Another IS ―もう一つのIS―   作:colorless

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第三十四話 銀色の侵入者

 まずは状況の把握だ。

 敵は一機。所属は不明。主な武装は両手から生えている剣と推測。近接格闘型と判断。

 のほほんさんはどうやら疲れ切っているようだ。何やら駆け寄ってくる女生徒がいるが、のほほんさんの知り合いだろう。

 他にも大勢いるが見た限り、のほほんさん以外のクラスメイトの姿はない。

 ということは……俺が守るべきは、のほほんさんと、あとはその知り合いらしき女生徒の二人だな。他にも腰を抜かしている奴らはいるが、そいつらまで守る義理はない。

 となれば優先すべきは二人の安全確保か。

「のほほんさん、立てそうか?」

「う~ん、ちょっと厳しいかなぁ」

「そうか……」

 となれば戦闘場所を移すしかない。なかなか面倒だが、やるしかないか。

「……大丈夫。私が……手伝う」

 どうやって場所を移すか思考していると、のほほんさんの知り合いらしき女生徒がそう提案してきた。

「頼めるか?」

 名前も知らない初対面の相手に頼むのは失礼かもしれないが、問う。

 女生徒は静かに、だがしっかりと頷いた。

「じゃあ頼む。あと、誰か先生にも報告しておいてくれ」

「……わかった」

 女生徒がのほほんさんに手を貸し、立ち上がらせる。そしてのほほんさんの負担にならないように、だが可能な限り速くこの場から離れていった。

 それを見届けてから、俺は改めて敵を見据える。

 細長い金属針を合わせて人の形にしたようなデザイン。両手からは剣が生えており、四肢はかなり細い。

 そしてこれはどのISにもいえることだが、両足は地面についておらず、ほんの数センチだが宙に浮いている。

 両手の剣以外に主だった武装は見受けられない。だがないとは言い切れない。ISは量子変換によって武装を展開できる。こいつも何か別の武装を持っているかもしれない。

 目視による情報を集め終えた後は、神王を通じて敵の情報を手に入れようとする。といってもこんな機体見たことも聞いたこともないから、データなんてないだろうが……。

「……ん?」

 意外にも、一項目だけだが情報があった。

【機体名 双剣者(レフェクティス)

 戦闘では最も必要度の低い情報。だがまあいい。最初から期待はしていなかった。

 敵改め双剣者はさっきから微動だにせず、俺と向かい合っている。

「一応、所属を聞いておこうか」

「…………」

 相手は答えない。

「投降すれば、罪は軽くなるぞ」

「…………」

 やはり、答えない。

 ……仕方ないな。

「じゃあ、最初の予定通り、力尽くでぶっ潰してやろう」

 心情的には殺したいところだが、さすがにそれはまずいだろう。

 半殺し……いや十分の九殺し辺りで止めておこう。

 一瞬、周りに目を向ける。どうやらさっきまで腰を抜かしていた連中も、なんとかこの場から離れたようだ。仮に残っていたとしても守るつもりはないが、戦闘の邪魔になりかねないからいなくてよかったか。

 意識を戻して、双剣者へと一直線に突撃する。当然双剣者は迎撃するため両手の剣を振るうが、それは俺の残像を空しく切っただけだった。

 その間に『消失』で相手の背後に回り込み、《デュランダル》を振り下ろす。代表候補生程度の相手ならだいたいこれで決められるパターンだ。

 しかし俺の必殺の一撃は、恐ろしい反応速度を見せた双剣者の交差させた剣に止められてしまった。

「やっぱり、それ相応の実力はあるってことか」

 考えてみれば、代表候補生程度の実力でIS学園を襲撃なんてするはずないか。そんなことをするのはただの馬鹿だ。

 一撃で仕留めるつもりだったから大剣を使っていたが、できないとなると得物の数では一対二。ちょっと分が悪いな。

「《デュランダル》――ツインソードモード」

 俺の言葉に反応し、《デュランダル》が二つに分離する。その二つになった《デュランダル》をそれぞれ両手で持ち、構える。

 大剣《デュランダル》のもう一つの姿、双剣《デュランダル》。手数が必要な時に重宝する形態だ。

「…………」

 双剣者は何も語らず、次はあちらから動き出した。

「っ!?」

 動き出したと認識した刹那、双剣者は俺との距離を零にし、左右から斬撃を浴びせてきた。

 半ば勘で《デュランダル》を振るい、二つの攻撃をかろうじて防ぐ。

 ……こいつ――速い!

 十五メートルは距離をとっていた。それでも視認できたのは、初動と攻撃の瞬間だけ。

 ISのハイパーセンサーを用いても捉えきれないほどの超高速移動。瞬時加速とは桁が違う。予測だが、『朧』や『消失』と同等以上の速度だ。

 だがその二つと決定的に違うのは、持続距離。

『朧』はだいたい二メートル、『消失』でも長くて四メートル程度の移動が限界だ。逆に言えば、それだけの移動だからこそ、相手に認識させないほどの高速移動が可能なのだ。

 だが双剣者の場合、少なくとも十五メートルはその超高速移動を維持できている。しかも、出力になるようなスラスターは見当たらない。いったいどんなカラクリだ……?

 そんなことを考えている間にも、双剣者の攻撃は続く。俺はそれを一つ一つ《デュランダル》でさばいていき、攻撃の隙を突いて反撃をする。

 双剣者はその反撃を軽やかにかわし、後方へと跳躍して距離を取ろうとする。同時に俺は前進し、双剣者に距離を取らせない。

 今の一連の攻防から、こいつは機動力特化型の機体だと分かった。距離を取らせてしまえば、またさっきと同じことになる。

 だが逆に、距離を取らせなければさっきの二の舞は回避できる。もちろん距離を詰め続ける以上、相手の間合いに留まることになるが、

「この程度なら、読み切れる」

 人間、いや生物は何か行動を起こす前に予備動作をする。走り出す前には足に力を籠める、体の重心をわずかに前に傾ける、といったように。

 その予備動作から相手の次の行動を予測する。そうすることで、通常よりも早く相手の行動に対処することができる。これが、『朧』などのだまし技と並んで俺の本来なら大したことはない実力を支えてくれる、強さの根幹だ。

 長年培ってきたこの目付けがあれば、双剣者の攻撃も、読み切れる。

「…………」

 双剣者は自らの攻撃を全てさばかれているにもかかわらず、欠片も動揺を見せることなく、攻撃を続ける。

 行動予測ができるからと言って、それが勝利に直結するわけではない。いくら行動予測ができても、体がそれについて行かず対処しきれなければ意味はない。

 今も、双剣者の攻撃をさばき切れてはいるが、それまでで、こっちが攻勢に転じることはできていないのが現実だった。

 行動予測ができているからこそなんとかしのげている、とも言えるが、あいにくそんな楽観的な考え方ができるほどお気楽にはなれない。

 まあ、無理をすれば攻撃に転じることもできなくもないが。

(痛いからあんまりやりたくないんだよな。下手したら死ぬし)

 だが、そんなことを言ってもいられない。仕方ないか。

 双剣者の右剣が迫る。それを俺は《デュランダル》でさばかずに、『朧』で回避する。それもいつもよりもさらに自分の体に引き付けて、かつ移動も短めに。

 そのため、体の本当にギリギリを通過する銀閃。その切っ先が、俺の頬を掠める。

 頬の皮が一ミリにも満たない厚さ、切り裂かれる。そしてほんの小さな痛みとともに、そこからかすかに血が滲む。だが、その代わりにチャンスは得れた。

「はっ!」

 右の剣で双剣者を突く。相手は素早く左の剣で防御するが、その防御の穴をねらい、左の《デュランダル》で再度突く。

 寸でのところでかわされるが、それでも敵の装甲に傷をつけた感触はあった。といっても、糸くずと同じくらいの損傷だろう。だが、膠着した状態は抜けた。

 受けた損傷はどちらも軽微。それでも積み重なれば、大きな損傷となる。

 俺の体が壊れるのが先か、双剣者のシールドエネルギーが尽きるのが先か。

 耐久力の差で俺の方が分が悪いのは百も承知だが、負けるわけにはいかない。

「ここからは根競べだ」

 その言葉を皮切りに始まる、互いが文字通り身を削りあう戦い。

 俺の体の皮膚が切り裂かれ、双剣者の装甲が削られる。傷口流れた血と、削られた装甲の欠片が飛び散るが、俺たちは意に介さずそれぞれの得物を振るう。

 ジリジリと減っていくシールドエネルギー。それと引き替えに増えていく痛みに耐えながら、俺は両手の剣を双剣者に向けて振るった。

 しかしそれは双剣者の宙返りのような回避によって空を切り、その攻撃の穴を狙った相手の連撃が始まった。

 体幹を軸とし体全体を回転させながら放たれる、流れるような高速の連撃。目付けで予測して可能な限り防御するが、振るった剣の勢いに逆らわずに次へと繋げるその連撃は、数を重ねるごとに少しずつ重さと速さが増していく。

 八撃目で《デュランダル》による防御も崩され、間髪入れずに繰り出された二連撃が俺の脇腹と肩を切り裂いた。

「ぐっ……」

 今までの皮膚一枚だけの傷とは違い、かなりの痛みが走る。

「負けて……たまるかぁっ!」

《デュランダル》を手放して傷口を押さえようとするのを堪えながら、痛みを紛らわせるため、自分を鼓舞するために叫ぶ。

 強く握りなおした《デュランダル》と双剣者の剣がぶつかり合う、その刹那。

 

 双剣者が、何者かの手によって吹き飛ばされた。

 

 正確には、その人の突き出したランスを避けようとしたが、回避しきれずに吹き飛ばされた。

「あらあら、完全に不意を突いたと思ったのに避けられるなんて驚きね」

 水色の装甲と水のヴェールを身に纏い、その手にランスを持って優雅に佇むその人は、こんな状況でも面白そうに微笑んでいた。

「更識、楯無……会長……?」

「正解。皆大好き生徒会長、更識楯無よ」

 呆然とした俺の呟きに、いきなり現れたその人――更識楯無会長は、冗談交じりに答えた。

「どうして、ここに?」

「侵入者を制圧するために決まってるでしょ? 生徒たちの避難誘導してたから遅くなっちゃったけど」

「避難誘導? それじゃあ……」

「うん。もう生徒全員の避難は完了したわよ。一機目の侵入者の方はついさっき片が付いたみたいだし、あとはここだけ」

「……そうですか」

 ということは、のほほんさんたちも無事に避難できたのか。そのことにまず安堵する。

 さすがに三機目の侵入者はいないとは思っていたが、こうしてちゃんと耳にするとやはりほっとする。

 あとは、ここだけ。目の前の敵を倒せば、全て終わる。

「それで、どうするの? 明弘君。私が手を出せばすぐに片づけられるけど」

 君は自分の手で片を付けたいんでしょ?

 言葉にせずとも、会長の言いたいことはすぐに伝わってきた。この人には、何でもお見通しか。

「もちろん、俺の手で終わらせますよ」

「じゃあ私はサポートに専念してあげる。存分にやりなさいな」

「お願いします」

 それで会話を打ち切り、一つ深呼吸する。

 そして再度目の前の敵を見据え、一気に突っ込んだ。それと同時に会長も、俺に追随するように動き出す。

 双剣者の迎撃を両手の《デュランダル》でいなし、返す刀で双剣者を狙う。双剣者はそれを軽快な跳躍で回避、俺の頭上から双剣を突き出す。しかしそれは、会長のランスによって弾かれた。

 体制を崩す双剣者。がら空きになったその胴体に、俺はやっとまともな一太刀を浴びせることに成功した。

 双剣者はすぐさま体制を整え、次の攻撃へと移る。その初動は、見覚えがあった。

 さっきの、怒涛の十連撃。間違いない。さっきは止められなかったが――

「二度も通用すると思うなよ」

 どんなに攻撃が早かろうと、軌道がわかっている攻撃が防げないわけがない。

 この連撃は遠心力などを利用してどんどん速度と威力を上げていくもの。それさえわかっていればどうとでも対処はできる。

 前半の連撃は《デュランダル》を正面からぶつけることで速度の上昇を抑え、後半は無理に逆らわずに受け流す。たったこれだけで、ほぼ無力化できる。

 そして最後の十撃目が、終わる。

「はぁっ!」

 この連撃の終了から次の行動へ移るほんのわずかなインターバルを狙い、俺は双剣者の右腕を切り落とした。

 その切断面からは、何本ものコートの端が顔をのぞかせるだけで血は一滴すら流れない。

(やっぱり、無人機か)

 気になっていた。初撃の『消失』をいとも簡単に看破された時から。

 会長ですら初見では効いた技だ。いくらなんでも全く通用しないというのは、どうも考えにくかった。

 なぜこいつには俺の騙し技が効かないのか。そこで挙げられた可能性は『操縦者が人を超えた化け物』か、『そもそも人は乗っていない』かだった。

 俺の騙し技は人の視覚を利用したものだ。『朧』は本来当たるはずの攻撃が当たっていないことから相手に自分は俺の幻影を攻撃したのかと錯覚させ、『消失』は一瞬で相手の視界から消え去ることで俺という存在がなくなったかのように錯覚させる。

 だがどちらも看破できる方法がある。それは錯覚した状態でも対処できる反射神経か何かを持っているか、ISのハイパーセンサーを利用すること。一つ目は説明の必要がないので置いておく。重要なのは二つ目だ。

 ハイパーセンサーには錯覚というものは存在しない。そのため、いくら俺が騙し技を使おうともハイパーセンサーは常に正しい俺の位置情報を相手に伝える。

 しかし、ほとんどの人は常にハイパーセンサーを使うことはせず、自分の視覚を頼りにしてしまう。考えてみれば当たり前だろう。いくらハイパーセンサーが便利だからとはいえ、それはあくまで自分の体とは違う存在。生まれた時から備わっている自分の視覚の方を無意識のうちに頼ってしまうのは当然のことだ。

 だからこそ、さっきの二択なのだが、前者の場合ならもっと実力があるはずだ。それこそ国家代表レベルの。今までの戦闘からそんな様子は感じられなかったので、消去法で後者、つまり相手は無人機であるという想定に至った。

 そのくせして異様に人間臭いところも多々あったので確信は持てなかったのだが、これで決定的だな。

 最初の予定通り、こいつを“殺す”ことはできないが、まあ“叩き壊す”で我慢するか。

「覚悟しろよ」

 操縦者が残った左腕を振るう。しかし、それはまたもや会長のランスによって俺には届かない。

「……これは、さんざん痛みつけられた俺の分」

 左の剣で横一文字に相手を薙ぐ。双剣者の左の剣が肘から切断される。

 もう相手に反撃の手は残されていない。これで正真正銘の終わりだ。

「そしてこれが――」

 右の《デュランダル》を振り上げる。それはまるで、のほほんさんへと双剣者が剣を振り上げた時のように。

「お前に襲われた、のほほんさんの分だ」

 振り下ろした剣は、双剣者の装甲を真っ直ぐに切り裂いた。

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