アカメが斬る! の世界で、まったくといっていいほど原作に関わらない、どこかの辺境で頑張る帝都出身の一兵卒さんと仲間たちの話にしよーとしたもの。
左遷を穿つ!
人生の行き着き先は、幸福であり、不幸でもある。
私の人生も、まさにそれだ。
開いた窓から、かったるい曇天を見上げて、つくづくそう思う。
まず、ここは何処か?
ここは、帝都から随分と離れた土地。即ち、辺境である。
百にも満たない住人が営む、小規模な村。
言ってしまえば、田舎。僻地だ。
そんな辺境にある、小規模な村に建設された二階建ての詰め所で、私―――ケンプは働くことになった。
現在、私がいる場所も、その詰め所である。
そこに設けられた一室で、曇天を覗いているのだ。
詰め所のくせに、きちんとした個室があるとか贅沢すぎる。
これって簡易だけど、もうちょっとした宿屋レベルじゃない?
都会の喧騒から離れて、ここで一介の下っ端として過ごすのも、悪くないかも。
けれども―――
「はぁぁ~」
ため息。
ため息を吐くたびに幸福が逃げていく。
なんて、言われたことがあるが、これ以上逃げていく幸福なんてないと思うので、気にしない。気にしてはいけない。
左遷。
その二文字が、頭の中を幾度となく過ぎっていく。
いや待て、実際のところ、はっきりと左遷とは言い渡されていない。
そもそも、わざわざ左遷だなんて、言われるはずもない。
だから、まだ希望はあるはず。
と、考えたいが、住民数三桁にもいかない村がある、そんな辺境に飛ばされた時点で、私の頭ではもう左遷としか考えられなかった。
「なーんで、こーなっちゃったかなぁ……」
片手を顔に当てながら、考える。
仕事上のミス。
見過ごされるほど小さいわけでもなく、騒ぎ立てるほど大きいわけでもない。
ほんと、ただの書類上のミス。
それだけだ。
それだけで、こうはならない。
あれだ、ついカッとなって、上司に不満をぶちまけたのがまずかったのかも知れない。
あるいは、護衛対象の横暴な態度に腹を立てて、うっかりぶん殴ってしまったことが原因かも。
……うん。きっとそーだ。それしかない。
あの時はほら、色々あったし。……二日酔いとか。
でも、ひどいじゃないひどいじゃない。
仕事の注意ならいざしらず、人の領分にまで踏み込んできたアイツも悪い。
―――そんないっちょまえな槍なんか持って、たかだか下っ端があまり気取るなよ。
だってさ!
そりゃまぁ、我慢できなかった私も私だけど。
それにしたって、あんまりだ。
「つってもな~、これ、うちのジジイから譲り受けた“家宝”だし……」
言って、壁に立てかけた槍を見やる。
雲や雪を連想させる色合いの、螺旋を描いた穂先を有した白槍。
真っ直ぐな柄と両刃、そして巻きつかれた赤い襤褸布。
襤褸布は無地ではなく、そこにはうっすらと幾何学模様が入れられている。
それ以外に、余計な装飾はない。
確かに、そこら辺の槍よりは目立つから、ちょっとは浮くかもだけども。
けど、個人的に、こーゆー槍ってカッコイイから、悪くないと思うんだけどね。
あ、でも、ここに飛ばされる前に、同僚から、
―――美的感覚は、人それぞれだから、何も言わないよ。
って言われたなそーいえば。
それに、ここに来てから、既にここで生活を営んでいた人たちからは、
―――はぇ~、最近の都会の兵隊さんば、けったいなもん背負ってるだがね~。
なんてことを、言われたんだけっか。
「あれ、もしかして私の趣味嗜好、悪すぎ?」
いやいやいや、そんなはずはない。そんなことはない。
自分に言い聞かせるように、かぶりを振る。
とゆーかなに!?
槍一本の何が悪いっての!?
一応、これ家宝だからね!!
ジジイが誰にも口外せずに、ずっとしまっていた業物らしい。
実際のところは、業物とかそーゆーもんじゃなかったけどさ。
むしろ、それ以上のものだった。詳しい説明は、一緒に渡された手紙―――遺言書―――に書かれていたし。
とゆーかジジイ、往生する前に、いきなり変なもん孫に押し付けるなよ!?
しかも、今際の言葉が、
―――大きくなったのぉ。立派なもんじゃ。胸が。おっぱいいっぱいゆめいっぱ……。
って、おかしーだろ!!
孫に向けて放つ言葉じゃないだろ!?
スケベだ! スケベジジイだ!
子供の頃、身体のでっかい傷を自慢してたけど、あれって親戚からよくよく聞いたら、女癖の悪さが災いして、女に刺された傷じゃねーか!
なぁにが戦場でつけられた名誉の勲章だジジイ!!
地獄だろーが極楽だろーが、死んでも苦しめクソヤロー!
「……とにかく、落ち着こう」
冷静。つとめて冷静に。
熱血過ぎればなんとやら。
素数を数えてヒッヒッフー。
……うん、怒りが治まっていくのがよくわかる。
何て言うか、こう、胸の内がスーッと、沈んでいく感じ。
チラリ。
落ち着いてから、ふと、部屋の片隅に置かれた立ち鏡に視線を送る。
おもむろに立てかけていた槍を持ち、鏡に向かう。
そして、鏡面の前に、身を晒してみる。
そこには、私が映っていた。当たり前だが。
赤茶の、そんなに長くない髪を簡易に束ねたショートポニーテール。
細すぎず、太すぎず、ちょーどいいくらいに“ふっそり”とした、出るとこは程度よく出て、出ないとこは程度よく出ない。健康第一のバランススタイル。略して、バラスタ。
顔立ちは、―――それほど悪くはないと思う。
穏やか、というわけではないが、かといって危険のない、変化の地味な相。
目元はキュッとやや吊り上って、ちょっとキツめの印象。
口はそれほど大きくはなく、唇はまだ幼い子供のように薄い。冬場なんかは油断するとカサカサになるからつらい。
鼻なんかは心もち大きいが、形状はスッキリとしている気がする。
眉毛は、元々警備隊として鍛えていた影響か、太い。太いのだ。女らしさの欠片もないほどに。
「いいや、自分に、自信を持つのよケンプ!」
自分自身に、そう言い聞かせる。
美人!
超美人!
すっげー美人!
世界横断ウルトラクイズ級美人!
鏡の前で、それらしいポーズを取ってみる。
「―――いやウルトラクイズ級ってなんだよ。世界も横断しねーよ」
「ほんとにね~」
思わず、自分で自分にツッコミを入れてしまう。
ポーズを変えてみる。うーん、これはちょっと違うかな。
「それに、美人だったら、今頃、玉の輿でウハウハしてるってーの」
「そ~なの~?」
「そーだよ、そう!」
相槌を打つ、どこか間延びした声に対して、私は力強くうなずく。
ポーズを変える。乙女らしいポーズが似合わないのがよくわかる。
我ながら哀しいねこれ。
「第一さ~、こんな美女を放っておくなんて、野郎連中の目は節穴だってーの!」
「ふしあなか~」
「節穴! そう! まったくもって節穴!」
「あっ、今のポーズ、中々良いと思う」
「え、そ、そう? いやぁ、恥ずかしいなぁ。―――うん?」
ちょっと待って。
さっきから、やる気のなさそうな適当な相槌はなんだ?
ギギギギギ。
私は、錆びた螺子を回すように、ゆっくりと、相槌の打たれたほうに顔を向ける。
視線の先には、開いた部屋の扉。
そこに佇む、細目の女性。
閉じてるんだか見えてるんだかってくらいに、細い。狐目というやつだ。
すらりとした長い銀髪。白髪にも思えるが、光沢があるのできっと銀髪。
色素の薄い肌。きっと、外に出て、あんまりお天道様を拝んでないんだろうな。
質素な衣服の上から纏った白衣。白衣ってことは研究者かな?
ただ、はっきり言って、美人の部類に入るであろう美貌の女性だ。
閉じた扇子を、口元に当てて、微妙に隠す。
そういう仕草も様になる。
「やっほ。あなたが、新人君ね?」
「あ、どーも」
「はいどーも。私、クランリーって言うの。よろしくね」
「あっはい。この度、配属になりましたケンプです……」
ここで、我に返った。
「いやいやいやいやいや! 何時からいたんですか!? ノックくらいして―――」
「したわよ」
「えっ」
「ノック、したわよ」
「じゃあ……」
「あなたが、気づかなかっただけ」
「あぁ~……」
堪らずに、顔に手を当てた。
つまり、私が鏡の前で言っていたこと、やっていたことを、見られていたということだ。
恥ずかしい。
死にたい。
恥ずか死にたい。
身体が熱い。
特に顔。顔に熱が集中してるのが、自覚できる。
「そんなに、赤くならなくても、いいと思うけど」
「これは心の問題です……」
「そうかな~」
「そうです……」
落ち着け。落ち着け。落ち着くのだ。
見られてしまったのものは仕方がない。
そーゆーものだ。諦めよう。
そう思えば、自然と熱も引いてくる。
「おちついた?」
「えぇ、まぁ」
「じゃ、改めて、よろしくね。ケンプちゃん」
ニッコリ。
笑って、手を差し出してくれた。
私も、手を出して、クランリーさんの手を握った。
クランリーさんも、握り返してきた。
温い。
冷たそうな外見の色彩とは違って、きちんとした人肌の温かみを感じる。
外見で判断してはいけないとは、まさしくこのことだ。
「こちらこそ!」
「ふふ、何かわからないことがあったら訊いてね」
握手を解き、軽く頭を下げた私に、クランリーさんはそう言ってくれた。
「あ、じゃあ早速……」
「なにかしら?」
「クランリーさん以外の方は、どちらに?」
僻地とは言え、まさかクランリーさん以外、誰もいないわけではないだろう。
そんなに多くはいないと思うが。
しかし、思い返せば、私がここに着いた時、最初に出会ったのは、それなりにお歳をめした村人たちくらいだ。
ここに勤める警備隊員を見たのは、クランリーさんが初めてなのだ。
僻地だから、むしろ退屈のほうが勝っていると考えていたけど、違うのだろうか?
まさか、ここには危険種が蔓延っていて、それを駆除する仕事が結構舞い込んでくるのだろうか?
うわー、やだなー。安い給料でも、一日を怠惰に過ごすだけで給料貰えたほうがいいのになー。
それなら、左遷でも悪くないなーなんて前向きになれたのに。
やっぱり、そんな美味い人生はないよなー。
なんて考えている間に、クランリーさんが口を開いた。
「えーっとね、私含めて四人いてね。二人は、今ちょっとお仕事で不在でね」
ああ、やっぱり。
私の浅はかな夢想―――寝てるだけでお給料貰える―――は、ここで脆くも崩れ去った。
「最後の一人は、今頃、土の下かしら」
……うん?
今、なんて言った?
土の下?
「え、それは、どーゆー意味で―――」
「先週ね、死んじゃったの」
「は?」
「こう、スパーって」
閉じた扇子を宙空に掲げ、真っ直ぐに振り下ろしてみせる。
どうやら、その亡くなった人は、一刀両断にされたよーだ。
そんで、土の下ってことは、つまりそーゆーことだ。
「あの、失礼ながら、ここって、僻地、―――田舎ですよね?」
「そうだけど」
「危険種とか、出るんですか?」
「たまにね。本当に時々。あ、一級とかは普段“あんまり”出ないから安心してね」
いや安心できねーよ!
何だよスパーって!
何だよあんまり出ないって!
それってもう出るってことじゃねーか!
どんだけ死と隣り合わせな職場なんだよ!
……あれか、左遷するなら過酷な環境ってことか!?
なんてこった!
どーせ田舎に飛ばされる程度だろうとか、給料が少なくなるとか、もう帝都のあの有名店の名物料理を味わえないとか、そんなチャチなレベルじゃなかった!
「な、中々壮絶なのですね、ここは」
「そうなのよ! まったく命がいくつあっても足りないくらい!」
そりゃそーだ。
「本当は、もっと同僚が沢山いたのよ。気づいたら四人になってて、三人になって、あなたが着てまた四人!」
マジですか……。
同僚さんもっといたんですか……。
おお、神よ。あなたは寝ているのですか。
それにしても、そんな環境で今日まで生き残っているクランリーさんって、かなり凄いんじゃないだろーか。
先ほどの彼女に対する失礼な思考が一変して、尊敬に変わった。
「あ、じゃあ、そんなに大変なら、さぞかし村の武器屋は儲かってるのでしょーね」
「そんなのないわよ」
「えっ?」
「さっきあなたが言ったように、ここはすこぶる田舎だからね。そんな便利な店、ないのよ」
武器屋もないのかよ!
てゆーか、すこぶるとは言ってないない!
「で、でも、時々なんですよね?」
「時々ね。危険種は」
「危険種、は?」
「うん。まぁ、色々あるのよ、ここも」
歯切れが悪そうに、閉じた扇子で口元を隠すクランリーさん。
めっちゃくちゃ怪しい!
どういうことなんだいこれはいったいぜんたい。
もうね、きな臭ささが、ぷんぷんしてやがる。
そして、悟った。
これはただの左遷じゃない、と。
いや、左遷という言葉では括りきれない、もっと悪質な何かだ。
「あ、そうだ。ケンプちゃん、帝具って知ってる?」
クランリーさんの言葉に、私は頷く。
勿論、知っていますとも。
千年前、帝国を築いた皇帝の命により造り出された四十八の超兵器。
超が付くとおり、それはただの兵器ではない。
莫大な体力、精神などを必要とする反面、強大な性能を発揮するのである。
時間だけを見れば、もはや旧式同然とも言えよう。
だが、帝具はそこが違う。今なお、どこかで使われているのだ。
それほどまでに、それほどなのである。
まあ、今でも半数近くが行方不明だったりするけど。
で、そのうちの一つが、私がジジイから譲り受けた家宝の槍だったりするのだが。
一角開来カルタゾノス。
それが、譲り受けた槍の名だ。ジジイの遺言書に、そう書かれていた。
その後は、これを使って幾つもの修羅場を潜り抜けたジジイの武勇伝が続いていたので、燃やしてやった。
あの時は感情のままに行動してしまったが、ああくそ、これがその帝具だっていうのなら、もっとうまくやりようがあったかも知れないのになぁ。
あ、でも、これが帝具ですと貢献しても、私自身が無能なら用済みとかで結局意味ないんじゃ?
ううむ、それならこのままで良かったのかも知れない。
ま、今さら考えても仕様がないか。
「知ってるなら、詳しい説明は不要ね」
「まぁ、そーですかね」
「じゃあ、そうね、その帝具の一つが、ここにあるとしたら?」
「―――は?」
「山に囲まれた、この枯らされた土地のどこかに、帝具があるとしたら?」
「そりゃ、探しますかね。帝具はあり過ぎて困るものではないと思いますし」
「そうよね~」
カラカラ。
笑う姿も、中々どうして様になる。
ただ、今までの会話でハッキリしたのは、クランリーさんは、ものすごい口下手ということだ。
「あの、何が言いたいのですか」
「うんうん。つまりね、私たちのお仕事は、そのどことも知れぬ帝具の確保と、それを狙う不届き者の成敗!」
あー、そーかそーか。
さらにクランリーさんの話を聞いて、なんだかあんまり合点がいかないが、ぼんやりとわかってきた気がする。
第一。この辺境には、どうやら内乱の際に行方不明となった帝具があるらしい。
第二。情報の出所は、私たちが今いる村。何でも、村に伝わる口伝で、それらしい記述を歌っていた流れの詩人が、今回の切っ掛けだとか。
第三。しかしながら、その場所は不明。口伝とは、つまりは噂のようなものである。
第四。そのもしかしたらあるかもしれない帝具を回収するために、秘匿調査隊「クロンフォート」が組まれた。秘匿なのに喋って大丈夫なのですかと訊いたら、これ自体は名ばかりだからへーきへーきと返ってきた。
第五。確実にある、という確証もないため、少数なのだそーだ。少数精鋭とゆーやつだ。
第六。不幸なことに、これを帝国以外の耳聡い連中が聞きつけてきた。革命軍とか、情報網をもつ賊とか。
第七。その連中との度重なる衝突で、一人、また一人と欠けていった。
第八。そんなこんなで、ここでは目立って人手は割けないらしい。
第九。その最中で、偶々、仕事の不祥事で私が着任してきたわけである。
第十。これはもう、即ち左遷だ、間違いない。ケンプ心の一句。字余り。
だいたい、こんな感じだろーか。
普段から頭を使わないし、自称できるほど良くもないので、灰色脳細胞フル活用だ。
結局、左遷という揺るぎのない二文字が、居座ることになった。
「こんな、あるかもどーかも分からない帝具に命賭けるって、正直、馬鹿みたいよね」
あ、それ言っちゃうんですね。ぶっちゃけちゃうんですね。
多分この人、口下手な上に嘘も下手なんだろーな。
「そーっすね」
「でも、もし本当にあって、あまつさえ革命軍とかの手に渡ったら、私たちの首が飛んじゃうからね」
「あー、それは、嫌ですよね」
「でしょ~!? それにほら、何だかんだで、帝具を狙う帝国外の輩も排除できるし、それはそれでいいかなーって」
なるほどなるほどなるほどね。
とにかく物騒だということは、十分に解りましたクランリーさん。
おっと、そーだ、そういえば―――
「ところで、その、クランリーさん」
「うん?」
「お腹、すきました」
「ああっ!」
ポムッ!
クランリーさんは手を叩いて、指を三つ立てた。
それはいったい、何を示しているのだろう。
「今日は三本、採れたのよ」
「三本? キノコかナニかですか?」
「食べれそうな木の根。あとジャガイモもあるわよ」
……えっ?
身体が硬直した。
ピタリ、とまったく動かなくなった。
それほどまでに、その発言は、私に衝撃を与えた。
木の根ってなんだ?
それって食べていいものなのか?
私の抱いた疑問を察することはなく、クランリーさんは部屋を後にした。
帝都では食べたことがない、木の根。
食べることもなかった、木の根。
食べる必要もなかった、木の根。
いやいや、ちょっと待ってほしい。
そんなに困窮しているのか?
それほどまでに貧窮なのか?
いや、まさか。
だって、ここは例えド田舎でも村があるし、村人だっている。
頼めば、食料くらい分けて貰えそうなものだが。
そこまで考えて、気づいた。
確信はない。
だが、確認せずにはいられなかった。
窓に駆け寄り、外を見る。
日が暮れ、夜に変化しつつある。
曇天だった空は、まだ厚い雲を残していた。
木で構築された、古臭い民家が数軒。
外を歩く村人が数人。
いずれも、痩躯であることが窺える。
草木の一本も生えてない大地がある。
そして、周囲を囲う山々。
回想する、クランリーさんの言葉。
―――山に囲まれた、この枯らされた土地のどこかに。
「ハハ、まさかそんなことが……」
まったく、どういうわけだか。
私は、とんでもない場所に飛ばされてしまったよーだ。
もうこの地においては、左遷とかそんなことに一々拘っているのが馬鹿らしくなってきた。
ここは帝国兵士らしく、困りに困った人々を助けるのが職分というもの!
やるぞ! 私はやるぞ!
天に御座します父よ母よ! ケンプは立派に働きましょう!
地獄に墜ちたるジジイよ! お前の家宝で私はやり遂げよう! 槍だけに!
「ごはん、できたわよ~」
「あ、はい! 今いきまーす!」
その前にまず、腹ごしらえをせねばな!
腹が減っては何とやら。
今日はもう晩いし、明日に備えて、休もう。
夕食に並べられた木の根は、土の味がした。
天国の父よ母よ、ケンプはやっぱり頑張れそうにありません。
地獄のジジイよ、やはりお前は死んでも苦しめ。
・ケンプ
典型的な気力のある無能。
体力馬鹿で異様にタフネス。
また槍の扱いに長け、まだ荒削りだが戦闘センスは光るものがある。
両親があまりにも良心的だったので、暗殺されていたりする。
槍型帝具「一角開来カルタゾノス」を所有。
・ジジイ
ケンプに帝具を与えた叔父。
女癖が悪く、痴情のもつれの末、刺されることもあったが、最終的には全員と和解している。
色々と波乱万丈な人生を送り、ついに往生した。
過去、軍人時代ではそれなりの地位におり、退役した後もかつての名誉をうまく使って生きていた。
ケンプの両親から、まだ小さいケンプを預かり、親代わりとなって育てていた。
ちなみに本来の名前は「ジジー」である。
・クランリー
細目の女性。
帝国兵士らしくない雰囲気をもつ。
秘匿調査隊「クロンフォート」の隊長。
帝具「見敵炯眼バロルガ」を所有。
持ち歩いている扇子は、危険種を素材としており、武器にもなる。
・ダンリョウ
ケンプが着任する前に、一刀両断され死亡した人。
剣の腕前はそれなり。
・フウマ
ケンプが着任した時に不在だった人。
・モタラ
ケンプが着任した時に不在だった人。
帝都警備隊に所属していたが、思いきり愚痴を吐いてる最中、不運なことにオーガ隊長にめっちゃ聞かれて、辺境に飛ばされることになった。
射撃の腕が良い。
・ガンプ
ケンプの父親。故人。元将軍。
「槍将」と呼称される程度には卓越した槍さばきをしていた。
人の良い人格者であったが、世渡りまではうまくいかず、地方に飛ばされてしまう。
さらには、そこで領主殺しの汚名を着せられ、妻共々、処刑という名目で暗殺される。
・サーリャン
ケンプの母親。故人。
まだ小さかったケンプをジジイに預けた。