Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
こんなことなら、何か本でも持って来ればよかった。入学初日から周りとコミュニケーションをとらずに読書に耽ってはだめだろうと思って持ってこなかったことが悔やまれる。
何だか周りがザワザワと騒がしくなってきたが、俺には関係ないことだろう。
「はぁ、誰でもいいから話し相手になってくれないかな。あんなに互いにけん制しあってたら、クラスにも学校にも馴染めないだろうが」
「だよねぇ。遠くから見てるだけじゃ~、仲良くなれないもんね~」
「そうそう。人と人は会話でコミュニケーションとってるんだよ。会話しなきゃどんだけ一緒にいようが、他人と変わらないってのに――って、あれ?」
何気なく呟いた独り言に、ごく自然に返答が来ていた。あまりにも自然すぎて、その返答に俺も更に答えてしまったところで、ようやくその不自然さに気がつく。
返答が来た方向に顔を向けると、そこには束さんと色素の似た髪を両サイドで、黄色いキツネ――のような何か――でくくった少女だった。今さっき一度しか声を聞いていないが、雰囲気といい、話し方といい、とてものんびりというかのほほんとした少女だ。
名前は知らないが、クラスメイトなのは覚えている。
どうやら先ほどから周りが騒がしかったのは、この少女が俺の言葉に応えていたからのようだ。
「えっと、すまんが名前を教えてくれないか?」
話しかけてくれた相手に失礼かもしれないが、名前を尋ねる。
少女は、特に気にした様子もなく「あい~」と独特な返事をして、名を名乗る。
「私はね~、布仏本音っていうんだぁ。よろしくね~」
のほとけほんね、か。縮めると“のほほん”だな。雰囲気とぴったり一致している。
「なんて呼んだほうがいい?」
まだ会ったばかり名から苗字のほうがいいだろうが、相手が名前で呼べというのなら名前で呼ぶことにしている。相手の意思を尊重することが、人と親密になるコツだ。
「んー、なんでもいいよ~。どうせなら~、あだ名とかで呼んでほしいなぁ」
「あだ名、ねぇ。……のほほんさん、とかはどうだ?」
さん付けなのは、“のほほん”だけだと呼び名かどうかわかりづらいからだ。さんを付ければ、呼び名だとわかりやすいだろう。
「のほほんさんかぁ。いいよ~。代わりに私も、すーくんって呼ぶね~」
須藤だからすーくんか。あだ名で呼ばれるなんて束さん以外になかったから新鮮だな。
「ああ、構わないぞ。それにしても、よく乗り越えてきたな。あのけん制の応酬を」
「あんなのに戸惑っていたら、流れに乗り遅れちゃうからね~」
あのけん制をあんなの呼ばわりか。見かけによらず、強い精神持っているのだろうか。それとも、のんびりとしすぎて気にしていないだけなのか。
それにしても流れとは何だろうか。何か起きるというのだろうか。
気になるが、とりあえずここは気にしないでおこう。今は、こののんびりとした少女と話して、周りを包む妙な雰囲気で少なからず疲れた精神を癒すとしよう。