Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」
「え?そう? ハヅキのってデザインだけって感じしない?」
「そのデザインがいいの!」
「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル」
「あー、あれねー。モノはいいけど、高いじゃん」
六月になり、最初の月曜の朝。クラス中の女子がわいわいとISスーツのことで談笑していた。
入学から二か月間、ひたすら座学でISの基礎知識を学んだ彼女たちは、今月からいよいよ学園の訓練機を使った本格的な実習に入るのだ。そのために、皆それぞれ実習のときに着用するISスーツを選ぶ。
メーカーによって肌触りや性能、デザインなんかは異なる。どれを重視するか、女子たちはあれこれ相談しているのだ。俺からすれば性能一択なのだが、女子の考えはよくわからない。
「そういえば織斑くんと須藤くんのISスーツってどこのやつなの? 見たことない型だけど」
「あー。特注品だって、男のスーツがないから。えーと、元はイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる。それをベースに、白式の開発元が開発したらしい」
「俺のは神王の開発者のオリジナルだ。さっき誰かが言ってたミューレイのスヌーズモデルに近いかな」
「へぇ、使ってみてどう?」
「どうって聞かれても、これ以外にISスーツ着たことないんだけど」
「まあ、特に不満はないな。ただ、俺のも一夏のも正規品じゃないから、正規品と同じに考えない方がいいだろうが」
特に俺のは束さんの自作だからな。ミューレイのスヌーズモデルに近いと言っても、それはどちらかというと、でしかない。そのことを束さんの名前を出さずに説明する。
「そっかぁ、でも参考にはなるね」
「セシリアに聞いてもほとんどイギリスのメーカーのことだもんね」
「あいつは自分の国に誇りを持ってるからな」
そんな談笑していると、教室のドアが開き、山田先生が入ってきた。
「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を感知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることが出来ます。あ、衝撃は消えませんのであしからず」
すらすらと説明しながら入ってくる山田先生。おそらく今日に備えて予習してきたのだろう。今日からISスーツの申し込み開始だからな。
「山ちゃん詳しい!」
「一応先生ですから。……って、や、山ちゃん?」
「山ぴー見直した!」
「今日が皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです。えへん。……って、や、山ぴー?」
入学から大体二ヶ月で山田先生には八つくらいの愛称がついていた。慕われている証拠だ。……教師としての威厳はないに等しいが。
「あのー、教師をあだ名で呼ぶのはちょっと……」
「えー、いいじゃんいいじゃん」
「まーやんは真面目っ子だなぁ」
「ま、まーやんって……」
「あれ? マヤマヤの方が良かった? マヤマヤ」
「そ、それもちょっと……」
「もー、じゃあ前のヤマヤに戻す?」
「あ、あれはやめてください!」
珍しく語尾を強くして拒絶の意を示す。何かトラウマでもあるのだろうか?
「と、とにかくですね。ちゃんと先生とつけてください。わかりましたか? わかりましたね?」
返事は来るが、言ってるだけの返事だなこれ。今後もあだ名が増えていくだろう。
「諸君、おはよう」
「お、おはようございます!」
しかし、織斑先生が来た瞬間、ざわざわとしていた教室が一瞬で礼儀正しくなる。さすがは織斑先生。
「今日からは本格的な実践訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。では山田先生、ホームルームを」
「は、はいっ。ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」
「「「えええええっ!?」
いきなりの転校生紹介にクラス中がわざめく。噂大好き十代女子の情報網をかいくぐっていきなり転校生が現れたんだから驚きもする。しかも二人。
ていうか、普通分散させるものじゃないのか?
「失礼します」
「………………」
クラスに入ってきた二人の転校生を見て、ざわめきが止まった。
だって、そのうちのひとりが――男子だったんだから。
あまりの驚きに女子たちが何も言えずにいると、男子の方が柔和な笑顔を浮かべてじこしょうかい
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
転校生の男子、デュノアはそう告げて一礼する。
「お、男……?」
誰かがそう呟いた。
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を――」
「きゃ……」
「はい?」
「きゃあああああああ―――っ!」
「男子! 三人目の男子!」
「しかもうちのクラス!」
「美形! 守ってあげたくなる系の!」
「地球に生れて良かった~~~!」
とっさに耳をふさいだが、それでもなお聞こえてくる声量。一番前の真ん中の席に座っていた一夏はその声の波をもろに受けてしまったようだ。鼓膜、破れてないといいな。
それにしても、元気だな。俺のときよりも反応がかなりいい。第一印象の違いだろうか? それとも俺たちで男子に慣れたのだろうか?
「騒ぐな。静かにしろ」
仕事でと言うよりは本当に鬱陶しそうに織斑先生がぼやく。テンションが最高潮に達していた彼女たちも、織斑先生の言葉には逆らえないのか、すぐさま静けさを取り戻した。
そんな数秒間の出来事に、デュノアは困ったように苦笑を浮かべる。
もう一人の軍人をイメージさせる転校生は未だ口を開かず、織斑先生のほうに視線を向けていた。
「……挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
「ここではそう呼ぶな。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
イメージさせるレベルじゃなくて、軍人そのものだよな。織斑先生のことを教官って呼んでるし。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「………………」
デュノアのときとは正反対の、クラスメイトたちの沈黙。しかしボーデヴィッヒは名前以外何も言わない。
「あ、あの、以上……ですか?」
「以上だ」
その一言で、教室が微妙な空気に包まれる。いたたまれない空気とはこのことなのだろう。
そんなことを考えていると、ボーデヴィッヒは一夏の前に立ち、
「! 貴様が――」
バシンッ!
「………………」
「う?」
いきなり殴った。無駄のない平手打ちで。
突然のことで、変な声しか上げることのできなかった一夏を睨みつけ、ボーデヴィッヒは告げる。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
「いきなり何しやがる!」
「ふん……」
一夏を無視して空いている席に座り、そのまま腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなる。
「あー……ゴホンゴホン! ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
織斑先生の言葉でHRが終了する。これは急いでクラスから移動しないと女子と着替えるはめになるな。確か今日は……第二アリーナ更衣室が空いてるはずだ。
「おい織斑、須藤。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」
あ、やっぱりそうなるよな。
「初めまして。僕は――」
「ああ、いいから。とにかく移動が必要だ。女子が着替え始めるから」
「今日は第二アリーナ更衣室が開いているはずだ。行くぞ」
説明すると同時に行動。一夏がデュノアの手を取るとそのまま教室を出る。
「とりあえず男子は空いてるアリーナ更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてくれ」
「う、うん……」
廊下を早足で移動しながらデュノアに説明をし、階段を下って一階へ。
「これからよろしくな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」
「俺は須藤明宏。明宏でいい」
「うん。よろしく一夏、明宏。僕のこともシャルルでいいよ」
「わかった、シャルル」
「じゃあ、いくぞ一夏、シャルル」
互いに自己紹介を終え、いざ台に更衣室へ――と思った矢先に、廊下の角から女子たちがわらわらと現れた。
「ああっ! 転校生発見!」
「しかも織斑くんたちと一緒!」
なんかいっぱい来た。それも一クラスとかのレベルじゃない。制服のリボンを見る限り、三学年全ての生徒が確認できた。
「なんなんだよいったい」
「知るかよ。でも捕まるなよ、二人とも。遅れたら千冬姉の特別カリキュラムだ!」
「それは勘弁」
一夏の言葉に、即答する。
あれは四月の頭辺りにやらされたが、死ねる。
「織斑君の黒髪や須藤くんの藍色の髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」
「しかも瞳は綺麗な紫!」
「って、何で前にも女子がいるんだよ!」
あれ? 俺たちが一番最初に出てきたはずなのに、なぜだ?
「ちっ、一夏、二階を経由していくぞ」
「遠回りになるが仕方ないか。シャルル、ついてこいよ」
「う、うん」
戸惑うシャルルをつれ、俺たちは今降りてきた階段を上り始めた。
「よーし、到着」
なんとか女子をまいて第二アリーナ更衣室に到着。
「うわ! 時間ヤバイな! すぐに着替えてしまおうぜ」
「おう」
時計を見ると時間ギリギリ。とにかく急いで制服を脱ぐ。
「わあっ!?」
「なんだ、シャルル。荷物でも忘れたか? って、何で着替えないんだ?」
「忘れ物なら諦めろ。早く着替えないと、織斑先生に怒られる」
「う、うん。き、着替えるよ? でも、その、あっち向いてて……ね?」
「??? いやまあ、別に着替えをジロジロ見る気はないが……って、シャルルはジロジロ見てるな」
「み、見てない! 別に見てないよ!」
両手を突き出し、慌てて顔を床に向けるシャルル。なんでこいつはこんな反応するんだ?
「いいから急げ二人とも。遅刻とかシャレにならない――というかあの先生はシャレにしてくれない」
「………………」
「シャルル?」
「な、何かな!?」
「うわ、着替えるの超早いな。明弘も早いけど」
「お前より何度多く着替えてると思ってるんだ。慣れだ、慣れ」
そうこういっている間に、最後の一夏もISスーツを着終える。
「よっ、と。――よし、行こうぜ」
「う、うん」
着替え終わって更衣室を出る。グラウンドに急いで向かう途中で一夏がシャルルに尋ねる。
「そのスーツ、なんか着やすそうだな。どこのやつ?」
「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品」
「デュノア? デュノアってどこかで聞いたことがあるような……」
「フランスのIS企業だ。IS学園で使用している訓練機、ラファール・リヴァイヴの開発元だな。名前からして、シャルルって――」
「うん。僕の家だよ。父がね、社長をしてるんだ。一応フランスで一番大きいIS関係の企業だと思う」
「へぇ! じゃあシャルルって社長の息子なのか。道理でなあ」
「うん? 道理でって?」
「いや、なんつうか気品っていうか、いいところの育ち! って感じがするじゃん」
「いいところ……ね」
ふと、シャルルが視線を逸らす。何か触れられたくないところだったんだろうか。
「それより一夏の方がすごいよ。あの織斑千冬さんの弟だなんて」
「ん、まあ……な」
歯切れの悪い返事をする一夏。どうやら一夏にとってはあまり触れてほしくない話だったようだ。
考えてみれば、いろいろ大変そうではあるな。それも姉弟なんていったら、周りから比較されることだってあっただろう。あんな超人と比較されるなんて、面倒くさそうだ。
少し気まずくなってしまった空気を終わらせるために、仕方なく俺は横槍を入れる。
「二人とも暗くなってないで走れ。織斑先生に殺されたいのか、お前らは」
「遅い!」
第二グラウンドに無事到着――とはいかなかった。
授業開始のチャイムはほんの十数秒前に鳴り終わっていた。間一髪、間に合わなかった。
しかし、さきほどの女子の襲来をどこかで目撃しいたようで、珍しくそれ以上何も言ってくることはなかった。
「とっとと列に並べ」
織斑先生に言われて俺たちは一組整列の一番端に加わる。
「ずいぶんゆっくりでしたわね。ISスーツを着るだけで、どうしてこんなに時間がかかるのかしら?」
一夏の隣にいたセシリアが一夏に話しかける。
「道が混んでいたんだよ」
「ウソおっしゃい。いつもは間に合うくせに」
いや、本当です。女子で道が混んでいました。
「一夏さんはさぞかし女性との縁が多いようですから? そうでないと二月続けて女性からはたかれたりしませんよね」
そう言うお前にも会って早々に決闘を申し込まれたけどな、とも思ったが、言わないでおく。
「なに? アンタまたなんかやったの?」
セシリアの言葉を聞いて、一夏の後ろにいる凰が話しに加わる。
「こちらの一夏さん、今日来た転校生の女子にはたかれましたの」
「はあ!? 一夏、アンタなんでそうバカなの!?」
凰が大きな声を上げた。そんなに大きな声を上げると……
「――安心しろ。バカは私の目の前にも二名いる」
はい来ました、我らが鬼教官、織斑先生。
話に加わらなくてよかったと安堵する俺をよそに、蒼天の下で今日もまた出席簿アタック――一夏命名――が響くのだった。