Another IS ―もう一つのIS―   作:colorless

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第二十一話 セシリアの戸惑い

 ……なんなんですの、いったい。

 明弘と対峙しているセシリアは、不思議な感覚にとらわれていた。

 自分の攻撃がことごとく当たらない。気に食わないことではあるがそれだけのはずなのに、何かが違う気がする。

 攻撃を見てから避けられている、というよりも、まるで自分が撃つところを事前に知って動いている、というほうがしっくり来る。

 自分の考えていることが見透かされている。そんな気がしてならない。

「……男のくせに……」

 男は女に傅いていればいいのだ。それがあろうことか、女に――それも名誉あるオルコット家当主である自分に歯向かう。腹立たしいことこの上ない。

 ……いや、一人だけ。

 昨日戦ったあの男だけは、不思議と腹が立ってこない。

(織斑、一夏……)

 その名を胸の中で呟いただけで、痛いくらい鼓動が早くなっていくのがよくわかった。

 苦しいような、それでいて心地いいような感覚。十六年間生きてきた中で始めての感覚。

(まさか……わたくし……)

 この感覚が何なのか、頭に浮かんできそうになるのを頭を振ることで遮る。

 この感覚の正体は気になるが、今はそれ以上に気にかけなければならないことがある。

 目の前の敵を倒す。それがもっとも優先されることだ。

 

 

「織斑先生。須藤くんはどうして何もしないのでしょうか」

 試合を観戦していた真耶は、感じた疑問を隣の千冬に投げかけた。

 それに対して千冬は、面白くなさそうに憮然と答える。

「どうやら、須藤は本格的にオルコットを叩きのめすつもりらしいな」

「えっと、それはどういう……?」

「全てにおいて自分のほうが上なのだと、オルコットに知らしめるということだ。オルコットの得意分野である遠距離攻撃を完全にいなし、同じ遠距離攻撃でオルコットを沈める。そうすることで、オルコットの自信を完全につぶす腹積もりなのだろう」

「ですが、オルコットさんは代表候補生ですよ? いくらなんでもそこまで完全にとは……」

「確かに、あいつは代表候補生ではない。だが、だからといって代表候補生よりも弱いというわけではない。今の状況を見る限り、須藤のほうがオルコットよりも実力は上だろう」

 そうでなければ、ここまで完璧な展開にはならない。

 だが、と千冬は心の中でつぶやく。

 実力以上に突出しているのは、心理戦。駆け引きが、明弘は巧い。

 この試合の前から明弘はセシリアを挑発し続けていた。それによってセシリアを怒らせ、冷静な判断をさせない。

 しかもこの戦闘中も、回避の合間に「かかってこい」といわんばかりにセシリアを挑発させている。そうすることで頭に血が上った状態から戻れないようにして、セシリアの攻撃を単調にさせる。

「それにしても、いつまで続くんでしょうか?」

「オルコットが《ブルー・ティアーズ》を出してこない限り、須藤が攻撃に転じることはないだろうな。あいつが動くとすれば、オルコットの真骨頂である第三世代兵器も完全に対処できることを示してからだ」

 

 

「ああもう! 虫のようにちょこまかと!」

 この戦いが始まってからずっとたまり続けている苛立ちを悪態という形で吐き出して引き金を引くが、発射されたレーザーは明弘に当たることなく地面に着弾する。

 しかしそのレーザーの軌道は、明弘に直撃するものではなかった。苛立ちによって狙いが散漫になっているのだ。

 戦闘開始直後こそ正確に明弘を撃ち抜く軌道で明弘も回避に専念するしかなかったが、時間がたつごとに明弘が回避に要する動きも目に見えて少なくなっていた。

 セシリア自身、それを自覚していないため明弘が少ない動きで回避しているのは自分が原因ではなく、明弘が自分の狙いを読んでいるという錯覚を抱いてしまっていた。

 目標に当たらない。思うようにいかないことが苛立ちを増加させ、その苛立ちが狙いをぶらせる。

 完璧な悪循環。時間がたつごとにセシリアは不利になっていき、相対的に明弘は有利になっていく。

 それに気づかないセシリアは怒りの炎を灯した視線を明弘へと向ける。

 ちょうど相手もこちらに視線を向けたようで、明弘と目があった。

「っ……」

 その瞬間。セシリアは、心をつかまれた。

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