Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
「ん?」
二時間目の休み時間、暇つぶしに会話をしていた俺と一夏はいきなり声をかけられて思わず声を出した。
話しかけてきた相手は、地毛の金髪が鮮やかな女子だった。白人特有の透きとおったブルーの瞳が、ややつり上がった状態で俺たちを見ている。
このIS学園の女子では多国籍の生徒を受け入れなくてはいけないという義務のせいで、外国人の女子なんて珍しくもない。むしろ、クラスの半分がかろうじて日本人というくらいだ。
「聞いてます? お返事は?」
「ああ。訊いてるけど……」
「どういう用件だ?」
「まあ! なんですの、そのお返事。私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
女子の言い方に、思わずため息が出る。
こういうタイプの女子は苦手だ。ISを使える。それが国家の戦力になる。だからIS操縦者は偉い。そしてIS操縦者は原則女しかいない。よって女は偉い。こういう論法はあながち間違ってはいない。それは認めよう。
だが、たとえそうだとしても、その力を振りかざすのは違うと思う。まあ、そこらにいるISに触れたこともほとんどない女共に比べて、この学園にいる女子たちはISの適正があり、将来IS操縦者になる可能性もあるだけまだマシか。
「悪いな。俺、君が誰か知らないし」
「同じく」
クラスメイトなのはわかる。何度かクラスで視界に入っていたからな。しかし、自己紹介を見ていないから誰が誰だかわからない。
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリス代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」
セシリア・オルコットという名前なのか。代表候補生で入試主席ということはなかなかの実力のようだ。
「あ、質問いいか?」
「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の役目ですわ。よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」
がたがたっ。聞き耳を立てていたクラスの女子数名がずっこけた。ちなみに、俺もだ。
「あ、あ、あ……」
「『あ』?」
「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」
凄い剣幕だ。血管マークが出てきそうな勢い。
そんなオルコットの剣幕に少し押されながらも、一夏は平然と答える。
「おう。知らん」
「信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら……」
テレビくらいあるに決まってんるだろう。一夏が知らないというだけで、日本全体を馬鹿にするのはやめてほしい。さっきの授業で、一夏が事前学習をしてないことも知ってるだろうに。
「で、代表候補生って?」
「国家代表IS操縦者の、その候補生として選出されるエリートのことですわ。……あなた、単語から想像したらわかるでしょう」
「そういわれればそうだ」
「まあ、簡単に言えばお強いエリート様ってことだ」
「そう! エリートなのですわ!」
お、復活した。俺は少し嫌味を込めて言ったんだが、気づいてないようだ。
オルコットはこうも自慢げにしているが、いってしまえば“国家代表になる可能性がある候補生”というだけだ。国家代表と比べれば、実力も名声も足元にも及ばない。
おそらく、国家代表と戦ったことがないのだろう。だから、ここまで自慢げになれる。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくするだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか。それはラッキーだ」
「……馬鹿にしていますの?」
一夏の言葉にオルコットが突っ込む。
お前が幸運だって言ったんじゃないか。理不尽なやつだな。
「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一ISを操縦できると聞いてましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれでしたわね。そちらのあなたはまだ少しだけ知的そうでしたが、正式にはISではない等とおかしなことを言ってるようですし、同類ですわね」
「俺に何かを期待されても困るんだが」
「俺はちゃんと正しいことを言っただけだ」
そんな俺たちの言葉を無視して、オルコットは話を続ける。
「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなた方のような人間にも優しくしてあげますわよ」
これが優しさというものなのか。こんなにも心から遠慮したくなるような優しさは、今まで生きてきて初めてだ。
「ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
余計なお世話だ。という言葉を何とか飲み込んで――って、ん?
「入試って、あれか? ISを動かして戦うってやつ?」
「それ以外に入試などありませんわ」
「あれ? 俺も倒したぞ、教官」
「一夏もか? 俺もだ」
「は……?」
俺たちが言ったことは相当ショックだったのか、オルコットは目を驚きに見開いている。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないのか?」
ピシッ。一夏の言葉でオルコットからいやな音が聞こえた。何か氷にヒビが走ったような。
「つ、つまり、わたくしだけではないと……?」
「いや、知らないけど」
「あなた! あなたも教官を倒したって言うの!?」
「うん、まあ。たぶん」
「たぶん!? そちらのあなたは!?」
「一応な」
「一応!? どういう意味かしら!?」
「えーと、落ち着けよ。な?」
「こ、これが落ち着いていられ――」
キーンコーンカーンコーン。
三時間目開始のチャイムが鳴る。それに自分の言葉を邪魔されたオルコットはすごい剣幕で捨て台詞を口にした。
「っ……! またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」
よくない。でも、そう言ったら怒るだろうし、黙ってうなづいておく。
なんだか、すごく面倒なことになってきたな。