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達也と深雪は途中でレオ、エリカと合流し図書館へ向かっていた。
「襲撃があったって聞いて急いでCAD取ってきたのに…」
今のところ校内での戦闘はまばらで小競り合いの域を出ないものであった。それを見て落胆したようにエリカが呟く。
「不謹慎な女だぜ」
「あんただって期待してたくせに」
「森崎が校門で本隊を食い止めているから、別口の連中だろう。もし突破されればエリカの希望に沿えるんじゃないかな」
レオとエリカが言い争いをはじめようとしたため、達也が仲裁をするが、この場合もっとも不謹慎なのは達也だろう。それだけ森崎を信頼してるわけでもあるが。
「司波くん!」
女性の呼び声に一行は足を止め、声の方向へと注意を向けると、そこにはカウンセラーの小野遥がいた。無視するわけにも行かず達也は問いかけた。
「小野先生…、どうなされたんですか?」
「壬生さんが、図書館に居るわ」
「…、それはテロリストとしてですか?」
「ええ」
講堂内には壬生の姿は見えなかった。決起を起こした中核の彼女がだ。となると、必然居るところは限られた。
「カウンセラー、小野遥の立場としてお願いします。壬生さんに機会を与えてあげて欲しいの。」
あのあとカウンセラーの尻拭いを頼まれた達也だったが、にべもなく断り、図書館へ急いだ。図書館へ着くと入口の近くに一人の男子生徒がうつ伏せに倒れていた。達也はその男子生徒に注意しながら近づくと、関口の体を観察しながら耳元に顔を近づけ肩を叩いて問いかける。
「関口先輩!」
「うう」
「お兄様…」
「大丈夫だ、命に別状はない」
達也は答えながらも関口の全身を注意深く観察していく。
「傷も浅い、打ちどころも的確とはいえないな。血が固まっていない。襲われたのはつい先ほどか…、ふむ躊躇した跡が見られるな、おそらく顔見知り、当校の生徒の仕業だろう」
そういいながら達也は関口を仰向けにすると、上体を起こして近くの柱まで引きづり背を預けさせる。
「すまないレオ、ここで関口先輩を見ていてくれないか」
「構わないぜ」
「お留守番よろしく~」
「エリカ…、張り切るのは結構だが、相手が生徒だった場合は…」
「わかってるって、ちゃんと手加減するわよ」
そういうと達也、エリカ、深雪の3人は視線を交わし、頷き合うと図書課の中へ入っていった。
9話 代償
憤怒に染まった瞳をバイザー越しに見たような気がして、空のロケットランチャーを携えた敵は立ちすくんでいた。
「ぼさっとするな!射て、射ちまくれー!!」
近くにいた他の敵がそう叱咤した。まるで恐怖にかられた自分を奮い立たせるかのように。その声に気を取り直したかのように、一瞬おいて銃声が怒涛のように木霊する。そんな銃弾の雨を無視するかのように森崎はその場に立ち尽くし、顔を伏せると胸部に手をかける。そして勢いよく顔をそらせ、胸部装甲を外側に開く。まるで裸コートの男が服をはだけるように。そこには巨大なスピーカーが格納されていた。
『今開かれる、漢の世界…』
スピーカーからは陽気な音楽とともに渋い男の声が大音量で聞こえてくる。銃声をもかき消す大音量に敵たちは思わず銃を投げ捨て耳を塞ぐ。
「な、なんだ」「頭が…」
そんな行為を無視するかのように音楽は鳴り響く。耳を塞いでも体を伝わって音が頭に鳴り響く。その音が彼らの精神に思い思いの情景を想起させる。
『漢らしさとは、漢臭さとは…』
「やめろ、やめてくれー!」「うわああああああああああ」「うほっ」
中にはうずくまり地面に頭を叩きつけるものまでいる。一方、この騒音をまき散らしてる張本人はバイザーにノイズキャンセリング機能でもついるようで顔を反らしたまま悦に浸っていた。そして呟く。
「umm...mandam」
そして顔を戻し、胸を叩くように胸部装甲を閉じる。先ほどまでの轟音が嘘のようになりやみ、世界は静寂に塗りつぶされる。間をおいて外にいた敵は皆一斉に倒れる。白目をむいて泡を吹いているものが大半だがなかには、白目をむきながら恍惚の表情を浮かべているものもいる。
精神干渉系魔法”メズマライズサウンド”
アイビーに搭載された魔法を補助する武装の一つであるチェストスピーカーを通し発動する魔法。(アイビーの魔法はほとんどが音声認識によって発動するものだがこれは胸部装甲を開くことによって発動する)文字通り音を通して相手の精神に干渉する魔法。音の種類、相手によって効果はまちまちである。
「死ねえええええ」
その場に立ち尽くし戦果を確認していた森崎が声の方向へと視線を移すと、離れて待機していたバンのドアが開いておりバルカン砲が顔を出していた。その銃身はクルクルと回り始め、今にも弾を吐露しそうだ。どうやら少し離れたバンの中で待機していたため、難を逃れたらしい。と言ってもバルカン砲の射手は顔面は蒼白になり、よく見ればバンの窓もひびだらけになっていた。
「アクセル!」
あれはまずい。そう思った森崎は他のバンを盾にするように移動する。移動を開始した直後に先ほどまで森崎が立っていた場所をいくつもの風切り音が通りすぎ、そして砂埃を巻き上げる。今までの比にはならない銃弾の数、そして威力に流石の森崎も肝を冷やす。バン越しであっても弾が貫通し、アイビーの装甲を穿つがなんとか耐えられるレベルであり、バンが盾の役割を果たしてるうちに、森崎は校門脇の生垣目がけて飛び込む。森崎が生垣に飛び込んでも敵は構わずパルカンを撃ちまくり、森崎が盾にしていたバンが穴だらけのチーズのようになってからようやく銃撃をやめる。
「yeahhhhhh!」
パルカンの射手は嬉しそうにガッツポーズを決めて叫ぶが、そのポーズのまま固まってしまう。バンのさらに向う、生垣から車が飛んできたのだ。彼は慌てて未だ銃身冷めぬバルカンに体が触れながらも前面にダイブする。飛んできた車はバンの残骸を乗り越え綺麗な放物線を描き、彼の頭上をヘッドランプがかすめながら先ほどまで鎮座していた車にぶつかり、音をたてながら共に転がる。
「やろう…、どこに」
地面に伏せ、しばらく自分の生を噛みしめていた射手は気を取り直し、そのままうつ伏せになりながら腰の拳銃を抜いて生垣の方へと構える。静寂に自分の高まった鼓動だけが響き渡る。そして自分に影が重なるのを感じた。まさか…。彼は影が伸びている方向、後方へとゆっくり顔を向ける。
『今開かれる…』
生垣に入っても森崎は距離をとるべく奥へと進んでいた。面制圧を旨としたバルカンの銃撃はその間も止まず、射線上を外れた今でも時折アイビーの装甲を鳴らし、耳元を通り過ぎていくのがわかる。少しすると開けた場所に出た。教員用の駐車場だ。森崎は手近にあったセダン、復刻版クレスタがちょうどバンに向かって駐車してあるのを確認すると、手を当てる。
「少し拝借するか、保険もかけてるだろうし、なんなら父さんを頼ればいい」
これからすることに罪悪感があるのだろう。自分に言い聞かせるように呟くと意を決し、クレスタの前へ陣取ると車体に手をかける。しばらくして銃声が鳴りやむのを確認すると
「ジャーマン・スープレックス!」
重力軽減をかけた車体を後方へと”投げる”。その際、下ではなく横へと加重魔法をかけ、手を離れようとした瞬間すかさず
「キャッチ!」
硬化魔法で自分の手を車体へと貼り付ける。車体に引っ張られるのを利用して自分の腹を車体の下部に密着させ、加重魔法を調整し天井側を盾にして目的のバンへと飛ぶように調整する。車は天井を目的に向け地面と垂直になりながら飛んでいく。天地逆になっている森崎が見上げる形をとると、生垣を抜け、先ほどまで盾にしていたバンが無残な姿になっているのが目に入る。まだだ…。少しして、敵兵とすれ違うのを確認する。今だ!
「リリース!」
目的のバンにぶつかる寸前を見計らい、身を寄せていたクレスタを吹き飛ばし分離する。リリースの反動を利用して絶対速度を0にすると、車から離れた森崎は頭から落ちる形となるが、地面に手を着き倒立の形をとる。その瞬間、クレスタとバンがぶつかり爆音をたてた。その破片がアイビーの装甲にあたり、パチパチと音をたてる。少しして地面に足をつけ、体を起こすと数メートル先に敵が伏せているのが目に入る。敵は少しして慌てて拳銃を取り出し、生垣の方を警戒している。森崎は他に敵がいないのを確認すると、注意しながら敵へと近づいてくいく。胸に手をかけたところで敵がようやく気づき、こちらに振り返る。それと同時に胸部装甲をはだける。
『今開かれる…』
「umm...mandam」
離れていたとはいえ、あれをくらって動ける敵がいたことに内心驚いていた森崎は、今度は至近距離で”メズマライズサウンド”を浴びせてみた。今度はしっかり効いたようで泡を吹いて、首をかきむしりながら失神した敵を満足そうに見下ろす。なかなか癖になりそうだ。余韻に浸っているとまた校門側からエンジンの音が聞こえてくる。
「装甲車…、あんなものまで…」
森崎が目を向けると装甲車が3台こちらに近づいてくる。流石にあれは受け止めらない。そう考えつつも森崎は先頭の装甲車に向かって駆ける。
「アクセル!」
自己加速をかけスピードを上げる。両者のスピードは時速80km以上、相対速度にして160kmを超す。距離はグングン詰まっていき、残り十数mのところで森崎はスライディングの体制をとる。その間も両者の距離は詰まり、森崎が車体の下部を潜る瞬間
「グラビティパンチ!」
森崎は自らの質量を極限まで上げる。生身では動けなくなるほどの重量となるが、アイビーのアシストがある森崎は片手を上げ車体の下部にフックをかます。バゴンという鈍い音ともに装甲車は減速もせずケツが上がり、宙返りになる。そのままスライディングをしていた森崎は勢いそのままに立ち上がるともう一輛へ駆けていく。目的の車輛はブレーキを踏み、上部の機銃が近づく森崎に狙いを定める。
「フラッシュ!」
森崎がそう叫ぶとアイビーの頭部についたパトランプが眩い光を放つ。射手の目を潰し、その間に肉薄する。ジャンプをし車輛に勢いよく飛び乗る。射手を見ると未だに目が見えないらしく、呻きながら手で顔を覆っていた。すかさず射手を回し蹴りで吹き飛ばすと、銃座から機銃をもぎ取り車体に押し付け引き金を引く。まんべんなく蜂の巣にし機銃がオーバーヒートするまで撃ち尽くす。その機銃を投げ捨てると最後の1台に顔を向ける。既に停止していた装甲車からは、搭乗していた敵が何人か降りてこちらに銃を構えている。
「さあ、フィナーレだっ!!とう!」
森崎はそう叫び空中に飛び上がると、一回転してその場に浮遊する。
「キャストオフ!」
「脱いだぞ!」「馬鹿だぞ、あいつ!」「今のうちだー」
「クイック・ドロー・ザ・カーテン!」
「「「えっ」」」
敵兵らは森崎が装甲をパージしたのに一瞬驚くがすかさず、引き金を引く。しかし、次にはパージした装甲がカーテンが降りるのかのように壁を作り、銃弾を防がれてしまう。
「カーテンコール!」
空中で待機していた森崎はそう叫ぶと自らが作った壁へと飛び蹴りを放つ。それと同時に壁が回転を始める。森崎の足が壁に触れると幕をついたかのように足にまとわりつき、一本の高速回転する槍となる。森崎はさらにスピードを上げ、ついには自分も回り始める。そしてそのまま装甲車を貫く。着地するとすかさずジャンプをし、空中でアイビーがスーツ形態へと戻っていく。綺麗な穴の開いた装甲車をバックに距離を開け、手を開いた状態で左手を横に、右手を前にして、開脚状態で着地する。ゆっくり手を引き寄せる動作をしたのちにバッと顔を伏せ、左手を地面に置き右手で顔を覆うポーズをとる。同時に背後の装甲車が爆発し唖然としていた敵もろとも吹き飛ばす。
(決まった…、うぷっ)
森崎は回りすぎた吐き気からか、思わず顔を覆っていた右手で口元を押さえてしまう。
「まだだー!まだ終わらんぞ!」
どうやら一人敵が生き残っていたようだ。吐き気をこらえながら立ちあがり振り返ると、敵は何もせずそのまま立ち尽くしており、そのまま倒れた。
「大丈夫か!森崎!」
声の方向へ振り向くと摩利が魔法を発動していた。安堵感からか吐き気がさらに強くなる。
「い、委員長…、だめだ、来ちゃいけない…」
「何言ってるんだ馬鹿者、フラフラじゃないか」
「ア、アア…」
今にも倒れそうな森崎を、摩利は正面から支える形で抱き留める、抱き留めてしまった。摩利はアイビーを着こんだ森崎には異性としての感情は抱いていないであろう。そしてアイビーを着こんだ森崎の身長は摩利より高い。それはもう顔一個分以上高い。
「うぷっ」
ピッピッピッ、コーコー
「……という訳で、壬生先輩を追い詰めたのは、どうやら渡辺先輩 のようですね」
生命維持装置の音が響く保健室で、壬生紗耶香を中心に幾人かの生徒が集まっていた。その中で摩利は一人、なぜか体操着を着て、かつきつい香水の匂いを漂わせていた。
「……すまん、心当たりが無いんだが…… 壬生、それは本当か?」
ベッドを一つ挟んで、カーテンが閉め切られている場所があった。そこに居るのは森崎である。もともと森崎はサイオン量が多いわけではない。そんな彼がアイビーを使い燃費の悪い戦い方をしたため、重度のサイオン枯渇に陥っていた。もっとも身体のいたるところに傷も見られる。余程激しい戦闘だったのだろう。…だろう。そんな彼は念のため生命維持装置に繋げられている。しかし彼はスピードスター。回復も早い。話の途中で意識を取り戻した。
「最初から、委員会や部活連の力を借りるつもりは、ありません」
「……一人で行くつもりか」
「本来ならば、そうしたいところなのですが」
どうやら敵の本拠地に乗り込むつもりらしい。
「お供します」
森崎は置いてけぼりを極端に嫌う。逆は大好きだが。
「あたしも行くわ」
待て、俺を置いていくな。
「俺もだ」
「お、俺を置いて行ったりはしないよな?」
今にも死にそうなか細い声がカーテンの中からあがる。一同はカーテンを見やるが、摩利だけは無表情で正面を見ていた。少しして摩利がカーテンの中に入っていく。
「ふん」
「グボア」
鈍い音のあとに苦鳴があがり、その後摩利がカーテンの中から出てくる。そのまま何事もなく会話を再開した一同であったが、しばらくして
「えっ? 十文字くんも「ピーーーーーーーー」…、もううるさいわね」
話を遮られた真由美が眉をひそめカーテンの中に入っていく。
「えい」
そんな可愛らしい掛け声とともに保険室は無音に包まれる。その後すぐに話はまとまり、遥が紗耶香のの付き添いとして保健室に留まることになった。他の面々が保健室を退室すると
「「森崎君!」」
遥と紗耶香は思い出したかのように森崎のいるカーテンへと急いで駆け寄る。
あの後、達也達の襲撃は無事成功した。もっともすでに敵はほとんど残っておらず、リーダー格の男は隅で頭を抱え”メンダム、メンダム”と呟いていたという。
そして森崎とテロリストとの戦いで荒れた校門に、一人の男がスクラップと化した愛車を前に地に伏していた。憤怒の形相をたたえ、土を握りしめる。
「おのれ…、森崎っ」
1-A担当教諭がそう呟く。
「退院おめでとうございます」
五月、紗耶香の退院の日、達也と深雪はお見舞いに来ていた。達也は紗耶香の父との縁を驚いたり、エリカや桐原を交え楽しく会話をしていた。
「慣れない入院生活で寂しくはありませんでしたか?」
「大丈夫よ、桐原先輩が毎日来てたし」
エリカが茶々を入れるが、達也が思い出したようにつぶやいた。
「そういえば、森崎も居ましたね」
「え、あ、うん」
紗耶香の表情に影が落ち、エリカと桐原も居心地悪そうにする。
「森崎君、あの時少し頭をやられたらしくて」
そういい、ロビーの一角を見やる。そこには森崎が居た。虚空を見つめあごをさすっている。そして
「umm...mandam」
「ずっとあんな感じなの、先生たちはもう少し時間がかかるかもって言ってたけど…」
紗耶香はその先を口にはしなかった。
「umm...mandam」
つづく
思いつきでネタを引っ張るもんじゃないね。おかげで収拾がつかない状況に陥りました。この一週間近くネタスーツの能力を考えるのがほとんどでした。
まあひと段落したし、1話か2話挟んで九校戦にいきたいと思います。