Another IS ―もう一つのIS―   作:colorless

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第二十九話 予想外

「じゃあ、俺たちはもう上がるけど、頑張れよ」

「ああ、お疲れ」

 放課後の特訓を終え、白式を待機形態にした一夏に向かって軽く手を挙げる。

 一夏の隣にいた篠ノ之とセシリアも一緒にアリーナをあとにしたのを見届け、俺は静かに目を閉じる。

 一夏と特訓は終わったが、俺の自主トレーニングはこれからだ。さっき一夏と模擬試合をしたから体は温まっている。これならすぐに始められる。

 一夏を追いかけて行ったのか結構な人数がアリーナを出て行ったが、それでもまだ人は多い。まあ、皆俺を腫物を扱うかのように近づいてこないから大丈夫か。

「…………」

 自主トレといってもはたから見れば、ただの素振りにしか見えないものだ。だが、それは俺にとってとても重要なもの。

 頭の中で動きの構想を立て、息を整えて……目を開く。

「ふっ!」

 短く息を吐き、両手に握った《デュランダル》を振り上げる。剣の勢いを殺さないように体を回転させ、そのまま次は横に薙ぎ払う。

 振り下ろし、振り上げ、横薙ぎ。それに急上昇、急降下、突進、後退などを織り交ぜながら、一時も止まらずに動き続ける。

 数分間それを続け、一旦小休止するために動きを止め、一つ大きく深呼吸する。

息を整えながら、今の動きを反芻し、どこがよかったのか、どこが動きづらかったのかなどを考える。

 そうやって少しずつ、本当に少しずつ、無駄をそぎ落としていく。それが俺の自主トレだ。

 自分の無駄をそぎ落とし、逆にあの手この手で相手の無駄を誘う。

 IS操縦の実力はそこまで高くない俺が強者と渡り合うためには、それしか方法はなかった。

 反芻し終えると、また別の動きを試す。そしてその動きを反芻し、学習する。ただひたすら、それの繰り返しだ。

「……ふぅ」

 何十回とその工程を繰り返し、気が付くと、アリーナに残っているのは俺だけになってしまっていた。

 時間を確認すると、アリーナの閉館時間ギリギリだ。俺もそろそろ切り上げて戻らなければ。

「のほほんさんたちと一緒に夕飯食べる約束してたしな」

「あら、それじゃあ早く用を済まさないとね」

「っ!?」

 不意に後ろから声が聞こえ、振り返る。

 その先には、いつの間にか水色の髪の女生徒が立っていた。さっきまでは誰もいなかったはずなのに。

「………………」

「あれ? なんだか警戒されてる?」

「……いきなり見知らぬ人に背後から声かけられたら、誰でも警戒すると思いますけど」

 制服のリボンからして目の前の女生徒は二年生。知らない人とはいえ一応は先輩なので敬語で対応する。

 だが警戒は緩めない。素性が知れない以上に――こいつは化け物だ。

 弱い俺でも相手の強さを見て予測することはできる。いや、弱いからこそ、相手の強さには人一倍敏感だ。

 セシリアも代表候補生なのでなかなかの実力は持っているが、そんなレベルではない。代表候補生の中でもトップクラスの実力。国家代表だと言われても驚かない。というか、国家代表でほぼ間違いない。

「へえ。君、わかるんだ」

 警戒を強める俺に対し、女生徒は面白そうに笑みを浮かべて言う。

「そりゃあ弱い俺は相手を選ばないと生きていけませんから」

「代表候補生のセシリアちゃんに勝ったって聞いたけど?」

「それいろんな奴に言われて説明してきたんですけど、あいつに勝てたのは小細工をしたからですよ。実際はあいつの方が強いです」

 この説明するのは何度目だろうか。なんだかもう説明するのが面倒くさくなってきた。

 ほとんどのやつが説明しても納得してくれないから面倒くささも一押しだ。

 ただ、目の前のこの女生徒なら、わかってくれるはずだ。相手だって、俺の強さ(弱さ)を感じているはずだから。

「ふぅ~ん……」

 女生徒は意地悪そうに目を細める。なんだか、束さんがとんでもないことを言い出す直前のような表情だ。

 さっきまでは運動したための汗だったが、今は別の汗が流れてくる。嫌な予感しかしない。

「じゃあ、実際に確かめさせてもらおうかな」

 ほら、やっぱり。果てしなく厄介なこと言い出した。

「……どうせ、最初からそれが狙いだったんでしょう?」

「あ、やっぱりバレちゃった?」

「最初に『早く用は済まさないと』って言ってましたからね。俺が訓練してたところに声をかけてきたってことは、それが用だったってことでしょう。そうじゃなかったらわざわざここに来る必要もない」

 俺の考えを聞いた女生徒は、その顔に微笑を浮かべたまま、答える。

「正解。なかなかの推理力ね」

 そう言って女生徒が広げた扇子には『お見事』と書かれている。なんなんだ、あの扇子。

「話が早くて助かるわ。じゃあ早速、お願いしようかしら」

「…………」

 こんな面倒なこと、本来なら迷わずに逃走を図るが、目の前の化け物相手に逃げ切れるとはとても思えない。

 ピットさえくぐってしまえば、どうとでもなるだろうが……それも無理だろう。いつもならものの数秒でたどり着くピットが、この状況だと果てしなく、遠い。

 選択肢があるようで、実際のところ、そんなものはありはしない。

「……しかたない。やりますよ。それでいいんですよね」

「うんうん。素直なのが一番よ」

 だったら素直に逃げさせてほしいが……言うだけ無駄だろう。

「始める前に、自己紹介がまだだったわね。私は二年生の更識楯無。この学園の生徒会長を任されているわ」

「……生徒会長? 二年生で?」

「そうよ。君は知らないだろうけど、IS学園の生徒会長は――学園最強がなるものなのよ」

「…………」

 なるほど。生徒のトップも実力で決める。ISの操縦技術を教えているこの学園ならではのルールか。

 ということは、俺の目の前にいるのは学園最強。強いのはわかっていたからそれほど驚くこともないが。

「だから、ここでもし君が私を倒せたら、君が生徒会長ってことね。入学早々生徒会長になるなんて、すごいと思わない?」

「知りませんよ、そんなこと。そもそも、俺があなたに勝つっていう前提条件からして不可能なんでありえませんから」

 そう。勝てるはずがない。女生徒――更識会長だって、それはわかっているはずだ。

 わかっていながらこの冗談……俺が言うのもなんだが、なかなかに意地が悪いな。

「じゃあ、とっとと始めましょうか。あんまり時間がないので」

「ええ、わかってるわよ。そこまで時間は取らせないから」

 俺の言葉に、会長は真意の読み取れない微笑を浮かべながら答える。

 予想外の模擬戦が、始まった。

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