Another IS ―もう一つのIS―   作:colorless

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第三十六話 首謀者の密会

「ゴーレムのシステム稼働率は……まあ、こんなものだよねぇ」

 うす暗い室内に女性の声が響く。

 用途不明の機械に囲まれ、十を優に超えるディスプレイを眺めるその女性は、篠ノ之束だった。

「やっぱりクラッキングシステムを積んじゃうと戦闘能力は低くなっちゃうよね。あの程度じゃあ、まだまだ満足できないなぁ」

 そういう彼女の目に映るのは、ディスプレイに映し出されたIS学園を襲撃した灰色のISのデータだった。

 彼女の口から出た『ゴーレム』というのは、あの無人機の機体名である。

「クラッキングは合格。ビームの出力は――まあ及第点として、スラスターはもうちょっと出力が欲しいところだね。認識から行動へのタイムラグを考えると、もっと早く動かないと。全体的には……三十五点ってところかぁ」

 IS学園の遮断シールドを一撃で貫通する威力のビーム兵器を、束はにべもなく及第点と評した。

 一夏と鈴音。二人の専用機持ちと互角以上にわたりあい、セシリアという予想外の伏兵を出してようやく倒すことができたその強敵を、百点満点中三十五点と点数づけた。

 それだけで束の異様さがありありと感じさせられる。

「まあこっちは後でどうとでもなるとして……そっちはどうだったのかな? ルーザー」

 ゴーレムのデータを閉じ、後ろを振り返る束。そこには男が一人立っていた。

 灰色のローブで全身を覆った出で立ち。束にルーザーと呼ばれたその男は、ローブの端を床に擦りながら、ズッ、ズッ、という布のこすれる音を引き連れ束の方に歩いてくる。

 そして、束のすぐ近くにまで来ると、低い声でその問いに答える。

「まだまだだ。お前の方と違ってな」

 微かに笑いをはらんだ答え。それに対して束は嫌な顔一つ見せずに、ニコニコと笑顔を浮かべていた。

「もともと試作機として作ったものだ。本気の“ヤツ”ならば、五分と待たずにバラバラにされる程度のな。現にうちの馬鹿一名と戦わせてみれば、七分で廃品にされた」

 呆れたように言うルーザー。だがその声はどこか楽しげにも聞こえた。

「そんなものに苦戦しているようでは、やはり須藤明弘では俺たちの王には成り得ないということだ」

「うーん、そうかなぁ? アキくんは十分強いと思うけど?」

「誰にでもわかるような強さという意味では、須藤明弘もヤツとそこまで大差ない。俺が言っているのは、見えない強さだ。ただ強いだけならば、俺も、あいつらもヤツについて行こうとは思わんさお前には理解できないだろうがな」

 ルーザーは言葉を続ける。

「とにかく、実験がてら作っては見たが所詮はまがい物。人間の動きを機械に込めることなど、不可能だったということだ」

「そもそもISは人が乗ってこそ、初めて最大限の力を引き出すわけだからね。人が乗っていない無人機じゃあ、この程度だよ」

「最大限、か。そんなものあるわけがないだろう? なにせIS――インフィニット・ストラトスは文字通り『無限(Infinite)』なのだから」

「ぷっ、あははははっ! 確かにそうだね。これは束さん、一本取られたかな」

 ルーザーの言葉に、束はこらえきれずに吹き出し、笑い始める。

 笑いながら、束は意地の悪そうな表情を浮かべて、ルーザーに向かって言い放つ。

「だからこそ、君もここにいるわけもんね」

「……その通りだ。そういう意味では、お前にも感謝している。お前がISを作ったおかげで、俺はこうしてここにいることができる」

 そこで男の雰囲気が変わる。

「だが、お前がISを作らなければ、あんなことは起きなかった。お前がISを作ったせいで、皆の安穏が奪われた!」

 怒りを込めた言葉を吐き出すルーザー。普通の人間なら思わず萎縮してしまうであろうその怒声をぶつけられた本人である束は、それに気分を害した気配など見せずに答える。

「それは心外だなぁ。私はただ単にインフィニット・ストラトスというおもちゃを世界に与えただけ。それを手に入れた世界がどうしようと、何が起ころうと、それは私の意思じゃない。君の大切な人たちの安穏を奪ったのは、私じゃなくて世界。君の怒りをぶつける先は、世界じゃないのかな?」

「…………そうかもしれん。俺が復讐すべき相手は世界。だからこそ、俺はルーザーとしてここにいる。世界を変えるためにな」

 束の言葉に、つい先ほど発露した怒りを鎮めるルーザー。

 ローブの向こうにのぞくその眼に迷いはなく、決意が宿っていた。

「今回のは、そのための布石。須藤明弘への挨拶の意味も大きいがな」

「ずいぶんと過激なご挨拶だねぇ」

「お前に言われたくはないな。織斑一夏の成長を測るためだけに、ここまでのことをやらかしたお前には」

「そりゃ、いっくんが白式を使いこなせてるかどうか気になるのは、開発者として当然のことでしょ?」

「それだけではないだろう? まだ使い始めて一ヶ月も経っていない段階で、使いこなせているかどうか見るのはまだ早い。本当の目的は――篠ノ之箒」

「へぇぇ……」

 束が笑みを深める。わずかに細めたその目は、興味深そうにローブの男を見つめる。

「なぜ、そう考えたのかな?」

「白式と対になるIS『紅椿』。それは篠ノ之箒のために作ったものだ。だが、普通に渡そうとすれば、あいつは素直には受け取らない。だからお前は考えた。どうにかして篠ノ之箒の方から、それを

欲するように仕向ける方法を」

「ふむふむ。それで?」

「お前がたどり着いた結論は、『篠ノ之箒に己の無力さを実感させ、力を欲させる』。そのためにわざわざこうしてゴーレムを織斑一夏と戦わせ、自分はただ見ているしかできない歯がゆさを篠ノ之箒に与えた。違うか?」

「だいせいか~い! いやー、ここまで当てられると束さんの考えが見透かされているかのようだよ」

「思ってもいないことを。お前の考えを見透かせるやつなど、この世にはいないだろう」

 束のわざとらしい言葉に、ルーザーは呆れたように返す。

 この天才の思考を見透かすことなど、かの織斑千冬ですらできないであろう。それほどに束の思考回路は常軌を逸している。そのことをルーザーはよく知っている。

 今のは、自分の持っている情報を使って導き出したものに過ぎない。現時点ではルーザーにか知りえない情報も含めての。

 故に現時点でこの結論にたどり着けるのはルーザーだけ。そんなイカサマ紛いのやり方でしか、束の思考を読むことはできなかった。

「まあそれはともあれ、その目的は果たせたから束さんとしては満足だよ。君の方も、目的は果たせたみたいだし、大成功だね」

「ああ。ここで更識楯無が出てきたのは予想外ではあったが、支障はあるまい。どうせ当分は、直接的な手出しはできないはずだからな」

 それは、まるで未来を知っているかのような物言いだった。

 これから起きるであろうことと、それに楯無が手を出せないこと。それらを全て確信したようなことを言ったルーザーは、束に背を向ける。

「では俺は帰らせてもらおう。一応これでも、それなりの地位についているものでな。外をほっつきまわっているのがばれればまた小言を言われかねん」

「お仲間さんたちに、アキくんのこと教えなくていいの?」

 束の問いかけに、ルーザーは一度立ち止まり、顔だけ振り返る。

「俺が教えなくとも、すぐに見つけるだろうさ。血眼になって探しているからな。日の当たらないところに目を向けすぎているせいで、まだ気づいていないようだがな」

「そりゃ、行方不明になった人間が堂々と人前に出ているとは思わないよねえ」

「考えが一辺倒なのはまだまだガキだからな。一名は、何歳かもわからないが」

 肩をすくめて苦笑交じりにそう言うと、再び歩を進め始める。

 そして部屋の出入り口にたどり着くと、再度振り返り、一言だけ告げる。

「では失礼する」

「じゃあねー」

 手を振る束に見送られ、灰色の男はその部屋を後にした。

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