長門の視線 ー過去編開始ー   作:電動ガン

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page3 私と万年筆

やぁ諸君。長門だ。今日もみんなと仲良くなるため頑張るぞ。朝潮と大潮の件から二人とはよく食事を共にするようになった。周りからは鬼が猫を愛でているのを見るような視線で見られたがそんなものは関係無い。二人とも可愛らしいからな。

 

「な、長門さん!あの、これ···」

 

「どうした朝潮。これは···?」

 

「ひ、日頃お世話になっているので、その、お礼です!」

 

夕げの前に私の部屋にやってきた朝潮の手にはピンクの袋に水色のリボンのついた女の子らしいプレゼント。いかんな。鼻血が出そうだ。天使は鎮守府に有り。

 

「そんな気を使うことないぞ。我々は仲間だ。」

 

「で、でもその、長門さんとはおはなしすることも多くなくて、それなのに助けてもらうことばっかりだったのでもっと仲良くなりたいなって···」

 

「ふむ···そうか。それならばありがたく受け取ろう。」

 

プレゼントを開けるとなかには桐箱。戦艦パワーで握り潰さないようにそっと開けると···万年筆が入っていた。

 

「朝潮、こんな高そうな物を···」

 

「い、いえ!あの!これじゃなきゃ!これじゃなきゃダメなんです!」

 

「あ、あぁ」

 

金の意匠がある万年筆。持った質感や材質、相当高級そうな物に見えるが···艦娘に与えられる給料は、特に駆逐艦はそう多くないはずなのに···なんていい子なんだ朝潮。

 

「あの、物自体は私でも買えちゃうくらいのものなのですみません···」

 

「気にするな。こういうものは気持ちが大事なのだ。私は嬉しいぞ。」

 

「はい!あと、もう一つは···」

 

ん?もじもじして···どうしたんだ?

 

「え、えへへ」

 

「!」

 

朝潮がポケットから出したのはプレゼントと同じ万年筆の銀の意匠が施されたものだった。対になるものなのだろう。

 

「お、お揃いですね!」

 

「!!!」

 

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気がついたら1日経って開けてベッドの上だった。横で看病してくれていた鳳翔に聞いたところ私が倒れたと朝潮が提督の部屋に飛び込んできたらしい。鳳翔が見に来たら血塗れの私がいて大層驚いたらしい。

 

「全く、長門さんは意外と弱点だらけなんですね。おっちょこちょいだったり子供に弱かったり···」

 

「鳳翔···よしてくれ。」

 

「ふふ···お腹空いてませんか?親子丼作ってありますよ?」

 

「もらおう。」

 

ふと見たら輸血パックが打たれている。そんなに鼻血吹いたのか私は···朝潮にはカッコ悪いところを見せてしまったな。さて、早く晩御飯だ。

 

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ふむ、しかし万年筆か。どうしたものだろうか。何か物書きをすることなど報告書以外には何もなかった。それに出撃申告していないから報告書も何もない。

 

「いかんな···これではニートそのものだ。もらって使わぬというのも朝潮に申し訳ないし···」

 

考えながら廊下を歩くとひっ!と小さな悲鳴が聞こえてきた。何事かと振り向くと明石の道具屋。顔色を青くした明石がいた。

 

「あ、え、ご、ごきげんよう長門さん···」

 

顔はひきつっている。人の顔見て怖がるなんて失礼な奴だ···まぁそれはいい。

 

「明石。」

 

「はいっ!?」

 

「手帳は置いているか?」

 

「手帳、ですか?ちょっと待ってくださいね。」

 

ひらめいたんだ。何か物を書くというならば日記が定番だ。初めてのことなら定番から入るのがいいだろう。

 

「えっと···今あるのは軽巡や駆逐艦達ようの可愛らしいデザインのしかなくて···長門さんがお気に召すような物は···」

 

「構わない。」

 

明石が持ってきたものはピンクだったり水色だったり白だったり···柄も入っていていかにも子供向けなものが多い。うーん···

 

「これをもらおう。」

 

「え!?これ、ですか?」

 

ん?なんだ?これ可愛くないか?くじらのマークの水色の手帳。明石め、私に似合わないなぁとでも思ってるな?それならちょっと困らせてやろう。

 

「やはり···私にはこんな可愛らしいのは似合わないか···」

 

「い、いえ!そんなこと、ないと思いますよ!?ほ、ほら長門さんも女の子ですしね!」

 

「しかし今、変な顔をしたぞ?」

 

「ふぁっ!?そそそそんにゃことありませんよ!!ほ、ほら!長門さんはあんまり道具屋にはいらっしゃらないじゃないですか!」

 

「はぁ···やっぱりこっちの黒一色のやつにするよ···はぁーー…」

 

「大丈夫!大丈夫ですよ!!ほ、ほら!えーっと···那智さん!那智さんもピンクの豚さんの可愛いの使ってるんですよ!だから長門さんも大丈夫!!!」

 

なんだかすごいこと聞いちゃったぞ。それになにが大丈夫なのか。

 

「そうか!じゃあこれをもらおう!」

 

「ま、毎度ありー···」

 

ふふふふ、ちょっと遊びすぎた感じはあるが印象は変わってきたかな?おしゃべりな明石なら私の印象をどんどん言いふらしてくれるだろう。こうして私は親しみ安いキャラだと広まればもっとみんなと仲良くできるだろう。どれ、トドメだ。スキップして帰ってやろう。

 

「え、あ···あ、あれ長門さん···?ほんとに···?熱でもあるのかしら私···」

 

翌日、朝食の時、ひとつの夢であるみんなに囲まれて朝食を食べるというのを期待してドキドキしながら食堂に入ったら、皆がチュパカブラを見るような視線を投げて寄越して誰も近寄ってこなかった。居たたまれなくなったのか鳳翔と朝潮、大潮が一緒に食べてくれた。味噌汁がやけにしょっぱかった。


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