やぁ・・・諸君・・・長門だ・・・その、警備府を案内されて食堂まできたんだが・・・間宮にさっそく親子丼を注文したらびっくり・・・なんだこれは。大淀は食べた瞬間机に突っ伏した。
「うぐぅ・・・」
「ごごごごごめんなさいいぃぃぃ!わた、わたしまだお料理は練習中で・・・!!お菓子なら得意なんですけど・・・」
「そ、そのようだな・・・」
親子丼がまずい。やべぇよこれ。見た目もやばいし味もやばい。それどころか注文した時も間宮はげっやばいって顔したし作ってる時も悲鳴が聞こえてきてやばい。
「ま、間宮・・・君も最近建造されたクチか・・・?」
「わかりますか・・・?」
だろうな。そうでないならいかんよきみぃ。
「大淀・・・平気か・・・」
「ふ、普段は・・・長良型の皆さんが作ってくれるんですよ・・・ぐふぅ・・・」
「間宮!特訓だ!私が教えてやる!」
「ひ、ひぇえええ・・・」
幸い中華鍋もある。大戦艦サイズだが親子丼も作れるだろう。そしてそうこうしてる間に提督と天龍がやってきた。
「長門さん、間宮の料理はどうだった?」
「・・・これからに期待、だな。」
「やっぱりそうかー」
「ぐぬぬ・・・」
修行中ならそう言ってくれ。・・・天龍も元に戻ったみたいだな。
「それで提督、私はこの大湊で何をすればいい?」
「・・・向こうでの事情はある程度聞いてる。通常任務につかせてやりたいところなんだが・・・それじゃあ上は黙ってくれない。」
「そうだろうな。実弾もって本部の演習監視を逃れるような危険人物を、そう簡単に戦線復帰させたなら本営を疑わなければならなくなるな。」
「そこでだ。俺と提督で話し合って長門には新造艦の教育、つまり俺の補佐だな。それをしてもらうことにした。退屈そうなことですまん。」
「いや構わない。少し戦線から離れていたしな・・・」
「教育なんていっても大層なことはしない。建造されたばかりの艦娘が大湊で馴染めるように数日基礎訓練等の面倒を見てもらう、そんな感じだ。」
「わかった。それにしてもここはそんなに盛んに建造しているのか?」
「うちは大型艦が顕現しづらいらしくて・・・ならば軽巡や駆逐艦の強化にあてるべく建造で船魂を増やしているんだが。それでもそんなに建造はしない。」
「懸命だな。警備府ではそんなに資材も潤沢ではないだろうに。」
「まぁ皆強化に頼らず訓練で練度を伸ばしているから建造はしなくても問題はない。」
なんと勤勉なやつだ。若いからと侮っていたが・・・撤回しよう。横須賀の提督も、バカながら努力家だった。バカも移っていなさそうだし。・・・本当、有能なんだがどうしてあの突っ走る癖と勘違い癖は直らなかったのか。仕事では見せないんだがな。
「・・・ん?ちょっと待て。建造はあまり行わないというなら私の仕事は・・・」
「・・・そうだな。まぁ一応形は左遷になっているから・・・」
「あぁ・・・」
決まりました。職業「艦娘ニート」でございます。
「長門さんがこの警備府で出来ないことは演習、遠征などの出撃申請だけだからそれ以外は自由にしてくれ。それと一応数日したら本営から中将が横須賀とここに様子を見に来るらしい。正確な日時は知らされてないが・・・」
「わかった。いわゆる大人しくしているところを見せればいいのだろう?」
「そうだ。長い休暇だと思ってくれ。」
願ってもない・・・なんてこと長門のキャラ的には口が裂けても言ってはダメだな。休暇なら、それこそ艦娘と仲良くなる算段を立てながら過ごせばいい。まずは間宮からだが。あれを親子丼と言うのはダメだ。
「今日は仕事の話はこの辺にしておこう。ご苦労長門さん。」
「ありがとう提督。今日は・・・間宮と料理でもしようと思う。」
「お!じゃあ晩飯は期待しよう。」
「いいなぁ長門、休暇三昧か。ま、でも実質引退でもいいんじゃないのか?」
「ほぉ、天龍、言うようになったじゃないか。」
「おー怖い怖い。そいじゃ俺も次の遠征計画書書かなきゃならねぇから行くぜ。」
「大淀、起きろ。いつまで寝っ転がってるんだ。」
「はいー・・・提督・・・」
食堂から出て行った三人を見送って、と。さぁ間宮!私と話をしよう!せめて食べても大丈夫なくらいの親子丼を作れるようにするんだ!
「間宮・・・給糧艦だからレシピなどは頭に入っているな?」
「ひぅ!はい!」
「ならば・・・数をこなして腕に覚えさせるしかないか・・・」
「はい・・・」
「いいか間宮、充分承知しているとは思うが食事は士気に関わる。かの大侵攻で作戦成功の要となったのは美味い食事であったとも言える。」
「はい・・・!」
「ちょうど良いからまずは私の好物の親子丼からだ。部屋に戻って準備をしてくる。それまでに台所の準備をしておくように!」
「りょ、了解!」
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まずは中華鍋だ。鳳翔からもらった中華鍋、これはいつぞや私がまっぷたつにしてしまった物を直した物だそうだ。もうどこから割れたかなんてわからないくらいキレイに直っているな。あとは赤城からもらったエプロンと・・・加賀からもらった包丁、お玉などのお料理セットだ。ふむ四スロを満載にして、いざゆかん!!
「戦艦長門、出撃する・・・!」
すべては親子丼の為・・・親子丼さえあれば燃料がなくても出撃出来る。そして鳳翔から教えてもらったみんなでご飯を食べて仲良くなる方法を実践するためにも美味しい食事がないとな。恐らく長良型は出撃や訓練の後に食事を作るのだろう。それは酷だ。長良型は努力家な艦娘で有名だし、少しでも負担を軽くしてやらねば。
「・・・食堂はどっちだったかな?・・・こっちか・・・」
「・・・!?」
「ちょっと名取どうし・・・!?」
んん?なにか視界の端にいたような気がするが・・・今はそれより親子ど・・・間宮だ。
「な、誰アレ!?全身傷だらけ、でエプロンして・・・あの大きさ、戦艦!?」
「て、提督が言ってた・・・あああ新しくきた艦娘じゃないかな・・・?」
「じゃあなんでその新しくきた艦娘がエプロン着てウロウロしてるのよ!」
「なんか・・・すごく怖い顔してたよぉ・・・!それに首元の、遠くて見えなかったけど銀色の錨のマーク・・・」
「ま、まさか、海軍国防勲章・・・!?伊勢型は短髪だって聞いてるから違うし・・・長髪であの威圧感・・・まさか長門型・・・太平洋の英雄!?」
「い、五十鈴ちゃん、み、みんな知らせた方がいいのかなぁ・・・?」
「と、とにかく大湊に長門型が来るなんてただ事ではないわ!名取、提督に聞きにいくわよ!」
「う、うん!」
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「準備はいいか間宮?」
「はい!」
「よし。ここ大湊は食べ盛りの軽巡、駆逐艦の艦娘が多いと聞く。ならばたくさん食べられる物がよい。鶏肉は何がどれくらいある?」
「えっと、もも肉は28キロ、ムネ肉が40キロ、ササミが50キロです。」
「すげぇ」
「?」
「んんっ!卵はいくつある?」
「ええっと・・・紙には600個と・・・」
「えっと・・・それは何日分なんだ・・・?」
この鎮守府の食事事情はどうなってるんだ・・・?とりあえずいまの時間はヒトロクマルマルを過ぎたところ。晩飯までは間に合うか。
「恐らく一週間分では・・・ないかと。」
「実は空母が混ざってないか?」
横須賀の様に艦娘多く、戦艦や空母がいるなら一週間分は納得はいく。
「まあとりあえず40人分を目指して作る。」
「わかりました!」
「使うのはムネ肉だ。7・・・いや8キロにして持って来てくれ。私はタマネギを切る。」
「8キロ・・・8キロ・・・わかりました!」
「中華鍋を温めて・・・」
ここで簡単なメニューだ。私好みの親子丼。
卵・・・中玉二個
鳥ムネ肉・・・200g
片栗粉・・・適量
タマネギ・・・1/2個
油揚げ・・・一枚
薬味ネギ・・・適量(私は二本)
割り下の材料
水・・・200cc
みりん・・・160cc
濃い口醤油・・・40cc
昆布つゆ・・・40cc
砂糖・・・適量
これは一人分だ。
「うおおおお!!!」
艦娘だからタマネギで涙は出ない。便利な体だなぁ・・・
「よし、次はあぶらあげだ!」
「あ、あぶらあげですね!」
「この明石特性の包丁なら一辺に切るのも楽だ・・・よし。間宮、持って来たムネ肉を一口大に切って麹で揉み込み、薄く片栗粉をまぶしておけ。」
「ムネ肉を一口大に・・・はい。」
「その間に割り下だ。豪快に材料を中華鍋にいれて温める。」
「卵もってきました!」
「よし、卵は黄身と白身に分けておけ。分け終わったら私がかき混ぜる。白身は・・・メレンゲでも作ろう。」
「は、はい・・・ひー!終わりが見えない・・・」
「麹を揉み込んだムネ肉、タマネギ、油揚げを割り下にどばぁー。肉に火が通るまで煮込む。・・・この量を作るのは初めてだからよく見ておかないとな・・・」
「ひーっ・・・ひーっ・・・卵、分け終わりました・・・」
「流石給糧艦。仕事が早いな。」
「う、腕・・・ひぃー・・・腕を換装したいです・・・」
「ここまでくればもうすぐだ。米はどうなってる?」
「炊いて・・・あります・・・ふぅ。釜二つです。」
「わかった。」
大分早足で進んだが大丈夫だろう。そういえばこの作り方は鳳翔の言うところ京風、らしい。そういうのにはさっぱりだ。美味ければいいではないか。
「間宮は作ったのは肉に味が染みていなくて、さらに割り下は濃すぎ、卵もしっかり混ざっていないなど問題点がある。覚えておけ。」
「はいっ!」
「お腹空いたっぽいー?」
晩飯の時間まではまだまだあるが、早速ニオイに釣られた子がいるらしい。
「すまんなまだ出来ていな・・・」
「あら夕立ちゃん。お腹空いちゃったの?」
「お腹空いたっぽいー」
・・・!?ゆ、夕立・・・?え?小さい?横須賀にいた夕立は14才ぐらいの姿だったぞ?え?どうみてもこの夕立の姿は五歳くらいだ。嘘だろ。戦えるのかこれ。
「お姉さんみたことないっぽいー」
「あ、ああ私は今日着いたばかりなんだ。戦艦長門だ。よろしく頼む。ゆ、夕立・・・?」
「よろしくっぽいー。でもお姉さんいっぱい怪我してるっぽいー?痛いの痛いのとんでけーっぽい。」
「あ、ありがとう夕立。」
いかんな。これはいかん。いかんよ。いかんな。いかんいかんいかん・・・はっ!しまった今は料理中だ。鍋から目を離してはいかん。
「危ない危ない・・・間宮、夕立を頼む。」
「はーい。」
良いにおいだ。親子丼は完成で良いな。味も・・・うむ。鳳翔の作った物には劣るが美味い。
「後は薬味ネギを切って・・・うむ。」
「夕立、ねぎはいやっぽい。」
「わかった。夕立のからは避けといてやろう。」
「ありがとうっぽい。」
米が炊けるまではまだ時間はある。ならば焦げないように親子丼を煮るというのもいいな。私の好みだが。
「長門さんは・・・いつお料理を習ったんですか?」
「ん?これは・・・いつだったかな?覚えていないな。それに作れるのは親子丼だけだ。」
「あれーっ!?間宮さんがご飯当番なのにすごい良いにおいするー!?」
「あああー阿賀野お腹空いたー!」
「ちょっと阿賀野姉、だらしないったら!」
「ぴゃー!おさないでぇ!」
「酒匂!まったく・・・」
「睦月型とうちゃーく!みんなお茶碗もって着席-!」
「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」
「綾波型も全員いまーす!」
おおおそろそろ晩飯の時間だからか。みんなやってきたな。ほんとに軽巡と駆逐艦しかいない艦隊なんだな。
「長良型、上二人以外はいます。どこにいったのかしら・・・」
「まぁー報告じゃない?訓練で正面海域つかってたしー。」
「もう鬼怒・・・少しは心配してあげたらどうなの?」
「姉さん達ならそんな簡単にやられないっしょ!」
ふむ、長良型がいると聞いたが全員いるとはな。夜戦に対潜なんでもござれの強力な水雷戦隊だ。しかし夕立のような幼い姿になっているのは・・・いないな。いや睦月型は大体幼い外見だけども。
「・・・あれ?間宮さーん?なんでカウンターに座って・・・」
「あー長良ー。今日は間宮さんじゃなくってお姉さんがご飯作ってくれたっぽい。」
「ん???お姉さん???いつの間に白露型が・・・?」
「白露ちゃんじゃなくてお姉さんっぽいー」
「んんん???」
そうこうしていたら米が炊けた。釜を空けるとふんわりと米が輝くように炊けている。腹が減った。
「間宮!米が炊けた!飯にするぞ・・・?」
私が台所から出ると全員の視線が一気に集まった。その視線は様々な感情を含んでいる。そんなに見つめられると照れるなぁ。それよりもみんなご飯にしないのか?
「せ・・・」
「ん?どうした。まずはご飯にしよ・・・」
「戦艦だーっ!!!」
第一印象はインパクトが大事。長門覚えた。