夢うらら   作:さくい

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9話

 四魂の欠片を探して旅をしてる私達は、お昼時になってご飯を食べようかという事でお昼ご飯中。

 

 近くに川も森もない死臭漂う戦場の跡地で食べるご飯は、普段食べる時とまた違った味わいを感じる。具体的に言うなら鼻が曲がりそうで何も味を感じないけど、空気が口と鼻の中に入る事で焼け焦げた風と諸々の匂いが味覚と嗅覚を蹂躙してきて泣きそう。

 

 

「むぐむぐむしゃむしゃ、ずずずー」

 

「この忍者食美味しいわね。生まれて初めてこんなに美味しいの食べたわ」

 

「うむ、かごめの国はこんなに美味な物を作っておるのか。いやはや感心感心」

 

「……うん、美味しそうに食べてくれるのは嬉しいんだけどさ……もうちょっと、場所を選んでくれたら嬉しかったなぁって……」

 

 

 ほんとに、何でわざわざこんな場所でお昼ご飯食べなくちゃいけないんだろ。それもこれも全部……あ、私の所為だ……。

 

 昨日寝る前に三人にカップラーメンの薀蓄とどれだけ美味しいかっていうのを調子に乗って話しまくってたら、三人共見事に興味持ってくれたんだよね。

 

 

 それで、朝方歩いてる最中に珍しく子供っぽさを発揮した犬夜叉が私の背負ってる鞄の中をゴソゴソと漁るのを「お昼ご飯にちゃんと食べるから、ね?」って約束して何とか抑える事に成功。

 

 そして太陽が真上に来たと同時に犬夜叉からカップラーメンの催促、更に結羅と冥加爺ちゃんも加勢して仕方なくその場で食べる事に。

 

 その場っていうのがまさかの戦場跡っていう……飲料水を持って来てなかったら川に着くまで待ってもらう事が出来たのになぁ。なんでこんな時に限って水をしっかり持ってるんだろ……。まあでも、こうやって美味しそうに食べてくれてるのを見るとどうでもよくなって来るから不思議。

 

 

 三人が食べてるのを見ながら私は十五センチ位の長さがあるカルパスを齧る。正直、こんな場所で食欲が湧かないんだよね。でも、食べなきゃお腹減るし……って言う事でおやつにと持って来たカルパスを選択。

 

 この塩辛いのが癖になるんだよなぁ、でも死臭のせいで吐きそうなんだよなぁって辟易しながらハミハミ齧ってると犬夜叉の咀嚼音が止んでるのに気付いた。どうしたんだろう、なんて思って見てみると犬夜叉がジーッと私を見てる。正確にはカルパスを。

 

 

「どうしたの?」

 

「それ、うめぇのか?」

 

「まあ、美味しいけど……味濃いから苦手な人は苦手かも」

 

「へぇ」

 

 

 ……おおう、美味しいって言った瞬間に犬夜叉の視線が強まった。食べたいのかな?かな?なんて思いながら鞄から新しいカルパスを出して三人に配る。冥加爺ちゃんはサイズがあれだから私のを少し千切って渡した。

 

 

「……んっ、塩っ辛ぇなこれ……」

 

「まあ、保存食みたいな物だからねぇ」

 

「ふーん、これ、まだあるのか?」

 

「あるけど、一日一本ね。あんまり食べたら塩分の取り過ぎで身体おかしくなるから」

 

「ちぇ」

 

 

 塩辛いって文句言った癖に以外とハマった感じ?なんか餌を取り上げられた犬のような顔してる。最初は大きな口で食べてたのに、一日一本って言った瞬間少しずつ食べ始めたし……気に入ったよね絶対。

 

 ちなみに、結羅は食べてる最中に舌が痺れたとのことでダウン。冥加爺ちゃんは犬夜叉と同じで気に入ったみたい。この臭みと塩っ辛さが癖になりますなぁなんて言ってるや。

 

 にしても冥加爺ちゃん蚤なのに色々食べれるんだね、妖怪だからかな?それとも普通の蚤も色々食べるのかな。何て事を考えてたら空が急に暗くなり始めた。

 

 

「一雨来るのかな?」

 

「いや、違ぇだろ。妖怪の仕業だ」

 

 

 私の言葉を即座に切り捨てて鉄砕牙の柄に手を掛ける犬夜叉、手を掛ける時にカップラーメンの亡骸をそこら辺に放り捨てたのを見てふと思った。

 

 このまま持って帰らなかったら……つまりずっとここにあるってことで、平成の時代になってこれが発掘されたらどうなるんだろ?タイムトラベラーは実在した!とか、戦国時代にはカップラーメンを作る技術があった!?とかになるのかな……ちょっと地面に埋めて置いとこ。

 

 私がこれを埋める事で未来で語られるだろうタイムトラベラー説が立証されるのかもっていう期待を込めてこそこそとカップラーメンの亡骸を地面に埋めてると、冥加爺ちゃん曰くの狐火が空に渦巻き始めてそれと同時に声が辺りに響いた。

 

 四魂の玉を持っているなぁ〜、なんて言ってるのを聞いて怖がらせようとしてるのかな?って思ったけど、声質の所為で全然怖くないっていう。幼い男の子が怖い話をする時に無理して声を低くしてる感じ?寧ろ微笑ましさが勝つ。

 

 そう思ってたら狐火が膨らんで軽く爆発した。そして、子供の落書きみたいな丸い大きな物体が出てきた。身体は丸く大きくてピンク色、目は適当に描いた感じで手足も同じく……ってあれ、これって七宝ちゃん?七宝ちゃんなの!?うわー来た来た!七宝ちゃんだよ七宝ちゃん!

 

 うわーどうしよどうしよ!?まだ心の準備出来てないよ!?会うのもう少し先だって思ってたしまさかこんな所で会うなんて予想外だよ!?

 

 七宝ちゃんの登場に一人でキャーキャー言ってたら、ピンク色が犬夜叉の頭をカプリ。犬夜叉が頬に一筋汗を流してどう対応しようか悩んで、おでこをポリポリ掻いた後にビンタ一発。甲高い声を上げて風船から空気が抜けるように飛んで行った。

 

 可愛いー!あの声の高さ癖になるよ!もっとその声聞かせて!何て事は口が裂けても言えないけど、せめて心の中で言わせて!大丈夫絶対口にしないから!心の中で叫んでるだけだから!!

 

 

「これかごめ!何頭を振っとるんじゃ!いくら小妖怪と言えども妖怪は妖怪、もっと警戒せんか!」

 

「妖怪の冥加爺ちゃんがそれ言う?それに、頼れる仲間達がいるし大丈夫だよ?」

 

「それとこれとは別の話じゃ!確かに見た目は幼く妖力も弱いが人間よりは強い力を持っとるんじゃぞ!警戒してし過ぎないと言う事はない!」

 

「うぇ〜い」

 

「もっとシャキッと返事せんか若い娘っ子が!十六夜様はもっとお淑やかで清廉だったぞ!」

 

「……何か、冥加爺ちゃんいつもと違うなぁ。もしかしてお酒かなんか飲んだ?」

 

「ギクッ!?……べ、別に飲んどらんぞ?かごめの国の美味な酒なぞ一滴も飲んどらんぞ?」

 

 

 あ、これ飲んだな。私が偶の晩酌に飲もうと思って持ってきた大吟醸飲んだな。あれ持ってくるの大変だったんだよ?家でお酒を飲もうとする度にお姉ちゃんにお酒は二十歳からじゃないと駄目だって言われて、毎回顎クイされて心臓ドキドキさせられて止められるんだから現代じゃ飲めないんだよ?

 

 やっとお姉ちゃんの目を盗んで持ってくることが出来たのにぃ、まさか先に飲まれるだなんて……ショックだなぁ……。

 

 

「……かごめ?この前桔梗にかごめが酒を飲まないように見張ってくれって頼まれたんだけど……まさか飲もうとしたり、もう飲んだりしてないよね?」

 

「……や、やだなぁ〜この品行方正で美少女なかごめちゃんがそんな事するわけないじゃん!」

 

「そう、それじゃあこれはいらないよね?」

 

 

 なんとも世にも恐ろしい事を言う結羅、そんな結羅の手には私がお姉ちゃんの目を必死に掻い潜って持ってきた大吟醸が……!

 

 ……うっ、くぅ〜……!お姉ちゃんは私の事は何でもお見通しなんだね。まさかお酒を持ってきてるのを見越して結羅に監視を頼むなんて……。

 

 でも、私はお姉ちゃんの上を行く!こんな事もあろうかと子供のビールを持ってきてるのさ!ちょっと苦味のある甘い炭酸ジュース(草太の感想)!これをビールだと思って飲めば、私はお酒を飲んでる事になるんだよ!私の中では!

 

 

 と言う事で私と結羅と冥加爺ちゃんに紙コップに入れた子供のビールを渡して乾杯。……あれ、思ってたのよりかなり違う。って言うか不自然な甘さがあって何か独特な味になってる。ぶっちゃけ不味い。

 

 うーわー草太に騙されたー。なんて思いながら二人を見ると二人共目を白黒させながら口に手を当ててた。うん、不味いよね。甘味に慣れ親しんでる現代人の私ですらキツイんだもん。甘味の少ないこの時代の二人はかなりの衝撃だと思う。

 

 で、案の定二人はコップを地面に置いて俯いた。

 

 大丈夫か聞いても首を小刻みにふるふる振るだけで、ちゃんとした返答はなし。でもその反応を見ればわかる。吐きそうな程不味いんだよね!

 

 私も此処の死臭と子供のビールが混ざり合って酷い事になってる。吐きそう。……吐いていい?吐いちゃうよ?本気だよ?本当だからね?

 

 ……よし、吐くよ?ビニール袋を用意してちゃんとするから許してね?

 

 ……うん、もう我慢の限界。急いでビニール袋を口の下に持って行こうとした、ら……何かに襟元を掴まれてバサーっと私は空を舞った。そしてそれと同時に空にはアーチが掛かった。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

「……死ぬかと思った。ていうか死んだ……」

 

「その……すまん……」

 

「ううん、気にしないで」

 

 

 私とその他が空を舞って数分後、私と狐の尻尾を持った小ちゃい男の子は水辺で黄昏れてた。いや、黄昏れてるのは私だけで男の子は物凄い気まずそうな顔で私に謝ってくれてる。

 

 いやはや、まさか吐こうとした瞬間に空を舞うだなんて……想像すら出来なかったよ。しかも女の子的に死んじゃったし、皆見なかった事にしてくれないかな?無理かな?

 

 

「そういえば自己紹介してなかったね。私はかごめっていうの。よろしくね」

 

「オラは狐妖怪の七宝じゃ。かごめよ、四魂の玉の欠片を持っとるなら寄越してもらおうか」

 

 

 自己紹介した次の瞬間に呼び捨てでの脅迫。子供って怖いもの知らずだよねぇ。そんな私もまだまだ子供の年齢だけどさ。

 

 取り敢えず四魂の欠片を渡す気は更々ないし、仮に渡したとしても直ぐに別の妖怪に奪われそうな気がする。

 

 

「渡しても良いけど、七宝ちゃんが持ってても直ぐに別の妖怪に奪われるんじゃないかな?例えば蛾の妖怪だったり色んな妖怪の集合体だったり雷獣とかだったりに」

 

「な!?雷獣兄弟を知っとるのか!?頼む!オラに四魂の玉の欠片を譲ってくれ!この通りじゃ!!」

 

 

 うわぁい、ちっちゃな子供に土下座されてるや。何か形容し難い罪悪感が押し掛かってきて辛いんだけどどうしよう。渡した方がいいの?でもなぁ、渡しちゃ駄目だよねぇ。

 

 向かい合う形でうむむと唸る女の子と、何回もこの通りじゃっ!って言って土下座する小さな男の子。傍から見たら絶対シュールな光景だよね。

 

 うん、本当に罪悪感が酷い。

 

 しかも何でそんなに四魂の欠片が欲しいのか聞いたら、お父さんの仇を討ちたいからっていう重たい返答が返ってきたし。

 

 

 ……そうだ!

 

 

「私が七宝ちゃんのお父さんの仇を討つよ!七宝ちゃんはお父さんの仇を倒せて、私は四魂の欠片を渡さなくて済む!正にwin-winの関係!」

 

「……ウィ、ウィ……?いや、そんなの駄目じゃ!オラの手でおっとうの仇を取らないと意味がないんじゃ!」

 

 

 ううむ、流石男の子。その意思は固いようで……。ホントにどうしよ、困ったなぁ。

 

 

「何か煩いと思ったらオメェ、あの狐のガキか?お前の父ちゃんはちゃんと俺の腹巻になってるぜ」

 

 

 ……ん?何か知らない声が聞こえてきたんだけど、聞き捨てならない言葉と共に。

 

 っていうか今思い出した!確か七宝ちゃんの初登場の回に雷を使う妖怪の兄弟出てなかったっけ!?うわ、やば!雷相手とか今の私には荷が重過ぎるよ!光の速さに勝てっこないじゃん!お爺ちゃんとお姉ちゃんなら余裕だろうけど!

 

 そう考えながら声が聞こえてきた方に慌てて首を向けると其処には、白い化け物がいた。しかもハゲ。

 

 いや、よく見ると頭頂部に三本だけ頼りなさ気に風に煽られてる。

 

 

「お前はっ……!おっとうの仇!!」

 

 

 そう叫んで七宝ちゃんがハゲの化け物に突貫。だけど、白い化け物のビンタ一発で私の少し後ろに不時着。

 

 で、其処で私の存在に気づいたのか私を見つめ出した。顔と胸と太腿にやらしい視線を感じる。ていうかニヤってしてて気持ち悪い。

 

 確かに私は自他共に認める美少女だって自負してるけど、だからと言ってこんな視線が欲しいかって聞かれたら断固として拒否する。

 

 そう、だからーー

 

 

「滅してやるこの気色悪いハゲの化け物ー!!」

 

 

 叫ぶと同時に飛永刃を乱れ打つ。ズパズパズパァッていう効果音が付くような勢いで化け物の体を切り裂き、そして頭頂部にある二本の髪の毛も切断。これでお前の頭は死んだも同然!

 

 これだけ傷付けられれば勝ったでしょ!さっすが私!さあ私の勇姿を見よっ、そう思いながら後ろを向いて七宝ちゃんに話し掛ける。

 

 

「よし!これで七宝ちゃんの仇の一人をやっつけたね!この調子でもう一人も倒しちゃお!!」

 

 

 って明るく言った私とは正反対な挙動をする七宝ちゃん。具体的に言えば私の後ろに視線を向けて怯えてる。

 

 ……まさか。

 

 

 そう思った瞬間に私の真横を眩い光が通過。その衝撃に飛ばされた私は、地面に転がってる石に頭をぶつけて気を失った。うっわ、最悪。

 

 

 


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