Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
織斑先生の忠告を聞き、オルコットのいない第一アリーナへとやってきた俺に向けられたのは、案の定、冷たい視線だった。
だがそれは予想済み。そんなことを気にしている暇はない。俺から女子たちが距離をとったために生まれた空間で俺は自主訓練をするため神王を展開――
「ねえ、君が須藤明弘でしょ?」
――しようとしたところで、背後から誰かに声をかけられた。
俺に話しかけてくるような女子がいると思わなかったので一瞬驚いたが、それを顔に出さず振り返る。
向けた視線の先にいたのは、先輩であろう女子が一人。身に纏っているのは日本製の第二世代IS『打鉄』。フランス製の第二世代IS『ラファール・リヴァイヴ』と共に、IS学園の訓練機として採用されている機体だ。
ラファール・リヴァイヴが遠距離タイプの万能型なのに対し、打鉄は近接万能型。それに防御面も定評がある。
「それが何か」
「君、代表候補生の子と勝負するんだって? 専用機持ちらしいけど、ちょっと調子に乗りすぎてるんじゃないの?」
「…………」
どうやら、代表候補生のオルコットと対決するというのが調子に乗っているということで、焼きを入れようということらしい。
本当のところ、俺はオルコットと一夏の決闘に巻き込まれただけなのだが、そのあたりの事実が曲解されて伝わっているのだろう。俺がオルコットに無謀にも対決を挑んだ。そんな感じにクラスの女子以外には伝わっているのだろうな。
こんな手合いが来ることは予想していたが、本当に、しかも決闘の約束をさせられた翌日に来るとは……。
そんな内心でため息をついて何も言わない俺の姿を見て、ますます勢いをよくした女子は、好き勝手言い始める。
「君がどこの国の代表候補生じゃないことはわかってるのよ。それで専用機を持ってるってことは、どうせどこかの開発企業の試作機のテスターでしょ、君」
まあ、あながち間違っては――いや、間違ってるか。俺が代表候補生でないのは確かだが、俺がいたのは束さんの家で、神王は試作機じゃない完成された機体で、俺はテスターではなく正式な神王の操縦者だ。どれも的を外れている。
だがそれを訂正したりはしない。できれば束さんとの関係を言いたくないのだ。言ってしまえば、こいつらは不躾な質問をしてくるか、更なる誹謗中傷の言葉を言ってくるに違いない。俺自身のことをなんと言われようがかまわないが、束さんのことで馬鹿にされるのは許せない。
俺にとって、束さんは須藤明弘としての人生の仲で一番の恩人で、束さんとの関係は俺にとって初めてできた大切な関わりなのだ。それを侮辱されたら、俺は何をしてもおかしくはない。
「ISっていうのはね、稼働時間がものをいうけど、それを使うのが人間である以上操縦者の技術も同じくらい大切になってくるの。テスターだったら稼働時間はまあまああるかもしれないけど、技術のほうは駄目でしょ? 自分が専用機を持っているからって、それだけで代表候補生に勝てると思ってるの?」
「……それで、何が言いたいんですか」
「そんな身の程知らずの後輩を、先輩である私がちょっと指導してあげようと思ってね。私三年生だから、二年間ここでISについて学んで来たのよ。もちろん、実技もね」
指導なんて口実に決まっている。本当のところは気に入らないから叩き伏せてしまおうという二年も先に生まれておきながら大人気ないことを考えていることは容易に想像がつく。
「いくら君の稼働時間が長くても、私には二年間の下積みがある。稼働時間だけで勝てるほどこの世界は甘くないってことを、私が教えてあげる」
くだらない。想像を絶するくだらなさだ。
自分の中で考え出された想像が、真実だと勘違いしている。こいつもオルコットと同じ人種のようだ。自分の中で出た答えが絶対の真実とし、自分は絶対に正しいと思い込む。そんな人種。
こういうのは話し合うだけ無駄なので無視するに限る――が、今は少し体を動かしたい気分だし、久々に対人戦をやって感覚を取り戻しておくのもいいかもしれない。
なら、返す言葉は決まっている。
「じゃあ、お言葉に甘えて先輩にご指導していただきます。形式は模擬戦闘。シールドエネルギーが尽きたら負け。それ以外の負けはなし。それでいいですか?」