Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
アリーナにいた他の女子たちが、俺たちの模擬戦の話を聞き、アリーナの壁側に全員が移動していた。
観客席にも結構の人数が腰を下ろし、俺と先輩を眺めている。話を聞きつけてきたのだろう。
そんな女子たちの視線を受けた俺たちは、アリーナの中心部分でそれぞれISを纏って対峙していた。
先輩は先ほどから装着している打鉄。俺は、自身の専用機・神王。
紫色で統一された装甲。そして俺の周りを浮遊する六つの他方向推進欲が特徴的な機体だ。
「へぇ、それが君の専用機ね。今開発してるってことは第三世代型なんだろうけど、はやく第三世代兵器を出したら? それくらい待ってあげるわよ」
「いいですよ。必要に応じたら勝手に出しますから。それよりも、いつでもかかってきていいですよ。レディーファーストってことで」
「……いい度胸してるわね。だったらお言葉に甘えてっ!」
俺の挑発にキレた先輩が、近接ブレードを冗談に構えて突進してくる。
まっすぐ俺に肉薄し、そのまま近接ブレードを振り下ろす。それが当たる直前に、俺は後方へ回避した。
目標を失った近接ブレードは見事に空振りし、その切っ先が地面へと突き刺さる。
「……っ」
避けられるとは予想もしていなかったのだろう、先輩の表情が驚きに染まる。だが、それはすぐに怒りにも似た感情へと変貌を遂げる。
「男の癖にっ!」
初撃と同じようにまっすぐ突進してきて近接ブレードを振り下ろす。だが、俺も先ほどと同じように後方に退避してこれをかわす。
またも避けられた先輩は、鬼の形相で近接ブレードを振り回してきた。
振り下ろし、横薙ぎ、切り上げ、突き。二年間の努力の賜物か、どれもがなかなかの速度を持ったものだ。だが、俺には当たらない。
冷静さを欠いた状態で振られた武器など、速さがあっても太刀筋が乱れている。攻撃の組み立てもできていないので、攻撃と攻撃の間の無駄が多い。
何よりも、この先輩は俺を――男を見下している。「男の癖に」という発言が、それを如実に表してる。自分が男に負けるわけがないと、勝手に思い込んでいる。だからこそ怒り狂っていてもどこか手を抜いているように感じるのだ。
そんな攻撃では、俺に一太刀も浴びせることはできない。
「はぁ……はぁ……」
無茶苦茶な攻撃でかすかに息が上がっている先輩。だが、その目の闘志――怒りの炎はまだ消えていない。それどころかさっきよりも激しくなっている。
アリーナの壁の近くまで来ていた俺に対して、懲りもせず突進してくる。それを俺は上空へ飛んで回避し、先輩の背後の十メートルほど離れた辺りに着地する。
「このぉっ!」
先輩は俺が着地したのを見て、無理矢理反転。再度俺に突撃してくる。そして――
次の瞬間、先輩の体はアリーナの壁に叩きつけられた。
「……この程度か」
壁に叩きつけられた先輩に対して、俺は左足で大きく踏み込み、右手を突き出した状態でそう呟く。
おそらく、今のを完全に理解したやつはここにはいないだろう。代表候補生ならどうだかわからないが、今やったことは非常に簡単。
本来ならパンチだけで吹き飛ばせるわけはないのだが、瞬時加速と先輩が突撃してきたことで生まれた相対速度によって普通の数倍以上の威力を持つパンチになったというわけだ。
「先輩、まだいけますよね? 俺まだ何も指導を受けてないんですよ」
「あ……あ……」
いきなり体を襲った衝撃のせいか。それとも予想外の状況のせいか。先輩は混乱して、まともな返事を返せない。
だが、そんなことは関係ない。これは模擬戦闘。しかも、どちらかのシールドエネルギーが底をつく以外に勝敗が決しない、降参不可の模擬戦闘だ。
相手が戦意を喪失していようが、まともに戦える状態だろうが、模擬戦は終わらない。
完膚なきまでに叩き潰す。これは、先輩本人だけでなく回りにいる女子、ひいてはこの学園の女子全員に向けての見せしめだ。
俺が気に入らないなら、真っ向から挑んで来い。だが、負ければお前たちも同じ目にあうぞ、と。それを示すための見せしめだ。
さあ、自分が見下していた相手に一撃も与えられず、挙句は武器を使われずに負ける。その絶望を、たっぷり味わってもらおうか。