Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
「では、本日から格闘及び射撃を含む実践練習を開始する」
「はい!」
二組と合同なので人数はいつもの倍。出てくる返事も気合が入っている。
「くぅっ……。何かと言うとすぐにポンポンと人の頭を……」
「……一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」
叩かれたところが痛むのか、セシリアと凰は頭を押さえていた。
シャルルに織斑先生の恐ろしさを伝えておく。シャルルは少し戸惑いながらも了解してくれた。
「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰! オルコット!」
「な、なぜわたくしまで!?」
完全なとばっちりだが、諦めろセシリア。あの人に理屈が通用しないのはお前も知っているだろう。そのくせこっちを折るときは理屈を使ってくるのがタチが悪い。メインは当然物理攻撃だが。
「専用機持ちはすぐに始められるからだ。いいから前に出ろ」
それでも嫌がる二人。まあ、一人はとばっちりだからしょうがないか。
「お前らすこしはやる気を出せ。――アイツにいいところを見せられるぞ?」
「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」
「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね! 専用機持ちの!」
織斑先生の一言で二人ともやる気がでてきたみたいだ。すごいな、あの二人をたった一言でここまでするなんて。まあ、あの二人だからこそだろうけど。
「それで、相手はどちらに? わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」
「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」
「慌てるな馬鹿ども。対戦相手は――」
織斑先生の言葉を遮るように、どこからか声が聞こえてくる。
「ああああーっ! ど、どいてください~っ!」
あれ? なんかこっちに飛んできてないか? それに今の声、山田先生だよな。って危なっ。
反射的に横に跳ぶ。とっさに行動できた自分の反射神経を褒めておこう。
なんとか俺は避けたが、隣にいた一夏は謎の飛行物体の突進を受け、数メートル吹っ飛ばされた。
「ふう……白式の展開がギリギリ間に合ったな。しかし一体何事――」
むにゅう。
見ると一夏が謎の飛行物体――っていうかISを装備した山田先生の胸を掴んでしまっていた。
「わ、わぁ!? す、すいません!」
一夏が慌てて山田先生から体を離すと、一秒前まで一夏の頭があった場所をレーザーが貫いた。
「ホホホホホ……残念です。外してしまいましたわ……」
レーザーを撃ったのはセシリア。あきらかに怒ってやがるなあれは。
しかも凰まで怒っているらしく、《双天牙月》を連結させて一夏に投げる。
「うおおおっ!?」
間一髪のけぞってかわしたが、《双天牙月》はその形状からブーメランのように返ってくる。一夏は体勢が崩れて避けれない。神王を展開して――駄目だ。他の奴らが邪魔でどうにもできない。
「はっ!」
しかしそこで一夏の命を救ったのは、驚くことに五一口径アサルトライフル《レッドバレッド》を持った山田先生だった。その弾丸が、《双天牙月》を正確に撃ち落したのだ。
倒れたままの体勢から少し上体だけをわずかに起こしただけなのにかなりの命中精度。雰囲気もまったく違い、落ち着き払っている。とても、いつもは生徒たちに遊ばれてあわあわしている人と同一人物には見えない。。
驚いたのは俺だけではなく、一夏やセシリア、凰はもちろん、他の女子まで唖然としている。
「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」
「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし……」
ぱっと雰囲気がいつもの山田先生に戻る。織斑先生の言った言葉に照れているらしく頬が赤かった。
「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさとはじめるぞ」
「え? あの、二対一で……?」
「いや、さすがにそれは……」
「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」
負けるといわれたのが気に障ったらしく、二人は瞳に闘志をたぎらせる。あの二人は無駄にプライドが高いからな。二人がかりで負けると言われて心中穏やかではないだろう。
「では、はじめ!」
「手加減はしませんわ!」
「さっきのは本気じゃなかったしね!」
「い、行きます!」
言葉こそいつもの山田先生だったが、その目は鋭く冷静で、セシリア・鈴組の先制攻撃を簡単に回避した。
「さて、今の間に……そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」
「あっ、はい。山田先生の使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第三世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です。現在配備されている量産型ISの中では最後発でありながら世界第三位のシェアを持ち、七カ国でライセンス生産、十二ヵ国で正式採用されています。特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばないことと多様性役割切り替えを両立しています。装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多いことでも知られています」
すらすらと機体の説明を述べるシャルル。
そういえば、ラファール・リヴァイヴを開発したデュノア社の社長の息子だ。詳しく知っていても当然かもしれない。
「ああ、そこまででいい。須藤、今の説明以外に何かあれば言ってみろ」
「今の説明以外となると……そうですね。ラファール・リヴァイヴ。型式はRR-08。戦闘タイプは全距離対応射撃型に分類されます。装甲は衝撃吸収性サード・グリッド装甲。初期装備は物理シールドが二つ、アサルトライフル、スナイパーライフル、ショットガン、グレネートシューター、マルチスラスター。特筆すべきは大容量パススロットで、IS兵器の他に、車載用榴弾砲、歩兵用ロケットランチャー、航空機用ミサイルといったものも無改造で搭載することができ、その武装搭載量から『飛翔する武器庫』とも言われています」
「お前、よくそこまで覚えてられるなぁ」
シャルルが言わなかった機体のスペックなどを挙げると、隣の一夏が感心したようにそう言ってきた。
「神王の製作者がISについてかなり詳しくてな。それに、何事もまず情報だ。俺みたいな弱者は相手のことを調べつくして、対策を立てなくちゃいけないんだよ」
その機体の特性、装備や装甲の特徴を踏まえたうえで、その機体に勝てる手段を考える。そうでもしないと、俺みたいな弱者に勝ち目はない。
俺の説明に織斑先生は頷くと、戦いが繰り広げられている空を見上げた。
「よし、いいだろう。……終わるぞ」
織村先生の言葉で改めて戦闘を見ると、山田先生の射撃がセシリアを誘導、凰とぶつかったところでグレネードを投擲。爆発が起こって、煙の中から二つの影が地面に落下した。
「くっ、うう……。まさかこのわたくしが……」
「あ、アンタねえ……何面白いように回避先読まれてんのよ……」
落ちてきたのはもちろんセシリアと凰。まるで教習用のビデオでも見ているかのような見事な負けっぷりだった。
「り、鈴さんこそ! 無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」
「こっちの台詞よ! なんですぐにビット出すのよ! しかもエネルギー切れるの早いし!」
「ぐぐぐぐっ……!」
「ぎぎぎぎっ……!」
落下の際にできた小さなクレーターの中で言い争いを続ける二人。後で二人はこのクレーターを埋めさせられるのだろうな。四月の一夏のように。
「はぁぁっ……」
それをクレーターの淵から見下ろし、織斑先生は深いため息を一つついた。
「あの二人にはあとできつく言っておかねばな。……須藤」
「あ、はい」
この後の二人の末路を想像してたところに名前を呼ばれ、慌てて返事をする。
「次はお前が山田先生と……いや、それはまずいか」
「どうかしましたか?」
先月の襲撃で負った怪我はもう完治している。それは織斑先生も知っているはずだ。
「……更識から話は聞いた。お前の神王に、絶対防御がないことはな」
「ああ、そういうことですか」
あの人から伝わっていても不思議ではない、というより伝わっていて当然か。
絶対防御という加護があるからこそ、IS操縦者は安全にISを運用できる。まだ子供であるここの生徒がISの実習を行えるのもそのおかげだ。
万が一の事態が起きない限り、操縦者に危害は及ばない。ISを世界最強の兵器たらしめている一つの要因。
それがないと分かった以上、教師として俺には無茶をさせられないということだろう。
絶対防御のない俺は、ちょっとしたことですぐに死んでしまいかねない、弱い存在なのだから。
「問題ありませんよ。絶対防御がないだけで、他の保護システムはありますから、模擬戦程度で死ぬことはないです」
絶対防御というのはいわば最後の砦だ。多大なシールドエネルギーと引き換えに操縦者の安全を確保する最終手段。それ以外にもISには操縦者を守るための機能は存在する。
神王には絶対防御こそないが、それ以外の保護システムは積まれている。模擬戦くらいであれば、よほどのことがない限り死ぬことはないのは今までの経験でわかっている。
「逆に、こういうところで実践を積ませた方が、この前のような有事の際に俺の生き残る可能性は高まります。こんな機会滅多にないですし、俺としては是非山田先生と模擬戦をしてみたいのですが」
元代表候補生と戦える機会などそうそうありはしない。こんなチャンスを逃す手はない。
織斑先生は数秒の沈黙の後、告げた。
「そこまで言うのならやってみろ。今の戦闘でわかったとは思うが、代表候補生止まりとはいえその実力は折り紙つきだ。いくらお前でもそう易々と勝てる相手ではないぞ」
「それは百も承知です」
織斑先生の了承も得られたので、グラウンドの中央に出る。
「次は須藤君ですか。ちょっと心配ですね」
「御謙遜を」
山田先生は俺の戦い方をセシリアとの決闘のときに目にしている。俺が自分よりも劣っていることは分かっているはずだ。
神王を展開する。紫色の装甲に身を包み、右手に槍型武装《グングニル》を展開する。
直槍の形をしているこの武器は俺の身長を少し超すほどの長さがあり、リーチについては近接武器において他の追随を許さない。
重量もそこまででもないため、なかなか使い勝手のいい武装だ。
「近接装備ですか。では私も」
そう言うと、山田先生は近接ブレード《ブラッド・スライサー》を展開する。何の変哲もない近接格闘用のブレードだが、山田先生の実力なら十分だろう。
「では……はじめ!」
織斑先生の合図と同時に一気に前進。その勢いを乗せて、そのまま《グングニル》を突き出す。山田先生はそれをかわして、空いた俺の懐を斬りつける。
手首をひねることで《グングニル》を回転させ、柄の部分で攻撃を受け止める。
攻撃を防がれた山田先生は瞬時に《ブラッド・スライサー》を引いて突きを繰り出してくるが、これは後方へ下がって攻撃範囲の外に出ることで回避し、《グングニル》を薙ぐ。
山団先生の攻撃が届かない距離から、リーチの長さを生かした攻撃は山団先生が後方へ退避することで空を切った。
「……すごいですねぇ。小回りの利きにくい槍でそこまで立ち回れるのは」
「山田先生もさすがですね。先ほどの銃撃戦といい、今の格闘戦といい」
ラファール・リヴァイヴは全距離の戦闘に対応できるとはいえ、射撃型に分類される。それでもここまで近接戦ができるというのは少し驚きだった。
「代表候補生のころは打鉄をよく使ってましたから。日本軍のIS部隊でしたし」
「なるほど」
日本軍のIS部隊なら当然よく使われるのは日本製の打鉄だ。近接格闘型のその機体で訓練を積んでいたのなら、納得できる。
「ただ、ちょっと近接戦だと分が悪いですね。負けたら織斑先生に怒られてしまいますし……悪く思わないでくださいね」
そういうと《ブラッド・スライサー》を片手に持ち、空いた手に六一口径アサルトカノン《ガルム》を展開する。
「こちらのほうが戦いやすいですからね」
どうやら射撃戦に持ち込むつもりらしい。先ほどのセシリアと凰の二人を圧倒した射撃戦に。
片手に《ブラッド・スライサー》を握っているのは俺が懐に入ってきたときの保険か。あの射撃を切り抜けられる可能性があると評価してくれるのは嬉しいが、おかげで奇襲ができなくなった。
「だったら……《ゲイ・ボルグ》」
俺の前方に《アヴァロン》と《アトランティス》が展開される。そして二つはそれぞれいくつかのパーツに分かれ、俺の手にしている《グングニル》と連結した。
数秒後、出来上がったのはもはや槍と呼べる代物ではなく、しいて言うなら会長が使うランスに似た武器だった。
《ゲイ・ボルグ》。《グングニル》《アヴァロン》《アトランティス》の三つの武装からなる全距離対応武装。重量が《グングニル》に比べてかなり重くなるため小回りは利きにくくなるが、代わりその他の使い勝手は抜群だ。
「さあ、仕切り直しと行きましょう」
《ゲイ・ボルグ》を両手で握りしめ、山田先生に告げる。山田先生はそれに頷き、一気に飛翔して距離をとると《ガルム》の引き金を引いた。
俺も飛び、銃弾を回避。《ゲイ・ボルグ》を山田先生に向けて、柄の引き金を引く。その瞬間、《ゲイ・ボルグ》からレーザーが放たれた。
山田先生は少し驚いたようだが、すぐに物理シールドでそれを防ぐ。
「やっぱり銃撃もできるんですね」
「そうでなければ、ただ重くなっただけですからね」
《ゲイ・ボルグ》はレーザーライフル《アヴァロン》と実弾銃《アトランティス》からできている。もちろんレーザーと実弾を撃つことも可能だ。
だがそんなことは山田先生には予想できていたらしい。まあ、あの連結を見られたら仕方ないが。
山田先生の銃撃をかわし、こちらも銃撃で応戦する。それが数分ほど続いた後……山田先生が動いた。
今まで距離をとって銃撃を行っていたのから一転して突撃。もちろん、迎撃しようと実弾とレーザーを放つが、滑らかな機動で回避される。
あともう少しで肉薄するといったところで山田先生は片手の《ブラッド・スライサー》をグレネードランチャーに持ち替え、発砲してきた。さっき見た爆発の範囲から、回避は不可能と判断した俺はとっさにそのグレネードを撃ち抜いた。
「ちっ……」
俺の数十センチ手前の空間までが爆発に巻き込まれ、黒煙が俺の視界を潰す。ハイパーセンサーで山田先生を見つけるよりも、狙い撃ちされないために急いで真上に飛び、煙の中から脱出する。
煙を抜け出し、山田先生のいた場所に視線を向けるが案の定、姿はない。ハイパーセンサーで山田先生の位置を探そうとするがその前にハイパーセンサーからの警告が鳴り響いた。
【後方より熱源。ロックされています】
それを聞いてあわてて後ろを振り向くと、そこには《ガルム》の銃口をこちらに向けている山田先生の姿があった。
引き金が引かれ、弾丸が発射される。それは正確に俺のもとへと直進してくる。
回避か、防御か。いやどちらも間に合わない。そう悟った瞬間――
『
俺を呼ぶ誰かの声が、脳内に響いた。
聞いたことのない声、聞いたことのない呼び名。
それでも、その声が俺を呼んだことは、認識できた。