Another IS ―もう一つのIS―   作:colorless

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第二十六話 普通の朝

「みんなと仲直りできてよかったね~」

「特段仲がよかった訳じゃないから、少し違う気もするけどな」

「細かいことは気にしな~い」

 そんなことを話ながら、のほほんさんと寮の廊下を歩く。

 オルコットととの試合以降、女子の様子がどこか妙だったせいで少し居心地の悪かった学校も終わり、のんびりしてから二人で夕食を食べてきたところだ。

 食堂ではもうお決まりと化した女子からの不愉快な視線が注がれたが、一週間も経てばもう慣れた。

 明日からは――クラスメイトの女子限定で――何か変わるかもしれないが。

 後は部屋に戻って読書でもして寝るだけだ。今日は試合もやったから、神王の調整をするのもいい。

 そう考えていると、半ば無意識のうちに右手に目が向く。それに気づいたのほほんさんが同じように俺の右手を見る。

「そのIS、なんて名前なの~?」

「神王だ。製作者が少し変わり者で『かっこいいから』って理由だけでつけたんだ。武装の方も《アヴァロン》やら《アトランティス》やら、使う方の身にもなってほしいもんだ」

 ため息混じりにそう言うと、のほほんさんが予想外の反論をしてきた。

「え~、かっこいいと思うよ~?」

 まさか、のほほんさんも束さんと同じ感性の持ち主だとは……。

 驚きの事実を知り、束さんと会ったら意気投合するかもしれない、などとその場面を想像していると、いつの間にかのほほんさんの部屋の前まで来てしまっていた。

 俺の部屋は寮の端にあるため、のほほんさんの部屋で別れて、一人で戻る。一週間で日常となった光景だ。

「それじゃ、また明日」

「じゃあね~」

 のほほんさんと別れの挨拶を交わして、一人、自室に向かう。

 のほほんさんと一緒にいるときはほとんど気にならないが、一人になるとやはり周りからの視線を否応なしに感じさせられる。

 周りの視線を気にしないようにしつつ、自室のところまで来ると、誰かが俺の部屋の前に立っているのが見えた。

 俺の部屋に来るような物好きはほとんどいないはず、と思いながら近づくと、その人物――織斑先生もこちらに気づき、顔をこちらに向けた。

「須藤、やっと戻ってきたか」

「どうしたんですか、織斑先生。俺に何か連絡でしょうか」

「連絡ではないが、お前に話がある。少しいいか」

「別に構いませんよ。ここではなんですし、部屋入りますか?」

「ふっ、いきなり部屋に引きずり込むようでは、女に嫌われるぞ」

 いえ、そんなつもりで言ったわけではないのですが。予想外の返答にそう答えると、織斑先生は少し面白そうに「冗談だ」とおっしゃられる。こんな冗談を言う人だとは思わなかった。

 クラスメイトたちの謝罪といい、のほほんさんの感性といい、今日は驚かされることばかりだ。

「本題に入るぞ。お前の専用機、『神王』と言ったか。……お前、あれをどんな調整をした」

「…………質問の意味がよくわかりませんが」

「神王の性能、あれは少々高すぎだ。少なくとも、ノーリスクで出せるようなものではないはずだ」

 流石は織斑先生。一度の戦闘を見ただけで、そこまで見破るとは。もしかしたら、束さんから神王のスペックデータをもらっていたのかもしれないが。

「織斑の白式にしても、《雪片弐型》を使うために、それ以外の拡張領域を全て犠牲にしている。お前は、あの性能を出すために、いったい何を犠牲にした?」

「俺は何もしていません。束さんが制作した時点でそうなってたんです。それに犠牲なんて大層なものはありませんよ。せいぜい防御面で少し不安があることくらいです」

 嘘は言っていない。この人に嘘を言ってもすぐに見破られそうだ。

 束さんから渡されたときからスペックはほとんど変わっていないし、防御面が不安なのも事実だ。

 織斑先生は無言で俺のことをしばらくの間見ていたが、「やれやれ」と言わんばかりに一つため息をついた。

「お前がそう言う以上、これ以上私からは何も言えない。時間を取らせたな」

「いえ、俺なんかのことまで気に留めていただけて、ありがとうございます」

「お前以上に注意をしておかなくてはいけないやつなど、一人しかいないのでな」

 そう皮肉を返して、織斑先生は颯爽と廊下を歩いて行った。

 おそらく、というか確実に一夏のことだろうな。俺とあいつはこの学園では異端分子だし。……同じ異端分子でありながら、この一週間でここまで扱いに差がでてきているが。

 明日にはその差も少なくなっているのだろうか。そう考えながら、俺は自室のドアを開けた。

 

 

 

 翌日、明弘は朝食をとって教室に向かう。隣には自分の定位置だと言わんばかりにのんびりとしている本音を連れて。

 一晩置いて、女子の様子も普通になっていることを祈りつつ、明弘は教室に入る。

「あ、須藤君、本音。おはよー」

「…………ん?」

 教室に一歩足を踏み入れたところで、明弘の動きが止まる。

 今まで自分に向けられたことのない、何変哲もない朝の挨拶に違和感を感じた明弘が何か言おうとするが、その前に、教室にいたクラスメイトたちが口を開く。

「おはよう」「おはようございます」と口々に明弘に挨拶するクラスメイトたち。

 それはまるで、昨日、明弘が最後に告げた些細な望みを体現したかのようだった。

 少女たちは明弘の些細な望みを聞き入れたのだ。自分たちの罪悪感を拭うために特別扱いするのではなく、明弘の望みを叶えてあげようと。一人として違わず、少女たちはそう決めたのだった。

「……ああ」

 それを感じ取った明弘は、少女たちの誠意に心の中で小さく称賛する。

 隣に視線を向けると、本音がいつもののんびりとした笑顔を向けていた。

 その笑顔に押されるように、再度、一歩踏み出す。そしてここに来てからほとんど口にする来てから機会のなかった言葉を口にした。

「おはよう」

 その表情は、今まで少女たちが見たことがないほど、穏やかなものだった。

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