Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
「残念だが須藤。お前が戦う理由はあるぞ」
今まで沈黙を続けていた千冬さんが、口を開いた。
予想外のことに内心驚きながらも、俺は冷静に取り繕って質問をする。
「……どういうことですか」
「クラス代表者決定戦。それがお前がオルコットと戦う理由だ。もちろん、織斑も参加だ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
「もっと平和なやり方があると思いますが」
投票などをすれば、わざわざ戦わなくてもクラス代表者を決定することはできる。織斑先生がそれに気づいていないはずないのに、どういうつもりだ。
「他の方法で選抜しても、オルコットが納得すると思うか? オルコットは成績がトップの自分が相応しいと言っている。なら、オルコットを納得させるためには、実力で決めるしか方法はない」
「……ちっ、わかりました」
織斑先生の言うことはもっともだ。実力以外で俺や一夏が勝ったとしても、オルコットは認めようとしない可能性は高い。いや、ほぼ確実に認めないだろう。
そうなれば、今年一年間俺たちはオルコットに文句を言われ続けることになる。実力ではなく、物珍しさだけでクラス代表になった極東の猿と。
それは嫌だな。そうなると、やはりオルコットと戦わなくてはならないか。
「お、おい明弘。いいのかよ」
「仕方がないだろう。戦う理由はなくても、戦わないといけない理由はあるんだから。それとも、お前は一年間オルコットに文句を言われるほうがいいのか」
「……しょうがない、か」
「ああ」
俺と一夏の間でも、オルコットと戦うことで一致した。
「ただし、俺がオルコットと戦うのはオルコットが一夏に勝ってから、でいいでしょうか。初心者の一夏に勝てないようなやつと戦っても意味がないですから」
俺の提案に、織斑先生は一考し、オルコットに向かって口を開く。
「オルコットはそれで構わないか?」
「構いませんわ。わたくしが勝つことに変わりはありませんもの」
「では、最初に織斑とオルコットの勝負を、次にその勝者と須藤の勝負を行う。三人とも、異論はないな?」
「はい」
「ええ」
「わかったよ」
俺、オルコット、一夏の順に頷く。
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い――いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「まあ、一応ちゃんとやってやるさ」
「そう? 何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
できれば一夏との戦いで満足して欲しいところなんだが。
「で、ハンデはどのくらいつける?」
いきなり、一夏がそんな提案をしてくる。
「あら、早速お願いかしら?」
「いや、俺がどのくらいハンデをつけたらいいのかなーと」
その瞬間、クラスからドッと爆笑が起こった。
「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」
「男が女よりも強かったのって、大昔の話だよ?」
「織斑君は、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」
「しかもセシリアは代表候補生だよ? ハンデつけてもらった方がいいと思う」
そう、今の時代腕力は何の役にも立たない。男は原則ISをを動かせない。もし男女差別で戦争が起きようものなら、男陣営は三日と持たないだろうといわれている。下手をすれば、三時間で制圧されかねない。ISは過去の戦闘機・戦車・戦艦などを遥かに凌ぐ超兵器。しかも代表候補生ともなれば、そのISの操縦者になるために経験を積み重ねた人間だ。
だが、一つ疑問が残る。
「じゃあ、今は男より女のほうが強いのか?」
「それはそうでしょ。女のほうがIS使えるんだし……」
それだけ言って女子の表情が変わる。やっと根本的な勘違いにたどり着いたか。
ISを動かせるやつが強い。そしてISは普通女にしか使えない。――普通ならな。
「ISが使えるやつが強いって言うんなら、一夏と大まかに言えば俺も強いってことになると思うんだが、そのあたりはどうなるんだ?」
「そ、それは……」
「それに、いくら代表候補生だからって絶対勝つとは言い切れない。それとも何か? お前たちは一夏や俺の実力を知ってるのか? 俺たちの実力を知り、オルコットの実力と比較してみて言ってるのなら文句は言わないが、そうでないならそっちのほうが言いすぎだと思うぞ」
笑いに包まれていた教室が一気に静まり返る。笑っていた女子も口を閉じている。
「これでもまだバカにするやつ、俺たちよりも女が強いと思うやつは出てこい。全員まとめて血祭りに上げてやる」
少し凄みを聞かせて締めくくる。これでもう笑ったりするやつは出ないだろう。
「須藤。最後の言葉は教師として黙認しかねるぞ」
「すいません。つい」
織斑先生に謝り、一夏に視線を向ける。
「ほら一夏。お前もなんか言ってやれ」
「いや別に俺はいいや。それよりもハンデについてだが、無しでいいな?」
「え、ええ、そういたしましょうか」
さっきまでの激昂はどこへやら、オルコットは俺の威圧にびびったような顔をしていた。
「まあ、一夏がハンデ欲しいっていうなら別に止めないけどな」
「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデはなくていい」
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜と火曜。放課後、第三アリーナで月曜にオルコットと織斑の勝負を、翌日にその勝者と須藤の試合を行う。三名はそれぞれ用意しておくように。それでは授業を始める」
ぱんっと手を打って織斑先生が話を締める。
ともあれ、結構面倒なことになりそうなのは確かだ。