今回で15話達成です!一区切り!
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました♪
これからもちょこちょこ更新するつもりなので見かけたら読んでやって下さいねっ
それでは、最後までお付き合い下さいませ……
幸せだなぁ、は優美の口癖である。
幼稚園からの幼馴染みである彼女はなにかあったらすぐに幸せだと笑い、なにもなくてもその中に幸福を見つけて呟く。
何も知らない人からすればただのおめでたいやつの台詞だが、俺は知っている。
この言葉はただ全てを幸せと取って放たれているわけではない。
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「ねぇ、修くん、言葉の力ってすごいんだよ」
変な口癖がつく前のある日、2人で図書室へ寄った時に優美が本を手に取りながらそう切り出した。
「急になんなんだよ…って、あぁ…そうかお前、文芸部入ったんだっけ?」
元々本を読むのが好きなのは知っていたし、多彩な言葉選びをするやつだったから、優美が中学から続けていた吹奏楽ではなく文芸部に入ったと聞いても周りの人ほど驚きはしなかった。
「うん、部活で文書いてて思ったんだ。言葉ってすごいの」
ただ、こういうことを急に言われると、流石に俺でもなんと返していいものか少し戸惑う。
「…俺もしかして何か変なこと言った……?」
「ううん、そうじゃないよ。ただ、すごいなって気付いたから。伝えたかっただけ……」
そう言って彼女は出した本を本棚に仕舞いながらふいと俺から目を逸らしてしまった。
じっと、遠くを見つめて寂しそうに微笑んでいる。
「何かあっただろ、お前」
優美がこの表情を見せる時は必ず何かがある。クラスで一番仲の良かった友達と喧嘩して仲直り出来なかった時、こいつの祖父が亡くなった時、優美は友達だとしか思ってなかった人に告白されてふった時……。
悲しかったり、どうしていいか判らなくなった時、優美は必ずこの表情で同じことを言う。
「何にもないよ、大丈夫だから……」
嘘だなんてことはすぐに判った。でもこんな時のこいつは普通に繰り返し同じことを訊いていても教えてはくれない。
だから俺はまた、いつも通り回り道をする。
「ならいいんだけど…そんな顔されたら心配にもなるんだぞ?なんかあったら話聞くよ」
「うん、ありがと…」
小さく優美がそう返して、また俺が喋る番。
「…ところで気になったんだけど、言葉のすごさって例えばどんなところにあるんだ?」
俺がそう訊いた途端、優美がほんの少し目を輝かせた。
「自分の"想い"っていう目に見えないものを他の人に伝えられたりするところとか…!」
……違う、こいつが思ってるのはこれじゃない。
「うん、確かにね…他には?」
「他…?あとは…ほら、迷ってたことでも言葉にして口に出せば、頭の整理がついたりするとことか…」
少し言いにくそうに斜め下を向く優美を見て確信した。こっちがホントに思ってることなんだ。
「やっぱり何かあっただろ、話してみなよ」
「……うん」
やっと頷いた彼女の目にいつの間にか大粒の涙が称えられていたから、俺は少したじろいだ。
それに気付かず優美は続ける。
「今日部活で、みんなで書いた小説の朗読しようっていう話になったの……」
くじ引きでたまたま自分の小説を引いてしまった優美は、一番最近書いた短編を読むことにしたらしい。
「これ読んだんだけど、修くんにも見せたよね。友愛って話」
鞄から取り出されたA4サイズの紙の束を見て、すぐに一つの物語を思い出す。
「ああ、確かなんかすごい男子が出てくる話だったよね、覚えてるよ」
主人公が一人の男子に恋をして、思い悩むお話。
その男子は優しくて面白くて気遣いの出来る紳士、なんていうすごいやつで。
それに対して主人公は気弱で一途な優美そのものだったから、初めて読んだ時はこんなやつが好きなのかと思わず笑ってしまったものだ。
「これ、読んだの。声に出して」
優美は大切そうに文字の印刷された紙束を指で撫でてそう言った。
「そしたらね…頭の整理がついたんだ……」
こいつのことは誰よりも理解しているつもりだったが、今の優美が言いたいことは何一つ解らなかった。
「これね、主人公は私みたいな人にしてるの」
困って何も言えずにいた俺に、さっきよりかは少し明るい声で、優美が話し出す。
「そしたら、私が思ってることをそのまま主人公の考えてることとして書けるでしょ?」
「ああ…そうだな……」
ぱらぱらと紙をめくる音をBGMに、話は続けられる。
「ところで修くん、恋愛小説なのに題名が友愛って変だと思わなかった?」
確かに思った。話の本筋は憧れと恋で、友人との絆などというものはその話には全く出てこなかったからだ。
「あれね、題名と登場人物決めた時は恋愛小説じゃなかったからなの。書いてる途中で恋愛小説になっちゃったからなんだ…」
少し照れたように下を向く優美。
ああ…分かったよ、そういうことだったんだね。
あの小説の中の男子にはモデルがいて、優美はそいつが好きなんだ。
声に出してみてその気持ちに気が付いたから戸惑ってたんだね。
「そっか…なんだか大体わかったよ……」
告白してふられて、優美を"あの表情"にしてしまった友人の俺としてはなんだか複雑だったけど、俺が知る限りではこれがこいつの初恋だ。
相手が誰であろうと応援しようと思った。
「うん…モデルにしたあの人が好きだから私、今日告白してみようと思うんだ…」
「……応援してるよ」
今の俺はちゃんと笑えているだろうか。引きつった笑顔になってはいないだろうか。
大切なこいつを困らせたかっこ悪い俺だけど、このくらいの強がりはきっと許してくれるよね?
「ありがと修くん…じゃあ私、ちゃんと言うね…」
深く深呼吸をして、優美は笑う。
やっぱり俺は友達でしかいられないんだ…そう諦めさせるには充分なくらい眩しい笑顔だった。
「修くん、いつもありがとう。あの時は自分の気持ちが判っていなかったけど、ずっと好きだったようです」
諦めがついたと思ったところに予想外の言葉が放たれたせいで、回転の悪い頭は一瞬で白くなり、俺は何も言えなくなる。
「え…嘘だろ……?」
「嘘じゃないよ、修くん。好きです」
優美にしては珍しく、真っ直ぐに俺の目を見つめるその瞳は、嘘を言っているようには思えなかった。
「そう…だったんだ…ごめん俺…気付かなくて…」
俺が思わず謝ると、優美がどこか悪戯な笑みを浮かべた。
「返す言葉が違うでしょ、思い出して欲しいな。もう一回言うよ?……嘘じゃないよ、好きです。」
……俺は同じ台詞を知っている。
主人公の告白を信じられなかった男子に対して主人公が放った言葉が確か「嘘じゃないよ、好きです」だった。
それに返す言葉は……
「……なら、俺と付き合ってみる?後悔させない自信はあるよ」
少し自信満々で俺らしくない、でも口調は俺そのもの。そんな台詞。
覚えていたことにも驚いたが、言ってみたら違和感のなかったことにも笑ってしまう。
「……正解」
俺が覚えていると思っていなかったのか、優美は少し顔を赤らめてはにかんだ。
「ほら、違うでしょ、なんて返すんだっけ?」
さっきのお返しとばかりにそう言うと、優美は満面の笑みで返してくれた。
「…後悔なんてしないから、安心して?」
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「……修くん!ねぇ、ぼうっとしてどうしたの?」
隣にいた優美に声をかけられて我に返る。
「ああ、ごめん。ちょっとお前の小説思い出してた」
「え、なにそれ、変な修くん」
前を向いていた優美は小さく笑ってこっちを向いた。
「……幸せだなぁ」
「…うん、そうだね幸せだ」
今も幸せだけどきっと、口に出してたらそれがもっと幸せになるから。
優美の口癖は幸せを噛み締めているだけでなく、そうでなくても幸せを願って発されるものなんだ。
こんな考えが広まれば素敵なことだと思うが、それを知っているのはもう少しだけ俺だけでもいいかな。