Another IS ―もう一つのIS―   作:colorless

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第三十二話 中国からの転校生

「織斑くん、須藤くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 翌朝、教室に入るなりクラスメイトに話しかけられた。

 挨拶を返した後、改めてその話題を聞き返す。

「転校生? 今の時期に?」

「IS学園への転入って、国の推薦がないとダメなんじゃなかったか?」

 そのためIS学園に転入生はほとんどこない。そのはずだが、珍しいな。

「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

「ふーん」

「なるほど。代表候補生なら、国からの推薦をもらってもおかしくないな。というか、国の方も少しでも実戦経験を積ませたいから、政府の方から推薦した可能性だってある」

「あー、そういうことか。よくそこまで考えられるな、明弘」

「これくらい普通だ」

「あら、私の存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら」

 一夏と会話をしていると、一組のイギリス代表候補生が話しを聞きつけてやってくる。

「このクラスに転入してくるわけではないだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 さっき自分の席に行ったはずの篠ノ之が気が付けばいた。

「どんなやつなんだろうな」

「む……気になるのか?」

「ん? ああ、少しは」

「ふん……」

 一夏の言葉を聞いて篠ノ之の機嫌が悪くなった。やっぱり一夏がほかの女子のことを考えてるのが気にくわないんだろうか。

 どうやら篠ノ之もセシリアも一夏に好意を寄せているようだが、当の一夏は全く気付くそぶりを見せない。これは二人とも苦労するな。

「すーくんも気になる?」

「いや俺ははっきり言ってどうでもいい。まともなやつならいいとは思ってるが」

 のほほんさんからの質問に、答えていると篠ノ之が再度口を開く。

「今のお前に女子を気にしている余裕があるのか? 来月にはクラス対抗戦があるというのに」

「そう! そうですわ、一夏さん。クラス対抗戦に向けて、実践練習でもしましょう。相手ならこのわたくしが務めさせていただきますわ」

 五月頭に行われるこのクラス対抗戦。それで一位になったクラスには優勝商品として学食デザートの半年フリーパスが配られる。女子は燃えるが、俺は学食自体で腹が限界なのでほとんど意味がない。

 でもまあ、のほほんさんも欲しがっているようだし、できれば一夏には頑張ってもらいたいところではあるが。

「まあ、やれるだけやってみるか」

「やれるだけでは困りますわ! 一夏さんには勝っていただきませんと!」

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

「負けたら承知しないぞ?」

 セシリア、篠ノ之、俺と好き勝手言ってやる。

「でも、今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ」

「――その情報、古いよ」

 割り込むように、どこかからそんな言葉が飛んできた。声を発生源は……教室のドア付近。

 全員がその方向に顔を向けると、そこには茶髪をツインテールに縛った女生徒が立っていた。

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

「鈴……? お前、鈴か?」

 なんだ、また一夏の知り合いか? 織斑先生といい、篠ノ之といい、ここにはお前の知り合いが集まってくるな。

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

「なに格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ」

「んなっ……!? なんてこと言うのよ、アンタは!」

 ああ、今までのは格好付けてたのか。初対面だからわからなかった。

 そんな漫才のようなやり取りを眺めていると、教室のドアをふさいでいる凰の後ろに人影が現れた。

「おい」

「なによ!?」

 バシンッ! という乾いた音が、凰の頭から響く。一夏の言葉に聞き返した凰が痛烈な出席簿打撃をくらったのだ。

 そう。我らが織斑先生の登場である。

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

「ち、千冬さん……」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

「す、すいません……」

 これは100パーセント織斑先生にビビってるな。しかも、織斑先生の実績とかだけでなく、存在自体にビビってる気がする。

「またあとで来るからね! 逃げないでよ、一夏!」

「さっさと戻れ」

「は、はいっ!」

 一夏って呼び捨てだったな。何だ、幼なじみに見えるけど、一夏の幼なじみには篠ノ之がいるし。その篠ノ之とは面識はなさそうだ。一体どういう関係なんだろうか。

 まあ、なんだかんだで今日も一日ISの訓練と学習が始まる。

 

 

 

「あれが中国代表候補生、ねぇ……」

「どうしたの~? すーくん」

 SHRが終わり、本日最初の授業が始まるまでの時間。俺がつぶやいた言葉に、のほほんさんが反応した。

「いや、なんだかそんなに強いようには見えなかったんだよな」

 ついこの前、それより上の実力者とやりあったからそこまで強く感じないのかもしれない。当然、純粋な実力では俺よりも上だろうが、小細工をすれば勝てそうではある。

(……あの人には通じなかったけどな)

 IS学園生徒会長、更式楯無。おそらく、どこかの国家代表、もしくはそれに準ずる実力者。あの人には俺の唯一の武器である小細工がほとんど通用しなかった。

(『朧』も、『消失(バニッシュ)』も初見で破られるなんてな)

 ISのスラスターを使い、超高速の移動で相手の攻撃をよけることで、相手に攻撃が俺をすり抜けたかのように錯覚させる技――『朧』。

 それを応用して相手の背後に移動する技――『消失(バニッシュ)』。

 どちらもだまし技故に、自然体の状態から使う必要がある。そのために俺は長年努力を重ねてやっと今のレベルまで鍛え上げた。初見ではそうそう破られないという自信のあったのだが、あの人はいとも簡単に破って見せた。

 やはり国家代表は強い。俺では足元にも及ばないほど。

 だからこそ、あの代表候補生はさほど強くないと感じられる。そうではない可能性もあるが。

「ん~、私はよくわからなかったけどなぁ」

「俺のも勘でしかないがな。二組のクラス代表になったらしいからクラス対抗戦でどれだけの実力かはわかるだろう」

 本来であれば凰の実力をそこまで気にする理由はない。だが、学園での俺の評判を考えれば、そういうわけにもいかない。

 あまり考えたくないが、いきなり勝負を挑まれる可能性もなくはない。女子の敵を倒すとかいう名目で。

 さっき見た限りだと、あいつはかなり直情的だ。噂を聞いて、俺を倒そうとする可能性はある。

「……面倒なことにならなければいいけどな」

 俺の切ない望みを込めた言葉は、予鈴にかき消されて誰の耳にも届かなかった。

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