長門の視線 ー過去編開始ー   作:電動ガン

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page29 私と次女

やぁ諸君。長門だ。私の大戦艦パワーの可能性は無限大だ。いろんなものを天元突破するぞ。この、天元突破って言葉はなんだか心地が良いな。私を信じろ。

 

「おーらい、おーらい・・・もう少し右だ翔鶴、そう、行き過ぎだ。戻して・・・おーらい、おーらい・・・」

 

「長門さん、武装の方、一式徹甲弾と三式弾、46センチ連装砲と零式水観です。」

 

「いつのまにそんな装備を・・・」

 

「陸奥さんが開発しました。翔鶴さん!そこでお願いします!」

 

「はい!」

 

クレーンにぶら下げられた私の艤装。久しぶりだな。試製46センチ連装砲が使えるとは頼もしい。

 

「翔鶴、肩を貸してくれ。装甲服を着る。」

 

「はい。お母様、失礼します。」

 

翔鶴の手を借りて、車椅子から立ち上がり着物を脱がせてもらう。寒い。そのまま明石にいつもの装甲服を着せてもらい艤装の前に行く。

 

「ふむ、46センチが四基八門。圧巻だな。」

 

「お母様、艤装着けますよー。」

 

「まるで介護だ・・・よっと!」

 

連結音が工廠に響くと同時に缶に火が入る。久しぶりの感覚だ。私にも火がついたようだ。体に熱が入り始めて動かなくなった筋肉が力を取り戻していく。

 

「翔鶴、もういいぞ・・・自分で立てる。」

 

「お母様、素敵です!」

 

「・・・ふむ。動けるようになったか。だがまだ重いな。」

 

「向こうに高速修復材を満たしたドックがあるのでそこで細かい修理を行います。それで元に戻るはずです。」

 

「わかった。翔鶴!もういいぞ。持ち場に戻りなさい。」

 

「で、でもお母様がまだ・・・」

 

「翔鶴!!今は作戦行動中だ・・・母を困らせるな。」

 

「う・・・はい・・・」

 

すまない翔鶴・・・母の立場を都合よく使う私は最低だな・・・しかし、大湊の防衛はこの長門一家に懸かっている。気を抜けん。大淀のようなことを二度と起こさんぞ。

 

「これだな。明石、妖精さん、頼んだぞ。」

 

「敵がすぐそこまで来てるんですよね。急ピッチで慎重にやります。」

 

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高速修復材での修理を終えて防空壕の入口まで向かう。天龍達は出撃したので司令艦も出たようだ。周りには翔鶴と夕立、そして五十鈴がいる。

 

「ママ!もう大丈夫っぽい?」

 

「あぁ。夕立、気を緩むな。いつ来るかわからんのだ。次は完全にやられるぞ。」

 

「は、はい!」

 

「五十鈴、上空の警戒はどうなってる?」

 

「翔鶴が紫電でやってくれてるし。電探にも感無し。空も海も静かなものよ。」

 

「わかった。翔鶴!敵は高高度だけから来るわけではないぞ!全方位に目を向けろ!」

 

「は、はぁい!」

 

『長門さん!聞こえますか!』

 

「大淀か。」

 

地下司令部からだろう。と、いうと提督から戦況報告か。

 

『敵港湾水鬼艦隊、択捉島より北北東600km地点にて確認。これより千歳より抜錨した機動部隊、水雷戦隊と合流し、交戦するとのことです。』

 

『了解した。大淀、無理はするな。名取もいるだろう?』

 

『いいんです。これが私の勤めですから!』

 

「そうか・・・わかった。ならば全力全開、限界突破で敵から守ろう。大船に乗った気持ちでいろ。」

 

『長門型ですからね。期待してますよ。でも、長門さんも無茶しないでくださいね。病み上がりなんですから!』

 

「そうだった。忘れていた。」

 

無線を切り視線を上に向ける。来るならこい。この長門が焼き払ってくれる。

 

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時間は、1840。少し前に敵港湾水鬼艦隊と交戦したとの報告があってから連絡はない。ならば我々は我々の仕事を全うするだけだ。

 

「電探・・・感なし。」

 

「偵察機より報告、敵機影無し、その他湾内、津軽海峡に艦影無し・・・」

 

『こちら夕立、湾内、ソナーに反応無し。』

 

「了解。」

 

今のところ敵が来る気配はない。嫌な胸騒ぎも、ない。だが不気味なほどに静かだ。遠くでカラスが鳴いていて、大分日が傾いている。

 

「長門より、各艦へ。前回敵は夜襲を仕掛けてきた。日が傾いてきているので、警戒を厳とせよ。」

 

「『「了解!」』」

 

五十鈴は機銃のチェック、翔鶴は艦載機のチェックと補給をするを夕立からは陸奥湾まで警戒範囲を広げると通信があった。

 

「長門さん、私も湾へ出るわ。その方が電探で見つけやすいし。」

 

「わかった。潜水艦に気を付けろ。」

 

「了解、いってきます!」

 

「翔鶴!偵察機の目を私に渡せ。そして間宮のところへ行って食事をとってこい。」

 

「え、しかし、お母様は・・・」

 

「私も後で取る。先に行くんだ。」

 

「・・・はい!」

 

翔鶴から弓を受け取り意識を頭の電探に集中する。見えるのは津軽海峡・・・深海棲艦が現れればノイズとして目に映るが特にノイズは見えない。自分の零式水観に戻しても陸奥湾にもノイズは見えない。

 

「共有、問題なし。これだけの数を操るのはつらいな・・・戦闘は無理だ。」

 

「お母様!おにぎりとお茶をお持ちしました!」

 

「む、そうか・・・助かる。」

 

弓を返して、おにぎりを受けとる、具は・・・

 

「エビフライ?」

 

「私のは肉じゃがですね。」

 

なんだこれは。こういう時は梅干しとかじゃないのか?その方が楽だろうに。わざわざエビフライ作ったのか?肉じゃがも?あ、そういえば昨日の夕食が肉じゃがで昼がエビフライだったっけ。じゃあそれの余りか。そうだろうな。肉じゃがは襲撃で食えなかったし、昼も出撃だから食堂で取るひとが少なかったんだな。にしても間宮、料理うまくなったな。

 

「・・・お母様?」

 

「どうした翔鶴。」

 

「お母様は、私のこと、どう思いますか?突然母と呼ばれて、不快ではありませんでしたか?」

 

「・・・急にどうしたんだ?」

 

「艦娘なのに母だの娘だのと言うのは変だというのは自覚があります。そもそも親と子供というのは母がお腹を痛めて産み、子供は幼少期、成長期、青年期と年を重ねるもの。ですが、私はこの姿で現れ、その過程がありません。なのにお母様をお母様としか思えなくて・・・それに、本来はあり得ない翔鶴型の装甲空母で・・・得体の知れない私が、お母様を、お母様と呼んでよろしいのでしょうか・・・」

 

「翔鶴、私はそれに対する正しい答えは持ち合わせていない。しかしだ・・・母と慕う娘を捨てるほど外道でもない。それにだ、腹を痛めたわけではないが、お前を生んだのはこの私だ。私に生み出されたお前が私を母と呼ぶのになんの問題がある。胸を張れ翔鶴、私は英雄長門の娘だと。私も声高らかに言おう。装甲空母翔鶴は私の娘だと。」

 

「お母様・・・!」

 

「もちろん、夕立もだ。あの子も私を母と呼んだ以上、母として責任持って成長を見届ける予定だ。お転婆でやんちゃだが、とても繊細な子だ・・・翔鶴、お前と私はこれから始まる親子だ。将来が見えんのは不安だろうが、怖いのなら母の私に甘えなさい。姉の夕立を頼りなさい。家族は必ずお前の側にいる。」

 

「はい・・・はい・・・!」

 

涙は静に流すのだな・・・てっきり、大きな声で泣いてしまうのではとひやひやしたが・・・まぁ翔鶴かどういう子なのかは少々わかってきたかもしれん。・・・それになんというか、思春期の子を持つ親の気持ちがわかったかもしれん。私に体を預ける翔鶴を撫でながら粛々と感じた。あしながおじさんにでもなろうか。あ、私は女だからあしながおばさんか?うーん翔鶴も夕立とは違うかわいさがあるなぁ~いろんなお洋服着せて恥ずかしがるところとかを写真に収めたいぞ。ショッピングとかも楽しいだろうなぁ~

 

・・・少し頭も切り替わってきたみたいだ。今になってわかったが思考が昔の方へ寄りつつあったようだ。大淀の大破で、気分がそういう方向に向かったのか・・・私はもう昔のように出来ないというのに。

 

ギリギリと悲鳴をあげる私の竜骨は命のカウントダウンのようだった。

 

 

 

 

 

 


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