やぁ・・・諸君・・・長門だ。その・・・なんだ、気がついたらまた私は大分眠っていたらしい。大湊に来てから戦ってもいないのに入渠して寝てるのが多くなった気がするぞ。横須賀にいたときより大分しんどいなこれは・・・ふにゃふにゃと白いベッドから起き上がって水差しの水を飲む。喉がからからだ。しかし・・・何か恐ろしい目にあった気がするぞ。何が起きたかはあまり覚えていない・・・確か・・・目の前に戦艦級深海棲艦が二体・・・うっ・・・あたまが・・・
「おーい・・・誰かいないかー?」
「・・・。」
ちょこっと開いた扉から跳ねた髪が特徴の金髪とくりくりの深紅の瞳が覗いている。・・・はて、あれは、まさ、か。
「ぽい・・・?」
「夕立っ!!!」
「ぽいっ!?」
「待っ・・・ほげぇっ!?」
この長門、一生の不覚。慌ててシーツに足を取られ、ベッドから豪快に落ちるとは・・・地味に痛い・・・
「ママっ!」
「うぐぐ・・・すまん夕立、手を貸してくれ・・・」
「ママ・・・」
夕立がこんなに大きくなるくらい寝ていたのか・・・いやいやいやそんなわけないだろう。寝ぼけている場合ではないぞ・・・あー何か思い出してきた・・・
「ママ・・・ごめんなさい・・・夕立の魚雷で、ママを怪我させちゃったの・・・ママを守るって強くなったのに・・・ごめんなさい・・・ママ・・・」
「ん・・・夕立、顔を上げなさい。大丈夫だ。私は怒ってないよ。それより、どうやって改二になったんだ?阿賀野達と海上に出ていたのに・・・」
「わかんないっぽい・・・阿賀野ちゃん達と訓練してたら深海棲艦に囲まれて・・・それでママのいる警備府にも敵が来てるってわかったら、わーっ!てなってこのーっ!てなったら改二になった・・・ぽい?」
「ふむ・・・さっぱりわからん。」
もともと夕立は謎が多い艦娘だった。今更でっかい謎がもうひとつ増えようと私は気にしない。
「でも、ママほんとに心配したのよ?ずーっと起きないんだもん・・・」
「・・・待て、どれくらい寝ていたんだ?」
「えーっと・・・一週間くらい?」
「・・・まじか」
一週間!なんと・・・前回の艤装爆発は三日も寝ていたし・・・もう私は本当に老朽化がはげしいんだなぁ・・・
「そうか・・・とりあえず、お腹空いたな・・・」
「大丈夫!夕立が作るよ!」
「お・・・大丈夫か・・・?」
「大丈夫よ!ちゃんともや・・・親子丼作れるよ!ママがいつ起きてもいいように練習したの。」
ええ子や。夕立ええ子や。流石私の夕立だ。親子丼の作り方も覚えてしまうなんてなんて優秀なんだ・・・
「すぐ作るね!」
「ああ!楽しみにしているぞ!」
「おーい夕立、お前演習の報告書まだ、出して・・・」
「お、天龍、おはよう。」
「な、長門オオオオオオオ!!!!!大丈夫かああああああああ!?!?!?」
「うおおぉっ!?」
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天龍がわんわん泣き出してしまってみんな集まってきて、私が起きたことが知れ渡った。もう病室に入る度に駆逐艦の子達が泣き出すのでそれはもう大騒ぎだった。何せ敷波や曙まで泣き出すのだ。・・・みんな優しいな。私は大して戦えてないというのに。
そして私が眠っている間に大湊警備府では様々な変化があったようだ。そのひとつが。
「ねえええええええええさああああああああああああん!!!!!よがっだよおおおおおおおお!!!!!」
「陸奥・・・もう泣き止め、可愛い顔が台無しだぞ?」
「でもぉぉぉぉぉ!!!うあああぁぁぁぁん!!!!」
「もう、陸奥さん?ダメですよ?長門さんは病み上がりなんですから。」
「鳳翔もすまない、わざわざ来てもらって・・・」
「いえ、長門さんの一大事とあってはすぐに駆けつけますよ。」
「ヘーイ!長門-?まーた無茶したんじゃないデスカー?」
「金剛・・・もう勘弁してくれ、大湊のみんなにこってり絞られたのを見ただろう?」
「フフーン!ビッシーもものすごーっく心配してたネー!怒られるの、覚悟シテクダサイネー?」
「はぁ・・・ビス子はしつこいからなー」
「長門さん、長門さんはここ大湊で娘を迎えたと聞きました。不知火は、何の、落ち度があっで!ながどじゃんのむずめに!むがえでもらえばがっだんでじゅか!」
「ま、待て不知火・・・泣くな・・・夕立はたまたま、たまたまだ!」
「長門さん!夕立さんは改二だと聞いています!駆逐艦最強の火力・・・すごく興味深いです!!」
「あ、朝潮・・・お前はそんな鼻息荒くする武闘派だったか・・・?」
今私のベッドの周りには懐かしい面子が並んでいる。そう、横須賀から戦力が送られてきたのだ。長門型艤装が二つを含めた水上打撃艦隊だ。陸奥、鳳翔、金剛、不知火、朝潮の馴染みのある面子だ。
「お、皆さんここにいましたか。」
「提督に敬礼!」
陸奥の一声で私以外の全員が敬礼をする。
「なおってくれ。」
「ママーっ!親子丼持って来たっぽいー!」
「良いにおいだ。ありがとう夕立。」
「長門さんはゆっくり休んでくださいな。そしてやっぱりへんなことしてくれたな・・・まさか艤装も無しに戦うとは思わなかった・・・」
「意外といいとこまでいけたんだぞ!砲弾を私の鉄拳でがんがん弾き返してだな・・・」
「姉さん?」
「お、おう。」
陸奥の奴、いつのまにあんなおっかない眼光出来る様になったんだ・・・
「ママ、はい、あーん。」
「お、おい夕立・・・私は一人で・・・」
「ママは怪我人っぽい。」
「いや、だがな・・・」
「ぽい。」
「・・・。」
「ぽい!」
「あ、あーん・・・んむ」
「ママ?美味しい?美味しい?」
「うむ、美味いぞ。」
「へぇ・・・姉さんを押さえ込むなんて・・・夕立ちゃん、貴方姉さんを越える大物になるわよ。」
「ほんと?むっちゃん?」
「はぁ~いいわぁ~姪っ子かわいいわぁ~艦娘やっててこんな経験出来るとは思わなかったわぁ~んん~」
「むっちゃんくすぐったいっぽい~」
夕立が陸奥と仲良くやれているようで良かった。おい不知火。女の子のする顔じゃないぞそれ。
「長門さんも起きたことなので皆さんの任務を・・・横須賀からの皆さんは大湊決戦艦隊に所属しています。上位深海棲艦に対抗するべく派遣されています。」
「ほう・・・それで私が旗艦で討つといわけだな。」
「まあそんな感じですが・・・基本その上位深海棲艦が出るまでは出撃はありません。他の仕事は教練のお手伝いや、演習相手になります。」
「いいわね。決戦艦隊。」
「オッケー!」
「わかりました!」
「不知火は長門さんの元にいられれば。」
「朝潮は司令官の命令に従います!」
「他にもうひとつ、重要な任務を受け持ってもらいたい。」
「「「「「?」」」」」
「長門さんの監視です。」
「もぐ!?んっぐ!私の監視だと!?何故だ!?」
「長門さんが勝手に出撃したり、戦ったりしないように見張ってください。長門さんの不在はうちの艦隊の士気に大いに関係してるようなので・・・戦場に共に出てもらうより後方で構えてもらったほうが助かる。」
「ヘーイ長門-?アイドルは大変ネー?」
「アイドルは四水戦のヤバイ奴だけでいいだろう・・・」
「ふふっ長門さん、みんなに愛されてるみたいで私も嬉しいですよ?」
「もぐもぐ・・・鳳翔、よしてくれ。」
「ママー!これで最後!おかわりすりゅ?」
「すりゅうううう!・・・ってそれは別な艦娘の台詞だぞ。」
「えへへよそってくるね。」
夕立可愛すぎてやばい。・・・不知火も構ってやらんと膨らませた頬を破ってしまいそうだ。
「ま、いろいろ説明したけど長門さんには今までみたいにみんなと遊んで、ご飯作って、洗濯してくれればそれだけでみんなは安心して戦える。太平洋の英雄に背中を守ってもらうなんて今後一生ないかもしれないしな。」
「・・・お前達がそれでいいならそれでいいけどなぁ。戦艦は戦ってなんぼだろう・・・」
「姉さん、姉さんの存在っていうのは姉さんが思っているより大きいのよ。少しの損傷でもみんなの心を動かしてしまう・・・姉さんそのものがみんなの心と言ってもいいくらいに。姉さんの心は私達が守るから・・・ね?今度は私達に姉さんを守らせて。」
「・・・なら、私は何を守れば・・・いいんだ・・・」
「姉さん・・・」
「ママーっ!おかわり到着っぽい!おっきいどんぶりにしてもらったよ!」
「おお夕立!待っていたぞ~!」
提督は更に二、三話をした後、部屋から出て行った。陸奥達も仕事の為に退出し部屋には寝間着の浴衣を着た私と夕立だけになった。夕立は私が眠っていた一週間分を取り戻すかのようにたくさん話をした。私はこれまでにないくらい気分が穏やかだった・・・夕立可愛いいいい!ともならなかったし。いつの間にか日は傾いていて、夕立はすやすやと寝息を立て夢の中にいる。夕立のさらさらの髪をゆっくりと梳きながら頭を撫でる。あとからだが不知火が見ていたらしく、それこそ人間の母親が愛娘を愛でるようだったと鼻血と血涙を流しながら語った。大丈夫かこの子。
「・・・今度はみんなが守ってくれるんだってよ、夕立。」
「すぅー・・・ぽぃー・・・」
「・・・どうしても諦めきれなかったんだろうなぁ。自分が守られるなんて嫌だったんだろうなぁ。思い出したよ、長門になった時。違う世界の一般人だった自分が長門として誰かを、何かを守れるのが嬉しくて頑張ってたんだろうなぁ。今考えると・・・よくそんな精神持ち合わせてたなと思う。漫画の主人公かよ。」
「ぽぃ・・・すぅ・・・」
「・・・うむ、ダメだ。思い出したこともすぐ忘れてしまう。私はもう長門になってしまったんだろう。私が守られるような存在になっても誰も守れないわけじゃない。せめて守られていても娘たるお前は守ろう。これより先増えそうだが、その時はまとめて守ってやろう・・・ふふふ。」
「ぽぃぃ・・・」
「夕立、起きなさい。そろそろ夕餉の時間だ。夕立。」
「ぽ、いぃ?ママ?」
「そろそろ夕餉の時間、だ。食堂に行こうか。」
ベッドから起きて寝間着の浴衣を直し、まだ目をこする夕立の手を引き扉を開けると、不知火がいて驚いた。駆逐艦がする顔じゃなかった。食堂に行くと予想通り鳳翔が夕餉の支度をしていた。間宮は調理のスピードに目を丸くしている。名取と鬼怒曰く、皆の食べる量が鳳翔が来てから倍になったとか。・・・平和だな。新たな脅威がじわじわと燻っている状況だとは思えない。ずっと、ずっと続けばいいのに。このまま娘がいて仲間がいて、友がいて・・・ずっと、ずっと。