長門の視線 ー過去編開始ー   作:電動ガン

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やあ諸君。長門だ。幸い今回は意識はすぐ戻った。次の日の朝には目が覚めたのだ。しかし体はずたずた。歩けない動けないだ。病室の窓から見ると警備府はボロボロ。壁は穴だらけ。大型建造ドックは翔鶴が出て来るときの衝撃がトドメになったらしく運用停止となった。

 

「ふむ・・・小腹が空かないか?大淀。」

 

「そうでふねもぐもぐ。わたしはしょりしょりあまり空いてないでふ。」

 

「それはお前が私のマンゴーをたべているからだろ!なんで私に届いたフルーツ食べてるんだ!」

 

「いいじゃないですかちょっとくらい!私怪我人ですよ!?」

 

「そりゃこっちもだ!翔鶴!もっとむいてくれ!」

 

「はぁい!お母様!」

 

大淀は生きていた。爆弾で吹き飛ばされ、海に突き落とされたので爆撃の被害は最初の一発以外受けなかったらしい。

 

「でももぐ、しょりしょり、利き腕が無いのは辛いですねー秘書艦のお仕事も、しょりしょりしょり入渠でも失った、もぐもぐ、部分は直せませんし。」

 

「ううむ・・・入渠施設ももっと機能の向上してもいいだろうにな。」

 

「ほんとですねーあ、翔鶴さん私にもリンゴおかわりください。」

 

「はぁい大淀さん!」

 

大淀は命を拾う代わりに左腕と体の左側の機能を失った。左の肺も失い、心臓も艤装に繋いで動かしている。顔にも大きな火傷の痕が残りとても痛々しい。

 

「そろそろ提督が戻ってくる頃か?」

 

「たぶん。お昼過ぎには戻って来るそうですよ。」

 

「失礼するわ。」

 

「おお、五十鈴。どうかしたか?」

 

「おさぼりの犯人の様子を見にね。」

 

「げっ」

 

「冗談よ。夜は休んでいいって言われてたもの。どう?調子は。」

 

「・・・。」

 

「まぁ・・・」

 

「・・・ごめん。」

 

まぁ五十鈴も守りきれなかったと後悔の念があるのだろう・・・しかしあの航空機・・・航空機と言っていいのか?まぁ航空機でいいか。あれはどこから来たのか。こちらの対空警戒にひっかからない高高度を飛んできたのはわかる。だが津軽海峡には敵艦隊は確認されなかった。新型航空機を使うような上位深海棲艦は。

 

「お母様?そろそろお姉様が帰ってきますよ。」

 

「そうか・・・翔鶴、別に姉妹艦だというわけでもないんだ。わざわざ呼び方を・・・」

 

「いいえ。お母様の一番最初の娘ですもの。それなら私のお姉様です。ね?」

 

「む、むう・・・」

 

「長門さんこんなおっきな娘が出来てすごいですね。」

 

「大淀ォ!」

 

「うふふ・・・ほら噂をすれば。」

 

廊下を走る轟音がする。これ夕立が走ってる音か?ブルドーザーでも来たんじゃないか・・・?と思っていたらドアを弾き飛ばして夕立が飛び込んできた。

 

「ママぁーーーーーーーーー!!!」

 

「おおっと。おかえり夕立。哨戒ご苦労様。」

 

「どうってことないっぽい・・・また、ママを守れなかったから・・・」

 

「そうだな・・・しかし不意打ちならば仕方ない。自分を責めるな。敵を攻めろ。いいな?」

 

「ぽい!」

 

「ふふふ・・・」

 

「おかえりなさいお姉様。」

 

「ぽい!翔鶴もただいまっぽい!」

 

「ふふ・・・」

 

ふぅむ不思議な光景だ。夕立に撫でられて喜ぶ翔鶴。瑞鶴が見たらどう思うだろうか・・・いや、そもそも『この翔鶴』の妹はいるのだろうか?翔鶴型装甲空母なんて初めて聞いた。同じ名前の別な艦かもしれない。

 

「そうだ・・・五十鈴、名取はどうだ?」

 

「平気よ。艤装のおかげで中破しただけだったわ。入渠して今は部屋で寝てるわ。」

 

「そうか・・・名取にも世話をかけたと言っておいてくれるか?」

 

「わかったわ。長門さんと大淀もゆっくり休んでね。」

 

「ありがとう。」

 

「はーい。」

 

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そして昼過ぎには提督と決戦艦隊、天龍が帰ってきた。提督は大淀の姿を見た瞬間、壊れたダムのように泣き出してしまってどうしようかと思ったが・・・翔鶴と夕立に頼んで病室から連れ出してもらった。戦艦長門はクールに去るぜ。

 

「もうケッコンしろよあいつら。」

 

「そういうな天龍。あの提督はなかなかそういうのを言い出しづらいんだろう。付き合いの短い私でもわかる。」

 

とりあえず天龍、鳳翔と私の部屋に来てもらった。翔鶴と夕立には少し時間を潰してもらっている。そういや翔鶴は軽々と私を担いでいたな。将来有望だ。

 

「まどろっこしいなぁ・・・」

 

「しかし大湊の主力がほとんど戻ってきているが・・・どうするんだ向こうは。」

 

「大湊が空襲を受けただろう?そしたら山元のおっちゃんが敵の二面作戦では・・・なんて言ってよ。千歳を中心に防衛範囲を広げることにしたらしい。」

 

「敵の狙いは・・・?」

 

「ひとつは大湊の大型建造ドックだろうが・・・あとはいつも通り、わかんねぇ。」

 

「私達は提督の命に従い、戦うだけです。・・・ですよね?」

 

「ああ、そうだ。」

 

「だけどなぁ・・・そろそろ体にガタが来てるんだよなぁ・・・」

 

「私も・・・狙いがぶれることが多くなって・・・少々・・・」

 

「・・・みんなそうか。」

 

「ビスマルクもな。久しぶりにあったらなんか嬉しそうな顔して肩こり自慢と腰痛自慢してくるんだが・・・なんか知ってるか長門。お前仲良しだろ?」

 

「ビス子が?・・・なにも知らんな・・・」

 

「その顔は本当に何も知らねー顔だな。」

 

「そういえば高雄ちゃんからフルーツが届いてましたよ。」

 

「ああ、食べたぞ。あの姉妹は今パラオか。果物は翔鶴が剥いてくれた。美味かったよ。」

 

「まぁ良かった!翔鶴ちゃん、随分変わった姿だけど良い子で良かったわ。お行儀もいいし、仲良くできそうです。」

 

「そりゃあ良かった。」

 

「あの翔鶴、夕立に負けず劣らず元気だぜ。見てみろあれ。」

 

「ん?」

 

窓の外を見るとグラウンドを全力疾走する夕立と翔鶴。むしろ翔鶴の方が速い。なんだそりゃ。

 

「さすがだな。馬力が違うな。」

 

「だけどなんで走ってるんだありゃ。」

 

「元気なのはいいことですよ。」

 

「ふむ・・・しかしお母様、か・・・不思議なこともあるものだ。私は山元提督を父と呼ぶようなことはなかったがなぁ」

 

「そこは不思議ですよねぇ。そんな刷り込みみたいなことが艦娘にもあるなんて。」

 

「まぁそこらへんは俺らが考える事じゃねーよ。学者の連中にまかせとけ、あと明石とか。」

 

「・・・そうだな。私なんかを母と慕ってくれるなら私も全力で愛情を注ごう。」

 

「大戦艦パワー満載の愛情が・・・身震いするぜ。」

 

「なんだ天龍、お前も受けたかったか。大戦艦ラブ。」

 

「うわああああああああ!!!!よせ!!竜骨が粉砕されるだろ!!」

 

「くたばれ天龍。」

 

「このやろう!」

 

「ふふ・・・お二人も仲良しですね。」

 

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「・・・というのが今の現状だ。今も被害は増え続け、水鬼級の撃破にも至っておらず基地型深海棲艦の泊地にまでも到達出来ていない。」

 

「それで、基地型は偵察艦隊が監視しているんだな?大湊を襲撃したのはどちらの基地型だ?」

 

私と大淀が車椅子に乗せられて執務室にいる。提督から状況を聞いて置かなければならないからな。再び空襲されてはたまらない。

 

「それなんだが・・・北方海域から航空機が出たという報告は無い。」

 

「そんな馬鹿な!ならばどこから来たというんだ。」

 

「わからん・・・それに大湊を襲撃した球状の航空機というのはこちらでは確認されていない。よく見るヒトデだけだ。深海の高高度爆撃機・・・ということになるのか・・・?」

 

「本土が爆撃されるのも時間の問題だな・・・それにあの球状の航空機・・・ええいタコヤキだ。タコヤキと呼ぶぞ。あれは艦戦、艦爆と種類があった。恐らく艦攻タイプのタコヤキもいるだろう。」

 

「た、タコヤキ・・・」

 

「美味しそうですね。」

 

「お腹空いたっぽい?」

 

「お姉様、お昼はたこ焼きにしましょう?」

 

「いいね。」

 

「んんっ!」

 

「五十鈴達はあの・・・タコヤキはどう思う?」

 

「そうね、やたらすばしっこくて硬くて本当にやっかいだったわ。ホバリングもするし。」

 

「口からおえーって爆弾出すのは気持ち悪かったにゃしい・・・」

 

「・・・どうやって機銃を撃っているのか、わからなかった・・・」

 

「えっと・・・飛行音がほとんどしないので、何度も奇襲されてしまいました・・・すみません・・・」

 

「ふむ・・・」

 

あれを真っ向に相手すると辛いんだな・・・速くて硬いなんて厄介この上ない。

 

「えーっと、翔鶴君・・・だね。大型建造で建造された・・・」

 

「はい!!」

 

「おう・・・君は艦載機を使って迎撃したそうだがどうだった?」

 

「はい、艦載機での相手だと普通でした・・・といっても初めて戦ったのがあのタコヤキなのでそのヒトデというのがわかりません。なので比較にならないかな・・・と。」

 

「ふむ。ありがとう。」

 

やはりこの翔鶴は声がデカイ。以前見た翔鶴の幸薄そうな感じとは大違いだ。装甲空母と普通の空母では大きく違うのだな。

 

「おそらく、敵にはまだ見ぬ上位深海棲艦がいるのかもしれない。そして敵の狙いの一つはここにある大型建造ドックだ。ひとつは壊れてしまったがまだひとつある。これを奪われるわけにはいかないし、これ以上好き勝手やらせるわけにもいかない。空母の二人には監視網を引いてもらって、金剛には三式弾を積んで対空警戒・・・残りの駆逐艦達には対潜警戒だ、どこで見られているかわからな・・・」

 

電話だ。それもホットライン。これの意味することは・・・一瞬で緊張が走るが。夕立と翔鶴はなんのことかわかっていない。

 

「・・・了解、すぐに出撃させ、防衛ラインを展開させます。」

 

「・・・どうしたんだよ提督。」

 

「出撃だ。基地型深海棲艦が動き出した。こちらに向かっているらしい!総員、すぐ出撃し、防衛ラインを作ってこれを迎撃せよ!これより基地型深海棲艦は港湾水鬼と呼称する。千歳からも艦娘が出る。決して近づけるな!!」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

「長門さん・・・長門さんの艤装の封印を解きます。何かあった場合、大淀や間宮さん、明石を連れて逃げてください・・・お願いします。」

 

「承った・・・この戦艦長門に任せておけ。」

 

 

 


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