スピードスター森崎   作:AMDer

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第八話 死んでも離れない

 公開討論より遡ること1日前。摩利が生徒会室より風紀委員室へと降りてくると

 

「ここか」

 

「いや、もう少し右だ」

 

「こ、こうか?」

 

「ああ、いいぞ、その調子だ」

 

 風紀委員室横の倉庫より男達の声が響く。何事かと思い摩利は息を潜め、聞き耳を立てる。そんな彼女の頬はやや朱に染まっている。

 

「このままでいいのか」

 

「いいぞ、そのままなかに」

 

「なにをやっとるかー、君たちはー!」

 

 たまらず摩利が声をあげる。するとそこには機械をいじっている、達也と森崎がきょとんとして、摩利の方を向いていた。

 

「お疲れ様です、委員長」

 

「お疲れ様です、一体どうしたんです?大声あげて」

 

「き、君たちこそ、何をやってるんだ…」

 

 勘違いした恥ずかしさからか摩利は顔を隠すように額に手をやり、頭を振る。

 

「こいつを改造してるんですよ」

 

「こいつ?」

 

 森崎の答えに気を取り直して、顔を上げると例のパワードスーツが鎮座していた。今度は顔が引き攣る。

 

「装甲と出力の強化、及び武装の見直しをですね…、といっても攻撃手段は内蔵したCADに依存する部分が大きいんですが」

 

「俺は森崎に頼まれて、ソフトウェアの調整を行っています」

 

「いや、そういう問題ではなくてな、森崎、こいつは封印するように命令したはずだぞ」

 

「倉庫の肥やしになるよりはいいじゃないですか、どうせ捨てるに捨てられないんでしょう?名前も決めました。その名も“風紀くん”!」

 

「森崎、その名前はなんとかならないのか」

 

 達也が呆れて抗議する。どうやらお気に召さないようだ。摩利は肩を震わせている。

 

「風紀委員は威圧するべからず、ありがたい委員長のお言葉だ。それに則って愛嬌のある名前をだな」

 

「封印だ」

 

「えっ?」

 

「このスーツを封印しろ、今後一切触れることも禁ずる!」

 

「そ、そんなー、すぐに必要になるかもしれないのに…」

 

「すぐに?」

 

 森崎の言葉に摩利が疑問を呈する。達也は摩利の言葉に頷くと逆に問を投げかけた。

 

「委員長、交渉の件はどうなりましたか?」

 

「ああそれなら明日、公開討論という形に…、まさか…」

 

「ええ、俺と森崎はその時にテロリストの襲撃もあると予想しています。目的は当校の生徒の誘拐、それと図書館の機密文書の奪取でしょう」

 

「そ、それは」

 

 摩利も予想しなかったわけではない、しかしそこまで大それたものになるとも思っていなかった。

 

「公開討論を持ちかけてきたのは向こうからではありませんか?」

 

「…そうだ」

 

「おそらく当校の生徒をなるべく一箇所に集めるためでしょう。機密文書の奪取にしろ誘拐にしろそのほうが都合がいい」

 

 摩利は息を飲み、自分の見通しが甘かったことを痛感する。

 

「機密文書の奪取だけなら少数が侵入するだけにとどまる可能性が高いです。しかし誘拐を目的とした場合はそれなりの兵力を送り込んでくるはずです。残念ながらブランシュはそれを用意できる規模です。委員長、最悪の事態は想定しなければなりません」

 

「その場合、敵は複数のルートからの侵入が予想されますが、最も大きい兵力は正門から入ってくるでしょう。おそらく陽動として。そこでこいつです」

 

「それでこいつか」

 

 達也が敵の目的を読み解き、森崎が作戦を予想する。摩利もいつの間にか真剣に耳を傾けている。

 

「ええ、万一突破されてもこいつなら迎撃体制を整える時間が稼げるはずです」

 

「森崎!」

 

「委員長、犠牲はつきものです。その上で最も犠牲が少ないであろう選択をお願いします。たとえ俺を切り捨てることになっても」

 

「しかし…」

 

「委員長、俺はボディーガードを生業とする森崎家の男です。それなのにおめおめと生き残り、護衛対象を守れなかったでは、家名に泥を塗ることになります。大丈夫です、そんな簡単に俺は死にませんよ」

 

「森崎…、わかったいいだろう。しかし一人というわけには」

 

「こいつの能力を考えるに単独行動向きです。他の味方はかえって足手まといになるかと」

 

「…いいだろう、だが死ぬなよ。これは命令だ」

 

「勿論です」

 

 摩利も納得したようで、その表情にはもはや諌めようとする気概は無かった。それを見て取り、さりげなく森崎は右手を後ろにやり、達也へとサムズアップを送る。

 

(計画通り)

 

 森崎は心の中でにやりとする。達也も微笑を浮かべる。実は達也はスーツが無くても、森崎なら難なく敵を制圧できるであろうと考えていた。森崎のクイックドロウは先手を取るための技術だ。しかしそれは、あくまで試合の中での話。実戦の中でクイックドロウが最も活きる場面はカウンターだ。今回の相手を迎え撃つという状況ではその利点を存分に活かせるだろう。本人の実力の一端も垣間見ている。しかし手伝った傍ら、面白そうなのでこの話に乗ることにした。

 

「しかしそうなると”風紀くん”というのは些か間抜けだな。もう少し威厳がある名前はないのか」

 

「えっ」

 

「同感だ。森崎、もう少しいい名前はないのか?」

 

 先程とは違い乗り気な摩利に名前をつっこまれ、森崎は狼狽える。それに達也も同意する。

 

「…一応、無いこともありません」

 

「なんだ?」

 

「”アイビー”」

 

「”アイビー”か、それもなかなか愛嬌がある名前じゃないか。まあ”風紀くん”よりはましだな。意味はあるのか?」

 

「観葉植物の名前ですよ。斑入りの葉が有名ですが目立たない小さな花を咲かせます。花言葉は友情、不死、不滅、誠実、そして…」

 

 

 

 

8話 死んでも離れない

 

「なんだあいつは!」

 

「構わねえ、轢き殺せ!」

 

 先頭のバンが森崎めがけて、アクセルを踏み込みエンジンが唸りをあげる。森崎はそれを見ると両手を突き出す。そして、森崎に接触し…、破砕音があがる。決して人を轢いた音ではない。壁に激突したかのような音だ。車は森崎が突き出した手を中心にひしゃげ、運転手もエアバックに包まれすでに気絶している。それでも前進を辞めようとしない。巻き上がる砂とから回るタイヤの音が木霊するなか、森崎が叫ぶ。

 

「ジャーマン・スープレックス!」

 

 すると車体に重力軽減の魔法がかかり浮きあがる。森崎はそのまま車体を持ち上げブリッジの要領で背後へと”落とす”。このさい重力軽減の魔法はとき、かわりに加重の魔法をかけている。車体はひっくり返り、虚しくエンジンの音だけが鳴り響く。

 

 アイビーに積まれたCADは両手が塞がるため、音声認識のものが積まれている。達也は思念スイッチ、あるいは音声認識にしろ番号の登録を主張したが、ここは森崎が意見を通したため、長ったらしい技名を叫びながら運用する恥ずかしい代物と化していた。

 

 少し距離を離して走行していたバンの運転手も、軽くひっくり返された仲間のバンを見てたじろぐが構わず、アクセルを踏み込む。森崎は上体をその場で起こすと今度は片足をあげた。

 

「ストンプ!」

 

 上げた片足を勢い良く降ろし、地面を踏み込むと今度は大地が揺れた。しかし走行を完全に阻害することはできない。2台目のバンはそのまま土煙が舞い上がる中へ突っ込み、…穴だらけになって止まる。よくよく見ると舞い上がった土煙は動かずその場で止まっている。

 振動系魔法と硬化魔法のコンビネーション”ストンプ”。地を鳴らし舞い上がった埃には硬化魔法がかけられ、幾多もの細く鋭い槍と化す。彼らはその槍衾の中へと足を踏み入れたのだ。

 2台目のバンがやられたのを見て、強行突破を諦めたのか3台目のバンは急ブレーキをかけ、後続のバンもそれにならう。中からマスクを被った戦闘員が何人も姿を表し、銃を構える。

 

「ってぇ!」

 

森崎は素早く両腕で口元を隠す所謂ピーカブースタイルをとり

 

「アクセル!」

 

自己加速術式をかけ銃弾の嵐の中へ駆けていく。

 

 

 

 

 同じ頃、講堂でもガス攻撃を受けたが服部と摩利によって難なくあしらわれていた。

 

「森崎は突破されたのか!」

 

「それはわかりませんが、おそらく大丈夫でしょう。ここまであいつの予測通りです」

 

 摩利も説明は受けていたが、やはり心配なのだろう。それを達也が宥める。

 

「委員長、自分は図書館へ向かいます。深雪」

 

「はい、お兄様」

 

 図書館には関本を配置していたが、念のために応援へ向かうべく、達也と深雪は講堂をあとにするのだった。

 

 

 

 

「あんなものを隠しているとは…っ!」

 

 ブランシュ本部で作戦の進捗をモニタリングしていた司一はモニタのパワードスーツを見ると立ち上がり、吐き捨てた。

 

「増援を送れ、あれを鹵獲するんだ」

 

 そう命令をして、椅子へと座り直す。

 

 

 

 

 アイビーの装甲は強化されており、対魔法師用のハイパワーライフルすら防ぐ。過信はできないが実戦においてその安心感は計り知れない。その装甲を活かし、森崎は銃弾をものともせず発泡してくる敵へと向かい肉薄する。

 

「ハハハハハハ、おまえらにこのアイビーの真骨頂をお見せしよう!ブースト!」

 

”アイビー”、その花言葉に恥じぬ必殺技を披露すべく、森崎はそう宣言する。瞬間的に加速し、最も近くにいた敵へと右肩でタックルをしかける。そしてインパクトの瞬間。

 

「キャッチ!」

 

 吹き飛ばした相手をすかさず硬化魔法でスーツに貼り付ける。相手を貼り付けるには突進し接触した瞬間を捉えなければならない。だが、森崎の神がかったセンスがその刹那を捉えて離さない。そしてそれを盾にしながら次の敵へと標的を変える。

 

「う、うわあああ、くるなああああ!」

 

 仲間がいるのにも関わらず発砲してくる。金属が弾かれる甲高い音に混じってバスバスと鈍い音が小気味よく鳴り響く。

 

「お前は前だ!ブースト!キャッチ!」

 

 十分に距離を詰めると、前面をがら空きにし敵へと突撃するが貼り付いた敵は向かい合わせになり、しかも。

 

「あ、あが」

 

「意識を刈り取れなかったか…」

 

 気を取り直して、他の敵に向き直るが

 

「やめろー、射つなー!」

 前面の肉壁がうるさい。しかしそんな悲痛な叫びも虚しく

 

「化物め!」

 

 敵は容赦なく銃弾を射ち込んで来る。

「ああああああああ、あ、ア…」

 

 何発もの銃弾を射ち込まれ、今度こそ意識を刈り取られる。森崎はそのマスクの向こうに悲哀な面持ちを見て取り、怒りに身を震わせる。味方を射つとは卑怯な。

 

「お前ら、よくも…」

 

 森崎の慟哭が止まぬうちに、そこへロケットランチャーが放たれる。

 

「リリース!」

 

 前面の肉壁を弾き飛ばし、ロケットランチャーの盾にする。同時に右肩に貼り付いた敵も吹き飛ばす。どの敵をリリースするかは決められないのだ。だが、それでいい。使ってみてわかったが余り役に立たない技だ。相手の士気を挫けると思ったのだが、その前に俺が挫けそうだ。戦場の無情さに。そんな感傷すら吹き飛ばすがごとくロケットランチャーの爆風が身を包む。

 

 

「や、やったか?」

 

 ロケットランチャーを放った敵はしばし安堵するが、しかし爆炎の中から姿を表した森崎にその身を膠着させる。

 

「お前らに今日を生きる資格はねえ」

 

そんな死の宣告を受け取り。




入学編終わるかと思ったけど、そんなこと無かったぜ

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