すみません、短いですがどうぞ
光を感じて身体が目を覚ましていく。前は一切感じることのできなかった光が心地よく、普通の人ならまどろんでいて幸せの夢の世界から帰ってくるのはまだ先のことだろうけど、僕は毎朝覚醒して動き回れることのほうが幸せなのですぐに起きる。つまりは寝起きからトップギア、家族や使用人のほとんどがまだ寝ている今なら文字通り誰も僕を止めることはできないのだ!
若干、というには心の割合が大きい全能感に身を任せ、着替えたら隠しておいた靴を抱え顔も洗わずに窓から外に出る。この家は基本的に平屋だから危険はないし、玄関から出ようものなら数少ない起きている使用人に見つかり部屋に連れ戻されてしまう。それだけはごめんだ。それにカメラも何か所か家の中に設置されているためおちおち歩くのは馬鹿のすることだ。
僕は電磁光学系第二階位≪光波聴・タピス≫と≪光陰身・モフラ≫を静穏、数法系の一部を並行発動して隠密性を高めて発動する。これによって光学迷彩を纏って身を隠し、警備の人の動きを認識しながら隠密行動ができる。
魔杖刀無しでも咒式を発動できることは家族には言ってない。言ったら余計に鍛錬の量が増えてしまう。僕は単純に遊びたいだけなのに、遊ぶ時間が無くなってしまう。
いや、強くはなりたいし東北の蝦夷地方では紛争が起きてるこのご時世、自衛できるくらいの強さがないとやばいんだけどね。一応僕、いいところの坊ちゃんだし。本家筋のオキツグさんはこの島国出て大陸で翼将なんていう集団のトップなってるくらいだから、ある程度強くないと家の中でもなんかちょっと居づらくなりそうだし。オキツグさん以外にも父上なんかが世界的にも強い剣士だからその分恨みも買うわけでして・・・。土地柄家柄で僕はほかの同世代より死亡フラグが現実的な気がする。
暗い考えをいったん頭から追い出し、この家からの脱出に集中する。強くはなりたいが、今の僕には遊びが優先なのだ。
電磁加速系強化術式で移動力を上げ、素早く塀までたどり着きためらうことなく塀を飛び越える。そして着地。
ふ、決まった。
「決まっとらんわ糞餓鬼。さっさと家の中に戻れ」
「へっ!?」
背後に見慣れた剣士が現れた。飛んだ時空中で確認した時は誰も居なかったのに。流石は僕の護衛!ほめてつかわすっ。
心の中でそう思いながら驚きをかみ殺して逃走を開始。しかし即座に回り込まれた。顔を確認すると眉間には深い皺が刻まれていた。つまり機嫌がヤバくて僕の死亡フラグがマッハで建っていく。
「今までは見逃していたが今はそうもいかん。この山城でも最近暗殺、通り魔事件が増えているからな。貴様の獣狩りは暫く禁止だ」
わぁお、バレテーラ。弱い者いじめにならず、緊張感を持ちながら収穫でき、尚且つおなかも膨れる最近のマイブームだったのに。
しょんぼりしていると、頭上から淡々とした声がかかる。
「今の貴様では獣では役者不足にすぎる。低位の異貌のものどもくらいでなければ相手にならんだろう」
「いや、痛いのが嫌いだから待ち伏せて一撃な野生満載の動物が一番いいんですが・・・」
優男と言える容姿の男が鼻で笑う。ある程度以上に整った人の鼻で笑うは相手の心を深く傷つけるということをちゃんと覚えていたほうがいいと思う。主に僕の為に。
そんな僕の心境など関係なしに言葉を続ける従者。言いなが僕の逃走を防ぐために首根っこを掴んできた。信用ないなぁ、僕。
「駄目だ。いい加減そろそろ貴様にも真剣にやってもらわねば俺の評価にもかかわる」
「え、大和って評価とか教育係みたいな雇用契約?みたいなものあるの?」
「言いたいことななんとなく分かった。無い。ただ、俺が父上から怒られる」
外面だけは完璧な従者の子供っぽい面を見てクスリと笑う。いや、笑ってしまった。
「ふむ、俺はこの後このあたりの走り込みに行く。貴様のことは中の人間に連絡したからそちらに任せよう」
「あ、いってらっ・・・」
「黙れ舌噛む、ぞ」
大和はノーモーションで僕をいきなりぶん投げた。取り敢えず、いつか必ず大和には仕返ししてやろうと思う。
因みに落下予測地点には警備員さんが何人か先回りしており、僕は怪我なく優しく受け止められました。
ーーーーーーーーーー
廊下から餓鬼を見つめる。掌に濡れた感触、力をこめて握り過ぎたらしく血が出ていた。
あの餓鬼はおかしい。確かに特異体質で魔杖刃などなくても咒式を発動できる人間は存在するし、武を極められたオキツグ様などは同じことができるだろう。だが、あの歳で低位咒式とはいえ自ら改良して発動するのは異常だ。庭一面に重力系の感知咒式が恒常的に発動されていなかったら気付かなかっただろう。そして体術も異常だ。ろくに訓練・鍛錬もしていない人間が飛ぶ瞬間はもとより着地の瞬間まで羽毛のように軽やかに音もたてずに着地するのはおかしい。長く生きた野生動物じゃあるまいし、生きているだけで技術を得ていくなんて・・・。
「武に対する冒涜もいいところだろう・・・!」
こちらは生まれて間もなく訓練に励み、長命竜などとの死線をいくつも乗り越え、ようやく得た強さだ。ようやく意識せずともできるようになった、ある種の武の極地の一旦だ。それをこともあろうに自らの半分くらいの年齢の餓鬼が、鍛錬もせずに行えるなどとは・・・!
悔しさ、嫉妬、羨望。様々な感情が心に渦巻く。が、それでも仕えてる家の息子だ、全ての感情を飲み込み無心で仕える。ように心がける。が、流石にまだ心がささくれ立つ。
「いつかあの餓鬼を・・・!?」
「ほう、物騒な気配がするなぁ?若様に対する殺意など、してはいけないだろうによぉ?」
「何のことでございましょうか?昭信殿」
背後に振り返ると昭信と呼ばれた左に大小二振りの刀を差し、黒い着物を着た侍が痩せた男が立っていた。その男が纏う気配は抜き身の刃のようで、階梯としては同等の相手といえども、思わず警戒し、半歩右足を引き半身にして身構える。
昭信と呼ばれた男の口元が歪み、嘲る気配が更に大和をイラつかせる。こいつは兎に角切ることしか頭にないような戦狂いの男。そんな奴に謀反あり、そうとしか取れない己の気配を悟られるなどとは未熟以上に愚かなことだ。しかし、言葉にしたわけではないからどうにでもなると、大和は言葉を続ける。
「若様はそう遠くない未来、私たちを超えていくだろうお方。その時に手合わせを願いたいだけでございます」
本心を隠して言葉を紡ぐが、昭信と呼ばれた男は肩を震わせ、引き笑いを始めた。引き笑いと明らかに相手を馬鹿にする態度に大和の怒りは増してゆく。
「その引き笑い、無性にイラつきますね。いっそ若様の前にあなたと手合わせと願いましょうか」
「真面目だねぇ。ま、本音を隠しきれてないところはまだまだ若い証拠なんだろけどなぁ」
「私は本音しか言ってませんよ。では、一手参り・・・」
「まてまてまて、俺じゃなくおめぇ、がやりたいのは若様だろうがよぉ」
多少慌てたように両手を上げながら言うが、顔は相変わらずニタニタと笑ったままだ。
大和の堪忍袋が爆散し、刀を抜き放ち首を首と胴体の間に空間を開けてやろうと鋼が迫る。凶刃の目的地である首のすぐ手前で甲高い音とともに刃が停止する。止めていたのは男がいつの間にか抜いていた小太刀で受け止められていた。
ギギギ、と片手とはいえ咒式士の剛力で相手を押し切らんと迫る太刀と、それを防ぐ小太刀で悲鳴を上げていた。
「オイオイいいのかよ?御屋敷内は基本抜刀禁止だぜぇ…?」
「謀反の疑いありの相手ならば問題ないでしょう」
「言葉に表情が無くなってきたぞ・・・。実は俺より危険な奴だったのかねぇ?」
「なに馬鹿をしておるか!?ここをどこだと思っておる!」
声がした右側に片目だけ向ける。そこには腰が曲がりながらも杖を振り上げて抗議する爺がいた。髭の生え方が能などの翁(おきな)の面にそっくりな顔が、今はその激情からか天狗面のように真っ赤に染まっている。
「あんましいらついてっど、早死にすん・・・ぜ!」
昭信が言いながら大和の意識が僅かにぶれた瞬間に小太刀を強引に振り切り、相手を突き放した。
抜き身の剣をふるう到達者の若人共に恐れず、老人は近づいてくる。大和は刀を納刀し、老人に振り返ろうとし、横から昭信が走って逃げていくのを確認した。
心で舌打ちしつつ、この老人、豊爺(とよじい)こと豊衛門(とよえもん)に怒られた場合の拘束時間のことを考え、自分も決断した。
「豊爺殿、御免!」
「あ、これ!・・・近頃の若いもんは。なっとらん!」
後には苛立ちながら杖で廊下を叩く年寄りだけが残された。
健康大事。家族が移りやすい病気にかかったら気を付けてください。