Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――」
すらすらと教科書を読んでいく山田先生。クラスメイトは皆真面目に授業に取り組んでいた。
どっかりと積まれた教科書五冊。今山田先生が教えているところは以前束さんに教えてもらったり、本で読んだところだけど、一応復習を兼ねて目を通してみる。
IS――正式名称、インフィニット・ストラトス。十年前、束さんが製作したマルチフォーム・スーツ。もともとは宇宙空間での活動を想定していたものだが、当初は見向きもされなかった。
しかし、ISの発表から一ヵ月後に『白騎士事件』と呼ばれる事件でISは世界に知られることになる。当時の最新鋭の戦闘機なども――操縦者を殺すことなく――撃墜・無力化するその戦闘力ゆえに、各国から危険視され、IS運用協定――通称、アラスカ条約が結ばれた。
今、山田先生が説明したのもそのアラスカ条約、そしてIS学園の校則に記されていることだ。
「分からないところがあったら訊いてくださいね。何せ私は先生ですから」
山田先生はそう言っているが、皆事前学習をしているはずなので大丈夫だと思う。ただ一人心配だが。
「先生!」
「はい、織斑くん!」
心配していたやつが手を挙げた。早速先生に質問みたいだ。流石に全部わからないことはないだろうが――
「ほとんど全部わかりません」
「え……。ぜ、全部、ですか……?」
全部わからないことはなかったが、ほとんどわかっていなかった。
入学前に渡された参考書を流し読みすれば、特にわからないところはないはずなんだがな。
「え、えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」
山田先生が苦笑いをしながら、尋ねる。
だが、案の定、誰も手を上げない。まあ、皆予習はしているだろうから当然だろう。
「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」
教室の端で控えていた織斑先生が訊いてくる。
「古い電話帳と間違えて捨てました」
パアンッ! というものすごい音を立てて、織斑先生の出席簿が一夏の頭に直撃する。
さっき聞こえた音の正体はこれだったのか。痛そうだな。
「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」
確かに電話帳並みに分厚かったが、間違えるか普通。表紙を見ればすぐに気づくだろうに。
「あとで再発行してやるから、一週間以内に覚えろ。いいな」
「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと……」
「やれと言っている」
「……はい、やります」
織斑家の力関係がよくわかるなこれは。
「ISはその機動力、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」
正論過ぎて一夏は反論できない。いや、一夏でなくても反論できないか。
「え、えっと、織斑くん。わからないところは授業が終わってから放課後教えてあげますから、がんばって? ね? ねっ?」
「はい。それじゃあ、また放課後よろしくお願いします」
「ほ、放課後……放課後に二人きりの教師と生徒……。あっ! だ、ダメですよ、織斑くん。先生、強引にされると弱いんですから……それに、男の人は初めてで……」
いきなり何を言っているんだろうか、この人は? IS学園に勤めているから男と接する機会が少なくて免疫がないのはわかるが、赤くなりすぎだろう。この学園の先生は皆こんな感じなのだろうか。だったら、少し面倒くさいな。
「で、でも、織斑先生の弟さんだったら……」
「あー、んんっ! 山田先生、授業の続きを」
「は、はいっ!」
一向に妄想から帰ってこない山田先生を、織斑先生の咳払いが呼び戻す。
山田先生は慌てて教壇に戻って――こけた。
「うー、いたたた……」
大丈夫だろうか? この先生……。