Ghost~君の傍に   作:アノマロカリス

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お待たせしました。第3話です。
また、前回「Part3」と予告して申し訳ありません。
それに伴ってタイトルも少し変更しています。

それではどうぞ。


第3話 命は誰のために (Part1)

 明成との間にいくらかの信頼が築けたと感じられた午後の公園。二度の戦闘に二つの出会いと、あれだけ濃い時間を過ごしておきながら、未だ昼過ぎというのが俺自身信じられないくらいだ。あれからユルセンを説得し、しばらくの間明成に預けておいたニュートン眼魂だったが、もうずっと握ってる必要もなくなったのか、彼はゆっくりと立ちあがると俺に眼魂を返そうとした。

 

「お兄……翔さん。これ、ありが――」

 

 しかし彼が眼魂を差し出そうとした時だった。

 

「クエー! クエー!」

 

「――わっ!? な、何この……?」

 

「……鳥?」

 

 俺たちの間に緑と黒を基調とした首の長い鳥が割り込んできたのだ。しかし鳥と言うにはそれはあまりにも無機質で、しかも腹に見える模様は宛ら黒電話のダイヤルのようであった。

 しかし俺とユルセンにはもちろんコイツが何なのかは分かっている。

 

『おおっ、コンドルデンワー。帰ってきたかぁ』

 

「お前今まで何してたんだよ。アイツのこと見張ってたんじゃなかったのか?」

 

「か、翔君……この鳥って……?」

 

「ああ、コイツな。コンドルデンワーつって、電話にもなる……まあ……式神みたいなもの?」

 

 俺の手にとまったこのコンドルデンワーは通信機としての役割を持つガジェットである。今のようにコンドル型に変形する機能も持ち、それによって敵の追跡、監視などを行うことができる。即席で「式神」と希に説明してしまったが、あながち間違っていないだろう。

 

「しかしどうしたんだいきなり……あれ……?」

 

 そもそもコンドルデンワーは今まで、電気眼魔の監視を行っていたはずである。

 

 それがここに戻ってきた。それは即ち……。

 

「ねぇ、カケ――」

 

 希が俺に声をかけようとした瞬間、空が割れるような轟音が辺り一面に轟いた。

 

「きゃあああ!」

 

「うわぁっ!?」

 

「なっ、何だっ!?」

 

 あまりの衝撃で地面が揺れ、つい尻もちをついてしまう希と明成。一方俺とユルセンはその衝撃の発生源を探るべく、辺りを一望し始めた。

 そして先にそれを見つけたのはユルセンであった。

 

『オイッ! あのビル!』

 

「っ!? ま、まさかあのデカイのが……っ?」

 

 ユルセンが指差す方向に見えたのは、ビルの上から雷を所構わず放ち続けている巨大な物体の姿であった。戦艦のような身体に、いくつものパラボラアンテナを身につけ、そして六本の足が生えている何とも奇怪な異形が、身体中から多量の電気を発生させていたのだ。そして俺の予想が外れていなければアイツは恐らく……。

 

『ッ……イタナゴースト!』

 

「っ! やっぱりお前か、電気眼魔!」

 

 なんと先程撃退させたはずの電気眼魔が、原型を留めない姿になり果てて再三俺の元にやってきたのだ。そして巨大電気眼魔は俺の姿を見つけると、その昆虫のような六本の足を器用に使い、ビルの壁から壁へと伝って公園の俺の眼前に降り立ったのである。

 

「おっ前……本当にしつこいな……」

 

「ナントデモイエ……貴様ノアイコン……破壊スル」

 

「眼魂を壊すだと?」

 

「モトヨリキサマハ死ンデイル。ナラバ貴様ノ魂ヲ……コワセバイイ」

 

「マジかよ……」

 

 俺の持つオレゴースト眼魂は、俺自身の魂が込められた眼魂だ。もしこれを破壊されようものなら……どうなるのかは俺自身にも分からない。しかしヤツの言う通り、文字通り魂が壊される……つまり本当の意味で俺は死を迎えてしまうのだろう。

 

 

「ねぇ、翔さん……死んでるってどういうこと?」

 

 

 未だニュートン眼魂を握ったままの明成は、希に触れずとも眼魔の姿を見ることが出来た。しかしまさか俺が死んでいるという事実まで知られてしまうのは計算外だった。その様子を察してか、巨大電気眼魔はその声を愉快そうに高ぶらせて語り出した。

 

「知ラナイノカ? フフ……ソイツハナ、スデニ死ンデルンダヨ。ソイツハ……ヒトジャナイ。ゴーストダ」

 

「……(人じゃ……ない……)」

 

「ねぇ、ちょっと待ってよ。死んでるって――」

 

 俺が眼魔の言葉を受けてに一瞬だけ心が沈んだ時に、明成は俺の腕に触れようとした。しかし……。

 

「――えっ……?」

 

 彼の手が俺を腕を掴むことは無かった。俺を腕を掴もうとした明成の手は、スッと俺の腕を、身体をすり抜けていくだけであった。

 

「嘘……」

 

「ごめん……言ってなくて。俺さ、実はもう死んじゃってるんだ……」

 

「翔君……」

 

「シカモ……ヒトニ触レルコトモ……デキナイラシイナ」

 

 ガシャンガシャンと機械が揺れる音を立てながら尚も挑発するように俺を乏しめてくる眼魔。しかしその通りなのだ。今の俺は……生きている人間に触れることはできない。

 

「でもっ、じゃあなんでさっきは僕に触れたのっ? 神社で僕を庇って飛び込んだ時とか、ニュートンのコレをくれた時も」

 

 俺が人に触れない趣旨の事を説明すると、すぐそれに反論を返す明成。確かに電気眼魔の攻撃を躱す時やニュートン眼魂を彼に握らせた時、俺は彼に触る事ができた。しかしアレは……。

 

『だーかーらーぁ……お前に眼魂はあげてないっての! それとアレは偶々。その一瞬だけコイツがやる気になったり、眼魂を手にして英雄の魂を直に感じた偶々コイツが自信を持ってただけだ。本当のコイツはなぁ……すっご〜く弱虫なんだよ』

 

「……そうだな。『生きている人間に触れられない。』そういう恐怖があるから、余計に触れないんだ」

 

 ユルセンの言葉に否定をせず、更にそれ続くように説明を加える。要は俺の精神的な問題なのだ。

 

 ゴーストとなった俺でも、おっちゃんやユルセンが言うには人に触れることはできるらしい。しかしそれが出来ないというのは、俺が心の奥底でそれを恐れているからだ。

 人に触れてしまうのが怖いのではない。人に触れられないのが怖いのだ。何故ならそれは……。

 

「自分が死んでいるっていう事を思い知らされるのが嫌なんだ。だから弱気になって、結局人にも触れない」

 

 自分が受けた「死」を、これでもかと付きつけられるからだ。ユルセンも言ったが、眼魂を託す時に彼に触れることができたのは、そんな小さな事を考えずに、ただ英雄の偉大な魂に触れていたから……英雄のおかげで自信が生まれていただけに過ぎないのである。

 そして前者の電撃を躱した件は、本当に咄嗟に起こる発作のようなものだ。いつもがいつも、人に触れられるわけではない。触れたい時に触れられるのなら、俺は今こうして悩んでいたりしていないのだから。

 

「翔君……」

 

「クアッハッハッハ……オワライダナ……ヨワムシノゴーストカ……カッハッハッハ――」

 

 「死」という概念に悩まされている情けない俺に向かって、巨大電気眼魔は絶え間ない嘲笑を浴びせ続ける。こういう時、いつものように減らず口でも叩ければよかったのだが、如何せん敵の言っていることも尤もなので、正にぐうの音も出ないといったところだ。

 

「クフフフ」

 

「……ちっ」

 

 敵からの痛い言葉と、そして自分の心の弱さに辟易してしまっていた時だった。

 

 

「笑わないで!」

 

 

「――ヌ?」

 

「希……?」

 

 彼女独特のよく通る澄んだ声が、棘のあるものと変わって眼魔へと投げつけられる。自然と人を宥めてしまう柔和な表情も、今は怒りを隠さんばかりに目つきを鋭く尖らせていた。

 

「怖がることの何が可笑しいの!? 他人と違うことを気にするのがそんなに可笑しいことなの!? そんなの……そんなの絶対に違う!!」

 

 希が言い放つその想いは、嫌に心が篭っているように思えた。そう、彼女はまるで自分の事を話すかのように声を振り絞っていた。きっと気のせいではないだろう。彼女にもあったのだ。他人と違う事に悩んでいた時期が。

 

「翔君は何も可笑しくなんかない! 他人と違うことや怖がることに悩んで、それを何とかしたいと彼自身が願ってる! 彼は変わりたいと思ってる! そうだよね……翔君?」

 

「希……うん。俺も、このままで終わるつもりはない」

 

 今にも消えてしまいそうなほどの微かな彼女の笑みに、俺は強く頷く。そう、彼女の言う通り、俺だって誰かに触れることを諦めたわけじゃないし、この弱い精神を克服したいと、しようと思っている。単に生き返りたいからと言う理由だけではない。海未に言われた『自分に嘘を付かない俺』だと自信を持って言えるためにも、俺は心を強くあろうと……自分を信じようとしているのだ。

 俺の返答に自信と安心を得られたのか、希は再び強い眼差しを持ってして、眼魔へと叫んだ。

 

「人じゃない? ううん違う。翔君は立派な人間や。何かに悩んで、変わろうと頑張ってる人間! そんな変わりたいと願ってる人を……簡単に笑わないで!」

 

 俺たちから一歩前へ出て、強く主張する希。しかし同時に、なんと明成も彼女の横に並び立ったのだ。

 

「僕も……翔さんを笑われていい気はしないです」

 

「明成……」

 

「ごめんなさい翔さん。僕、翔さんが死んでいるなんて知らずに、あんないい加減な事言っちゃって……」

 

 いい加減な事と言うのは、生きたくても生きられなかった俺に対して、「死にたい」と願っていた己の発言を思い返してのことだろう。しかし俺はそれがいい加減だとは思っていない。アレは人が抱く感情としては普通の事だし、明成が悩みに悩んで出た言葉なのだから決して「いい加減な言葉」ではないだろう。

 

「ううん。俺も希と一緒だよ。あれだってお前が悩んで出た言葉だろ? 明成が悪いなんて全然思ってないよ」

 

「翔さん……」

 

 否定されなかったことを嬉しく感じているのか、こちらを明成の目は光が揺れているように見えた。しかし彼は再び希と共に眼魔を睨みつける。二人共、相手が人を遥かに超越する異形である事を忘れて、自分の意志を貫き通そうとしていた。

 しかし眼魔としてはこれほど面白くないこともないだろう。その巨体を痙攣させるがごとくプルプルと震わせ、怒りを隠し通せていないのが見て分かる。そして巨大電気眼魔は……。

 

「ソウカ……ナラ……サワッテミロ!!」

 

「っうあっ!!」

 

「翔くっ――ぇっ? きゃぁぁぁぁぁ!?」

 

「ぅわあぁぁぁっ!?」

 

「っ、しまった! 希!! 明成!!」

 

 いきなり電気眼魔から電撃が俺に向かって放たれ、俺の目の前の地面を大きく抉る。そして衝撃と土煙で俺が怯んだ隙に、巨大電気眼魔は希と明成を身体の側面のアンテナに器用に引っ掛けて攫っていってしまったのだ!

 

「助ケタイノナラ来イ! 助ケラレルナラナ! フハハハハハ!」

 

 不気味に低い高笑いと共に、ドンドンとその巨体を揺らしながら走り去っていく巨大電気眼魔。その様子をこのまま見過ごす訳にはいかない。

 俺は腹部に両手を当ててゴーストドライバーを出現させると、すぐさま眼魂のスイッチを入れてドライバーにセットする。

 

『バッチリミナー! バッチリミナー!』

 

 グリントアイから飛び出したオレゴーストは、今か今かとドライバーの待機音と共に踊りながら俺のドライバーの操作を待っていた。このゴーストもきっと俺と一心同体。ならば彼女達を助けたい思いは同じなはずだ。

 

――助けられるなら? 上等さ、助けてやる。絶対に!!

 

 

「変身!!」

 

 

『カイガン! オレ!』

 

『レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ!ゴースト!』

 

 

 トリガー引いて印を結び、覚悟の言葉(変身)を叫んでトリガーを押し込んだ瞬間、オレゴーストが憑依し俺は仮面ライダーゴーストへと変身した。

 

「ユルセン!」

 

『分かってるよぉ。マシンゴーストライカー!』

 

 ユルセンの一声と共に、俺たちの背後に巨大な目の紋章が浮かび上がり、そこから何かが飛び込んできた。それは一台の大型二輪であった。ゴーストのように前方に付けられた一本角や、目のように見えるヘッドライトや生き物のような印象を与えるシャープなボディが、それがただのバイクでは無いことを示しているようだ。

 これがマシンゴーストライカー。俺、仮面ライダーゴーストが乗りこなす、完全オーダーメイド製の超高性能バイクである。元が俺の自慢のバイクだなんて信じられないくらいだ……はぁ……。

 

「行くぞ!」

 

 マシンゴーストライカーに跨った俺は、すぐさま眼魔の後を追うべくエンジンを吹かせ、発進させた。

 

「はっ!」

 

 ベルトから取り出したガンガンセイバーをガンモードに変形させ、希と明成に当たらないように巨大な眼魔に弾丸を撃ちこむ。しかし弾丸が巨体に炸裂するもののまるで効いているようには感じられず、何食わぬ様子で電気眼魔は彼女達を連れたまま、ヤツは地面からビルの壁に飛び移った。

 

「っ、マジかよ……っ!?」

 

 巨大電気眼魔は壁から落ちることはなく、本物の虫のようにその足で壁に留まっていたのだ。しかしよく見ると眼魔の足から電磁波のようなものが流れており、ヤツはそれを吸引盤として壁にへばりつくことが出来るようだ。そしてそのまま壁を飛び跳ねつつ、ビルの上へと向かって上昇を続ける眼魔。俺はガンガンセイバーで弾丸を撃ち続けようとするが、眼魔から放たれる電撃に邪魔され、反撃するどころか近づくことすらままならない状況であった。

 

「うわっ、っとあっ……ぐっ」

 

 俺はビルの上から襲い掛かってくる電撃をバイクで必死に躱し続けていた。だがその隙にも眼魔はどんどんと遠ざかっていってしまう。しかしここで引くわけにはいかない。いまアイツに囚われているのは人間なのだ。これからの未来がまだ十分に輝いている、儚く尊い存在。そしてこんな俺を人として見てくれた、大切な人達なのだ。

 

「このまま……」

 

 ふれあった時間なんて関係ない。こんな短い時間の中でも、人は強く結ばれるものなのだ。少なくとも俺達はそうであった筈だ。

 だから絶対に諦めない。希の命も、明成の命も。

 

 このまま……絶対に……

 

「……諦めるか! 来いっ! ロビン・フッド!!」

 

 片手でゴーストライカーのハンドルを握ったままゴーストドライバーからオレ眼魂を取り出し、オレゴーストが解除されると、俺は懐から緑の眼魂を取り出してスイッチを入れた。『03』とナンバリングされたその眼魂を、俺は手早くゴーストドライバーにセットした。

 

『アーイ! バッチリミナー! バッチリミナー!』

 

 ゴーストドライバーから飛び出してきたのは、黒色のオレゴーストとも水色のニュートンゴーストとも違う、緑色のパーカーゴースト。肩から垂れるその装飾が、俺には弓のようにも見えた。

 そして俺はドライバーのトリガーを押し込んだ。

 

『カイガン! ロビン・フッド!』

 

『ハロー! アロー! 森で会おう!』

 

 俺が新たなパーカーを羽織ったと同時に、俺の仮面には弓矢を模った図柄が示される。更にガンモードのガンガンセイバーにコンドルデンワーが降り立ち、ガンガンセイバーは弓を模した新たな形態――アローモードへと変形する。

 

 これぞ多くの吟遊詩人によって語り継がれてきた、悪を許さぬ正義の矢を放つ弓の名手——義賊ロビン・フッドの魂。

 

 仮面ライダーゴースト ロビン魂

 

 その名の通り弓の扱い、狙撃に長けた姿であり、同時に俺が初めて己の魂以外で纏った魂でもある。アローモード化したガンガンセイバーを肩にかけ、俺はマシンゴーストライカーのエンジンを吹かして眼魔の後を追いかける。

 

「いた……よしっ」

 

 そして僅かにビルの上から覗かせるヤツの影を、俺は見逃さなかった。ハンドルから完全に手を放し、弓矢から発せられる光の弦を引き絞る。自立行動が可能なゴーストライカーに走行を任せたまま矢の切っ先を敵に向ける様は、宛ら流鏑馬のようにも見えた事だろう。

 遠くまで離れたと思っている眼魔はまさか当てられるとは思ってもいないだろう。人質持ちなら尚更だ。しかし俺には出来る。このロビン魂の力のおかげだけではない。弓の扱いには……ずっと共に過ごしてきた彼女のように長けているからだ。ここで外せば彼女に……海未に笑われてしまう。

 

 だから絶対に……外さない!

 

「ふっ!」

 

 そして俺はその一矢を放った。眩しく緑色に輝く閃光が真っ直ぐと眼魔に向かっていく。いや、俺以外は向かっていく様を目視することなどできなかった。光の如く刹那を斬り裂いて飛んでいく矢に、眼魔は反応することはできなかった。そして……。

 

「ッグゥアァァァァァ!?」

 

 ロビン・フッドの正義の矢が、電気眼魔の足を貫いた。予想だにしない長距離間の強襲に反応できなかった眼魔は呆気なくバランスを崩してしまう。

 

「うわあぁっ!?」

 

「明成君!!」

 

 大きく眼魔が揺れた事で、明成がビルの上から投げ出されてしまう。だがそんな事は承知の上だ。俺は全速力でマシンゴーストライカーを走らせる。

 

『オイッ、大丈夫なのかぁ? まだ触れられないんじゃなかったかお前?』

 

 横からユルセンの野次が飛んでくる。先程のやり取りを見ていれば当然の反応だろう。気持ちの問題から人に触れることが出来ない俺に、誰かを助けることができるのか、守る事ができるのか。彼はそれを問うているのだろう。それは俺自身も先程まで抱いていた疑問であった。

 しかし今はそんな気持ちは一切持ち合わせていない。自分の死を押し付けられたくない? 触れないのが怖い? ふざけんな。そんなもの……そんなものは……っ。

 

「そんなもんより、誰かを守れない方がよっぽど怖いさ! はっ!」

 

 ユルセンにそう吐き捨てて、俺はバイクのサドルを蹴って落ちてくる明成目がけて跳躍する。

 

「うわああああああああああ!!」

 

「明成ぃ!」

 

 ぐんぐんと近づいてくる彼との距離。その手を掴むまであと10メートル、8、5……もう少し……っ。

 

 

――ヨワムシノゴーストカ。

 

 

「っ」

 

 その手を掴む寸前で脳内から息を吹き返す眼魔の嘲笑。その一瞬だけ、手先がぶれたような感覚に陥ってしまう。しかしその言葉以上に眩しい、希望の色に満ちた声もまた俺の心に蘇ってきた。

 

 

――翔さんを笑われていい気はしないです。

 

――彼は変わりたいと思ってる!

 

 

 眼魔に負けじと声を張る希と明成。俺が死んでいると知っていてなお、奇異の目を向けず変わり向かい入れてくれた彼女たちが、俺の希望になっていた。

 

 

――翔君は立派な人間よ!

 

 

 俺を人間と言ってくれた希の言葉を信じよう。

 

 俺の言葉に耳を傾けてくれた明成を信じよう。

 

 だから……。

 

 

「(明成……俺を信じてくれ……俺は……)」

 

 

――だから俺は……!

 

 

「俺は……俺を信じる!!」

 

 

 

 

ガシッ

 

 

 

 

 俺の胸に衝撃と温もりが落ちてきた。

 

 俺の胸の中には、確かな命の躍動が顕在していた。

 

 抱きかかえられた彼は一瞬何が起こったか把握していなかったが、すぐに俺に抱きかかえられていることを把握し、目を丸くする。

 

「か、翔さん……」

 

「よっ、元気か?」

 

「元気って……わっ!?」

 

「ほい、着地~」

 

 明成を抱えながら丁寧に地に着地し、未だふらふらともたついている彼を立たせる。

 

「怖い思いさせちゃったね。よく頑張ったよ」

 

「ううん。信じてたから……翔さんを」

 

「……ふふ、ありがとう」

 

 仮面の下でにやけてしまうのを押さえられず、つい彼の頭を撫でてしまう。でも、今度はもう透き通る事はない。しっかりと彼の温もりが俺の手の内に感じられた。

 

「じゃあさ、もうちょっと待ってて。今からもう一人、素敵な女性も招待してくるからさ」

 

「うん、頑張って」

 

「ほいさっ」

 

 軽い調子で彼に応えた俺は彼に踵を返すと、希を助けるために再びマシンゴーストライカーに跨り、眼魔を追い始めた。

 

「ふっ!」

 

「ッ、ヌゥ!」

 

 再び矢を放って電気眼魔から希を救い出そうとするも、一度こちらに注意を向けた眼魔は遮蔽物に隠れながらビルとビルの間を跳び回り始め、俺を翻弄しようとしていた。しかし、英雄ロビン・フッドを舐めてもらっては困る。たとえ遮蔽物があろうとも、たとえどんなに動き回ろうとも、今の俺の前では無意味だ。

 ロビン魂のフードに備わっている羽飾り――クレアボヤンスフェザーから発する波動が俺の洞察力を普段の数倍にも高め、この弓矢と合わせて敵の急所をピンポイントで撃ち抜くことができる。今も、隠れて跳び跳ねている眼魔の動きが手にとるように分かるのだ。

 しかし、俺が今しなければいけないのは眼魔の撃破ではなく希の救出。必殺技による爆発に彼女を巻き込めない。だから先ほどと同じように、動き回る眼魔の足……いや、希を引っ掛けているアンテナに照準を合わせる。跳び跳ね回る眼魔の動きを正確にキャッチし、その動きを予測、矢の発射速度を兼ねた計算式が俺の脳内で自然に組み立てられていく。

 そして、眼魔が跳んで別のビルに着地しようとした瞬間――

 

「はっ!」

 

「ヌァァァ!?」

 

「えっ!? ウチも!? ってきゃあああああああ!!」

 

 正義の矢が再び眼魔を射抜いた。身体のアンテナを破壊し、ビルの上から落下していく希。先ほど明成が目の前で落ちていった手前、同じ目に遭わせるのは少々可哀想だが我慢してくれ。その明成を助けた時と同じように、俺はサドルを蹴って彼女目がけて跳躍した。既に地上から40mを超え、ぐんぐんと近づいていく彼女との距離。だけど、もう迷うことはない。

 

――俺は……人間だから……!

 

「よっ、と。ナイスキャッチ俺」

 

「きゃ……こらっ、女の子はもっと丁寧に扱わんといかんよ」

 

「ははっ、でも『空から女の子』ってシチュは多分これっきりだよ」

 

「ウチもそう思いたいかな」

 

 希を抱きかかえて未だ空中にいるというのにこの余裕だ。ある意味俺たちは似た者同士なのかもしれない。ちなみに落下速度が遅い理由も、ゴーストのアーマーインビジブルによる空中浮遊能力を使っているからだ。そうでもしないと衝撃で生身の人間の明成や希がペシャンコになってしまうからな。

 

 しかし、その悠長な姿勢が仇となってしまった。

 

「グググ……オノレ……ハァァァァァ!!」

 

 俺の背後……正確にはビルの屋上で俺達を憎らし気に見下ろしていた眼魔が、俺たちに向けて電撃を放ってきたのだ。

 

「!? 翔君!」

 

「なっ!?」

 

「二人マトメテ死ネェェェ!!」

 

 背後から迫りくる特大の電撃波。しかし今ここで希を庇ったところで、この電撃の嵐は俺だけでなく希まで届いてしまうだろう。この電撃も今から空中を浮遊して逃げきれるような速度ではない。ならば希をこの電撃の範囲まで投げ飛ばすか? 無茶だ。そんな事をすれば希が無事では済まない。

 

「(くそっ! どうする)」

 

 こうしている間にも電撃が俺たちの背後から迫ってくる。まわりの風景がスローモーションになるほどの時間で思考を巡らすも、焦りが俺の身体を支配していた。もしかするとこのパーカーが絶縁体になって希まで届かないかもしれない……いや、そんな楽観的な考えはなしだ。最悪予想が外れてたら希が死んでしまう。しかしもう他にそれしか思いつかなかった。

 

「希っ!」

 

「ぇ!?」

 

 俺は希に覆いかぶさるように抱きかかえ、電撃の雨から彼女を守ろうとした。この身体が絶縁体となって、彼女まで届かないことを祈りながら。

 

「フフハハハ! 無駄ダ無駄ダァ!!」

 

 そんな俺の行動を笑い飛ばす眼魔の声が木霊すも、俺はただ必死になって希を守ろうとしていた。

 

「死ネェ!!」

 

「っ!」

 

「(死なせて……堪るか!)」

 

 

 そして――

 

 

 

 

 激しい轟音と共に爆発が起こり、火花が辺りに飛び散った。




Part2に続きます。
次回、電気眼魔篇完結。

ご期待ください。
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