空は青く、太陽はジリジリと熱を放っている。
水の心地よさが安心感を喚起し、仰向けに浮かんでみる。
なんとか潜水と泳ぎを教えてもらい、オリョール海に辿り着いた。
重油とかは妖精さんが不思議技術で転送してた。
私は重油を見つけて妖精さんに教えるだけでいい。簡単な仕事だ。
これくらい楽な仕事なら何回でもやれるかな。
魚雷を二本、左右に浮かべて重油を運ぶ妖精さんを眺めながらそんなことを考える。
「ん……アレは……」
そうしてまったりして過ごしていたら、グロテスクな巨大魚と、頭が二つあるように見える不完全な人形が見えた。
『あれは敵デス! 駆逐と軽巡! 潜水艦の天敵デス』
「……へぇ……」
ここで私は異常に気づく。
彼らはボヤけていない。
しかし、妖精さんや提督、艦娘はボヤけて見える。人間も同様だ。看守とか。
「はっきり見えたら敵なのね。イク、学んだの」
言葉にすればなるほど、これほど納得がいく理屈はなかった。
敵は潰さないとならない。
しかし、敵をはっきり見えなくてはしっかり戦うことは出来ない。
「んじゃあ、開幕魚雷——発射なの!」
肩を回すようにして腕を回す。
後ろから前に。イメージは魚雷を投げつける感じ。
とても静かに魚雷が放たれる。
大日本帝国海軍の魚雷は気泡を排出しないため、海底近くから放たれた魚雷に二隻が気付くことはない。
幸運なことに、どうやら彼らは私の存在を嗅ぎつけたようで、まっすぐに私に接近している。
——そして、着弾。
激しい水しぶきを上げてまず沈没したのは駆逐艦だった。
私をまっすぐ見つめ、しかしゆっくりと沈んでいく姿勢に怖気が走る。
次に軽巡。こちらは下半身が完全に吹き飛んだのか、上半身だけの登場だ。
その頭二つはすでに意思を示すことはなく、生前最期に浮かべたのであろう驚愕の表情を貼り付けている。
『グッ! さっすが海のスナイパーデス!』
「ん、ありがとうなの」
さて、今日はそろそろ帰ろうか。
お腹も空いたし。
————————
#月/日。
鎮守府に帰投した私を待っていたのは【おかえり】でも【お疲れ様】でもなく、私の腹を満たせるだけの燃料と消費した魚雷、そして再度のオリョクル——オリョール海で重油採取クルージングの略——だった。
聞けば、オリョクルは潜水艦専用の重油採取作戦らしく、粟倉提督の鎮守府に唯一の潜水艦である私にしか出来ない作戦……ということらしかった。
頑張らないと。
さっき、夕立ちゃんというこの鎮守府の秘書艦にあった。
とっても可愛らしく、私にはない女の子感が出てて羨ましかった。この日記も夕立ちゃんにもらった。
相変わらずモヤモヤしててはっきり見えなかったけども。
寝床は水中の旧式魚雷発射管だった。
起きたらすぐにオリョクルしてほしいんだろう。
————————
#side 艦娘:秘書艦夕立
本日付で我が鎮守府に潜水艦が着任したっぽい。
一隻だけだけども、提督曰く、とても珍しい艦で、未だに建造することが出来ないんだとか。
大本営で研究されていたその艦を今度は戦闘面のデータを得るために引き取ったんだって。
早速データを取るついでに重油を見つけてもらうため、彼女には着任直後に早速オリョール海に向かってもらったとか。何考えてるんだって言いたいけど、この鎮守府はそういうのが普通っぽい。
今だって中破大破した艦がそのままウロついてるし。
あーあ、早くみんな一斉に出した異動願受理されないかなぁ……。
あ、そうそう、今日着任した潜水艦伊19——イクちゃんは可愛い子だった。
でも噂で聞いてたほど笑顔にならないっぽい。提督がなんかしたのかな。大本営の大和先生に手紙を書こうか悩んでます。出来ればイクちゃんも一緒に異動して貰おう。
「あ、電ちゃん! こっちっぽい!」
「夕立ちゃん! 探したのですよ!」
「ごめんっぽい。イクちゃんについて悩んでて……」
なるほど、と茶色の髪を後ろでアップにし、バレッタで留めた頭を揺らして納得の表情を作る私の同期、暁型駆逐艦四番艦『電』
現在進行中の極秘作戦【提督ポイ! なのです】の立案者だ。
優しい彼女には、私達を道具のように扱う提督を受け入れることが出来なかったんだろう。
イクちゃんの着任も、これにともなう大本営の視察を狙っての事。
視察に来るのは基本的に重巡洋艦『青葉』だが、彼女の洞察の良さは噂に高い。
優しさの影に隠れた計算高さには舌を捲く——というか若干引いてるっぽい。
既に幾つかの写真を普段の情景を撮り、大本営に報告するため、と偽って提督と一緒に撮影してる。
電ちゃんがこっそり配置した中破大破状態の艦娘と一緒に。
日付も入っているため、これなら継続して何日間中破大破状態だったのか記録としてなるだろう。
協力してくれたのは戦艦や水上機母艦の皆さん。
特に千歳さんなんかは張り切っちゃって、さりげなく写真の中に収まる技術を極めているっぽい。
イクちゃんに今日の仕事内容についての感想と詳細を書く事を依頼したのも電ちゃん立案だ。
電ちゃんには逆らわないようにしたいっぽい。
ニヤッと笑って『司令官さん、首を洗って待ってるのですよ』と呟いたのも見ないふりっぽい。