Another IS ―もう一つのIS―   作:colorless

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第四十三話 学年別トーナメント

「おおおっ!」

 試合開始と同時に一夏がボーデヴィッヒに突撃をかけた。瞬時加速による奇襲で一気に勝負をかける作戦か。

「ふっ」

 しかし、ボーデヴィッヒは一笑すると、右手を前に突き出す。それと同時に、一夏の動きが、まるでビデオの一時停止のように止まった。

 AIC。ドイツの第三世代兵器であるそれの能力は、空間に作用し、物体を静止させる力。

 ボーデヴィッヒは動けなくなった一夏に、肩のレールカノンを向ける。その顔には勝利を確信した笑み。

だが、対する一夏も危機的状況にも関わらず、笑みを浮かべた。

 次の瞬間、シャルルの射撃が一夏の脇をすり抜けて、的確にレールカノンを直撃する。そのせいで標準が逸れ、レールカノンの砲弾は明後日の方向へと飛んで行った。

 意表を突かれたボーデヴィッヒは一旦、二人から距離をとる。

 一連の攻防を、あえて見逃した俺は、その一瞬のブレイクを狙ってシャルルに突撃した。

《デュランダル》による左右からの斬撃をかわし、シャルルは距離をとる。俺は近接戦闘装備で、シャルルは射撃装備なのだから当然だ。俺の攻撃が届かないところから、一方的に攻撃を浴びせられる。

 ……と思っているのなら、間違いだ。

 こちらに向かって銃を構えるシャルルに向かって、俺は両手の《デュランダル》を投げつけた。

「!?」

 想定外の攻撃にシャルルは驚きながらもそれを回避する。かわし切れず、《デュランダル》の片方がかすめていったが、大したダメージにはならない。

 その隙に、俺は展開待機させておいた《ゲイ・ボルグ》を展開し、シャルルへと向ける。避けられないことを悟ったのか、シャルルはすぐさま物理シールドを展開。

 次の瞬間、《ゲイ・ボルグ》から細い一閃の光が迸った。

 光線はまっすぐとシャルルへと向かい、その物理シールドと接触する。しかし、シャルルはすぐさま体をひねって、シールドで光線を受け流した。

「……今のって」

 驚きの表情でシャルルが呟く。そのシールドには、今の光線の傷跡が刻まれている。

今の光線の正体に気付いたか。瞬時の判断力と洞察力。流石はシャルルだ。

「収束貫通砲」

 それが今の光線の正体だ。通常のレーザーを圧縮し、貫通力を増加させるモード。一発で通常の二倍ほどエネルギーを消費し、連射はできない。しかしその貫通力はその欠点を補って余りある。

 俺の背後では一夏とボーデヴィッヒがやり合っているのが、ハイパーセンサーから伺えた。あっちはあっちで勝手にやるだろう。一夏にボーデヴィッヒの相手をしながらこっちに意識を向ける余裕はないし、ボーデヴィッヒも狙いは一夏だけだ。こちらには積極的に手を出してこないだろう。俺もシャルルの相手に集中できる。

「さあ来い。次は風穴あけてやる」

 シャルルを挑発する。まあシャルルはこんな見え透いた挑発には乗ってこないだろう。

 そんな予想に違わず、シャルルは冷静に銃口を向け、引き金を引く――のを僅かに戸惑った。俺の背後にいる一夏に流れ弾が行くことを恐れて。

 シャルルと俺の延長線上ではちょうど一夏がボーデヴィッヒと戦っている。シャルルの射撃を俺が避ければ、一夏が被弾してしまう可能性もある。

 そこが弱点だ。特訓を重ねて互いの信頼も厚くなっているだろう。だが、元々の性格からか相手を気遣いすぎる。そんなわかりやすい弱点を、俺が見逃すとでも思っているのか。

 シャルルが躊躇っているところを狙って、一方的に《ゲイ・ボルグ》を撃つ。

 射撃では分が悪いと悟ったのか、シャルルが一気に突撃を仕掛ける。その間に、武器を近接ブレード《ブラッドスライサー》に持ち替え、俺へと振りかぶった。

「やぁっ!」

「ふっ……!」

 それを俺は正面から受け止める。遠距離が駄目なら近距離で。まあ、簡単に予想できる行動だ。だからこそ、付け入られる。

 一度後方に距離をとる。シャルルはそれを好機と見て、再度突撃を行う。対して俺は、その追撃を今度は《ゲイ・ボルグ》で受け流した。

 突撃の勢いそのままにシャルルが向かうのは俺の後ろにいた一夏とボーデヴィッヒ。二人のところに行くように突撃の方向を微調整したから当然だが。

「一夏っ!」

「っ!? くっ……!」

 突如自分の方に向かってきたシャルルに驚きながら、一夏は咄嗟に回避行動をとる。そんな一夏の意識が逸れた瞬間を狙い、ボーデヴィッヒがプラズマ手刀を振りかざす。

 ――次の瞬間、三人はまとめて地面に叩き付けられた。

 アリーナの地面に小さなクレーターが生まれ、その中で倒れる三人を真上から眺めながら呟く。

「……やっぱり範囲広くする分、ダメージは少ないか。もう少し範囲絞ってもいいかもな」

《ゲイ・ボルグ》拡散爆裂砲。射程距離を大幅に犠牲にし、その代わり広範囲にダメージを与えるモードだ。通常を点だとすれば、これはいわゆる面の攻撃を可能にする。

 それを三人が一か所に固まったところで真上からぶちかました。思ったよりもダメージは与えられなかったようだが。

「なに……やってん、だよ」

「ん?」

 下からの声に、その声の主へと視線を向ける。

「俺やシャルルはともかく……ラウラはお前の味方だろう!? なんで一緒に攻撃するんだよ!」

 一夏が声を張り上げる。

「味方? そうだな、形式上は。だからといって、協力する義務はない。邪魔になるならお前たちもろとも潰す。当の本人も、俺の立場ならそうしたはずだ」

「だからって――」

 なおも食って掛かろうとする一夏の言葉を遮ったのは、漆黒の影だった。

「貴様ぁぁぁ!!」

 もちろん、シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったボーデヴィッヒだ。その顔からは怒りが溢れ出ており、その怒りをぶつけるかのごとくプラズマ手刀を俺へと振るう。それを《ゲイ・ボルグ》で受け止めると、つばぜり合いのような状態になる。

「そんなに怒るな。お前だって俺のことを邪魔だと言っていただろう。俺も同じように思って何が悪い」

「黙れぇっ!」

 俺の言葉に怒りが増したボーデヴィッヒの腕にさらに力が加えられる。俺はそれに合わせて《ゲイ・ボルグ》を引き、ボーデヴィッヒの体勢を崩した。

 怒りに身を任せた人間の行動は予測しやすい。これくらいの対応は誰でもできる。

 体勢が崩れたといっても隙だらけというわけではない。それでも、十分だ。

 拡散爆裂砲。先ほどの経験から範囲を絞って威力も上がったそれを叩きつけることはできる。そう考えて《ゲイ・ボルグ》を構えるが、ISのアラームが鳴り、その場から退避する。それとほぼ同時に、俺のいた場所を何発もの弾丸が通り過ぎて行った。

 二発ほど避け切れずに脚部装甲に被弾したがそれくらいはしかたないだろう。

「抜け目ないことだ」

 弾丸の元はシャルル。俺とボーデヴィッヒがやり合ってる隙を突こうとは、流石だな。俺もボーデヴィッヒもシャルルからすれば敵同士、狙わない手はないということか。

「一夏、まずは明弘を!」

「あ、ああ!」

 シャルルからの指示でようやく一夏が動き出す。最初に俺を潰す魂胆か。

 おそらく、『どちらを後に回した方が楽か』ではなく、『どちらに手を出されると面倒か』での選択だろう。

 二人がボーデヴィッヒを狙っていたら横から手を出すつもりだったからその選択は正しい。

 これで、二対二の試合が三対一に――いや、あちらも手を結んでいるわけではないから二対一対一か。ややこしいように見えるが、俺からすれば単純だ。

 俺以外、全員が敵。

「来い。三人まとめて、ぶっ潰してやるよ」

 この挑発にまずかかったのはボーデヴィッヒ。怒りを先ほど以上に湛えて、俺に突撃する。それを受け流すと、続けざまにシャルルの弾丸が襲い掛かる。

 三人を同時に相手取る以上、集中力を要する弾丸弾きでの対応はできない。そのまま回避を選択する。

 一夏、ボーデヴィッヒと三つ巴の乱戦になり、その合間を縫ってシャルルが射撃する。

 ボーデヴィッヒの純粋な戦闘力、一夏とシャルルの連携。どちらも十分脅威になり得る。そもそも数の利がない状況でそのような脅威は致命的だ。

 だが、幸いなことにそのどちらも最大限に発揮されてはいない。

 ボーデヴィッヒの戦闘力は怒りによって精彩を欠き、攻撃は直線的で予測しやすくなっている。

 そしてもう一つの方だが、予想していなかったことにボーデヴィッヒという存在がそれを妨害している。本人にそのつもりは全くないのだろうが。

 強力な連携はタイミングが重要になる。だが、それがボーデヴィッヒによって狂わされているのだ。ボーデヴィッヒは俺を狙うとともに、一夏にも攻撃を仕掛けているのだから、仕方がない。

 前者の方は当初の予定通りだが、後者は嬉しい誤算だ。どうやって対処しようかと考えていたが、よもやこんなことになろうとは。

 そんな攻防を十分ほど続けた頃だろうか。四人それぞれが少ないながらも――俺がダントツに多いだろうが――シールドエネルギーと集中力を削りあったところで、『零落白夜』を発動させた一夏と鍔迫り合いになり、その直後、見えない何かに全身を掴まれたかのように動けなくなった。眼前の一夏も同じように。

 ボーデヴィッヒのAICか。捕まらないようにできる限り動き続けていたのに、迂闊だった。

「これで――」

 不敵な笑みを浮かべ大型レールカノンの標準を俺に合わせるボーデヴィッヒ。

 AIC。相手が単数のときは無類の力を発揮する兵装だ。一度捕まった時点で、相手はもうどうすることもできないのだから。

 先ほど、一夏とシャルルが逃れられたのは、単体にしか作用できないという弱点を突けたからこそ。だが俺には自分を救ってくれるような味方はいない。

 ……だったら、自分で抜け出せばいいだけだ。

「――終わりだ!」

 そう告げたボーデヴィッヒと俺の間に割り込んでくる影。それが発射寸前のレールカノンにぶつかり、砲弾の軌道を逸らす。

「なにっ――」

 間髪入れずにボーデヴィッヒの背後から三つの影が襲い掛かる。ハイパーセンサーで察知したのか、ギリギリのところで避けられるが、集中力が途切れたのか俺の体は自由になった。

 四つの影の正体は、守護剣《デュランダル》。大剣、双剣に続く、《デュランダル》の三つ目の姿。セシリアの《ブルー・ティアーズ》と同じく、使用者の意思で遠隔操作可能な独立稼働兵器だ。……射撃はできないが。

 そのまま近くの一夏を蹴り飛ばし、ボーデヴィッヒを無視してシャルルへと向かう。

 ボーデヴィッヒがいるからこそ、一夏たちの連携はかみ合わない。ならば最初にボーデヴィッヒを倒すのは愚策だ。戦闘力は脅威になるが、AICの対策はできている。

 一夏と最初に倒すのも、戦力の低下があまり望めないため却下。ならば、連携を潰し、戦力も低下させられる『シャルルを倒す』という結論に達するのは必然だ。

 この一撃――『雷の一撃』で片を付ける。他の二人が態勢を崩しているこの一瞬で。そのためにAICにとらわれている間に《ゲイ・ボルグ》を充填させていたのだから。

 一夏とボーデヴィッヒを無視してまで自分のところに来るとは思わなかったのだろう。シャルルの行動は一瞬遅れる。その遅れを突き、『雷の一撃』がシャルルに迫る。

 

 次の瞬間、シャルルの姿が霞み、俺の攻撃は虚しく空を切った。

 

 躱された。俺がそう認識した時には、シャルルはすでに俺の真横にいた。

 シャルルは使えないはずの瞬時加速による高速回避。だが、現にこうしてそれをシャルルは成功させた。

 この試合の中でものにしたか。つくづく器用な奴だ。

 左腕の物理シールドがパージされ、その中に隠されていた凶悪な兵装が姿を見せる。

「《灰色の鱗殻(グレー・スケール)》っ」

 別名『盾殺し』とも呼ばれるパイルバンカー。単純な攻撃力だけでいえば、第二世代最強と謳われた兵装が俺に狙いを定める。

 最大の弱点である『相手と至近距離まで接近していなければいけない』というのもクリアしている。

 一発でも喰らえば終わりだ。渾身の一撃を躱されて体勢を崩しながらも、俺は《ゲイ・ボルグ》と同時に守護剣たちも突き出す。五つの攻撃を一点に集中させ、打ち出された杭を迎撃する。

 鼓膜が破れそうになるほどの金属音が鳴り、その刹那、強い衝撃が体を襲う。

 相殺できなかったのだ。『雷の一撃』であればできたのかもしれないが、それ無しの《ゲイ・ボルグ》では《デュランダル》の力を借りてなお、防ぎきれなかった。

「ッッッッッッッ!」

 絶対防御によって守られていない俺には防ぎきれなかった分のダメージがそのまま与えられる。生体維持などの機能はあるから死ぬことはそうそうないが、それでも身を引き裂かれるような痛みに、俺の脳はこれ以上の刺激を遮断するために……自らの意識を飛ばした。

 

 

 

 寸でのところで強襲を回避し、反撃に成功したシャルルは、明弘のわずかな異変に気付いた。雰囲気というのだろうか。ついさっきまでの明弘とは、違うように感じるのだ。

 まるで、体はそのままに別人になってしまったような、そんな錯覚を覚える。

 だがそんな感覚を振り払い、シャルルは《灰色の鱗殻》の二発目を打つ。リボルバー機構を内蔵しているこの兵器は連射が可能なのだ。

 二発目が明弘の腹に突き刺さる。明弘は後方へ吹き飛ばされて壁と激突したが、シャルルは判断する。それが単なる攻撃の反動だけではないと。

 攻撃と同時に自ら後退することで受けるダメージを少なくしたのだろう。そんな予想を裏付けるように明弘はゆっくりと立ち上がる。その姿を見て、シャルルは思わず息をのんだ。

 口の端からは真っ赤な血を流し、先ほど攻撃を受けたところのISスーツは破れ、覗く腹部は痛々しく腫れ上がっている。

 普通ならば痛みで立つことなどできず、すぐさま医務室に搬送されるべきだろう。それにも係わらず、明弘は平然と立ち上がり、シャルルを見る。その双眸には、敵意も、怒りもない。まるで、感情を失ってしまったかのような目だった。

「明弘……?」

 シャルルの呼びかけに応えず、明弘は体を前に傾け、突進した。一気に距離を詰め、繰り出される突きをシャルルは回避。それを読んでいたように《デュランダル》がシャルルを襲う。

《灰色の鱗殻》を出したために物理シールドはもう使えない。瞬時に近接ブレードを展開して四つの守護剣を捌く。その隙を明弘は見逃さず、空いたシャルルの背中に向けて《ゲイ・ボルグ》を振るう。

「させるかよっ!」

 しかしそれは、間に入った一夏によってシャルルに届くことはなかった。

「ありがとう、一夏」

「ああ。……っと!」

《雪片弐型》を振り抜き、明弘を引き離す。その拍子に、明弘の口から流れる血の一滴が、白式の腕部に飛んだ。

「……血?」

 純白の装甲を一点だけ赤く染めるそれを見て、一夏の顔に驚きが浮かぶ。

「絶対防御が……ちゃんと機能してない?」

 一夏は知らない。機能していない以前に、明弘の駆る神王には絶対防御がないことを。

「……っ! 明弘!」

 だがそれでも、このまま戦い続けることの危険さはわかる。今の時点で吐血するほど内臓に損傷があるのなら、早急な手当てが必要だ。そうでなくとも、絶対防御によって守られていない状態での戦闘は簡単に死に繋がる。

 であるというのに、当の明弘はそんなこと気にもしていないかのような態度だ。いつもと同じように冷静に――否、いつも以上に冷徹な気配を漂わせている。

「くそっ……! 千冬姉、試合を中断してくれ! このままじゃ――」

 教師専用の観察室にいるであろう千冬に通信を送るが、それは他でもない明弘の手によって遮られた。

 一切の挙動を殺した状態から瞬時に一夏との距離を殺し、《ゲイ・ボルグ》の突きを見舞う。

 それを弾き返し、反撃に移ろうとした瞬間、明弘の姿が掻き消えた。

「――『消失』っ!」

 模擬戦で幾度となく見た一夏はそれに気づくが、疑問を抱く。

『消失』は相手の攻撃を躱しその隙を突く迎撃技だ。だが、今一夏は攻撃しようとはしたものの、してはいない。それでは『消失』の効果はほとんどない。

 タイミングを取り違えたのか。そんな考えが頭をよぎるが、そうでないことを一夏は次の瞬間に実感する。

 今の今まで明弘のいた場所の向こうから、四つのワイヤーブレードが襲い掛かってきたのだ。その奥には漆黒のISの姿。

「くそっ!」

 攻撃に移ろうとしていた体を無理矢理動かし、ワイヤーブレードを捌く。その直後にラウラがプラズマ手刀を振りかざして襲ってくるが、それはシャルルが近接ブレードを展開して防いだ。

 だが安心する暇もなく、ハイパーセンサーが上空から《ゲイ・ボルグ》を三人へと向けて構えた明弘の姿を捉える。

 シャルルとラウラはぶつかり合った衝撃で動きが止まり、一瞬反応が遅れる。一夏は回避できたとしても、このままでは二人がまともに被弾してしまう。

「くそっ!」

 無我夢中で二人をかばうように立ちふさがる一夏。それと同時に《ゲイ・ボルグ》から一閃の光が迸った。

(これしかないっ……!)

《雪片弐型》以外の武装を持たない白式では高火力のレーザーを防ぎきれない。

思いついたままに『零落白夜』を発動。そしてその《雪片弐型》で向かってくるレーザーを叩き斬った。

「……ふぅ」

 刹那の行動が成功したことに、一夏は息をつく。

『エネルギー無効化能力』。それを使った防御だ。理屈では可能だが、高速で飛来するレーザーに《雪片弐型》を合わせられるかわからなかったが、上手くいったようだ。

 もちろん、ただがむしゃらに振るったわけではない。今まで幾度となく行ってきた明弘やセシリアとの対戦から得た経験があって初めて成せた業だ。

「このまま――」

「ふざけるなぁ!」

 一夏が反撃に転じようとしたそのとき、ラウラの怒号が響く。

 ただの弱者だと思っていた相手にてこずらされ、挙句には憎悪の対象である一夏に結果的にせよ助けられたことが彼女のプライドを大きく傷つけたのだ。

 鍔迫り合いになっていたシャルルを蹴り飛ばし、一夏の背後から襲いかかる。

「ちっ!」

 明弘への警戒していた一夏は慌ててラウラの攻撃を受け止める。当然その背中を狙った明弘が動き、それを迎え撃つようにシャルルが割って入る。

 アサルトカノン《ガルム》がシャルルの手に展開され、瞬時に火を噴く。寸分違わずに向かってくる弾丸を明弘はギリギリのところで回避していく。神王に備わっている多方向推進翼。それによって微細な挙動が可能になっているのだ。

《ガルム》では捉えきれないと判断したシャルルは瞬時に近接ブレードを握りしめる。だがそれと同時にISからの警告音がシャルルの耳を打った。

 反射的にハイパーセンサーで周囲を把握すると、上下左右からこちらに飛来してくる四つの剣が確認できた。

「《デュランダル》っ!」

 以前、国家代表である楯無にはできたが、シャルルには不意を突かれた状態で四つ全てを対処することはできない。咄嗟に回避を選択する。そこに明弘の突きが繰り出されるが、それは近接ブレードによって受け流した。明弘はシャルルへの追撃は行わず、そのままその奥で戦っている一夏とラウラへと突撃していく。

「一夏っ!」

 あっさりと抜かれてしまったことを悔やみながらシャルルはパートナーの名を叫ぶ。それに反応した一夏は間一髪のところで背後からの突撃を躱した。その代わりに、対応しきれなかったラウラがその突撃を受け止めることになる。

「邪魔を、するなぁっ!」

 プラズマ手刀で防御したラウラは収納してあったワイヤーブレードを発射する。二人の間の距離は一メートルもない。回避など不可能だ。紫の装甲にワイヤーブレードが突き刺さる未来を見て、ラウラは会心の笑みを浮かべる。その未来が訪れることはないことも知らずに。

 射出されたワイヤーブレードは明弘の残像を貫くだけで虚しく空を切った。ラウラの笑みが一瞬で驚愕に変わる。そんなラウラの脳天に向けて、スラスターによる回転で勢いをつけた踵落としが放たれた。

 地面に叩き付けられるラウラ。それを追って明弘は急降下する。

「このっ!」

 自分へと迫る明弘に向かってラウラはAICを発動する。だがそれが明弘を捉えることはできなかった。

 眼前に迫る明弘の姿が霞み、その直後に真横から振るわれた《ゲイ・ボルグ》からの衝撃がラウラを襲う。愕然としながらラウラはその衝撃の来た方向へ視線を向けるが、そこにはもう誰もいない。

 次に衝撃が来たのは向けた視線の反対側。《ゲイ・ボルグ》から放たれた熱線が、シュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーを削っていく。

『消失』の連用による息つく暇のない連続攻撃。これまで幾度となく模擬戦を行ってきた一夏ですら見たことのない攻撃の応酬。

(対応、しきれないっ)

 視線では追い切れずともハイパーセンサーは明弘の位置を捉えている。だが、それに反応しようとした頃には、そこにはすでに明弘の姿はない。いかにISのハイパーセンサーが高性能でもそれを扱うのが人間である以上、人間の反射速度を超えることはできない。

 ラウラが明弘の姿を追うのを諦めて脱出しようとすれば、それを知っているかのように明弘は先回りして攻撃を加える。まるでそれは、未来を予知しているかのような動き。

「明弘……」

 あまりに一方的な攻勢を一夏とシャルルは呆然と見守ることしかできなかった。このままラウラが倒されれば試合も少しは有利になる。そんな打算的な考えではない。下手に近づけば、自分たちもラウラと同じ運命をたどる。それを肌で感じたからだ。

 シャヴァルツェア・レーゲンの各部装甲が砕け、シールドエネルギーが削り取られていく。漆黒の機体にIS強制解除の兆候である紫電が走ってもなお、明弘は攻撃と手を緩めない。

 このままではラウラ自身に危険が及ぶ。最悪の未来が一夏の頭をよぎったその時、それは起きた。

「あああああっっっっ!!」

 ラウラが身を引き裂くような絶叫をあげ、それと同時にシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が迸った。間近にいた明弘はそれをギリギリのところで回避し、一度距離を取る。

 そうしている間に、ラウラの纏う漆黒の装甲はドロドロに溶け、ラウラの体を飲み込んでいく。そしてまるで粘土のように形を変え、人型になる。

 生み出されたのは黒いIS。少女のようなボディラインに最小限のアーマーが四肢に備わっている。頭部を覆うフルフェイスアーマーの目に相当するところからは赤いラインアイ。センサーが覗いている。

 何より、その手に握られている武器を見て、一夏は目を見張った。

「……《雪片》」

《雪片二型》に酷似したそれは、かつて一夏の姉である千冬が愛用していた刀そのものだった。

 反射的に動きかけた一夏だったが、それよりも先に、明弘が動いた。

 黒いISの背後から距離を詰め、音もなく《ゲイ・ボルグ》を振るう。しかし、それは漆黒の《雪片》によって容易く防がれた。そして返す刀を一閃させ、明弘を襲う。明弘は『朧』によって回避し、空いた懐へと突きを繰り出した。

 その直後、《雪片》の軌道が急激に変わり、《ゲイ・ボルグ》を弾き、そのまま袈裟切りを放った。

 寸でのところ《ゲイ・ボルグ》で防御した明弘だが、斬撃の勢いを殺しきることはできず、吹き飛ばされてアリーナの壁に叩き付けられた。

「明弘っ!」

 絶対防御に守られていない明弘は少しのことで命を落としかねない。今まで敵対していたことも忘れて、一夏は思わず明弘のもとへと駆け寄った。

 

 

 

 腹部が焼けるように痛い。口の中が血の味で充満されている。

「……いってぇ」

 意識を取り戻した俺の第一声はそれだった。

「明弘っ、大丈夫か!?」

「…………どういう状況だ」

 アリーナの壁に叩き付けられている自分の姿から、シャルルの《灰色の鱗殻》を受けて吹っ飛ばされたのだと思ったのだが、それにしては状況が変わりすぎていた。

 まず敵同士である一夏が俺の隣にいて心配そうな表情を浮かべていること。試合が終わったのであればわからなくもないが、神王のシールドエネルギーはまだ残っている。試合はまだ終わっていないはずだ。そして、視線の先には俺を吹っ飛ばしたはずのシャルルではなく、謎の黒いISが立っていること。先月と同じような襲撃者かと思ったがボーデヴィッヒの姿が見当たらない。……まさか、あれがボーデヴィッヒなのか?

 その手に握られている武器は《雪片》。束さんに見せてもらった織斑先生の試合映像に映っていたのと同じものだ。間違いない。――VTシステムか。先月の事件で俺が思い当った存在を思い出す。

 VTシステムに、本来ありえないISの形状変化が可能なのかはわからないが、違法とされているシステムだ。何が起こってもおかしくはない。逆に、ありえないことが起こっているからこそ、あれが合法的なものではないことを示している。

「っつ……」

 痛みをこらえながら起き上がる。もしかすると内臓に損傷が出ているかもしれない。本音を言えばすぐに医務室にでも駆け込みたい。だが、そうするわけにもいかない。

 あれがVTシステムだとすれば、《雪片》を持っている以上、トレース元は織斑先生だ。世界で唯一、最強の名を与えられた存在。その力をトレースしたあれが暴れまわれば、大惨事になる。……のほほんさんにも被害が及ぶ。

 なら、ここで倒してしまわなければならない。絶対に。

「無理するな! あれは俺が――」

「自惚れるな」

 立ち上がり、《ゲイ・ボルグ》を構えた俺が黒いISに挑もうとしたことに気付いた一夏の言葉を遮る。

「お前もわかっているだろう。あれは織斑先生の動きをトレースしている。紛い物とはいえ、織斑先生に勝てると思っているのか」

「それは……でも、お前だって同じだろ!?」

「分かっている。何も俺一人でやるわけじゃない。俺が隙を作るから、止めはお前がやれ」

 敵同士だが、今は非常時だ。あまり馴れ合わないほうがいいのだが、仕方ない。

「いくら織斑先生の動きをトレースしても、ISである以上シールドエネルギーが尽きれば止まるはずだ。試合でかなり消費しているなら、お前の『零落白夜』を一撃浴びせれば削りきれる」

 俺が意識を飛ばしている間にどれだけ消費しているのかは定かではないが、あれからまったく消費していないなんてことはないだろう。それならば、あんなことにはなっていない。あれはきっと、ラウラが危機的状況になって発現したものだ。ならば、シールドエネルギーも枯渇しているはず。

「『零落白夜』は使えるか?」

「……いや、シールドエネルギーがほとんど残ってないから難しい」

 一夏が苦虫を潰したような表情になる。

 仮にも織斑先生相手に長期戦をやるのは自殺行為。『零落白夜』が駄目だとすると、『雷の一撃』くらいしか方法はない。だが、充填するのを相手が待ってくれるか……?

 そんな考えを遮り、光明をもたらしたのはいつの間にか隣にいたシャルルだった。

「僕のリヴァイヴのコア・バイパスなら白式にシールドエネルギーを譲渡できると思うよ」

「本当か!?」

「なら頼む。一夏、準備ができたら教えろ」

 こうしている間にも、黒いISが動き出すともわからない。一夏のために隙を作るためにも、すぐさま動き出す。

《ゲイ・ボルグ》を分解し、《グングニル》に戻す。ここからは一撃の重さよりも、速さが重要になる。

『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止! 状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒はすぐに非難すること! 繰り返す!』

 アリーナに響く非常事態宣告。教師たちが鎮圧に来るそうだが、それでは駄目だ。

 いくら教師とはいえ、その大半が元代表候補生だ。世界最強に太刀打ちできるとは思えない。元国家代表がいたとしても、すでに引退した身。その実力が全盛期と同等であるはずがない。質量で押すとしても、短時間には終わらないだろう。

 VTシステムの全容がわからない以上、下手に長期戦に持ち込むのは危険だ。もしVTシステムに戦闘学習能力があったら、時間をかけるだけ相手が強大になる。

 やはり、一夏の『零落白夜』で一気に片を付けるのが最善。

《グングニル》を黒いISへと突き出す。それはいとも簡単に《雪片》で防がれた。そこから俺は『朧』や『消失』を使って、あらゆる方向から攻撃をし続けた。それらは全て完璧に防がれてしまうがそれでいい。これで倒せるとは思っていない。

 攻撃の合間に幾度となく反撃を受け、数か所から血が流れるが気にしない。腹に重いのを食らっている以上、そんなものは今更どうでもいい。

「いいぞ! 明弘っ」

 一夏の声が聞こえ、ハイパーセンサーから『零落白夜』を発動させて、こちらに突進してくる一夏の姿が見える。ちょうどいいタイミングだ。

 俺は四度『消失』を連発して、黒いISの右後方に潜り込む。当然、相手はそれにすぐさま反応して刀を上段から振るう。

「残念」

 それを横に寝かせた《グングニル》で受け止めた。この位置に潜り込めば、相手が上段斬りをしてくることは、さっきの攻防からわかっていた。

 いくら織斑先生の動きをそのまま真似ても、動かすのが意思を持たないシステムである以上、どうしても行動はパターン化する。どの位置にいればどんな攻撃をしてくるのか。今までのはそれを把握するための攻撃。

 この上段斬りを防御したのは今のが初めて。仮に戦闘学習能力があったとしても、『対処されていない行動を変更する』ような無駄なことはしない。つまり、この一度に限り、俺は相手の攻撃を完璧に防ぎきることができる。

 相手はすぐさま《雪片》を引こうとするがそんなことはさせない。交差させた二組の《デュランダル》で、《雪片》を反対側から抑え込む。

《グングニル》と《デュランダル》で両方から抑え込まれ、相手の動きが一瞬止まる。その隙に一夏が黒いISの懐に入り、《雪片二型》を一閃させた。

 真っ黒な装甲が縦に一刀両断され、その中から、取り込まれていたボーデヴィッヒが現れる。片目を覆っていた眼帯が外れ、弱々しい真紅と金色の目が一夏を映したと思ったら、そのままボーデヴィッヒは意識を失った。

 漆黒の装甲も、まるで先ほどの現象を逆再生するかのように元のシュヴァルツェア・レーゲンに戻り、そのまま沈黙した。

「……終わりか」

 一件落着して落ち着いたからだろうか。今まで興奮状態だったからか感じなかった鈍痛が腹部を襲い、俺は地に倒れ伏した。




お久しぶりです。実に半年以上振りの更新となります。
第四十二話を更新してから私生活のほうが慌ただしくなり、それに加えてパソコンが壊れてデータが全て消えるというハプニングがあり、更新がだいぶ遅れました。

なんとか今年中に一話更新しようと頑張ってみました。試合の展開が早いのはご容赦ください。

戦闘シーンを描いて、その難しさを改めて痛感しました。戦闘描写をうまくかける人はすごいですね。
今回は特に二対一対一というややこしい状況にしたために難航しました。完全に自業自得ですが。
来年はもう少しまともに書けるように努力したいと思います。

そういえば、ISのアクションゲームが発売されましたね。興味はあったのですが、更識姉妹がいないようだったので、今回は見送りました。追加されるようであれば買うと思いますけど。
自分のパソコンは古いため動作も遅く、パソコンゲームをするには不向きなので買うとしたらまずパソコンを新調してからになりますが。

そんな話はさておき、この後二話ほどしたら原作三巻の話に突入します。今までの話は言ってしまえば序章のようなもので、ここからが本番だと自分は思っています。もしよろしければおつきあいよろしくお願いします。

それでは、皆さんよいお年を。
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