咎人は東より来る   作:お蕎麦大好き

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 咒式士の階梯などは本編のやり方を使います。原作のは大変なので。




 若ー、どこですかー?

 

 遠くから僕を呼ぶ声が聞こえるが無視。今は目の前のことに集中。目標に接近するため気付かれないようにゆっくり木を登っていく。大きく動くのをやめ、手を伸ばして目標を捕獲しようとする。対象まであと五十、四十、三十・・・。

 

「あっ」

 

 あと一息のところで蝉は逃げてしまった。伸ばしていた手がただデコボコした木の肌の感触を伝えてくるのが虚しい。僕は目的が無くなったので木を降りようとし、急に四肢から力が抜け、見事に落下した。

 あ、やばい死ぬ。大体二階くらいの高さではあったが、当たりどころが悪ければ十分に死んでしまうし、受け身などをしなければ大けがしてしまうような高さだ。そして僕は上半身から力が抜けたせいか頭から落下している。このまま三回目の死亡かと思ったとき、足首を掴まれるとともに逆さづりとなる。掴んでいる人物を見てみると。黒髪を頭の高いところで結わえた、青い瞳の優男が僕を見下ろしていた。

 優男は溜息をつきながらもどこか暖かいまなざしを少年に向けている。それはきっとこの男の顔が整っていて、尚且つ優しい雰囲気に包まれているから、だけではないだろう。実際この男は少年の御守りという立場以上に兄のような存在であった。彼はその柔らかなまなざしの中に批判の色をたたえ、従者というより兄としての立場で言葉を発する。

 

「若、若はようやく体が動けるようになったばかりですのでもっと気を付けてください」

「大和さ、敬語いらないよ?いま僕たちしかいないし」

「手間かけんなクソガキ」

「言葉の切れ味が増すというより人間自体が変わったほどの変貌だねっ」

 

 一瞬にして彼の纏う雰囲気が雪国がようやく迎えた春のような淡い暖かさから、極寒のブリザード吹き荒ぶ凍結地獄のそれへと変貌した。何も知らない人が見たら別人が来たのかと錯覚するほどの変貌ぶりには驚かされるだろうが、少年は生まれてから十年、ずっとこの青年に仕えてもらっていたのだ。今更過ぎて口で言うほどの動揺はもはやない。流石に多少は傷つくようではあるが。

 青年は更に苦言というにはきつく「何を考えてる馬鹿なのか、この糞猿が」などと罵倒しつつも優しく少年を地面に降ろす。少年は少年で何かしら言いたいことがあるようだが、全面的に自分が悪いので口を尖らせながらも黙って罵倒を受け入れていた。

 暫く小言が続いてるうちに身体が改めて動けるようになったり、夕餉の時間になるので帰りましょう。そう促されて山を下った。

 

 帰り道、遠くて青みがかって見える山に目を向ける。

 あそこから何か不思議な感じがする。父上もあんまりあの山の話はしなかったな。むしろ避けているような気がする。僕の勘ではあそこに何かすごい奴がいるのは確実なんだよね。一度会いに行ってみたいのだけれど、周りが許してくれないだろうし、どうやって抜け出そうか?視界に入るといっても徒歩なら多分あそこまで丸一日かかるだろうし、そこから山を登るとなると目的地まで三日くらいかかりそう。自動車などを使えたらいいんだけど、それこそ即座に絶対ばれる。

 

「何をうなっていらっしゃるのですか?」

「え、大和って名前似合わないよね。ちょぉーっと名付けられた人物に対して壮大すぎやしませんか、と思って・・・。おわったっと!」

「黙れ黙らせるぞ」

「警告する前から石投げないでよ!一応君僕の家臣扱いなんだか言葉での精神的制裁はともかく物理的制裁はどうかと思うよっ」

「若ならあの程度当たらないだろう。そう信頼しているから出来る、麗しい忠誠心の現れではないですか」

 

 前を向き歩きながら、腹が立つほど爽やかでありながら暖かく、物騒なことを仕える主に対して宣う優男の従者。

 振り返って飛んできた石を見ると、漬物石に使えるくらいの大きさのものだった。

 ・・・どう見ても殺意満載な投擲だったよね?信頼って言葉は何時から殺意って読み替えても通じるようになったのかな?この世に溢れている相棒や親友との絆で困難に立ち向かい、勝利していく物語は実は敵と仲間との三つ巴だったり、語られていないところで殺し合っているような裏設定があったのかな?

 

「あるわけないよっ」

「急にどうした?遂に異世界に交信できるようになったのか?おめでとうございます。それでは私は若様に仕えるには不足した従者でございますので、どうかお暇を頂きたくございます」

「急に叫んだのはごめんなさいだけど、対応がひど過ぎないかい!?」

 

 この従者は本当に僕に仕えてる自覚はあるのだろうか?忠誠心で仕えてるわけではなく、僕の家柄や給金などで仕えてるだけじゃないかな?心配になってきた。

 足を止め振り返り分厚い面の皮、というよりは重装甲型外強化骨格を纏った従者が春風の笑顔を僕に向けこう宣った。

 

「お給金と、あなたの家に仕える家系だからという悪習から若の側仕えをしているだけですよ。あ、独り言が洩れている時がございますので周りにどのような人物がいるのかわかりませんゆえ、お気を付けください」

「・・・本音は?」

 

 春風から一変、無表情で極寒の吹雪を纏い。

 

「糞親父の命令だから仕方なく。糞餓鬼がどうなろうと知ったこっちゃねぇけど、俺に迷惑かけんなよ」

 

 言うだけ言ったらすぐさま歩みを再開する。

 よくできた従者に涙が出てくるよ、僕。

 忠誠心てお金で買えないかな?なんてことを考えながら僕は大和の後ろをついていく。人間から忠誠心を買うくらいなら、擬人を買ったほうが最終的には安く済むのではないかと結論を出した所で釘を使わない神社仏閣とほぼ同じように作らせた、古き良きヒナギの伝統的な大きな屋敷が視界に入ってきた。

 

 

 

 

 家の料理人の松前さんが作ってくれた料理を下女中が自室まで持ってきて食べる。普段なら広間で家族みんなで食べるのだけれど、今日はみんな出払っているので部屋で食べることにしたが、普段こんなことをしようものなら家族の絆を大事にしている母上になんていわれるか。

 せめて大和と一緒に食べれるなら広間で食べたんだけどなぁ・・・。

 初めは広間で食べようと思い、一人で広間を使うのも寂しいから一緒に食べようと誘ったら断られた。道場で鍛錬をするとのことで、ついていこうとしたら怒られた。「今日動けなくなったばかりで何を考えている?」と、要約したらこんな感じに、されなかったら心が折れるような様々な言葉の装備付きでこってりと言われたので一人の夕食が決定したのだ。うちは使用人の人たちと食事をしても誰も何も言わないし、むしろ母上は大人数での食事に賛成しているのだが、相手側が遠慮することが多い。昔からの使用人の人たちは誘ったら乗ってくれる来いおが多いが、新しい人達はやはり礼儀とかそういうのと違う家の考えに遠慮してしまうところがあるのだろうと僕は思っている。

 古くからの使用人たちは仕事が忙しいために一人寂しい食事を終えると、部屋の戸の外から許可を求める女性の声。

 

「若様、お茶をお持ちしましたので、入ってもよろしいですか?」

「うん、いいよ・・・。て、藤乃さん?許可を出すのに食い気味で入るのやめません?」

「うふふ。若様なら拒むことはないと信頼しておりますから。有希さん、若様の御膳を片付けたらまたここへいらっしゃい。お茶をしましょう」

「家主の息子の前でサボり宣言ですか」

「まぁ、人聞きが悪い。若様にお茶を心置きなく楽しんで頂くためにお世話をするのですよ」

 

 普通の女中が着ている薄紅色の着物を着た少女と、その人たちを統括する立場を表す藤色の着物を着た、髪を結い上げた綺麗な女性が入ってくる。父上に曰く、左目の泣き黒子が色っぽいのだそうだけれど、僕にはまだその良さがわからない。父上がそう言ったあと、父上の背後にいらっしゃった母上から夜叉の気配が漂ってきたのであまりわかりたくもない。その夜、父上の悲鳴が聞こえた気がするけれど、僕は聞かなかったことにしたので翌日の母上の機嫌の良さや、父上のやつれ具合は知らないことになっているので、知らないったら知らないのである。

 つい最近もあった家族の黒歴史を頭から追い出し、現実に帰ってくると有希と呼ばれた十をこえたばかり位の少女は食べ終わった膳をわたわたしながら持ち、部屋から出て行った。転ばないか心配だ。

 藤乃さんは有希さんを見送った後戸を閉め、急須にお湯を注いだ。お茶を淹れる姿や座る仕草が子供でもとても綺麗だと思えるくらい洗練されていた。藤乃さんは僕の視線に気づいたのか、軽く微笑みいたずらっぽく。

 

「あら、若様に一目ぼれされてしまいました。これは奥様に教えて差し上げねばなりませんね」

「違うからやめて。ただ綺麗だなぁ、って思っただけだよ」

「あら、お世辞でもうれしいですわ」

 

 お茶を僕に差し出しながらクスリと笑う藤乃さん。この人は一体何歳なんだろう?僕が生まれる以前から仕えてるらしいけれど・・・。

 気になり質問しようとしたとき。

 

「若様、女性に年齢や体形、体重の話は禁句ですよ?もしするならば長命竜相手にするくらいの覚悟で質問なさって下さいね」

「・・・。藤乃さんて咒式士だっけ?なんでわかったの?」

 

 彼女は右手を口元に当て。

 

「若様は表情豊かですから。竜理使いの方でなくともわかります」

 

 楽しそうにほほ笑むこの人には敵わないと僕はお茶を飲んだ。

 そこから二人で暫くたわいもない話をしていた。中身は大抵僕が今日あったことを話し、藤乃さんがそれを聞く。この人は聞き上手でつい余計なことを言ってしまうけれど、僕は姉だと思っているのであまり気にしないで話し続ける。・・・たまに母上に聞かれたくない話が藤乃さん経由で流れてしまうけどね。

 お茶のお代わりをもらおうとしたとき、外から控えめというには小さすぎる「・・・すみません、入ってもよろしいでしょうか?」との声が聞こえた。入るように言うと、おずおずと少女が入ってきた。

 

「若様、有希と申します。このたびは・・・」

「いや、そんなに固くならないでいいよ。ただお茶を飲むだけだし・・・。藤乃さんから聞いたけど僕より年上でしょ?家主の息子だからってそんなに遠慮しなくていいから」

 

 僕は笑いながらそう言ったのだけど、有希さんは顔を真っ赤にして顔を真っ赤にして固まるだけだった。どうしたらいいだろう?

 どうやったらこの子の緊張が解けるのか考えていると、藤乃さんがにこやかに

 

「有希、若様は器が大きい方だから多少の失敗や失態は気にしないわ。そうね・・・。例えばつねったり「ちょっ、痛い!」、恥かしぃ黒歴史な絵日記が机の引き出しの三番目の二重底の中にあることを「何で知ってるの!?」公表しても怒らないわ」

 

 僕が抗議してもこの人は聞いてくれないのは知っているが、自分の尊厳の為に抗議する!「絵日記・・・」器が大きい僕は抗議を取り下げました。うん、ちょっとやそっとのことで抗議するなんて男らしくないネッ。・・・あぁ、どこからか砕けていく音がする。おもに僕の心の中の尊厳の領域あたりから。

 僕と藤乃さんのやり取りを見ている中で、ようやく有希さんは笑ってくれた。代償は大きかったけど、女の子の笑顔とだったら構わないよねっ。

 悲しくなってきたけれど、頭を切り替えて気分を愉快なほうに向けていく。そういえば僕と藤乃さんばかり話してて有希さんはしゃべらないな。

 そちらに話を振ろうとしたとき、藤乃さんが手を合わせ驚いた表情で

 

「もうこんな時間若様は湯浴みの時間ですよ。有希はこの部屋の片づけを、私は若様についていきます」

「ありゃ、そうだね。お風呂入ってこなきゃいけないや」

「お話はまた明日いたしましょうか。構いませんよね、若様?」

「いいよー。有希さんもまた明日話そうね」

 

 ひゃいっ!と、裏返って返事をする彼女。驚かせてしまったのだろうかと訝しんでいると藤乃さんの視線。なんなんだろう?自分は一人っ子だけれど、姉が居たらこんな感じなんだろうか?

 そんなことを思っていると、彼女が返事以外の声を上げた。

 

「わ、私も、明日、よろしいんです、か?」

 

 お盆を胸に抱え、顔を真っ赤にしてそういう有希さん。なんでそんなに緊張してるのだろう?僕相手に緊張してたらここで働いていけないよ?

 有希さんのこれからを心配になりながらもその言葉に同意する。相手の緊張を解す様に自分なりに満面の笑みで答えたつもりなんだけど、余計に固くなってしまった。どうしたらいいんだろう?

 悩んでいるとき、藤乃さんの一声で僕は改めてお風呂へ促され、彼女は片付けに再起動した。助かった~。頼れるお姉さんだ、藤乃さん!

 浴室に移動しながら明日の楽しみができたことに喜んでいると、藤乃さんが優し気に

 

「有希はまだまだ至らないところがありますが、どうかこれからもよろしくお願いしますね」

 

 僕は笑顔で答え、意気揚々とお風呂に向かった。




 不定期更新だと思いますが、良ければこれからもお付き合いください。
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