新しい環境、新しい友、そして新しい試練。スピードジャンキー森崎は入学2日目にして幾多もの洗礼を受ける。いわれのない非難、敵意、勘違い、そして裏切り。しかし森崎に立ち止まることは許されない。先駆者とは常に困難がつきものなのだから。
4話 立ち上がれ林崎
「……駅までご一緒してもいいですか?」
「いいよ!」
光井ほのかと名乗った同級生の女子の言葉にさっきまで燃え尽きていた男が返事を返す。
「いや、てめえに聞いたわけじゃないだろ」
「巻き込んだ上に放置プレイか」
レオのつっこみに拗ねたように森崎は膝を抱えて、地面に指で円を描く。時折チラチラと見返してくる動作がうざいことこの上ない。
「呆れた、どうする達也君?あたしは別にいいけど」
「深雪は?」
「喜んで」
「……じゃあ、深雪さんのアシスタンスを調整しているのは達也さんなんですか?」
「ええ。お兄様にお任せするのが、一番安心ですから」
他の面々が会話に花に咲かせているなか、森崎は内心落胆していた。先ほどのことを思い出してではない。森崎の帰路には駅は無いのだ。つまり回り道。しかし今更言い出せるはずもなく、昼間に余分に栄養補給していたことに感謝していた。
そんなことを森崎が考えている合間に、会話はエリカのCADについての話題に移っていく。あの時、一科生のCADを弾いたあの棒はCADであったらしい。森崎はエリカがCADを弾いた場面を思い出していた。あの踏み込み、たしかに速かった。しかし。
「……術式を幾何学紋様化して、感応性の合金に刻み、サイオンを 注入することで発動するって、アレか? そんなモン使ってたら、並みのサイオン量じゃ済まないぜ?よくガス欠にならねえな? そもそも刻印型自体、燃費が悪過ぎってんで、今じゃほとんど使われてねえ術式のはずだぜ」
「おっ、流石に得意分野。でも残念、もう一歩ね。 強度が必要になるのは、振り出しと打ち込みの瞬間だけ。その刹那を捉まえてサイオンを流してやれば、そんなに消耗しないわ。兜割りの原理と同じよ。……って、みんなどうしたの?」
レオの問いかけに何でもないことのように返したエリカに、森崎以外の面々は感心とあきれを滲ませ、深雪が代表して答える。
「エリカ……兜割りって、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だと思うのだけど。単純にサイオン量が多いより、余程すごいわよ」
「そう、でもねえ」
エリカが森崎に視線を移す。エリカは森崎の反復練習を見ていた一人だ。勿論、考えていたことは一つ、自分はあのCADを捌けるだろうか。CADである以上魔法の発動にラグがあるはずだが、それでもなんとかというところだろう。もしあれがCADではなく拳銃だったら。くしくもエリカも森崎と同じような結果を思い浮かべる。拳銃とCADの違いはあったが。
「うちの高校って一般人の方が珍しいのかな?」
「魔法科高校に一般人はいないと思う」
それを汲んで美月は天然気味な疑問を浮かべ、雫が的確にツッコミをいれる。
あの一幕から二日たった。最初のニ日間が嘘のように昨日は平穏であった。
あの日一緒に帰った深雪たちだがクラスでは挨拶を交わす程度だ。あの3人と仲良くしようものなら、やっかみが怖い。まずは外堀から埋めねばなるまい。つまり同性の友達である。しかしこれも今のところ糸口が見えない。今の森崎に話しかけるのはホモくらいなものだろう。
「あの森崎君」
そんなことを席で考えていると後ろの男子生徒が話しかけてくる。そうか。お前がそうか。ベストポジションに隠れてやがった。
「えーっと」
「屋良内だよ」
「”やらない”か、どうしたんだ」
「森崎君って入試のとき、実技で凄い結果出してたよね。僕、君の後ろだったんだよ」
ダッタンダヨ、ダッタンダヨ。神よ、やはりそうか。日本人男性の1割が潜在的なホモという統計もある。確率としては低くない。
「俺の実技で目立った記録は速度しか無いはずだが」
森崎の実技は構築速度が図抜けていて、規模と干渉強度は一科の平均くらいであろう。
「それでもすごいよ。200msを切るなんて、信じらない。どうしたらそんなに速くなるんだい?」
血筋だ。もっともそんなことは言わなくてもわかっているはず。
「反復練習だな、それと魔法の理解」
「うーん」
「どうしたんだ」
「いや、すごい当たり障りのない答えだったから」
「速さに近道なんてないさ、道のりに個人差はあるけどな」
「なるほどー、うーん」
「まだ不十分か」
「いや、良かったら実技の時間にでも見てほしいんだけど、いいかな」
そうやって、俺の孤独につけ込む気だな。前のしっぽが丸見えだぞ。
「先生方に教えてもらった方がいいと思うが」
「でも森崎君って、あの”森崎”でしょ。そういった技術も体系化されてるんじゃないの?」
家名を出されると言い返せない。数字を持たない百家の末端ではあるが、それなりの誇りは持ち合わせている。
「そこまで言うならいいだろう」
「良かった。約束だよ」
俺の手を無理矢理に握ってくる。あ、暖かい。くっ、だめだ、しっかりするんだ森崎駿。
「見込みがなければ、すぐに辞めるからな」
「勿論だよ」
「”やらない”か(?)」
そんな不穏な言葉が深雪の耳に入る。思わず声の方向に顔を向ける。森崎だった。まさか、まさか。そこで会長の実技見学でのことを思い出す。最愛の兄と仲良さそうに話す森崎を。そして、警戒を強めていく。深雪は言い知れぬ不安にかられるのであった。
放課後には風紀委員の集まりがあった。今日から新入生部員勧誘週間がはじまるため取り締まりを強化するためだ。しかしそれにいきなり借り出すとは。昨日は風紀委員に呼び出されるんじゃないかと、ビクビクしていたのに、これもまた拍子抜けである。風紀委員長は育成という言葉を知らないらしい。勿論一番に集合場所に到着し、次々と集まってくる上級生にも挨拶をこなしていく。しばらくして紋無しの制服を着た見知った男子生徒が入ってくる。
「達也!風紀委員に選ばれてたのか?」
「森崎か、ああ成り行きでな」
やりづらいだろうに、平然とした態度をしている。こいつの実力は知らないが、その姿だけで頼りになる。二人して席に着く。その後二人の3年生が入室し、9人になったところで会議が始まった。達也と2人、自己紹介をしたところで他の上級生から質問があがる。
「誰と組ませるんですか?」
「前回も説明したとおり、部員争奪週間は各自単独で巡回する。新入りであっても例外じゃない」
「役に立つんですか」
「ああ、心配するな。二人とも使えるヤツだ。司波の腕前はこの目で見ているし、森崎のデバイス操作も卓越したものだった。森崎静かにしろ」
実力を披露すべくガンプレイを行っていた森崎を摩利がどやす。
「それでも不安ならお前が森崎についてやれ」
「やめておきます」
「本当にいいのか?後悔しないな?」
「え、ええ」
よほど森崎のことが心配らしい。委員長が念入りに聞くが上級生は戸惑いながら遠慮した。これを最後に反論は無くなる。
「これより、最終打合せを行う。巡回要領については前回まで打合せのとおり。今更反対意見はないと思うが?よろしい。では早速行動に移ってくれ。レコーダーを忘れるなよ。司波、森崎両名については私から説明する。他の者は、解散!」
全員が一斉に立ち上がり、踵を揃えて、握りこんだ右手で左胸を叩いた。
その後、達也と二人で委員長からレコーダーの使い方を教わり、取り締まり行動についての原則を聞く。それが終わると達也は備品のCADを借りたいと申し出た。了承を受けた達也はCADを2つ身に着ける。
「パラレル・キャストか。お手並みを拝見したいな」
「今回はちょっと違うがな。俺も本来のスタイルは特化型2丁のパラレルキャストだ」
森崎家の天才児は複数のデバイスを使いこなす。達也もそのことは知っていた。今はレッグホルスターの特化型CAD1つしか装備していないように見えるが、一科生だから汎用型も持ち合わせているのだろう。
「準備ができたのなら、早く行け」
委員長に急かされ、風紀委員室を退室し、森崎と達也は二手に分かれた。
「このやろう!」
達也はそういって切りかかってきた剣術部員を難なくいなし、魔法を放とうとする者には容赦なくキャストジャミングを浴びせていた。
ただならぬ雰囲気に小体育館にきてみれば、剣道部と剣術部が諍いを起こしていた。女子生徒と剣術部員が防具も着こまず打ち合いをはじめ、錯乱した剣術部員が魔法を発動した時点で、達也は介入したのだった。当事者の確保で終わるはずであったが、紋無しの制服と赤い腕章が剣術部員の感情を逆撫でしたのだろう(達也の言動にもいささか問題はあったが)。逆上して襲い掛かってきた剣術部員を達也は難なくさばいていた。そこで達也は魔法の発動を探知した。
(速い!間に合わない)
本来なら相手の確認をするのだが、そんな暇すらないほどの構築速度。フラッシュキャストなら間に合うだろうがこれは秘匿技術である。そして、術式解体を選択し実行すべく、手をかざすがそれすらももはや遅かった。
「がっ」
暴れていた剣術部員が全員倒れる。高速で体を揺らされ軽い脳震盪を起こしたのだ。そして達也がかざした手の先には、一人の風紀委員が右手の特化型CADを頭の横で回し、銃口をこちらに向けると、こう言った。
「風紀委員だ、全員その場を動くな」
危なげなく剣術部員をさばく達也を、エリカは感心して見ていた。そこでヒューという口笛のあとに聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「おー、やってるやってる」
森崎だった。楽しげに乱闘を見ている。
「で、悪いのはどいつだ?千葉さん」
「達也君に襲い掛かってる連中よ」
「それじゃ、お仕事もとい助太刀しますか」
「ちょ」
達也はよくわからない魔法で相手の魔法を打ち消すのだ。手を出すのは危険ともいえた。しかし止めようとしたときにはすでにCADを構え起動式を読み込んでいた。
(速い!)
そう思った瞬間にはすでに魔法は発動していた。この時エリカは一昨日の自分の考えを改めるのだった。拳銃でなくとも自分にはこの男の武器はさばけないと。当の本人は満足した顔で特化型CADを指先で回している。そしてポーズを決め
「風紀委員だ、全員その場を動くな」
「プッ、アハハハハハッ、ださっ」
かっこつけすぎた言動にエリカが爆笑する。あまりに締まりのない展開に森崎も固まってしまう。
「森崎、お前が風紀委員の名をいうだけでこの場はおさまったと思うんだが」
銃口を向けられた達也も非難してくる。森崎はCADを普通にしまい前に出ると。
「ごめんなさい」
謝罪をしてきた。達也も肩を竦め笑みを浮かべる。
「だが、いいセンスだ」
えー、屋良内くんですが出番はかなり絞る予定です。出した理由はいくつかありますが、森崎がボッチなので1-Aの様子が全く書けないからです。安易なホモネタと罵ってもらっても構いません。戦闘描写に関しては生暖かく見てください。もっとも森崎の能力からして、基本一瞬で終わりますが。これもそのうち引き延ばせるよう努力するつもりです。
それではお読みいただきありがとうございます。