やぁ諸君。長門だ。とうとうココ大湊の工廠を大型建造用に改装する。さすがの資材量だ。警備府の敷地の半分が資材で埋まった。夕立があぶないところに行かないように。おんぶはかかせない。
「大本営より派遣されてきました!本日より大湊の所属になります!工作艦の明石です!よろしくお願いします!」
「大湊警備府提督の渡辺博則だ。よく来てくれた。歓迎する。しかし・・・すさまじい量ですなこの資材は・・・」
「そうですねーまだ実験段階なのでドックの改装資材の他に研究用の機材とかもありますので。」
「なるほど・・・。」
「ところで提督。」
「なんだい?」
「あそこでこっちを見ている面白い格好の怪しい人は誰なんでしょうか・・・」
ん、明石がこっちを見ているぞ。何か用だろうか。運搬なら任せろ鉄骨の二、三十本など軽く運んでやるぞ、
「私に何か用か?」
「うぇっ!?えっとぉ・・・」
「あ、明石君、紹介しよう。我が大湊唯一で最強の戦艦長門だ。背中のは夕立だ。」
「長門戦艦一番艦、長門だ。資材の運搬なら任せろ。」
「ぽいっ!」
「あ、あはは、貴方が・・・よ、よろしくお願いします・・・工作艦の明石です・・・えっと、ドックの工事は私と妖精さんで行うので・・・」
「・・・そうか。」
「(めっちゃしょんぼりしてる。)」
必要ないなら仕方がない。大人しくしていよう。エプロンを締め直して食堂に向かうとしよう。今日の食事当番は私だ。親子丼を作ろう。
「今日はママのお昼ご飯っぽい?」
「そうだ。親子丼だ。」
「いっぱい食べるっぽいー!」
「うむ。そうするがいい。」
そういえば私が歩くとのしのしと音がすると卯月に言われた。まぁ・・・体格の差だから仕方がないな。身長2mを越しているとそりゃあ足音も存在感のある音になる。これからは軍艦マーチでも流しながら練り歩いてやるか。
「間宮!いるか?」
「はーい長門さん!お昼ご飯の用意ですね?」
「そうだ。材料を頼む。」
夕立を降ろし、お子様椅子に座らせる。そして手を洗おう。台所に入るならば常識だな。肘までしっかり・・・
「長門さーん!」
「ただいまぴょーん!」
「お腹すいたぁー!」
「すいたぁー!」
お昼の時間が近くなると待ちきれない駆逐艦達が集まってくる。特に睦月、卯月、皐月、文月はいつも一番乗りだ。
「おいおいお前達、まだ速すぎるぞ?」
「待ちきれなくてきちゃった!」
「それならばまずは手を洗ってくるんだ。いちごがあるからそれを食べて待っていなさい。」
「やったぁー!いちご大好きぴょん!」
「あ!長門さんまたですかぁ?もー駆逐艦には甘いんだから!」
「む・・・大丈夫だ。みんなに甘いぞ。」
「そういう問題じゃありません!」
怒られてしまった。いいじゃないか。お昼ご飯が食べられなくなるくらい食べさせるんじゃないし。
「夕立もいちご大好きっぽい!」
「わかった。ちょっと待ってるんだ。」
夕立の手も洗わないとな・・・だっこして椅子から持ち上げると、ん?何かがぼとりと・・・
「あ、落っこちちゃったっぽい。」
「爆雷・・・!?夕立!艤装は危ないからちゃんとしまっておきなさいといつも言ってるじゃないか。」
「ごめんなさいっぽいー・・・」
「ほらお片付けする。」
「ん~・・・ぽいっ!」
ちっちゃな煙とともに爆雷が消える。もう驚かなくなったがいったいこれはどういう原理なのだろうか。謎は深まるままだ。
「手ぇ洗ってきたにゃしー!」
「わーい!」
「いちごいちごー!」
「まってぇー!」
「よし夕立も今手を洗うから少し待っててくれ。」
夕立の手をあらって、お子様椅子を睦月達の席まで移動。そして速やかにいちごを盛りつける!完璧だ。
「待たせたな!」
「いただきまぁーす」
「いただきますぴょん!」
「いただきます!」
「いただきますー!」
「いただきますっぽい!」
ふむふむ・・・美味しそうに食べてるなぁ~あぁ^~駆逐艦はいいものじゃあ^~
「はれぇ長門さんは食べないのぉ?文月の一個あげるねぇ!」
「む!そうかありがたくいただこう!」
「はい!あーん!」
「・・・もぐ。美味いぞ文月!」
「えへへ・・・」
・・・はっ!そういえばお昼の用意をするのだった!!!いかんいかん。文月で悟りを開くところだった。・・・?悟り・・・小五ロリ・・・
「長門さんどうしたぴょん?」
「宇宙はここにあり」
「「「「!?」」」」
「んん!!なんでもない。さて私は厨房に戻るぞ。すまないがお昼が出来るまで夕立を頼む。」
「わ、わかったにゃし・・・」
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いつも通り大量の親子丼を作った。みんないっぱい食べるんだぞ!っと思ったら一人だけ食が細い子がいるな。いつもはみーんな三回くらいオカワリするんだが・・・心配だ。何か困っていることでもあるのだろうか。
「・・・。」
「ママ~?」
「ん、すまないな。あーん。」
「ぽいっ!」
「・・・。」
それぞれが挨拶をしてデザートを頼むなり、紅茶やコーヒーなどで一休みしている中、その子はひとりだけ静かに食堂を出て行った。・・・むぅいつもはみんなと一緒で仲良しなのに・・・喧嘩でもしたのか?
「・・・間宮、すまんが夕立を頼む。」
「え、あ、はい。」
「おやつの時間には戻る。」
「結構かかりますね・・・わかりました。」
「すまん。」
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「・・・。」
ぼんやりとドックの工事現場を見つめるその背中はかの大侵攻で見た、先の見えぬ不安に怯える背中とよく似ていた。そしてそのような雰囲気を出す艦娘は例外なく、帰ってこなかった。私はそれを幾度となく見過ごしてきた。変わりはいくらでも補充されるからだ。しかし今は時代も違えば艦娘のあり方も違う。2度と見捨てるものか。
「どうしたんだ。」
「・・・!長門、さん・・・」
「工事現場に近づいたら危ないだろう?」
「これ・・・ドックの改築なんですよね・・・」
「そうだ。試験的に新しい建造システムを導入する。」
「それで、新しい艦娘が出来るんでしょうか?」
「そうだな。より大きな、より多くの船魂を召喚し建造することが可能になるだろう。」
「長門さん・・・長門さんは艦娘ってなんだと思いますか?」
「・・・艦娘は兵器だ。戦う道具だ。」
「・・・道具、ですか。」
「ああ。どうしても抗うことの出来ない壁がそこにある。」
「・・・悲しい、ですね。」
「そうでもない。道具でもこうして心があり、自らの意思で歩き、自らの意思で選択することが出来る。悲しい存在だと言うならそこから脱却する道を進むことも出来るのだ。」
「ふふ・・・流石、長門さんかっこいいですね。この新しいドックを見て艦娘ってなんなんだろうと思ってたんですけど、なんかすっきりしました!」
彼女は普段の明るい表情を取り戻してすこしほっとした。しかしだ。この長門の目はごまかせない。悩みはそれだけではないはずだ。独特の雰囲気は消えていない。徹底的に解消してやろうじゃないか!
「そうか・・・だが、それで終わりって顔はしてないぞ・・・如月。」
「わかっちゃいますか・・・?」
「・・・何があった。」
「・・・。」
「黙っていたらわからないぞ如月。私は如月の味方だ。この長門に全て任せておけ!」
「・・・長門さん、あの・・・うぅ・・・」
「大丈夫だ。泣くほど辛かったか・・・よしよし。」
「長門さん、長門さんは・・・」
「うむ。どうした?」
「言葉を・・・言葉をしゃべる深海棲艦を知っていますか・・・?」