GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
訓練に訓練を重ねていたイリヤ。
そしてついに______
イリヤの非番という名の休日が終わってからしばらく経った。彼はまだ、実戦に出ることは無く訓練場で自身の神機を完璧に使いこなすための演練の日々が続いていた。
彼の機体は機能だけを見れば充分に第2世代神機と言えるのだが、構造は正統派の物とは異なる。
構えたとき常に右側で展開している盾、そしてバスタータイプの小回りと取り回しの悪さ。それらが相まって、斬撃の軌道にかなりのクセが出てくる。
ガンフォームのときでも展開し続ける盾は、射撃の時の反動が右側にそれやすいというクセを与えている。
結果として、彼の神機は試作段階のバスターパーツとシールド、そしてスナイパーパーツで構成されることになった。
一撃離脱戦法を主体にして戦闘をする彼にとっては、それが1番やりやすいのだ。
近距離攻撃の際に大ぶりになり隙が大きく生まれるのであれば、それを素早く埋めることが可能なシールドを選択し、遠距離戦でも1番シールドの影響を受けにくい銃身パーツとしてセミオートのスナイパーパーツが選択される。
彼の戦闘スタイルと、神機の構造としてどうしようも無いクセに折り合いをつけた結果だ。
『よし、次の目標を出力する。オウガテイル型5体だ』
訓練監督であるツバキの声が響くのと同時に、5体の模擬アラガミが出力された。
大きさやら、動きはコントロールできるので、その気になれば本物のオウガテイルよりやっかいな標的も、出力させようと思えば出来る。
そして。
言わずもがな、イリヤが相手しているのはそのやっかいな方だ。
(前2体、左右1体、後ろ1体………分が悪いのなら…!)
一瞬で判断した彼は、すぐさまポーチからスタングレネードを取り出した。
同時に、全てのアラガミが違ったパターンで彼に襲いかかってくる。
「遅いっ!」
しかし、イリヤの方が早かった。
強烈な光と衝撃がイリヤを中心に全集に襲いかかる。
彼に迫ろうとしていた全てのアラガミが、スタン状態に陥り、大きすぎる隙を彼に晒す。
次の瞬間、彼は目の前の1体に向かって跳んだ。
そして、落下速度と、自身の筋力と、神機の重さを利用してアラガミの首に向かって剣先を、真上から突き立てた。
ズシリ、と重みのある反動が柄を通してイリヤに伝わる。
アラガミの首身体から切り落とされ、切断面が空気に晒される。
すかさず、切断面に向かって神機を深く突き刺す。
刀身の半分以上が、アラガミの中に食い込んだ瞬間。
「食い散らかせ…!」
アラガミのボディが、まるで中から爆発したかのように爆ぜた。
彼がやったことは、単純である。
首をはねて、ボディを内部から捕食。
ただ、その1連である。
「もうそろそろ他の奴等が立ち直るな」
彼は、そう判断して素早くその場から離脱。
高台へと移動した。
そして、神機をガンフォームへと変形させる。
(弾はレーザー。貫通力重視、クセ無し。威力まあまあ。射程は長い。属性は氷)
使用する弾の特性を自身でもう一度確認する。
その時には既に他の4体は復活していた。だが、いつの間にか消えたイリヤを探し出そうと、動き回っている。
だが、彼が選んだ位置は、訓練場で最も高い場所だ。
そう簡単に見つからないし、見つかったとしてなかなか上がってもこれない。
彼は、ほくそ笑みながらほどよい距離を歩いているアラガミに狙いをつけた。
「……バぁン」
狙われたアラガミの両足が、身体から千切れ飛んだ。
ダルマになったオウガテイルが腹をイリヤ側に向けてのたうち回る。
「バぁン、バぁン」
すかさず、むき出しの腹部に向かって2発分叩き込む。
アラガミは、腹にバスケットボール二つ分ほどの大きな穴を穿たれ、絶命。
イリヤがその1体を射撃している間に、更に残った3体が彼に向かって距離を縮めてくる。
「飛び降りたら喰われるな」
今イリヤが真下に飛び降りたとして、次の瞬間にはアラガミ達に滅多打ちにされる。
ならば。
「もういっちょスタグレか」
彼のほぼ真下に集まってきたオウガテイル3体に、新たなスタングレネードを1発投げ込む。
コツン、と真ん中の1体の頭に当たってはねた瞬間またもや強烈な光と衝撃がアラガミ達の真上から襲いかかる。
「貰った…!」
飛び降りた彼は、3体の脚をなぎ払う。
硬質な反動と、肉を千切るような鈍く弾力のある反動が連続的に彼の手に伝わる。
手前に倒れた1体に向かって、チャージクラッシュを放つ。
しかし、一刀両断はならず背中の途中まで食い込むにとどまった。
ならば。
「っがあぁ!!!」
無理矢理に、アラガミ後と神機を振り上げ、さらに横薙ぎに神機を振るう。
遠心力によって神機から剥がされたアラガミは、向こう側の壁まで吹き飛び、壁を大きくへこませる。
そのアラガミはいったん意識から切り離し、すぐ後ろの2体に向き直る。
(動けねぇならただ危ない肉塊なんだよっ!)
鬼の如き形相を叩き割り、顎を砕き、腹を斬り付け、皮を、肉を、薙ぎ払う。
2体を、粉微塵に切り裂いた直後。
イリヤの背後に先程のオウガテイルが襲いかからんとして肉薄していた。
距離が10mほどに詰まった瞬間、オウガテイルが飛びかかった。
重たい金属的な衝撃音が響き渡った。
無音の一瞬。
オウガテイルは。
大きく開けた口に、シールドをねじ込まれていた。
「……っらぁ!!!」
シールドごと振り回して再び壁に叩きつける。
うずくまるオウガテイルに向かって、ガンフォームに変形させた神機を向けた。
____5発の銃声が轟いた。
『……2分54秒、か。まぁ、この設定でこの結果なら上出来だな。よろしい。イリヤ2等兵、本日の訓練はこれまでとする』
いつもよりも、やや感情がこもっているツバキの声。
それもそうだろう。
先のアラガミの設定は、人間側の方でかなり難易度を高くしたダミーデータなのだ。それを3分と経たない内に片されたのだから、少し意地悪をした側としては驚きを隠せない。
「了解です」
額の汗を拭っているときだった。
『あぁ、あと1つ言い忘れていたな』
「何でしょうか?」
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イリヤは、自室のベッドの上で寝そべっていた。
(明日が初陣って……いきなりだな)
そう。
訓練が終わった後、ツバキはこう言ったのだ。
『明日が貴様の初の実戦だ。なに、私の愚弟が同行するから大船に乗ったつもりでいれば良い。だからと言って油断は禁物だ。覚えておけ。命令下達は貴様のノルンに直接送っておくから、後は内容を読んで承認しろ』
ツバキの言っていた愚弟とは、雨宮リンドウのことだ。
極東支部のエースゴッドイーターで、単独でヴァジュラを討伐できる唯一の人物。
恐らく現時点で世界最強のゴッドイーター。
(大船に乗ったつもりで、ねぇ……分かんねぇな)
イリヤも、雨宮リンドウと言う人物がどれほどの実力者であるのかは噂程度には知っている。
ただし、今のところ神機使い関連でイリヤと面識があるのは、雨宮ツバキ、シックザール支部長、ペイラー榊、楠リッカ、藤木コウタの5人だけだ。
しかも、藤木コウタに至っては互いに顔を知っているだけであって、向こう側はイリヤの声どころか、下手をすると性別すらろくに知っていないだろう。
今の時点でそれほどに人間関係が希薄なイリヤにとっては、噂でしか聞いたことの無い人間に対して、どうやって大船に乗ったつもりになるのか、全く想像できないことだ。
(シャワー浴びて寝るか…。あ、寝る前に命令受領だ)
そう考えてベッドから起き上がり、シャワールームへ向かった。
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イリヤにとっては、自室に1つシャワールームが備え付けられているのはありがたいことであった。
何故か?
彼は、他人に自分の肌を、正確には自分の体中にある傷を見られたくないからだ。
その傷は、大半が火傷後であり、そして全てが彼にとって忌まわしく穢らわしいい記憶に直結する。そんな傷を、どうしても他人に見せたくないという思いがあるが故に、その心配をしないですむ個室のシャワールームが有難いのだ。
鏡に映る自分の顔を見て、顔をしかめる。
白く、きめの細かい肌。細く通った高めの鼻。ほどよい厚みの艶のある唇。長いまつげに透き通るような薄い青の瞳。細くやわらかな顎のライン。そして、肩よりも下に伸びた長い金髪。
鏡に映るその顔は、中性的で、どちらかと言えば女性のよりの顔立ちだ。
ふと、とある過去の記憶が蘇りそうになる。
(……ド畜生が)
心の中で苦々しく呟き、無理矢理に思考回路を切り替える。しかし、胸のあたりまでこみ上げてきた不快感はなかなか薄まらず、イリヤの機嫌は悪いままだった。
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黒いタンクトップに半パンジャージという出で立ち着替えたイリヤは、自室のノルンを起動させていた。
ツバキが言った通りであれば、命令下達は既になされているはずだ。あとは、自分が命令受領したことを上の方に伝えればすむ。
一般の物とは別に設定された特別メールの受信ファイルの中にそれは送られていた。
受信したメールを開示する。
(“イリヤ・アクロワ2等兵。明日1130より実戦出動。任務内容:旧市街地エリアに侵入した小型アラガミの排除。尚、本任務は第1部隊隊長雨宮リンドウ少尉を長として遂行”……か。なるほど)
再度内容に目を通して、命令受領したことを送信する。
イリヤはノルンから離れて、ベッドへ向かう。
「寝みぃ……」
そう言うのと同時に、ベッドに沈み込んだ。
(明日が俺の初陣ねぇ)
アラガミに対して特別な憎悪を抱いていないイリヤにとっては、明日の任務に対して特別に何かを思うと言うこともなく、死にたくねぇな、と言う至極当たり前なことしか思い浮かばなかった。