Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
観客席で試合を観戦していた女子たちは、皆一様に目を見開き、絶句していた。
彼女たちはセシリアが負けるはずが無い。そう信じていた者たちである。
セシリアはISの訓練を積み上げてきた代表候補生、しかもその中でも一握りしかいない専用機持ちである。
その上、入試では唯一教官を倒し、学年主席で入学を果たした秀才だ。この学園の教師である以上、教官も少なからずISの経験は積んでいるであろう。その教官に勝ったという事実は、セシリアの実力が申し分ないことを示している。
自分たちもIS学園に入学したという意味では一般の女性よりは才能があるといえるが,彼女は別格だ。一般女性よりも才能のある自分たちよりも、さらに高みにいる存在。それが代表候補生――セシリア・オルコットという存在。
そんな彼女が専用機を持っているとはいえ,男子に負けるはずが無い。
しかし、目の前の現実はそんな予想を粉々に打ち砕いた。
セシリアが明弘を無傷で、そして圧倒的な実力差で打ちのめす。そんな女子たちの予想とは正反対の結果。
セシリアの精密射撃を避けきっただけでなく、セシリア最強の武器である《ブルー・ティアーズ》すらも歯牙にかけずいなし、まるでセシリアの動きを予測しているかのように的確に攻撃を当て,勝利を収めた。
“いくら代表候補生だからって絶対勝つとは言い切れない”
そう言ったのは誰だったか。先ほどセシリアを圧倒し、ピットへと姿を消した男だ。
彼の言うことは正しかったのだ。それなのに、気に食わないからといって、その言葉を欠片も信じようとはせず、彼を否定した。それどころか、彼を敵として――拒絶した。
それが彼にどれほどの苦痛を与えたのだろうか。周りにいる全員が自分を拒絶する。さっきまでは自業自得だと決め付けて考えもしなかったが、いざ考えてみると恐ろしいことだ。
……いや、一人だけ。一人だけ、彼の味方はいた。
布仏本音。自分たちの,そして明弘のクラスメイトで、“のほほんさん”という彼がつけたあだ名のとおり、のほほんとした雰囲気の、マイペースな少女だ。
彼女が自分たちとは違い、いたって普通に――いや、それ以上かもしれないが――明弘と接していたのは誰でも知っている。学園では彼女のことを物好きだと言われているが、彼女の行動こそが普通のことだったのだ。
「……謝らなくちゃ」
それは誰の口から出た言葉だったのだろうか。もしかしたら、誰も口にしていなかったのかもしれないが、その言葉は少女たちの心に響く。
彼女たちに良心というものがないわけがない。例え、気に入らないという理由で明弘を拒絶していようが、それはまだ精神的に成熟しきれていないだけである。成熟段階であるからこそ起きてしまったことだ。
その言葉と良心に弾かれるように一人、また一人と、席から立ち上がり歩き、ある者は走り出す。
その行く先は――明弘が戻っていったピット。
「おつかれさま~」
ピットに戻り、神王を待機形態にするなり、のほほんさんが駆け寄ってくる。
その手には俺が用意しておいた清涼飲料水と、のほほんさんが持っていたのであろうポッキーの箱。
「あんまり疲れてないけどな」
そう答えて清涼飲料水を受け取り、一口飲む。神王の補助があるからそこまで疲れることは無いが、体を動かしていることに変わりは無いので、体は火照る。その火照りを鎮めるためには、やはり飲み物を飲むに限るな。
「かっこよかったよ~。せっしーの攻撃全部避けて、圧勝なんてすごいな~。あ、これ食べて食べて。体を動かした後は糖分補給~」
「ん、じゃあ、ありがたくいただく」
のほほんさんからポッキーをもらい、食べる。動かして少なからず疲労した体に何か活力のようなものが沁みてくる。お菓子は栄養に偏りがあるからあまり食べたことは無かったが、運動の後にはいいかもしれない。
「代表候補生に勝っちゃうなんて驚きだよ~。なんであんなに強いの?」
「俺は強くないさ。確かにオルコットには勝ったが、それは色々と仕掛けをしたから勝てただけ。純粋な戦闘能力だったらそこまでの差は無い」
「仕掛け?」
「一言で言ってしまえば、オルコットに全力を出させない。これだけのことだ。男のことを見下してるところを利用して無意識に手を抜かせたり、挑発して怒らせて冷静に戦えなくさせたり、攻撃を当てさせないことで焦りを呼んで攻撃の精細さを欠かせたり。そんな小細工の類だ」
そこまでやらなければ、あそこまで一方的に勝つことはできなかっただろう。一つでもしくじれば、負けはしなかっただろうが苦戦は強いられていたかもしれない。
だが、苦戦してしまえば、例えその結果勝ったとしてもオルコットは「まぐれで負けただけだ」と男を見下し続ける可能性があった。それを避けるためには、まぐれも偶然も入り込む余地が無いほど圧倒的な勝利に見せかけなければならなかった。
そのための小細工だ。
「小細工なんて話じゃないよ~。それに、反則してないんだから、それもすーくんの実力でしょ~?」
「形式上はそうかもしれないが、本当の俺の実力でないのも確かだ。っと、そろそろ着替えたいからちょっと外に出ててくれるか?」
「あい~」
ゆったりとした動きで敬礼の真似をして、のほほんさんが外に出て行く。それを確認した後、俺は着ていたISスーツを脱ぎ、備え付けのシャワーで汗を流す。
その後、タオルで体を拭いてから制服へと着替える。
ISスーツは体に密着してとても軽いから着ているのも楽だが、少なからず汗をかいているためやはり着替えたほうが気持ちはいい。
のほほんさんを待たせるのも悪いし、さっさと制服を着て、彼女の元へと向かう。
「お待たせ」
「ぜ~んぜん待ってないよぉ。男の子って着替えるの早いね~」
「まあ、女子と比べたら早いだろうな」
そんな言葉を交わしながら、アリーナの出口へと向かう。次は通常の授業があるため、そこまでのんびりし続けるわけにもいかないのだ。
……しかし、それはドドドドッ、という地響きのような音を引き連れて廊下の角から現れた女子の軍勢によって阻まれた。
……なんなんだ? いったい。