Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
「くっ……!」
瞬時加速で突撃してくる俺に対し、《ブルー・ティアーズ》では間に合わないと悟ったオルコットは、手に握った《スターライトmkⅢ》の銃口を俺に向け、引き金を引く。
とっさの判断にしては狙いは正確。俺がそのまま突っ込めば直撃するコースだ。
だが、俺はそのレーザーを上空へ直角に軌道変更することで回避する。
「なっ、高速起動中に軌道変更なんて……正気ですの!?」
俺の行為にオルコットは、信じられないといった様子で叫ぶ。
オルコットの言うことはもっとものことだ。
瞬時加速中に無理な軌道変更を行うということは、空気抵抗や圧力がかかり、下手すれば骨折することもある危険な行為だ。
ISには絶対防御と呼ばれるものがあるため骨折することはほとんどないが、それでも危険なことには変わりない。どこの軍やIS訓練機関でも暗黙の了解で厳禁行為だとされている。
まあ、絶対禁止というわけではないので、俺は使っているが。
理屈としては簡単なこと。神王の六つある多方向推進翼のうち三機でコンマ数秒だけ瞬時加速の勢いを相殺させ、残り三機で軌道変更。あとは背部スラスターで変更した方向へと飛ぶ。それを一秒もかけずにやるだけだ。
言葉にすれば簡単だが、俺はこれを習得するのに一日のほとんどを特訓に費やし、それでも二ヶ月かかった。
その費やした時間の分、この技術は俺にとってかなりの助けになっている。
これを出した以上、いくら《ブルー・ティアーズ》の多方向からの攻撃とはいえ、そう簡単には当たらない。
オルコット自身の射撃も見切った以上、オルコットが俺にダメージを与えることはできない。逆に、俺はオルコットの回避パターンをある程度把握したため、先回りして攻撃を当てることができる。
それはすなわち、この試合がどこまで続いても俺には勝利しかなく、オルコットには敗北しかない。ということ。
「このっ……! このぉっ……!」
それを――意識してかしないでかは定かではないが――理解しているからこそ、オルコットは今まで以上に攻撃を激しくしていく。
だが、焦りのせいでこれも今まで以上に攻撃の精度は低くなっており、容易く回避することができる。
……これで、俺の勝利が覆る可能性も、ほぼ無くなったな。
「もう、終わりにするぞ」
「えっ――」
独り言にも似た呟きにオルコットが反応する前に、俺は動いた。
弾雨を回避しながらオルコットへと突撃。オルコットが慌てて距離をとろうとしたところで、その退路を予想して《アヴァロン》を撃つ。オルコットは何とか寸でのところで回避するが、体勢は崩れる。そこを狙い、もう一発《アヴァロン》を放ち、オルコットを打ち落とした。
墜落したオルコットを追いかけるように急降下。地面に降り立つと、まだ起き上がる途中のオルコットに向けて追撃のレーザーを撃つ。
体勢を整えきっていなかったオルコットはまともに対応することができず、レーザーに吹き飛ばされてアリーナの壁に叩きつけられた。
重力にしたがって地面へと倒れようとするオルコットに《アヴァロン》のレーザー、そしてその合間を埋めるために《アトランテイス》も撃ち、オルコットを壁に縫いつけながらダメージを与え続ける。
それが一分ほど続いたところで、アリーナにアナウンスが響いたため、攻撃を中止した。
『試合終了。勝者、須藤明弘』
呆気ない。呆気なさ過ぎる試合展開、そして結末だった。
試合時間は三十分から四十分ほど。まあまあ長い試合だったが、結果は俺の完勝。しかも被弾ゼロという、非のつけようのないほどの。
だが、そんな試合結果とは違い、俺の中には不満が残っていた。
言うならば消化不良。とても試合を行ったとは思えないほど、俺の中ではまだ戦いの火がくすぶっていた。
だがこれ以上オルコットは戦うことはできないだろう。仮にできたとしても、もう試合を終わっている。これ以上の戦闘は織斑先生のお叱りを買いかねない。しかたないが、ここは我慢だ。
両手の武装を収納して、さっきから微動だにしないオルコットへと近づいていく。まったく動いていないが、死んではいないよな? いくらシールドエネルギーがなくなっても、予備エネルギーで絶対防御は発動するはずだし。
しかし気絶くらいはしているかもしれない。そうなったら俺が運ぶことになるのだろうから、一応意識の確認をしておかなくてはいけない。
「おい、大丈夫か」
「…………」
オルコットは答えない。まさか、本当に気絶してないだろうな。
「おい、オルコット。返事をしろ。しなければ保健室に運ぶぞ」
「……して」
よかった。どうやら気絶はしていないようだ。
そんなことを考えていると、オルコットは静かな口調で問いかけてきた。
「……どうして、そこまでの実力を持ちながら……わたくしとの決闘を、拒みましたの……?」
「勝っても負けても、何も手に入らない戦いなんて無駄なことはしないだけ。先週そう言ったが、あえていえばもう一つある」
「……聞かせていただけませんこと」
「お前の思うとおりに進ませるのが癪だった。ただそれだけだ。どこぞの名家のご令嬢みたいだが、だからって我が侭がまかり通るわけじゃない。思うようにいかなくて、悩んで、努力して、ようやく少しだけ思い通りにいくかもしれない。それが世の中だ。それを少しでも学んでほしかった――のかもしれないな」
「…………」
「まあ、どう受け取ろうがお前の勝手だ。俺の言葉をきっかけに何か考えるのも、くだらない戯言だと綺麗さっぱり忘れるのも。俺が言えるのはこれで終わりだ」
そう言うとオルコットの返答を待たず、俺はのほほんさんの待つピットへと戻っていった。