星くずWaltz   作:碧兎

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拙い文章ですがまたお話を書きました。よろしければゆっくり読んでいって下さいませ。




星くずWaltz

グラウンドから聞こえている筈の運動部の掛け声がもっとずっと遠くの方に聞こえる、そんな放課後。俺は、柄にもなく図書室で舞踊の本を開いていた。

 

《 円舞曲(ワルツ)とは三拍子でテンポの良い淡々とした舞曲やそれに合わせて踊るダンスのことを言う。》

 

「へぇ…?いっそ覚えて披露してやろうか……」

 

「あ、いたいた。円舞くん!」

 

「……んだよ星奈かよ」

 

唐突に苗字を呼ばれた俺は驚きと嫌悪感に顔を歪めた。

決して俺を呼んだ幼馴染みのことが嫌いだったわけではない。

俺が昔からこの変わった苗字のせいで、ことあるごとに踊れだの歌えだのと言われていたからだ。

 

それも小さな戯れだと、そう言われてしまえばそれでおしまいなのかもしれない。

それでも不安定な思春期の俺は気にせずにはいられなかったし毎度ひっそりと心を痛めていた。

 

「なんだってなによ、もう。私で悪かったですねー」

 

怒らせたかと思いちらっと表情を窺うが、良かった。

機嫌が良いときに見せる膨れ面だった。

 

「違ぇって、そうじゃなくて……。名前で呼んでくれっていつも言ってんだろ?」

 

「いつも言われてるけどさぁ。それ、なんでなの?」

 

いじめられてるなんて星奈には恥ずかしくて言えずじまいのままだったものだから理由もなく名前で呼べと言い続けていることになる。

 

……確かに腑に落ちないしましてや下の名前で呼ぶ気にもならないだろう。

でも、意中の女子には極力格好の悪いところを見せずにかっこつけていたいのが年頃の男子というもの。

決して言うわけにはいかなかった。

 

「良いだろ、別に……。この苗字嫌いなんだよ」

 

「ふーん、そっかぁ……」

 

思いのほかすんなりと退いてくれたことに少し安堵する。

 

「……あ、もしかして円舞くん、フォークダンスに興味あるの?」

 

しかし安堵したのもつかの間、持っていた本に目を付けられた……しかも苗字呼びも変わってない。

 

「ま、まぁ……ちょっとだけ、な……」

 

変に言及されるとまずいので咄嗟に相槌を打つと、星奈は興奮したように頬を染めて喜んだ。

 

「ほんとに?!嬉しい!実は私ね、ワルツが好きでフォークダンス習い始めたの…!でもダンス部の皆はモダンダンス好きばっかりで……」

 

よほど嬉しかったのだろう。マシンガントークが止まらない。

 

「……だから、円舞くん!一緒に踊ってみない?」

 

「…うん…うん…う…え?」

 

「あ、ごめんなさい。間違えた。もう1回やらせて」

 

星奈は小さくそう呟くと、うやうやしく制服のスカートを持ち上げて小首を傾げた。

 

「Shall we dance?……拒否権はないわよ」

 

彼女は固まる俺に悪戯な微笑みを向けた。

 

「で、でも全然俺踊れないけど…」

 

「大丈夫、私に任せて?」

 

でも……と尚も逃げ道を作ろうとした俺の言葉を遮るように下校時刻を知らせる音楽が鳴り始めた。

 

「わぁ、ミザルーが流れるなんて…タイミングばっちり!」

 

あろうことかフォークダンス用のワルツだったようだ。

絶望に暮れていると、自分の手が星奈の柔らかな手に触れていた。

緊張で、考えていた言い訳が綺麗に消し飛ぶ頭。恥ずかしくて紅潮する顔。白い手に取られて手汗の滲んだ手。

でも足だけは何故か自然にステップを踏んでいた。

きっと星奈のリードが上手いんだろう。

 

「……知ってたよ、君がどうして自分の苗字が嫌いなのか」

 

図書館の真ん中でくるくると踊りながらふいに星奈が切り出した。

 

「でも確認はしなかった。君から言って欲しくて。頼って欲しくて……」

 

「なんで知ってたんだよ……」

 

「だって幼馴染みだもん」

 

俺の問いに星奈は知ってるに決まってるじゃん、とおかしそうに笑った。

話しながらも刻むステップを止めようとはしない。

 

窓から差し込んだ紅の光が俺達を包み込む。

いつしか俺は星奈をリードするように舞っていた。腰を支えて、顔を見つめて、本来のフォークダンスがそうであるように……。

 

「ねぇ円舞くん、今日の西日は自然のスポットライトだね」

 

西日のスポットライトのせいか、はたまた他の理由があってか紅く染まった顔で星奈が呟く。

 

「苗字で呼ぶなっての…」

 

俺の小さな反論を聞いてか聞かずか、彼女はまた苗字を呼んだ。

 

「……ねぇ円舞くん、ミザルーってね最愛の人って意味なんだよ?」

 

「……だからなんだよ」

 

「いつか私も円舞になってあげる。だから、ね。その時は今日みたいに、また一緒に踊ってよ」

 

なんだかこいつのおかげで少し、ほんの少しだけ俺は自分の苗字を好きになれそうな気がした。

 

 

 




碧兎の短編小説、いかがでしたでしょうか。
ここまで読んで頂いた方と、我が敬愛する師匠へ心からの感謝を。


それでは、またお会いする日まで。
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