Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
二日目の授業も終わり、放課後。一夏はHRが終わった途端、篠ノ之に連れて行かれた。
「……帰るか」
のほほんさんはなにやら外せない用事ですでに教室にはいない。
特にやることもないので、自分の部屋に帰ってしまおう。
荷物を手に持って席を立つ。俺へと注がれる嫌な視線を無視しつつ廊下を歩いていると、向こう側から織斑先生が歩いてきた。
「須藤、もう帰りか」
「はい、そうですけど……。もうってどういうことですか?」
「お前には連絡がいってなかったのか。今日から一年生も放課後にアリーナで自主訓練を行うことができる。訓練機の貸し出し申請が降りなければできないが、専用機持ちであるお前には関係ないだろう」
「あ、そういえばそうでしたね」
言われてやっと思い出した。入学式の翌日から新入生も学園にあるアリーナで放課後の自主訓練をすることができるのだ。すっかり忘れていた。
自主訓練ができるのだったら、とりあえず射撃練習あたりでもやってみるか。
「一つ忠告しておくと、オルコットが第二アリーナを使用しているからそれ以外の場所にしておけ。お前たちが顔を合わせたら来週を待たずに戦い始めそうだ」
「そんなことしませんよ。昨日だって、俺は戦いを拒否したじゃないですか」
「オルコットにどんなに挑発されても黙っていられるのか?」
「さあ。どうでしょうか」
はぐらかすように答える。黙っていられると断言したかったが、そう言い切れる自信はない。もしかしたら、あっさりと戦い始めてしまうかもしれない。
織斑先生はそんな俺に呆れたようなため息を一つつき、すぐにいつもの鋭い表情になる。
「まあいい。それよりも、ここの学校生活はどうだ。女子ばかりだから過ごしづらくはないか」
「そうですね。居心地が悪いときもありますけど、概ね問題はないですよ」
「嘘だな」
俺の答えに、織斑先生は間髪いれずに、そう言い切った。
「気づいていないとでも思っているのか。女子たちがお前を敵視しているのくらい、教師は全員気づいている」
「……そうですか」
まあ、気づいていてもおかしくはない。気づいていても気づいていないフリをしてくれると思っていたが、そうもいかないようだ。
「でも、原因は俺なんで、自業自得ですよ」
「そうかもしれないな。だが、女子たちの間で流れている噂は、ほとんどが根も葉もないものなのだろう。お前がこの学園に来てたった二日。しかも女子とほとんど接していないお前のことが、女子にわかるわけもない」
「そうでしょうね。でも、本当かどうかなんて関係ないんですよ。面白ければ、女子たちは食いついてきますから」
「だからといって、放置していいわけではないだろう。お前には噂を否定する権利がある」
織斑先生はいつもの真面目な表情のまま続ける。
「私はお前のことをほとんど知らない。だが、あの束がわざわざ一緒に暮らしているということが、何を意味しているかわかるか」
「……いいえ」
「あいつは、妹の篠ノ之と幼馴染私、それに織斑しかまともに認識しようとしない。そんなあいつが、お前のことをあだ名までつけて呼び、この学園に入学させるほどの手間もかけた。昔からあいつを知っている私からすれば、それがどれだけ異常なことなのかよくわかる」
「…………」
「そんな異常なことを自らするほど、あいつはお前を認めていたということだ。お前の何を認めていたかは知らん。だが、少しは自信を持て。あの自他共に認める天才のお墨付きをもらっているのだからな」
「……励まして、くれたんですか」
「そんなのは自分で想像しろ。励まされたと思うならその励ましに応えられるようがんばればいい。思わないのなら、ただの戯言だと思って忘れればいい」
忘れられるわけがない。かつて世界最強の座に登りつめた人の助言だ。
重みが、違う。他の人の言葉に比べて、この人の言葉には重みがある。一つ一つの言葉の端々に、他の人にはない重みを感じる。
だからこそ、頭に残って離れそうもない。
「……ありがとうございます」
「礼を言われるようなことはしていない。それでは私は職務に戻る。自主訓練をするのは勝手だが、くれぐれも問題は起こすな。通常の学園生活でもな」
俺の言葉にそう返すと、織斑先生は颯爽と去っていった。格好良すぎるな。世界中にファンがいるのも頷ける。
「……自信を持て、か」
世界一の天才に認められ、世界最強に励まされた。それでまだ前を向けないなんて、それは二人に失礼だ。
「もう少しは、自信を持ってがんばるかな」
とりあえずは、アリーナで自主訓練でもしよう。運動をしてすっきりすれば、がんばれる気がする。