GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
渡る世間は鬼ばかり。
案外そうでも無いらしい。
暗い空間。
限界を悟らせない、深い闇。
止むことを知らない、断末魔と悲鳴の怨嗟。
「痛い……痛いよ」
啜り泣く少女の、心の悲鳴。
「誰か…私を……見つけて」
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食堂の隅っこに出来た空間。そこに1人だけ。半径5m以内には誰も座っていない。黙々と、プレートの上に乗った料理を口に運ぶ。味は、市民向けの配給食の方が美味しかったかも知れない。量と栄養価的な面で言えば、こちらの方が断然上だが、今のイリヤには全てどうでも良いことであった。
彼は今、不機嫌極まりない。
ここ最近、周囲の神機使い達が彼に向ける忌避の眼が、かなり露骨になっているからだ。具体的に言うと、陰口が本人にまで聞こえるようになってきた。
陰口を叩かれているのは、イリヤ本人も黙認していた。何せ、そう言われても仕方の無い前科がある。その理由が何であれ、前科持ちが神機使いになったのだから迎え入れさせられる側としては、やはり気分は良くない。そのことも、十分理解している。
だが。
最近は明らかに度を超している。
例を挙げるならば、
「あの新人、前にリンドウさんと任務行ったときに、リンドウさんを囮にして自分だけ逃げ続けてたんだとよ」
「前に入ってきた新人、藤木だっけか? ソイツに手ぇ出して喝上げとかやっているらしいぜ」
「いや、俺が聞いた話だと、ここに来る前は大量殺人犯だったらしいぜ。しかも、女子供ばかり殺すようなクズ」
どこで聞く話も、イリヤ自身には身に覚えが無い。そして、それも1部で言われていることでは無く、結構広く通った話になっていたのだ。
(ほとんどいじめじゃねぇか……クソッタレ)
ただでさえ余り美味しくない食事が、更に不味く感じられるのは、きっと気のせいでは無い。
そして彼に浴びせられる罵詈雑言の中に、彼の耳からなかなか離れないフレーズがあった。
_____死に神が増えた
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神機の修理が済んだ、と言うことで今日からイリヤは任務に復帰することになっていた。
確かに、昨晩彼のノルンに命令書が送られていた。
そして、それを受諾したのは良いのだが、1つだけ分からないことがあった。
(橘サクヤって誰だ?)
願わくば、少なくとも身に覚えの無いことで蔑視する様な人物で無いことを。それ以上の人物像を、彼は期待していない。するだけおこがましいとすら思っている。
「君がもう1人の新人君かしら?」
知らない女性の声を背中から受けた。
ここの人間は人の視界外から声をかける習性でもあるのか? と思ってしまったのは別の話。
振り返ると、そこには横乳……もといかなり際どい服装の美女がいた。生足と横乳である。
「良かった! 髪下ろした後ろ姿だとどっちか分からなかったんだけど……君がイリヤ君ね?」
「はい、そうですが……あ」
「そうよ。私が、今回の任務に同行する橘サクヤ。サクヤで良いわ。よろしくね」
そう言って、手を差し出された。
「……俺のことを軽蔑とかしないんですか?」
差し出された手を見つめながら、ぽつり、と。
形良く差し出されていた手が、いったん下ろされる。
「そうね……私も、正直なところイリヤ君について良い噂は聞いてないわ。だから、警戒していないとは言い切れない。でも、私も、他の神機使いも、誰の力を頼らなくても生き残れるほど強くない。だから、任務に同行するのなら、その一瞬だけでもあなたを信頼するわ」
そう言って、改めて手を差し出される。
随分と親しみやすい形だった。
「それに、ね? 任務先でギスギスしていても良いこと無いじゃ無い」
優しい人なんだな、そう思いながら彼は手を取った。
「よろしくお願いします。サクヤ先輩」
「先輩はやめてよ。私そんなガラじゃ無いし。サクヤで良いわ」
「ん、じゃあ……サクヤさん…?」
「それでお願い」
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降り立った場所は、嘆きの平原と呼ばれるエリアだった。
風景全体としては薄気味悪いのだが、エリア全体の地形を見ると、かたちだけは何だかユニークな場所だ。
イリヤは、最初にその風景を見たときに“ホコリまみれのシャブシャブ機”と名付けてしまった。無論口には出していない。
それにしても、エリア中心の竜巻のような渦が、ユニークさを全て台無しにしてしまっている。場の空気が禍々しい。
「今回の任務は、コクーンメイデン数体の討伐よ。コクーンメイデンについては知っているわね?」
「離れれば撃ってくる、近いと針で刺してくる、自分では動けない……そんなところでしたっけ?」
「正解。あと、針に毒が含まれているから、そこは要注意。つかず離れずの間合いを意識すること。私が後ろから援護するから、新人君は思うように動いてみて」
「了解しました」
そう言った瞬間、彼は神機をガンフォームに変形させた。
銃身は、狙撃に特化させた“オーカ・ニエーバ”。修理のときに、リッカがついでに色々と改良してくれたらしい。
(弾種、レーザー。威力重視、射程長い、クセ無し、属性氷。距離230)
自分に背中を見せている目標に狙いをつける。
「……まず、奇襲」
同時に、2発の光弾を背中の真ん中に叩き込む。
(でかい穴が空けば嬉しいなぁ…!!)
そう思いがら、ソードフォームに変形させつつ目標に向かって駆ける。神機使いの常人離れした身体能力で、一気に距離が縮む。
(……もらった!!!)
斬りかかろうと飛びかかったのと、相手が振り向いたのはほぼ同時。そして、コクーンメイデンの腹が“開いていた”。
「げぇっ!?」
本能がやばいと叫び、攻撃を中断。空中で落下しながら、無理矢理防御姿勢を取る。
鋭く重たい衝撃が、盾に襲いかかる。
「うおぉぉ!?」
浮いているだけのイリヤは、ただの質量物体でしか無く、故に外部からの運動エネルギーの干渉でもたやすく吹き飛ぶ。
(……油断した……ってか、アラガミはアイアンメイデンも食べたのか?)
予想外の攻撃で少し混乱している頭は、現実逃避のために無関係なことまで考えてしまう。
(何にせよ、まず、止まるな!!)
ステップを踏みながら、一足一撃の間合いに詰める。
そして、一気に畳みかける。
神機を横薙ぎに振るい、直線的に離脱。振り返りながら、今度は切り上げながら擦り抜ける。背後を取って、上段から神機を振り下ろす。
金属的な固い感触と、それを砕き中の肉をえぐり切り裂く生々しい感触。
飛び散る体液が、彼の顔を、服を徐々に汚していくが、それでも彼は手を緩めない。
「とどめだ」
コクーンメイデンがダウンした隙に、ワンステップ後退して、捕食形態を発動。
神機から、ズルリと黒く禍々しい顎が生えてくる。
そして。
「喰っちまえ」
大きく開かれた顎が、コクーンメイデンのボディーヲ呑み込んだ。ブチブチと、肉が千切れる音と、生肉を咀嚼しているかのような気味の悪い音。
「……1匹目、始末」
後方から、サクヤが駆け寄ってくる。
「まずは1匹目ね。まぁ、良い感じよ。次は油断しないように気を付けて」
「はい、気を付けます」
そこから先は、一瞬であった。
戦闘のスイッチが完全に入ったイリヤの動きは、神機使いの身体能力を存分に発揮したもので、相手よりも早く、早く次の一撃を加え続けていくという、一方的な攻撃に終始していた。
無論、いくつかの傷は負ったが。
「……これでこのエリアの小型アラガミは一掃できたようね。お疲れさま」
「いえ、こちらこそ」
「それにしても、後半はなかなか良い動きしてたわよ。期待の新人君現る、ね」
「やめて下さいよ。それに、何のかんので僕が手をつける前に結構攻撃してたじゃないですか。そのおかげです」
「そう言ってもらえると私も嬉しいわ。それじゃあ、帰りましょうか」
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「痛い……痛いよ」