Another IS ―もう一つのIS―   作:colorless

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第四十二話 “未来を知る”特訓

「……だめ」

「だよなぁ」

 あれから数日たった放課後、俺は日本代表候補生、更識簪と話していた。何の話かと言えば、月末のトーナメントの仕様変更に伴う件だ。

 本来、学年別『個人トーナメント』になるはずだったのが、昨日、『タッグトーナメント』に変更されたと生徒全員に連絡があったのだ。生徒たちに、より実践的な経験を積ませたいというのが理由らしい。

 これには先月の襲撃も関係しているのだろう。あのようなことが起こった場合、周囲との連携は必要不可欠だ。しかしいきなり大人数での連携をできるかといえばなかなかそうはいかない。そのため、まずは最少人数である“二人”での連携を高めよう。というところか。

 連絡があった直後から何人かの一年生にペアを組まないかという誘いを受けてはいたが、まだ俺は決まっていない。

 一夏とシャルルがペアを組んだ、という話を聞いたからだ。まあそうなる可能性は高いだろうと思っていたため驚くことはなかったが、そのせいで俺はペアを組む相手に慎重にならざるを得なくなった。

 いくら俺でも、一夏とシャルルの二人を同時に相手どることは難しい。あいつらと戦うことになれば、俺がシャルルを倒すとしてもその間、一夏を抑えていなければならない。最低限、それだけの実力を持っている相手を選ばなくてはならない。

 俺を誘ってきた生徒は全員、専用機持ちではない。できれば専用機持ちが望ましいが、一夏とシャルルが組んでいるため、残っている専用機持ちはセシリア、凰、ボーデヴィッヒの三人。だが昨日この三人、ひと悶着あったそうで、セシリアと凰は機体を大破、トーナメントには出場できなくなってしまったらしい。残るボーデヴィッヒは大丈夫だったそうだが、あいつが俺と組むとは思えない。

 最後の希望は今目の前にいる四組の日本代表候補生、更識簪だったのだが、あっさりと断られ、冒頭に至る。

「……打鉄弐式が完成してたら、組んでもよかったけど」

 そう。更識は専用機持ちでありながら、専用機を持っていない。正確に言えば、完成していないのだ。

 更識の専用機『打鉄弐式』の開発元は倉持技研、つまり白式の開発元と同じところだ。束さんによって白式の素体が送り込まれ、その完成に人員を割きすぎたせいで本来開発されるはずだった打鉄弐式が未完成のまま、ということらしい。

「いくらなんでも、一ヶ月足らずで完成できるとは思えないしな……」

 仮に完成したところで、その後の調整などを含めれば間に合うはずもない。細かな調整をし続けて、ISは本来の性能を発揮できるのだから。

「《山嵐》は今からやっても間に合わないだろうから、《春雷》と《夢現》を急ピッチで完成させて打鉄に乗せる、とかは?」

「……打鉄の方でフィッティングすると……変な癖がついちゃうかもしれない」

「打鉄弐式で使えなくなる可能性があるか。かといって、今から新しく作るのもなぁ。一応、試作品ならいくつかあるが」

「……あなたの考えた武装は、性能を重視しすぎ。……もう少し使いやすさを考慮すべき」

「それはわかってるんだけどな。どうしてもそっちにいくんだよな。使いやすさの方は、使って慣れればいいと思ってしまうんだよ」

「第三世代兵器ならそれでいいかもしれないけど……」

 更識の言うことはもっともだ。どれだけ強い武装でも、使いこなせなくては意味がない。それはわかっているんだが。

「あいつが器用すぎるんだよな……」

「……あいつ?」

 俺の呟きに、更識が問いかけてくる。

「俺の家族にものすごく器用な奴がいるんだよ。第三世代兵器も、一週間もあれば使いこなせるだろうってほどのな」

 束さんではない。あの人は一週間どころか、数分で使いこなすだろう。

「……すごい」

「ああ、俺も常々そう思う。俺の試作品の試験は自分でやるんだが、そいつにやってもらうことも多いんだ。そいつは器用だからどれも簡単に使いこなすんだよ」

「それで……性能重視になる?」

「そういうこと。まあ、言い訳にしかならないが」

 自覚しているのなら注意すればいいと言われればその通りだ。だが、使いこなせるのなら少しでも性能の方を優先してしまうのは、やはり設計者もどきとしては仕方がない。

「まあそのことは置いといて、更識も駄目だと本当に打つ手がなくなるな」

「……本音とは……組まないの?」

「自分と組んだら勝ち進めないから駄目だと断られた。優勝狙いなんて言わなければよかったな」

 しかし言ってしまったものはしょうがない。

「こうなったら、一人で頑張るしかないか」

「……大丈夫?」

「まあ、どうにかするさ。対複数戦の訓練の必要はあるけどな」

 そうと決まれば時間を浪費するわけにはいかない。一ヶ月足らずで一夏とシャルルを同時に相手どれるようにならなければならないのだから。

 また会長に手伝ってもらうか。姉に苦手意識のある更識の前だから名前は出さないが。

「じゃあな。打鉄弐式に関してはまた今度」

「うん。……じゃあね」

 更識と挨拶を交わし、俺は彼女の部屋を後にした。

 

 

 

「必殺、楯無ファイブ!」

 会長の掛け声とともに、会長が五人になった。

 本人以外の四つは、ミステリアス・レイディのナノマシンによって制御された水で生み出された人形だ。

 本来ならいくつかはナノマシン・レンズによる幻らしいのだが、今回は俺の訓練のために全てを水人形にしてもらった。

「行くわよ。……ゴー!」

 それと同時に一斉に動き出す五人の会長。それを俺は両手に持った双剣《デュランダル》で迎え撃った。

 更識と別れた後、幸運にも予定が空いていた会長と連絡がついた俺はすぐさま空いているアリーナで特訓していた。

 今日からトーナメントまでの特訓は対複数戦――特に一夏・シャルル戦――を想定したものだ。その手始めに今日は五人の会長と軽く手合せをすることにした。

 会長の一人が目の前からランスを突き出す。それを半身をずらすことで回避すると立て続けに真上と右から別の会長が攻撃を繰り出してきた。

 肉眼では到底全てを追い切ることはできない。ISのハイパーセンサーで会長全員の居場所を確認しながら、少しでも対応しやすいように体を動かす。

『天眼』。肉眼からの情報ではなく、全てハイパーセンサーからの情報だけで周囲を把握する小細工の一つだ。

 だがこれには一つ大きな弱点がある。普通よりも広い視界から複数の対象の情報を取り込むため脳への負担が大きい。その情報処理で精いっぱいになり、他の小細工が使えなくなるということだ。

 小細工は俺の最大の武器だ。それが使えないということは、決め手に欠けるということ。言ってしまえば、その場しのぎでしかないということだ。

 そのままではいけない。今回の一夏たちとの勝負だけではない。今後、複数の敵に襲撃され、同時に相手をしなければならない場面が来るかもしれない。その時のためにも、対複数戦の訓練をしておいて損はない。

 その第一段階が、この訓練。徹底的に複数の敵を捌くことに慣れ、他のこと――小細工に意識を割く余裕を作れるようになること。

「……ふぅ」

 五人に会長の位置や動きをハイパーセンサーで事細かく把握する。

 次はどんな行動に出るのかをこれまでを行動から“予測”する。

 以前、俺の師匠ともいえる人の一人が言っていた。俺の最大の武器は、『朧』をはじめとする小細工ではなく、その予測能力だと。

 予測。それは『未来を()め推し()る』ことだ。だが、その精度を極限まで高めることができれば、それはもう予測ではなく予知――『未来を()()っている』のに等しい。

 師は俺に、それができると言っていた。それができれば、俺の小細工は真の力を発揮するとも。

 小細工だけではない。予測能力は今のような対複数戦でも大きなアドバンテージになる。

 それを、この特訓で完成させる。

 会長たちの動きから、次に来るであろう攻撃を予測。そして予測通りに繰り出されるランスの突きを最低限の動きで回避して、反撃する。

 しかしそれは別の会長によって防がれ、さらにもう一人の会長によってランスで殴り飛ばされた。

「予測だけでは駄目よ。予測したうえで、場をコントロールするの」

 会長の厳しいお言葉が飛ぶ。それに応えるため、俺は起き上がり、すぐに《デュランダル》を構えた。

「もう一回、お願いします」

 

 

 

 特訓漬けの日々が過ぎ、あっという間に六月も最終週に入った。IS学園は月曜から学年別トーナメント一色にと変わる。その慌ただしさは予想よりも遥かにすごく、今こうして第一回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導を行っていた。

 その後各アリーナの更衣室で着替え。俺たち男子は例によってだだっ広い更衣室を三人占め。たぶん、反対側の更衣室では本来の倍の女子生徒を収容して、大変なことになっているだろう。

 まあ、俺は他の二人にとって敵なので着替えを済ませると早々にそこを後にした。

 ちなみに俺のパートナーはまだわかっていない。締め切りまでに申請を出せなかった生徒は学園の方で抽選によってランダムにタッグに組み合わされ、そのタッグはこれから発表されるトーナメント表で初めてわかる。

試合直前の発表のため、事前の打ち合わせがほとんどできないのは申請ができなかったことに対する処置なのだろう。俺にはどうでもいいことだが。

「はろー」

 トーナメント表が掲示されるところに移動しようとしたところで、目の前に会長が現れた。

「会長ですか。二年生は別のアリーナじゃないですか?」

「なによー。せっかく生徒会長が直々、応援に来てあげたのに。特訓に付き合ってあげた身としてもね」

「ああ。その節はお世話になりました。おかげで何とかなりそうです」

「それはよかった。これからも、何かあったら協力するわよ。君には簪ちゃんがお世話になってるしね」

「打鉄弐式については、俺が趣味でやっていることですから」

 妹である更識は優秀すぎる姉の会長に苦手意識を持っている。

 しかし、逆に会長は妹の更識のことを気遣っている。ギクシャクした今の関係をどうにかして修復したいとも思っている。

 お世話になっている身としては手助けをしたいところなのだが、デリケートな問題なので下手に手を出せない。余計なお世話かもしれないが。

 と、そこで特大モニターの周りの生徒たちが一斉にざわめき出した。

「トーナメント表が出たみたいね」

「そうですね。俺は……」

 自分の名前を探そうとモニターを注視する。俺の名前は一回戦第一試合にあったのですぐに見つかったが、そのタッグパートナーと対戦相手の名前を見て、思わずため息が漏れそうになった。

 

 織斑一夏&シャルル・デュノア VS 須藤明弘&ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

「面白い組み合わせね」

「……何か仕組まれてないでしょうね、これ」

 今回出場する一年生の専用機持ちが全員だ。優勝候補が、この一試合で半分いなくなることになる。

「まあ、ラッキーと言えばラッキーですね。感覚が鈍らなくて済みますし」

 他の相手と戦えば、そちらに体が慣れてしまって一夏たちとの戦いに体がついていかない可能性もある。それがなくなったのは幸運と言える。

「会長との特訓が無駄にならないように、頑張ってきます」

「ええ。私もそろそろ戻らないといけないけど、応援してるわ」

「ありがとうございます」

 軽く頭を下げると、会長は「じゃあね」と笑顔で歩いて行った。

 会長が去っていき、一人になった俺の背中に、不意に柔らかな重みがのしかかってくる。

 明らかに人の体。そして、俺にこんなことをするのは一人しか思い当たらない。

「どうしたんだ? のほほんさん」

「すーくん、お嬢さまとちょお楽しそうに話してた~」

 むー、と頬を膨らませて言うのほほんさん。怒っているジェスチャーなのだろうが、のほほんさんがやると全然怖くない。むしろ和む。

「そう怒るな。確かに最近、あんまり一緒にいられなかったが」

 ここ最近は会長との特訓に時間を割いていたから、特に放課後はのほほんさんと一緒に過ごすことが少なかった。

「今度一緒にお出かけするなら、許してあげる~」

「ああ、わかった。お詫びに何か買ってやるよ」

「わ~い」

 一瞬でいつもののんびりとした笑顔に戻る。怒っているときもだが、やはりこっちの方が和むな。

「のほほんさん、トーナメント表見たか?」

「うん。私は最後の方だからのんびりできるけど、すーくん、大変そうだね~」

「相手があの二人で、しかもパートナーがボーデヴィッヒだからな。まあ、戦力としては申し分ないが」

 協力する気はさらさらないが、せいぜい利用させてもらおう。

「……と。そろそろ時間か。じゃあ、行ってくる」

「応援してるね~」

 ゆったりと手を振るのほほんさんに軽く手を挙げて応え、俺はピットへと向かった。

 ピットへと到着すると、そこにはすでにボーデヴィッヒの姿があった。

「……貴様か」

「試合に出るんだから来て当然だろう」

「ふん。織斑一夏は私が倒す。お前はもう一人の相手でもしていろ」

 やはり一夏に執着している。憎悪、といってもいい。

 十中八九、織斑先生のことだ。束さんの話では、織斑先生はかつてドイツ軍で教官をしていた時期があったらしい。ボーデヴィッヒはその時、織斑先生の指導を受けていたはずだ。そしてそのときに、織斑先生に敬愛の念を抱いたのだろう。

 そんな敬愛する織斑先生は第一回IS世界大会『モンド・グロッソ』で優勝し、第二回モンド・グロッソでも優勝する――はずだったのだが、棄権により不戦敗。二連覇という偉業は成し遂げられなかった。

 その理由は、決勝当日に誘拐された一夏を助け出すため。ボーデヴィッヒからすれば、織斑先生が大会二連覇を成し遂げられなかったのは一夏のせい、ということなのだろう。

 勘違いも甚だしい。一夏こそが一番の被害者だ。わけもわからずいきなり誘拐され、そんな自分を助けるために姉が偉業を捨てたのだ。一夏のことを一番許せないのは一夏自身だ。それもわからないとは。

「私の邪魔だけはしないことだ」

 それだけ言い、ボーデヴィッヒはすたすたと歩き去って行く。

「お前こそ」

 その背中に、俺は小さく呟いた。

 

 

 

「一回戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたと言うものだ」

「そりゃあなによりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」

 それぞれの専用機を纏い、俺とボーデヴィッヒ、一夏とシャルルが対峙する。

 一夏とボーデヴィッヒの言葉をよそに、俺はシャルルに話しかける。

「一夏から話は聞いてるな」

「……うん」

「ならば、俺を倒してみろ。お前たちにできるのならな」

 一夏が《雪片弐型》を、シャルルが《ヴェント》を展開する。ボーデヴィッヒは何も出さない。

 俺は双剣《デュランダル》を構え、その切っ先を一夏とシャルルに向ける。

 試合開始まであと五秒、四、三、二、一――開始。

「「叩きのめす」」

 一夏とラウラの言葉は奇しくも同じだった。

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