアではありませんものね」
「そうだな。代表候補生が一方的に決闘を申し込んだ挙句、訓練機に負けたなんてなったらお前の面目が立たないだろうしな」
こいつが専用機持ちなのは、さっき聞こえた。まあ、あそこまで自分はすごい人間なんだと自慢しておいて専用機を持っていなかったらとんだ笑いものだが。
「っ……。そちらは、訓練機だから負けたと言い訳できなくて残念でしたわね」
「言い訳なんかしないし、そもそも負けないから何も問題はないだろう?」
「……大した自信ですわね。自己評価を高めすぎると、痛い目に遭いますわよ」
「その言葉、そのまま返してやるよ」
互いに相手を挑発しあう。
俺とオルコットの周りの空気が張り詰めたものになり、俺たちの様子を見ていた女子が息を飲む気配を感じるが、そんなこと俺たちには関係ないことだ。
「来週が楽しみですわ。あなたがわたくしに打ち負かされて、無様に地に伏すのが見れるのですから」
「悪いが、お前のいう光景は拝めそうもないな。逆にお前が地に伏すのならあるだろうから、録画用のカメラを用意しておくことをお勧めする」
「確かに、あなたの無様な姿をあとでゆっくりと見るために用意したほうがいいかもしれませんわね」
俺もオルコットも、自分が負けることなんて微塵も思っていない。だからこそ、これは虚栄心の欠片もない本音の対話。
のほほんさんを除けば、こいつだけが俺に対して話しかけてくる――話の内容はともかく――唯一の女子だ。
それに加えてこうも本音をぶつけ合えるとあれば、ある意味では、この会話すら楽しんでいるともいえるかもしれない。
こんな挑発の応酬が楽しいと感じるなんて、どれだけ悲しい人間かと自分自身意問いかけたくなるが、それはこの環境のせいだということにしておこう。
周りにほとんど味方が存在せず、のほほんさん以外誰とも関わることすら叶わないというこの環境が、オルコットとのこんな関わりすらも楽しませている。そういうことにしておこう。
「まあ、どっちが正しいかは来週になればわかるさ」
「そうですわね。わたくし、セシリア・オルコットが勝つのは決まっていることですけど」
そう言って離れていくオルコット。途端、俺たちを包んでいた空気は霧散し、近くの女子たちが安堵のため息をつく。
だが、そんなことはどうでもいい。この休み時間は所謂昼休み。昼食を取るべき時間だ。オルコットとの会話で少々遅れたが、食堂に昼食を食べにいかなければ。……その前に。
「俺はこれから食堂に行くが、一緒に行くか? のほほんさん」
「わ~、気づいてたの~?」
背後を振り返ると、案の定のほほんさんがいた。
「なんとなく、だけどな。で、どうする? 一緒に行くか?」
「もっちろ~ん。そのためにすーくんとせっしーのお話が終わるの待ってたんだよ~」
「“せっしー”って……どうでもいいか」
おそらくセシリアという名前からつけたあだ名なのだろう。勝手につけられた本人がこれを聞いたらブチ切れるだろうが、どうでもいいことだ。
「じゃあ、一緒に行くか」
「うん~」
話がまとまり、俺とのほほんさんは食堂に向かうため、教室をあとにした。