長門の視線 ー過去編開始ー   作:電動ガン

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page24 私と飛行甲板

やぁ諸君。長門だ。最近夕立が他の駆逐艦と遊びに行くことが多くてとても寂しい。とっても寂しい。しかし元気なのは良いことだ。夕立が出撃することも多くなった。帰って来るごとに何杯沈めたなどと嬉々として報告しにくるのは実にほほえましい。しかし些か私に依存しすぎているのが困ったことだ。それはそうといつもの朝の挨拶に工廠の大型建造ドックを訪れて驚くべきことが発覚した。

 

「提督・・・これは・・・もう、なんと言ったらいいか・・・」

 

「いや、もともと先の見えない実験的なことではあったんだ。長門さんのせいではないよ。」

 

「しかしあれだけ大見栄をきって大量の資材を使ったのだ・・・その結果としてこれは・・・」

 

大型建造のドッグで大きなシリンダーの奥にある艤装スペースには重厚な飛行甲板と大きなバルバスバウ。大和型ではないことは明らかだった。

 

「うちには無い正規空母の艦娘だろう。このバルバスバウ、恐らく翔鶴型のどちらかだろうな。」

 

「それなら艦載機などどうしようか・・・」

 

「鳳翔に開発してもらおう。彼女なら艦載機の開発など呼吸をするかのようにやってくれるはずだ。横須賀から来てくれたみんなのおかげで装備はかなり充実してきている。ありがたいよ。」

 

「・・・それにしても、翔鶴型か。確かに鳳翔一人では限界がある、が鳳翔は鳳翔で化け物だからな。連携が取れるかどうか・・・」

 

「鳳翔が・・・?いくら大侵攻を生き抜いた艦娘でも化け物なんて長門さんぐらいしか呼ばれないだろ。」

 

「喧嘩売っているのか?」

 

「悪かった。拳、拳しまってくれ。みしみし言ってる。拳みしみしいってるから。」

 

失礼な奴だなほんと。まぁ気の良い奴だからこうして冗談も言い合えるが・・・それにしても私の武勲は語られても鳳翔の地図書き換え談は語られていないのか。鳳翔の性格もあるからかもしれんが。

 

「もうすこし古参艦娘について調べておいた方がいいぞ提督。あだ名だけでどういう武勲を上げた艦娘だかわかるぞ。」

 

「わかった・・・だが俺が知ってるのは英雄長門だけだ。」

 

「ふむ。生き残っている連中であとはここの天龍は千里眼の天龍。鉄血宰相ビスマルク。鬼の扶桑に羅刹伊勢。大岩山加賀、不動の赤城。無音の島風、不死鳥の響・・・これは自ら名乗っていたな。あと空焼きの高雄姉妹。そして・・・島割り鳳翔だ。」

 

「なんだよ大岩山って・・・」

 

「横須賀の一航戦だ。やつらのタフさはもう笑えてくるぞ。腹に風穴開けながら艦載機を放つ様子は魍魎の類いかと思ったな。」

 

「鳳翔のは・・・なんだ?島割り?」

 

「うむ。島を爆撃で木端微塵にするんだ。」

 

「な、なんだそりゃ・・・」

 

「過去の泊地強襲作戦で敵の泊地を発見したのは鳳翔なんだが。だがその見つけた方法が・・・な・・・」

 

「彩雲や二式艦偵とかじゃダメだったのか?」

 

「切羽詰まっていたんだよ。」

 

「はぁ・・・」

 

「鳳翔は泊地の詳細がわからないからかたっぱしから島を爆撃して海の藻屑にしたんだよ。深海棲艦に制圧されているなら人間や生物はいないからな。爆撃で島が無くなったらその島は泊地じゃない、頑丈だったらその島が泊地だってな。」

 

「・・・そういや本営が深海棲艦の侵略の影響で島が無くなったって発表を出したの聞いた事があるが・・・まさか・・・」

 

「そうだ。深海棲艦の侵略で、は間違っていないが、実際、深海棲艦の侵略で や む な く 消し飛ばしたのは鳳翔だよ。」

 

「鳳翔にはこれからさんを付けて呼ぼうか。」

 

「私がどうかしたんですか?」

 

「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!」

 

「うわあああああああああああああああああ!!!!」

 

ぎゃああああああああああいつの間にいたんだ!!!びっくりして竜骨にひびが入るかと思ったぞ!!!鳳翔!君そんな神出鬼没キャラじゃなかっただろう!?

 

「朝ご飯が出来ましたので執務室にお呼びにいったらいらっしゃらなかったので・・・おや、建造ですか?」

 

「あ、ああ!長門さんが建造したのだよ!」

 

「立派な飛行甲板ですね・・・私もこんな飛行甲板が欲しいです・・・」

 

「・・・鬼に金棒・・・」

 

「長門さん?」

 

びゅぅと空を切る音と共に私のおでこに鳳翔の手刀がぴたりと添えられた。やばい。大戦艦アイでも見えなかった。

 

「なにか?」

 

「ナンデモアリマセン」

 

「もう!ふざけてないで朝ご飯ですよ!提督も早くきてくださいね。」

 

ふたりでわかったと返事をして食堂に戻る鳳翔を見送る。あー怖かった。空母って怖いんだな。

 

「提督・・・私は生まれてくるこの艦娘はしっかり教育するよ。優しい子になるように。」

 

「しっかり頼むぞ。頼む。」

 

そして明石に挨拶をして工廠を出た。建造が終わるまであと二週間ほど。翔鶴か瑞鶴かわからないが・・・どちらにせよ正規空母が建造されるだろう。このまま無事に建造されて欲しいが最後まで気は抜けない。体まで出来たのに起動せず建造失敗というパターンもあるからだ。そして私は騒がしい工廠の喧噪に紛れ、シリンダーから響く音に気づかなかった。

 

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時間は過ぎて、昼食を食べ終わったお昼頃、少し前に出会った長門の事が気になり提督に相談しに執務室へきた。

 

「提督、私だ。」

 

『入れ。』

 

「失礼する。」

 

「お、長門じゃねーか。どうした?」

 

「天龍、それは俺の台詞だ。」

 

「提督、少し頼みがあってな。」

 

「無視すんなよ!」

 

「長門さんが頼み・・・なんだ?」

 

「単冠湾泊地の所属艦娘のリストが見たい。それは可能だろうか?」

 

「可能だが・・・どうして急に?」

 

「いや、ただの気まぐれさ。」

 

「ちょっと待ってくれ・・・一番新しく更新された奴が今日届く筈なんだ。大淀が郵便物を取りに行ってるから。」

 

「わかった。天龍はどうしたんだ?」

 

「今更かっ!」

 

「そうすねるな・・・長門さん。ちょっと雲行きが怪しくなってきたんだ。」

 

「何があった?」

 

そういうと天龍が大きな海図をテーブルに広げ、青のペンでたくさんの線を引いていく。青まみれになった海図に今度は赤のペンで上書きするように線を書く・・・これは、天龍は以前にもこんなことをしたような記憶があるな。

 

「・・・海流か?」

 

「さすが長門だぜ。そう、これはここ一週間で起こった海流の変化だ。」

 

「・・・冗談だろ?」

 

冗談ではない。恐らく青の線が元の海流なのだろう。これがどう変化したら一方通行の海流が三つ叉になり、逆行し、渦を巻くのか、変化を表す赤の線は幼い駆逐艦の落書きとも言えるような図になっている。

 

「・・・で、提督はこれをどう受け取る?」

 

「・・・上位深海棲艦の出現、だろう。変化した海流は一見めちゃくちゃなようだが一定の部分に近づけないようになっている。」

 

「アリューシャン・・・」

 

「ここ見ろよ。AL海域に近づけないだけじゃなくて特定の海域に誘導される流れだ・・・これはよぉ・・・準備が整ったって感じだよな?」

 

「そう考えていいだろう。偵察が、必要だな。北方海域を見る単冠湾と幌筵にも連絡をとらねば。」

 

執務室が静寂に沈む。しかしその中で静寂を打ち砕いたのは思いも寄らない人物だった。執務室のドアが開いて二つの小さな影が入ってきたのだ。

 

「司令官・・・?」

 

「司令官聞いたぴょん。」

 

「な・・・!?お前らどうやって!!」

 

「如月・・・卯月・・・!!!」

 

「うーちゃんと如月が偵察に出るぴょん。」

 

「何を言って・・・」

 

「馬鹿野郎!まだそれを判断する時じゃねぇ!!部屋に戻ってろ!!」

 

「天龍こそわかってないぴょん。海域で一番最初に海流の異常を感じ取ったのは如月とうーちゃんぴょん?覚えてないぴょーん?」

 

「ちっ・・・だからってお前らが行く理由にはならねぇだろ?」

 

「きっと天龍さんが行くんでしょう?それなら私達も連れてってください!」

 

「夕立ほどじゃないけどうーちゃん達も強くなったぴょん!それに天龍と一緒ならぜーったい帰ってこれるぴょん!」

 

「ここより北の泊地は艦娘の数も、資材も、未知の敵がいる海域に偵察するのは難しいと思うわ。」

 

「天龍といっしょに遠征行くから海流が変わっても海図は頭に入ってるぴょん。」

 

「・・・。」

 

「誰かがやらなきゃならねえことだ。その誰かはお前らじゃなくても俺じゃ無くてもいいんだ。お前らにはそれを買って出る意味がわかってるか?」

 

「それは・・・天龍さんが教えてくれましたよね。」

 

「これでも天龍の弟子ぴょん。」

 

「・・・けっ、こんな馬鹿野郎に育てたつもりはねぇんだけどな。」

 

「・・・天龍を旗艦に偵察艦隊を編成する。如月、卯月の他に誰を連れて行くかは天龍に任せる。」

 

「ありがとうございます司令官!」

 

「うっしし!司令官にぃ!敬礼!ぴょん!」

 

「・・・提督、ひとつ言っておくぞ。」

 

「長門さん?」

 

「鳳翔の島割り爆撃だが、あれは偵察が成功しなかった故に行われたことだ。あの時の鳳翔の憤怒に満ちた顔は忘れん。」

 

「・・・。」

 

「気を付けろ。上位深海棲艦は会えば死ぬ。」

 

ちょいちょいと袖を引っ張られ目を向けると卯月と如月がこちらを見上げていた。ぐっと力のある目だ。こんな目をするようになったのかここの艦娘も。駆逐艦もあなどれんな。

 

「長門さん、これを預かって欲しいぴょん。」

 

「私のも。」

 

「これは、睦月型のバッジ。」

 

「代わりにこれもらうぴょーん!!」

 

「ちょ・・・卯月・・・今着物だから・・・!」

 

卯月によじ登られて頭のかんざしとバレッタを取られ、華麗に着地した卯月はにかっと歯を見せて笑う。・・・この感じ、昔を思い出すな。戦艦の私に願掛けだと私の手ぬぐいを取り合っていた駆逐艦達が頭に浮かぶ。

 

「ぴょおーん!はい如月はどっちがいい?」

 

「ちょ卯月ダメよ!長門さんもごめんなさい・・・」

 

「いや・・・構わんよ。卯月、如月、それを返さねばこの睦月型のバッジは永久に私のものだぞ?わかっているな?」

 

「わかりました・・・!」

 

「うっしっし!うーちゃんはかんざしをもらうぴょーん!これで百人力ぴょん!!」

 

「私は・・・バレッタを。」

 

「・・・長門、こりゃあ昔を思い出すな。」

 

「・・・ああ。」

 

「しれいかーん!おやつ食べにいくぴょーん!」

 

「うわわ・・・待て待て!片付けてからな!!!」

 

「しゃーねーな先に行ってろよ。俺が片付けておくからさ。」

 

「手伝おう天龍。」

 

「わりーな。さんきゅ。」

 

この3日後、大湊警備府、単冠湾泊地、幌筵泊地合同の北方海域監視網が張られた。

一番最初の偵察は大湊から天龍、如月、卯月。単冠湾から球磨、多摩。幌筵から雪風が編成され出撃した・・・が、上位深海棲艦を四体確認の報を最後に通信は無くなり、帰ってこなかった。

 


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