星くずWaltz   作:碧兎

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レトロな感じに仕上げました。
今回はちょっぴり真面目に書けたかな…?


⚠︎死ネタ注意!


それでは是非最後までお楽しみ下さいまし。







涙ドロップ

商店街中に優しく響く、どこか懐かしいような夕焼け小焼けのメロディーが、私に待ちわびた時間の到来を知らせた。

 

「やっと5時だ…」

 

緊張しすぎて30分前にはもう待ち合わせ場所に着いてしまった私は、その音に鼓動を早める。

 

「裕司さん、早く来ないかな…」

 

私が今待ち合わせている相手は、裕司さん。

 

そこのおばさんには小学校6年生まで私もよくお世話になっていた。

というのは彼のお家は7年前まで駄菓子屋を営んでいたのだ。

 

小学生時代、私は活発な子供で、よく走り回ってはお腹を空かせて駄菓子屋へ寄ったものだった。

 

そのお陰で裕司さんと知り合って今のようにお付き合いさせて頂いているのだから、

あぁ、裕司さんのお母さんが駄菓子屋さんで良かったと心の奥底で未だに思ったりする。

 

ふいと回想から戻ってみれば、息を上げて微笑む愛しい人の姿があった。

 

「お待たせ由美ちゃん、遅くなったね」

 

「いいえ、大丈夫。行きましょうか」

 

夕方の5時、こんな待ち合わせには遅い時間に裕司さんを呼んだのには理由があった。

 

お別れ、するため。

 

大好きな彼とお別れする背景に夜景がほしかったからである。

 

私たちは愛し合っていた。

今だってそうだ、きっと心から愛し合っている。

そしてそれはいままでもそうで、これからもそのまま2人はお互いを信頼し、信用し、慈愛をもって接し続けることが出来るだろう。

 

だがしかし、私は今日、3月の末の今日をもって、彼と今生の別れを告げることを心に決めていた。

 

理由はひどく単純明解。

私はそろそろ彼以外ともお別れしなければならなくなるからだ。

 

仲の良い近所の友人にも、10年来の親友にも、笑いあった親族にも、大切な家族にさえも別れを告げなければならない。

 

それが決まったのはつい1ヶ月前のことだ。

病名は悪性腫瘍、別名でいうとがん。それが肺に出来ていたらしい。

 

それを聞いた時、周りの人、特に親などは泣いて私の不運を呪った。けれども私は、あぁそうなんだ、私は死ぬのかと、案外あっさりと現実を受け止めていた。

 

死ぬという恐怖よりも、愛しい裕司さんと別れなければならないという現実が心に突き刺さっていた。

 

そう、だから彼が私と同じつらい思いをしないように、今日はこっぴどくフッてやらねばならない。

今はつらいと思ってくれるやもしれないけれど、あとで最愛の恋人を亡くすことを考えると今フラれる方が楽で、良いはずなのだ。

 

いつもは多弁な私が彼の手を引いて無言で歩き続けるものだから、裕司さんは心配そうにこちらを見ていた。

 

「どうしたの、由美ちゃん。今日は何かあったのか」

 

優しい声色でそう問われると、がんで不安なことや彼と別れたくないことが口をついて出そうになったので、きつく口を真一文字に結んで小さく首を横にふった。

 

「そう、なら良いんだけど。何かあったら言ってね」

 

彼の優しさが胸に痛かった。

 

 

2人で歩いて辿り着いたのは丘の上の展望台。

郊外で、遊ぶところなど近辺にそうそうないこの辺りで私たちが話し込むのは決まってここであった。

 

そこにちょこんと、忘れ去られたように置いてある小さなベンチに並んで腰掛ける。

 

「今日はお話があるんです」

 

私はいきなり切り出して、そしてすぐに後悔した。

あぁ、最後なんだから、最期なんだから、もう少し他愛のない話をして、それから別れれば良かった。

 

しかし、後腐れがないと思い直してしっかりと裕司さんの目を見据えた。

 

真っ直ぐで、汚れのない、綺麗な瞳は、昔裕司さんのお母さんにもらったドロップにそっくり。

ドロップの…何味かしら、ぶどう味かしら。とにかく綺麗で、このまま美しいままにしておきたかった。

 

それならば、そこに映るのは私じゃない方がいい。病魔に蝕まれた私なんかが、彼を悲しませてしまうような私なんかが、この宝石に映り込んではいけないのだ。

 

やはり早く伝えて帰ってしまおう。

帰ったら沢山泣いて、眠ってしまおう。

 

「私たち、今日で終わりにしましょう」

 

あぁ、言ってしまった。私はもうこの人と会うことは叶わない。この綺麗なドロップを見つめていることは出来ない。

 

「さよなら」

 

立ち去ろうと彼に背を向けると、私の名を呼ぶ声がした。

でもごめんなさい裕司さん、私これ以上は耐えられない。

さよなら、きっと幸せになって下さい。

 

突然降り出した大粒の雨が、私から零れるドロップを隠して流れた。

 

 

 

その3日後、私はもう立てなくなっていた。

 

分かっていたこととはいえ正直もう何もかもに自暴自棄になっていた。

 

裕司さんに会いたい。

会って抱きしめて、優しくキスをして欲しい。いつものあの優しい声で愛を囁いて欲しい。

でもそれは叶わぬ願い。

 

私から、またいつかのドロップが零れて溢れて白い布団に落ちて消えた。

あぁ、私もこの雫のように消えてなくなることが出来たら良いのに。そうすればきっと楽なのに。

 

私が寝ている病室に、1つの小包みが届いたのはそんな日の昼下がりだった。

 

「…なにかしら」

 

思わず呟いて、紙袋を破く。

出てきたのは懐かしい缶だった。

昔よくもらって喜んでいた、甘い宝石が詰まった缶。

慌てて送り主を確認する。

 

「裕司さん…」

 

彼は病室を探し当て、私にこれを届けてくれたのだ。

今日は私たちが付き合い始めて丁度3年になる記念日だった。

 

理由も言わずに、あんなに酷く別れを告げたのに。良い彼女ではなかったのに。

それでも彼は私を愛し続けてくれていた。

 

また私の目から溢れたドロップを、今度はドロップ缶が受け止めてくれた。

ぽつんぽつんと雨音のように音を響かせて、私の涙を受け止めてくれた。

 

裕司さんはいつだってこの缶よりもずっと優しく私の涙を受け止め続けてくれていたのだ。

 

彼にちゃんと理由を言って、ちゃんとお別れすれば良かったと自責の念に駆られたが、気づいた時にはもう遅い。

 

私にはもうどうすることも出来ないのだ。

弱くなった力じゃ彼を呼ぶことも、ドロップの缶を開けることも出来ない。

 

「ドロップ…食べたかったなぁ…」

 

私はそのまま眠りについた。

そしてそのまま夢を見た。とても幸せな夢。

 

裕司さんと2人で空から降る大粒のドロップを沢山食べるのだ。

2人して綺麗な宝石のような瞳にお互いの瞳をたたえて笑っている。

 

楽しい、楽しい夢だった。

きっと裕司さんがドロップ缶越しに見せてくれた最期の優しさなんだろう。

 

幸せと寂しさで、私の目からは1粒だけまた何かが零れた。

 

さようなら、そしてありがとう裕司さん。

貴方の事だからきっとまだ私を愛してくれているんでしょう。

ならば私はいつまでも貴方を見守っていましょう。

 

だから、また会えたら沢山お話を聞かせて下さいね。

出来るだけゆっくり来て下さい。

楽しいお話が沢山聞けるように。

いつまでだって待っていますから。

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