Ghost~君の傍に   作:アノマロカリス

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CM明けです(笑)
それではPart2、お楽しみください。


第1話 減らず口のゴースト (Part2)

 薄暗い、仄かな黄昏がそこに存在していた。

 

 ゴーストの仮面――ペルソナパンテオンが日中であるにもかかわらず、微かに、しかし確かに黄昏のような光を発する。日の光をものともせずに暗闇を作りだす、黒色のパンテオンコートが風で微かに揺れる。太陽がまるで眠ってしまったかのように、戦士ゴーストの周囲は暗闇に包まれるが如くの静かな空気に包まれていた。

 そして俺と眼魔が視線を交わした次の瞬間、俺達の戦闘の火ぶたは切って落とされた。

 

「ふっ! ぅらぁっ! クソッ、がぁッ!」

 

「んっ、よっ、っと。そ~んなんじゃ、っと……勝負にならないよ?」

 

「いい気になるなぁ!」

 

 俺の眼前で腕を振りかぶり、勢いよく殴りかかってくる眼魔の拳を、俺は器用に手の甲を使って躱し続ける。もちろん敵を煽るための毒も忘れずに浴びせながら。殴る拳を全て受け流されることに躍起になった眼魔は、状況を打破すべくすぐさま攻撃の手を腕から脚に移行させる。俺に気付かれないよう、若干不意打ち気味に下から眼魔の脚が俺の服部に伸びてくる。しかし……。

 

「ふっ」

 

「っ!? 何っ!?」

 

「どう? そんな短い脚じゃ届かないでしょ?」

 

 迫る眼魔の右脚を跳んで躱したと同時に、俺の身体はまるで何かに吊り下げられているかのようにゆらゆらと浮遊を始めたのだ。ゴーストの全身各部を覆うインビジブルアーマーが、俺にこの摩訶不思議な空中浮遊を可能にさせている。

 

「はぁあっ!」

 

「んぐァッ!」

 

 俺は浮いた身体のまま眼魔に迫ると、すれ違いざまに空中から蹴りを入れる。空からの襲撃と言うまさかの展開に眼魔は成す術なく俺の脚を食らい、地を転がっていく。追撃を食らわせるべく、颯爽と地面に着地して蹴りの一つでも入れようと思ったが、殊の外眼魔はすぐに体制を翻すとすぐに俺から距離をとった。続けざまに俺も先程のお返しとばかりにラッシュを仕掛けていくが、なかなか決まってくれない。敵の腕を交わして一撃一撃は入るのだが、如何せん決定打には程遠いものばかりだった。やはり一筋縄ではいかない相手のようだ、眼魔というのは。

 

「ふんっ!」

 

「よっ……と、結構やるねぇ。そうだっ。さっき聞きそびれたけど、君って骨とかあるの?」

 

「しゃらくさいわぁ!」

 

「よっと……へっへへ~。無駄ってね」

 

 そしてこの時点でもう気付いているかもしれないが、俺達が街中でこれ程暴れまわっているというのに、周囲の人間たちには何も見えていない。何も感じないし、何も聞こえていない。彼らにとってみれば、ただ空間がそこにあるだけだ。これも人には見えない、ゴーストや眼魔の特異性故なのだが、今俺たちの横を歩いている人達も、まさか自分の傍で異形同士の激闘が繰り広げられているとは夢にも思わないだろう。

 

「ぐぬぬぅ……」

 

「そろそろこっちもいくよぉ、黒タイツ君?」

 

 俺も眼魔も、意識さえすれば人には触れられる。人の身体をすり抜けつつ、互いを攻撃をすることもできる。だが戦闘中に関係のない存在に意識を向けるのは命取りであるため、俺も眼魔も通行中の人間を利用するような余裕はなかった。

 もう一度言う、余裕がないのだ。俺も。

 

「せぇやァッ!」

 

「ぐぅォッ!?」

 

 敵の虚をついて蹴りをかまし、雑踏から離れた路地まで吹っ飛ばす。うん、ここでなら大丈夫だろう。"憑依"していない眼魔相手なら苦戦する程のものではない。

 身体に蓄積されたダメージで震えながら、地に手を付いて立ち上がろうとする眼魔を見据えながら、俺は変身した時同様ゴーストドライバーのデトネイトリガーに手をかける。

 

「ぐ……ぐぐ……くそぉ……っ」

 

「……終わりだ」

 

 地の底から聞こえてくるような、悪魔のような冷たい声を眼魔に向けて放った、その時であった。

 

 

 

「――ふんっ!」

 

「ぇ、ぅおわぁっ! 危ねっ!?」

 

 俺の上空から、もう一体眼魔が現れたのだ。ソイツはひらひらと侍のような衣装を身に纏い、右腕と一体化した巨大で鋭利な刃を俺に向かって振り下してきたのだ。しかし間一髪のところで、俺はその場から跳び抜けて眼魔の一閃を躱す。

 

「ふむ……やるな。お前」

 

「マジかい……二体目って」

 

 しかもこの眼魔は今しがた戦っていた『素体の眼魔』とは違う。その巨大な刃……いや、刀を見るに、恐らくコイツは日本刀を取り込むで生まれた『刀眼魔』というところか。

 実のところ、「眼魔」という存在自体俺もよく分かっていないことが多い。恐らくユルセンやあの"おっちゃん"なら何か知っているんだろうけど、全てを聞かされているわけではない。分かっていることと言えば、俺と同じく「眼魂(アイコン)」を集めていること。コイツのように物を取り込む事でその姿を変化させ、強化すること。そして、その為ならば人の命をも平気で奪うということだけだ。しかしそれだけ……それだけ分かっていれば十分だった。俺は、人間の命を守る。これ以上は……誰の命も落とさせないためにも!

 

「行け。お前では無理だ」

 

「チッ……覚えてろよ……」

 

 刀眼魔は眼魔(素体)に逃げるよう指示を送り、素体の方もそれに従おうとする。しかしそれをみすみす見逃す俺ではない。捨て台詞を吐きながら逃げる素体に狙いを定め、もう一度ドライバーのトリガーを手を当てる。

 

「あ、待てっ!」

 

「ふんっ!」

 

 しかし追い打ちをかけようとする俺の行動は刀眼魔の刃の一振りに阻止され、素体はついぞや逃げ(おお)せてしまった。

 

「っ、くっそ! 逃がしたっ!」

 

 先ほどまでの余裕も忘れ、つい大声で悪態をついてしまう。眼魔を……人間の世界に害を成す存在を逃がす。その無視できない非常事態に焦りを抱き、冷静ではなくなってしまう。

 

「よそ見をするなぁ!」

 

「っ!? ぅぁっ、くっ、そぉっ」

 

 そして冷静さを失った結果、俺は目の前の刀眼魔の攻撃を何度も食らいそうになっていた。幾太刀も振るわれる斬撃の応酬。身体を大きく揺らすことでギリギリで避け続けてはいるが、焦りで集中力が切れかけており、敵の刃がゴーストのボディ――インビジブルスーツを掠り始めていた。このままではいつか、あの太刀で一太刀にされてしまう。

 

 しかし今の俺には、大きな迷いが生じていた。

 

――逃げた眼魔を今すぐに追うべきか、今コイツに集中するのか。

 

 独り闇の中に取り残されてしまいそうになるほどの、そんな大きな選択の中で俺は(さいな)まれていた。

 

「ふんっ! ふんぬっ!」

 

「っ、ちぃ……ふっ、く、くそ……っ」

 

 逃げた敵か、それとも目の前のコイツか……一体どちらを優先すればいいのか、俺は判断を付けかねていた。どちらも倒さなければいけない相手。しかし片方のみに集中すれば、もう片方が大きな災害を引き起こすかもしれない。だからどっちも捨てられない。でもどっちも取ることが出来ない。

 

 そして、そんな悩みを抱いたまま眼魔と対峙することにはやはり無理があった。しかもコイツは先程の眼魔とは違う。攻撃を避け続ける行為にもやがて限界が訪れた。

 

「ふぅぅん!」

 

「っぅぐああああぁっ!!」

 

 刀眼魔の鋭い一撃が俺の胸元を斬り裂き、大きく吹っ飛ばされてしまう。無様に地面の転がりまわった後すぐに起き上がるが、抑えがたい激痛が全身を駆けまわっていた。

 

「ふむ……なかなかしぶといな」

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

 斬り飛ばされたおかげで何とか刀眼魔との距離を取ることができた。しかしこのままだと……迷いを抱いたままだと、またコイツに斬られてしまう。そしてそのままヤツのペースに持ってかれてしまう。そうなれば後は無い。戦いとは、常にペースを握った方が勝つものだからだ。だから何とかして、ヤツに一撃を入れる。そうすれば後は俺のターンなのだが……。

 しかし精神的に迷いの生じている今では、すぐに追い込まれてしまうのが目に見えていた。

 

「(どうする……どうすればいい……)」

 

――ここでこんな時間を費やしていいのか……?

 

――また後悔してしまうのか……?

 

――また……暗闇の中に逆戻りするのか……っ!

 

 迷いが、恐れが、俺を支配する。

 

 しかしその時であった。

 

 

 

『バカモノがぁ!』

 

 

 

「っ!?」

 

 ユルセンの叱咤が俺の耳に届いたのは。 

 

『逃げたやつの事なんか気にするな! あのザマじゃどうせ何もできやしないんだ。"コンドル"にでも追わせるから、お前は目の前のソイツに集中するんだよぉ!』

 

「……」

 

『そもそも今お前がやられたら、だぁ~れも、守れなくなるんだぞぉ? あの女も、確か……なんだっけかぁ……ええっと、う……うぅ……?』

 

「……海未?」

 

『そうそうそれだぁ。今お前がソイツに負けたら、あの海未とかいう女も助けられなくなるぞ。それでもいいのかぁ?』

 

 ユルセンにはっきりと言われ、俺は肩の力を抜き、大きく深呼吸する。

 

 心を落ち着かせて……彼女の顔を思い描いていた。

 

――そうだよな。簡単なことじゃんか。俺は……何も迷うことなんかなかったのに。

 

――そうだよな……海未。

 

 

 

 その時、俺はふと昔に起こった海未との会話を思い出していた。あれは中学卒業後の進路を決める際に、俺が伯父に引き取られて海外に移るかどうかを悩んでいた時だった。海外留学して自分の学びたいことを学ぶ……自分の本当にやりたいことをやる。それが俺の望みだったはずなのに、海未や他の幼馴染み達と別れるのが辛くて、このまま日本に残って自分の夢を諦めようかとさえ悩んでいた。苦悩が続く日々故に、俺の口からも普段の快活な口上は消え去ってしまっていた。しかしそんな時、彼女は――海未は言ってくれたのだ。

 

『もっといつも通りに軽く振る舞ったらどうですか?』

 

『軽くって、お前そう言うの好きじゃないだろ?』

 

『確かにそうですけど……ですが、今の情けない貴方の姿を見ているくらいなら、いつもの減らず口を叩いている貴方を見ていた方がよほどいいです』

 

 そう微笑みながら俺に語り掛ける海未。いつも俺の弁舌に苦言を漏らしていた彼女がそんな事を言いだすとは思いもしなかったので、つい呆気にとられて彼女の言葉に意識を取られてしまう。海未はなおも年下らしからぬ、人を包み込むような温かい笑みを崩すことなく、俺に言い聞かせてくれた。

 

『カケルは正直な人です。穂乃果に似て、自分のやりたいことに正直な、真っ直ぐな人。年上なのですからもう少ししっかりした発言を心掛けてほしいところですが』

 

『ってオイっ!』

 

『ふふふ。でも、そこがカケルらしくていいんですよ。饒舌で、自分に正直で、迷わない。私も穂乃果もことりも、そんな貴方が好きなんですから』

 

『海未……』

 

『迷ってるなんて……自分に嘘を付くだなんて、そんなのカケルらしくありませんよ? だから、行ってきてください。私は……待ってますから』

 

 目尻に涙を溜め込み、口元も震えていたが、その時の彼女の顔は……間違いなく笑顔であった。

 

 

 

 

「……そうだな。迷ってるなんて俺らしくない……か。ありがとう、海未」

 

 海未の声のおかげで自分を取り戻せた俺は、それを思い起こす契機をくれたユルセンにもまた礼を告げる。

 

「ありがとな、ユルセン」

 

『ふんっ、いいからさっさと片付けろってんだよなぁ全く』

 

「策は講じられたか??」

 

 俺が迷いから解放される同時に、それを律儀に待っていてくれた刀眼魔は余裕を見せるように訊ねてくる。どうやら自分を倒すための策を練っているとでも思ったのだろうが、生憎そんな暇は無い。それよりももっと大事な問題を片づけていたのだ。その余裕が刀眼魔の命取りになることだろう。

 しかし、余裕を見せつけられるというのはどうも癪に障るので、ここは一つ宣言しておこう。

 

「そんなもの必要ないね。でも、一つ決めたことがある」

 

「ほぉ、なんだそれは?」

 

「お前を倒すことだ」

 

「……」

 

 俺の宣言に刀眼魔から笑み(俺にはそう見えた)が消え、同時に身に纏っていた余裕の空気も消える。刀を構えて重心を下し、今まさに俺に挑もうとする武士の姿がそこにあった。

 余計な叙情を挟む必要はなし。覇気迫るその佇まいから、俺もこの次に訪れる戦闘に備えて息を整える。恐らく次の瞬間には、また次のラウンドが始まるのだろう

 

 しかしその前にだな……。

 

「では参る――」

 

「それよりさぁ、その刀って、ちゃんと大根とか切れんの? ウチの包丁、使い物にならなくなっちゃってさぁ。よかったら貸してくんない? それ」

 

「……何?」

 

 散々余裕を見せつけられた分、その報いを受けてもらおうじゃないか。そう言わんばかりに俺は刀眼魔を煽り始める。その結果、業を煮やした刀眼魔が俺に斬りかかってくるのも自然な流れであった。

 

「もう一度斬られんと分からんようだな……ふぅぬ!」

 

「ぃよっと」

 

 だが完全に自信と余裕を取り戻した俺の動きに、迷いはなかった。迫りくるいくつもの太刀筋を完全に読み切り、その全てをひらりと躱していく。

 

「ふんっ! ぐんぅぬ!」

 

「よっ、ほっ、はぁ、っとぉ。ははっ」

 

 それとは対照に攻撃が当たらないという焦りに駆られた刀眼魔の攻撃は、先程にもまして大振りになり、動きにもムラが目立ってきていた。心持ちというのは非常に大事なものなのだ。命を懸けた戦いの中においては特に。その最中に置いて、俺の煽りは特に有効なものとなるのもまた当然の道理であった。

 

 そして俺はとどめとなる言葉を眼魔に吐き捨てる。

 

「なーんだ、空を切る専門の刀だったのかぁ。ガッカリだよ」

 

「くっ……貴様ァ!!」

 

 完全に頭に血が上った刀眼魔は、傍から見れば明らかに無防備な姿をさらしながら、刀を振り上げて俺に向かって走り出してきた。対して俺は碌に迎え撃つ態度を見せる事なく、ただぼーっと突っ立っているだけである。普通に考えればおかしいと思えたはずの俺の行動も、怒りで我を見失っている刀眼魔は気に留めることもできなかった。

 そして刀眼魔が俺の眼前に迫り、右腕の刀で俺を両断しようとした、その時――

 

「来いっ!」

 

「ッグァァァア!?」

 

 腹部のゴーストドライバーの眼――グリントアイから勢いよく"何か"が飛び出してきて、その"何か"は刀眼魔の鳩尾にクリーンヒットし、眼魔は俺の前から大きく吹っ飛ばされた。そして俺はグリントアイから飛び出してきた"それ"を掴みとる。

 

「な……何が……っ?」

 

「剣だよ。君と同じ」

 

 俺の手に握られていたのは、一振りの巨大な大剣。鍔には眼のような模様が刻まれ、全体を金属質で覆われている大剣。

 これぞ未知金属体「クァンタムソリッド」で構成されたゴーストの固有武器――ガンガンセイバー。今しがた刀眼魔が大きく飛ばされたのも、この刃の先で手痛い突きを食らったからである。

 

「ぐ、小癪な真似を……」

 

「さ、これで対等ってところかね? それじゃあ――」

 

『いい顔付きになってきたねぇ~』

 

「――って、ユルセン?」

 

 ガンガンセイバーを構え、俺が反撃を開始しようとしたその時、ユルセンがゆらゆらと俺の目の前に降りてきた。俺に似て相変わらずの饒舌な奴だが、今回ばかりは少しだけ声のトーンが低く感じられた。

 

『ようやくまともに戦えるようになったなぁ。褒めてやるっ』

 

「別にお前に褒められても……」

 

『そこでだぁ、お前にその戦士の本当の名を教えてやるよぉ?』

 

「……本当の名?」

 

 話し半分でユルセンの言葉を聞き流していた俺だが、ユルセンの意味深な言葉に俺は今抱えている全ての感情を捨て去り、疑問と興味だけを抱きしめる形になっていた。"その戦士"……つまり今俺が変身しているこの姿の本当の名前、と言う事なのだろうか……? 何故だか分からないが、俺はその答えを心底欲してしまい、ユルセンの語る言葉に静かに耳を傾けていた。

 

『そうだ。死んですぐのお前には『ゴースト』としか聞かされていないだろうが、ソレはただのゴーストというわけじゃない。戦士には、ちゃんとした名前が存在してるのだ。そして、お前が変身しているソイツの真の名は……』

 

「真の名は……」

 

 

 

 

 

 

『仮面ライダーゴースト。それがお前の名前だよ』

 

 

 

 

 

 

 そしてユルセンは告げた。その戦士の名を……。

 

「仮面ライダー……ゴースト」

 

 ユルセンが告げた名を、俺は繰り返し呟く。しかし、その名前は自然と俺の胸の中に溶け込んでいくかのように、俺の魂と同化するかのように、俺の心に満ち足りていった。まるで元から俺と一体だったかのような満足感が身体を支配する。今までの薄暗い黄昏の光ではない、黄金にも近い眩い輝きが俺の心に満ちていくようだった。

 

――そうか……俺は……俺の名は……っ。

 

「おい!」

 

「ぬっ?」

 

 俺はガンガンセイバーを肩にかけ、今にもこちらへと走り出しそうな刀眼魔へと声を飛ばす。

 

「まだちゃんと名乗ってなかったっけな。遅ればせながら、傾聴願おうか」

 

「ふん、ならば言うがよい」

 

 ゆっくりと深呼吸し、高まる鼓動を抑えつつ、俺は……その名を名乗った。

 

 

 

「俺は、仮面ライダーゴースト……命、燃やすぜ!」

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 一瞬の静寂。そして……。

 

 

 

「ふぅぅぬぅぅ!」

 

「はぁぁあっ!」

 

 俺たちは互いに相手に向かって駆け出した。俺が振るうのは巨大な大剣、対する相手もガンガンセイバーに負けず劣らずのサイズを誇る刀を、いとも軽々と振るっていた。ガキン、ガキンッ、と刃同士がぶつかり合う甲高い音が耳に木霊す。

 しかしただぶつかり合うだけではない。その衝突一回一回には互いの微量な力加減により、受ける受け流すの駆け引きすら行われているのだ。俺が横一文字に一閃かまそうとすれば受け止められ、敵が縦に斬らんとすれば俺は刀を横に逸らして受け流す。そして偶に受けるのではなく躱すことも忘れてはいない。

 

「ふん!」

 

「っとぉ、せぇやぁっ!」

 

「グォッ!?」

 

 やがて刀眼魔の大きく出た一撃を剣で上手い事身体の横に受け流し、俺はそのまま身体を翻して後ろ蹴りで眼魔を蹴り飛ばした。突然蹴りに対応しきれない眼魔はその脚をもろに食らい、コンクリートの上を無様に転がっていく。

 

「くっ、ヌァァァァッ!!」

 

 猛々しい咆哮と共に、常人からすれば凄まじい速度で迫ってくる眼魔。しかし俺には……仮面ライダーゴーストに変身した俺には、その動きがはっきり見える。

 

「フンッ! ……っ!? 何!?」

 

 神速とも見紛えるような一閃が繰り出される瞬間、刀眼魔の視線から俺の姿が消える。しかし自分の薙ぎ払った刀に感触を感じた眼魔は、己の右手を見やる。

 

「やっほ」

 

「なっ……刀の上に……っ」

 

 そう、俺は刀眼魔が振り払った刀の上に立っていたのだ。とはいうものの、実際は半分浮いている状態であり、俺は刀の側面には足を付けているだけなのだが。しかしそれでも刀に立っているという状況に困惑を隠せない刀眼魔。その一瞬の隙を俺は見逃さない。

 

「ふんっ!」

 

「くっ、離せ!」

 

「やなこった」

 

 空中で浮いたまま、俺は足で刀眼魔の右腕の刀をがっしりと固定する。そして……。

 

「セェヤァァァァッ!」

 

「ぅグァアアアアァ!?」

 

 俺はガンガンセイバーを力一杯振るい、刀眼魔の巨大な刃を叩っ斬った。右腕と一体となった刀を、そして自慢の刀を破壊された刀眼魔の痛々しい悲鳴が響き渡る。だがここで敵に猶予は持たせはしない。もう二度と、奴にペースを渡してなるものか。

 

「ふんっ!」

 

「グォハッ!?」

 

 地上に降りてすぐさま回し蹴りをお見舞いし、地に臥す刀眼魔。しかし戦闘中のためいつまでも倒れているわけにはいかず、すぐさま立ち上がり俺の姿を探そうとする。

 

「っ!? ど、どこに行った!?」

 

 だが辺り一面を見渡しても刀眼魔は俺の姿を発見することはできなかった。

 

「ここだよ」

 

「っな!?」

 

 仕方なく声をかけてヤツに自分の位置を教えることにした。そして俺の居場所に目をやった刀眼魔は驚愕の声を零す。何故なら俺は……。

 

「か、壁に……立っているだとっ?」

 

 眼魔の言う通り、俺はビルの壁に足を付けて真っ直ぐ立っていたのだ。広大な青空に背を向けて、逆光を浴びながら悠々と地の眼魔を見下す俺。壁に立つ、とはこれまた奇妙な事かも知れないが、本当のところは先程の刀の上に立ったのと同じ原理で、実際は半分浮いているようなものだったりする。いやはや、ゴーストの力というものは俺も驚かされるばかりだ。

 

――だけど……もう次で決めさせてもらう。

 

「これで……」

 

 俺はゴーストドライバーに備え付けられたデトネイトリガーと呼ばれるレバーに手をかける。そしてトリガーを引いたその瞬間、ドライバーに込められた眼魂がその絵柄を変え、同時にドライバー内部の特殊反応炉が作動を始める。

 

 眼魂に蓄えられたエネルギーが展開、そして増幅し、溢れんばかりの大量のエネルギーがドライバーから溢れ出し、俺の背後で目玉を意匠とする巨大な魔法陣を生成する。

 

 広大な青空をバックに描かれた黄昏色の魔法陣は、まるで目の前の眼魔を見透かすような迫力を有しており、しかも上空から見降ろされている分その威圧は相当なものであろう。

 

「……終わりだ!」

 

 そして俺は、もう一度トリガーを構えて、一気にドライバーに押し込んだ。

 

『ダイカイガン! オレ! オメガドライブ!』

 

 その瞬間、背後の魔法陣が分解され、いくつもの光の筋となって俺の右脚へと収束していく。とてつもなく膨大なエネルギーが順次俺の足へと宿っていき、完全に全ての光を纏った俺の右足は黄昏に……いや、黄金に輝き、かつてないほどの煌めきを見せていた。

 

「ふんっ!」

 

「っ!?」

 

 そして俺は強く壁を蹴り、刀眼魔に向けて高密度のエネルギーを纏った右脚を勢いよく付きだした!

 

「ェエアァァァアーー!!」

 

「ッウグオァァァァァァッ!!」

 

 俺の跳び蹴りが刀眼魔の胸を貫いた瞬間、眼魔の身体から憑依元となる刀のゴーストが分離され、眼魔はゴースト共々爆風の中に姿を消した。

 

「ユルセン、さっき逃げたもう一体は?」

 

 刀眼魔を撃破したのもつかの間、俺は先程逃走を許してしまった眼魔の行方を訊ねる。一度は割り切ったものの、やはり眼魔を野放しにしておくのは不安だからだ。

 

『だ~か~ら~"コンドルデンワー"に追わせてるって言っただろぉ。しかもあの女とは反対方向に逃げてるし、おまけにボロボロだし、しばらくはまともに動けないよ思うよぉ~』

 

「そっか……」

 

『オヤスミ~』

 

 ゴーストドライバーを開いて眼魂を回収し、俺の変身が解除される。ひとまず戦闘が終わったことに安堵し、軽く一息つく。

 

「ユルセン……ありがとな。さっきは助かった」

 

『あ~んまり便利屋に思われても困るんだよなぁ。今回は特別だぞ~?』

 

「そうかい。じゃ、以後気を付けるよ」

 

 照れ隠しなのか、それとも本当にどうとも思っていないのか分からないユルセンの言葉に苦笑しながらも、助けられたことの感謝の気持ちだけは忘れないでいようと思った。

 

「それにしても……仮面ライダーゴースト……かぁ……」

 

 ユルセンから教わったその名を、俺はもう一度繰り返し唱える。これがこれからの俺の名だと、心に刻むように、何度も、何度も心の中でその名を反芻していた。

 

 とりあえずは終わった。

 

 一体は逃してしまったが、今は勝てたことを、そして彼女を守れたことを喜ぼう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そう自分の中で結論付けていた時だった。

 

『んんっ!? 誰だ!?』

 

「っ!? え!?」

 

 ユルセンが俺の背後に向けて声を上げ、俺も釣られて振り返る。まさかまだ眼魔がいたのかっ? そう思って身構えてしまったが、幸いにも違ったようだ。しかしそこにいたのは……。

 

「ぁ……ぇ、えぇっと……」

 

 恐れと困惑が混ざった目でこちらを観察している、一人の女性がそこにいた。恐らく俺と同じくらいの年齢で、端正だが柔らかい顔立ちを持ち、可愛らしいたれ目が特徴的で、そして豊かな胸を備えた正に聖母のような美女であった。少なくとも、海未を除けばここまで美しい同世代の女子は今まで見た事がないと言える程の美人だ。

 

 ただ呑気にそうも言ってられない。彼女が俺を見ていたことはそこまで問題ではない。現に今の俺は、人に見えるようになっているからだ。今問題なのは、ユルセン(・・・・)が呼びかけたという事。それは即ち、この子はユルセンの姿が見えるという事。

 

 そして、ゴーストと眼魔の戦いをその目で見たという事なのだ。

 

「君は……」

 

 更に問題点を提起するなら、俺はこの人を一度見た事がある。

 

 具体的にはニューヨークで。

 

 海未たちのライブを見た時。

 

 彼女達と共に、同じステージに上がっていた女の子。

 

「……見えたのか? さっきの……戦い……?」

 

「……うん」

 

 外れていてほしい。そう願った俺の願望虚しく、俺の質問に静かに頷く彼女。

 

 

 

 この人の名前は確か……東條(とうじょう)(のぞみ)さん……だったか。

 

 

 

 どうやら俺の幽霊生活(・・・・)二日目は、まだまだ終わりそうにないようだ。

 

 

 

※※※※

 

 

 

 とあるホテルの一室、その近代的な部屋の間取りには到底似合わない、東洋の宗教的な衣装を纏った一人の男が闊歩していた。その姿は宛ら『仙人』とでも呼ばれそうなほどの奇妙なものであった。

 

「まさか彼女と遭遇するとはな……」

 

 まるで先程の翔たちの行動の一部始終を見ていたように、全てを悟ったように一人語り始める男。

 

「これもまた、宿命というものかもしれないな……のぉ、翔希(しょうき)……」

 

 誰に向けて放ったかも分からないその言葉は、寂しく彼の口を離れると、やがて虚空へと消え去っていった。




1話というよりも、パイロット版的な扱いになった今回のお話。
過去の海未や謎の男の発言から、是非色々考察してみてくださいね。

そしてこのままパイロット版で終わるかは……みなさんの応援次第です。
感想・評価、お待ちしております。

ここまでお読みになって頂きありがとうございました。
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