Another IS ―もう一つのIS―   作:colorless

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第二十五話 謝罪と和解

「……何か用か?」

 少女たちと向かい合う明弘が最初に発したのは、そんな短く、冷たい言葉だった。

 敵意の込められた視線を向けながら、明弘は隣の本音を守るかのように一歩前に歩み出て半身で本音を隠すような行動をとる。

 しかしそんな、敵と遭遇したかのような対応を取られた少女たちは、何も言えない。

 つい数時間前――明弘とセシリアの試合が始まるまで自分たちも彼に同じような視線を向けていたのだ。そんな自分たちには何も文句を言う資格はない。

 これは自分たちが招いた結果なのだ。自分たちが感情に任せてやってしまった結果。

 だからこそ、それを謝罪するために、自分たちはここまで来たのだ。

 そう改めて自分に言い聞かせ、少女たちは目の前の少年に向かって頭を下げた。

「ごめんなさい!」

 一人がそう言うと、口火を切ったかのように他の少女たちも口々に謝罪の言葉を口にした。

 大勢の少女たちに「ごめんなさい」と謝られた明弘は、その様子をただ見ていたが、少女たちの謝罪が終わると、少し考え込み、数秒の沈黙の後に少女たちへ問いかける。

「……どういうつもりだ?」

「……え?」

 明弘に問いかけられた少女たちの口から疑問の声が漏れた。

 明弘は自分の言葉の意図が通じなかったと悟り、もう一度、今度は意図が通じるように少し言葉を捕捉しながら問いかける。

「お前たちが謝っていることについては予想はついた。お前たちが俺に謝ることなんて一つしか考えられないからな。だが、なぜ、今、このタイミングで謝りに来たのか。それが俺には分からない。だからそれを聞いている」

 そう。先ほどの試合は、少女たちにとっては自分たちの過ちを気づかせてくれた出来事だったとしても、明弘からすればただのセシリアとの試合でしかなかった。

 もちろん、ただの試合ではなく、セシリアの思い上がりを正すためといった理由もなきにしもあらずだったが、試合中に観客だった少女たちに何かしたわけでもない。そのため、明弘にはなぜ今少女たちが謝罪しに来たのか、見当がつかないのだ。

「それは~、さっきの試合ですーくんが正しかったってみんな分かったからだと思うよ~」

 その言葉は明弘の前方ではなく、すぐ真後ろから聞こえてきた。

 視線を前から後ろ――今の言葉の元である本音へと向けながら、明弘は問う。

「どういうことだ?」

「みんなはすーくんが男の子だから馬鹿にしてたでしょ~? でも~、さっきの試合でせっしーを倒したことですーくんが言ってたことが正しかったって証明できたんだよ~」

「……なるほどな」

 本音の説明を聞いて、明弘は納得がいったと頷く。

「それで合っているのか?」

「は、はい……」

 再度視線を向けられた少女の一人が答える。その答えに、「そうか……」とつぶやき、明弘は口を紡ぐ。

 十秒近い沈黙の後、明弘は改めて少女たちへと告げた。

「お前たちの謝罪は受け取った。だが、俺は謝られたからと言って『気にするな』と全てを許せるほどできた人間じゃない」

 その言葉に少女たちは複雑そうな表情を浮かべて、小さく頷く。

 少女たちも思ってはいなかったのだ。一度の謝罪で自分たちの行いを許してもらえるとは。

 それなら、許してもらえるまで謝り続けるだけだ。例えどれだけ時間がかかろうとも、それが自分たちにできる唯一のことなのだ。

 そう改めて決意した少女たちに、明弘は言葉を続ける。

「――が、謝られたというのに拒絶できるほど落ちぶれてはいないと、自分で思っている」

 続けられた言葉に少女たちは本日幾度目かになる驚きの表情を見せた。

「本来なら全部を許す、というのはできないが、たかが一週間のことだ。それに自分が正しいと思っての発言だっとはいえ、俺の言い方が悪かったことも否めない。それらを踏まえて、今回のことは水に流そう。もちろん、お前たちに限ったことで他の奴らは対象外だがな」

「そ、それって……」

 少女たちの短い問いかけに、明弘は小さく頷き、答えた。

「今回のことは許すってことだ。だが、俺の中のお前たちのイメージは決して良いものではない。これからどうなるかは、お前たち次第だ」

 そう言うと明弘は体を反転させ、少女たちに背を向ける。

 少女たちのいる方向へと行くのがアリーナの出入り口への最短経路なのだが、別に反対側から回り込むように行っても外へは出られる。ここからではとても遠回りになるのだが。

 だが、それでも明弘はそうした方がいいと考えた。少女たちには考える時間が必要だろう。その妨げになりそうなことは極力しない方がいいだろう、と。

 だから――

「……最後に一つだけ。できれば、これからは普通通りに接してもらえると助かる。男だとか、今回の負い目とか、そんなことは関係なしに、普通のクラスメイトとして扱ってくれると、助かる」

 だから、最後に些細な望みを少女たちに告げ、明弘は本音を連れて去って行った。

 

 

 

「……なんとか、仲直りできたみたいですね」

「試合が終わってすぐ、揃いも揃って駆け出していくから何かと思えば……まあ、とりあえずこれでクラスの空気もよくなるだろうということは喜ばしいことだな」

 アリーナの廊下の陰で明弘と少女たちのやり取りを見守っていた千冬と真耶は、ひとまず平和的にやり取りが終わったことに――千冬は表に出さないが――安堵した。

 入学から一週間。明弘と女子の間にできた溝には二人とも手を焼いていたのだ。

 明弘の言っていることは正論であるため何も言えず、かといってその言い方に不快感を持った女子たちの気持ちもわからなくはない。そのためどちらかが悪いと決めつけることができず、教師という立場上、どちらかに肩入れすることもできず、歯がゆい思いをし続けてきた。

 だが、これを機にその溝がなくなり――そうでなくても小さくなれば、二人としても喜ばしいことである。

「それにしても、須藤君って女の子が嫌いなのかと思っていましたけど、そうじゃないみたいですね」

「あいつは性別で相手を判断するようなやつではないだろう。逆にそういう判断をするやつを嫌っているのだろうな」

 まあ、この時代の女性の多くは男を見下す傾向があるから、女が嫌いというのもあながち間違いではないのかもしれんが。

 そう付け足す千冬に真耶は「あはは……」苦笑する。

「ともあれ、これで私たちの心労も少しは減るだろう。あとは新しい火種が生まれないことを願うばかりだな」

 特に男子絡みのものは。と心で付け足しながら、千冬は真耶と共にその場を後にした。




投稿が遅れて申し訳ありません

実は先日、使っていたパソコンが壊れましていろいろごたついていました

今後もデータの復旧などがあるので少し遅れるかもしれませんが、頑張って執筆していきたいと思います
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