GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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アナグラを取り巻く悪意の渦。

悪意の行き着く先は一体何なのか……


愚衆醜悪 前

藤木コウタと言う人間を一言で表現するのならば、まさにお調子者である。しかし、本人が気付いているかは不明だが、そのお調子者は自分の憶病さを誤魔化すためのものでもある。

 

コウタの周囲も、ここ最近彼に対する態度が変わってきていた。大概の神機使いの彼に対する当たりというか態度が、嫌に高圧的なのだ。

 

コウタ本人もその変化に気付けないほど鈍感ではない。むしろ憶病な彼は、そう言うことにはやけに敏感とさえ言える。

 

「藤木! もっとちゃんと撃てよ!!」

 

「おい、お前がしっかり撃たねぇからこっちが怪我したんだぞ! 分かってんのか!?」

 

横暴とさえ言えるような、先輩神機使い達の叱責。実戦経験が豊富な人間であれば、彼等の戦闘の流れを見た瞬間に、藤木に非は無い、と断言できるのだがコウタにはそれほどの経験は無い。

 

だからこそ、何か言われる度に

「すいません!!」

と頭を下げるしかやり方が無い。

 

コウタがいじめられている理由は明確であった。

イリヤという訳の分からない輩と仲が良い、と言う傍若無人極まりない理由だ。

 

そして、中途半端に敏感な彼は、そう言うところには気づけない。

 

アナグラの空気は、濁り続ける。

 

日を追うごとに、神機使い達の負傷頻度が上昇していく。同じく、神機の破損の程度もゆっくりと酷くなっていくばかり。

 

(酷ぇよ……)

 

ここ最近のコウタの頭の中はその言葉で一杯だった。

 

その姿に、初めの当たりに見せていたお調子者の面影は無く、憶病さと傷だらけの優しさがむき出しになっていた。

 

 

彼の心は、震えていた。

 

 

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イリヤ・アクロワと言う男には、許せないことがある。家族、親友、大切な人___そう言った人達を傷つけようとする存在だ。

 

 

 

彼は、最近不自然な空気を感じ取っていた。

 

それは、前まで自分を嫌悪していた連中が急に大人しく___とは違う。とにかく、彼の周りで喚く輩が急に減ったのだ。無論、受け入れられたわけでは無く、本人もそれは理解している。

 

だからこそ、である。

 

何で急に静になった? 

 

彼は、それが気になって仕方が無かった。

 

 

 

 

「おい、藤木」

 

「…何ですか?」

 

 

コウタは、ここ最近やたらと自分に絡んでくる先輩神機使いに呼び出されていた。

 

「いやぁ、最近俺達もな。流石に酷いことをしすぎたかな、と思ってた所なんだ」

 

その言葉を聞いた瞬間に少し表情が明るくなった時点で、彼は優しすぎた。そして、そんな彼の弱点とも言える優しさを見逃す理由も無い。

 

「お前等、任務行ってこい。任務内容は俺が適当に見繕ってやる。2人とも生きて帰ってこれたら、今後お前等には一切干渉しない。何、ただの中型アラガミの討伐だよ」

 

寒気を覚えるほどの不自然な笑みと優しい声。

 

しかし、もはや誰かを疑うような精神力も残っていないコウタには、そんなことですら気づけない。

 

(ふん、バカが)

 

男は、目の前で嬉しそうな表情を隠そうともしない少年の姿を見ながら、内心ほくそ笑んでいた。

 

 

 

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「な、なあイリヤ」

 

久々に話し掛けてきた声には、少し怯えの色と震えが孕まれていた。そこに気付いても、もはや今のイリヤにはそんなことはどうでも良くなっていた。

 

「何だ?」

 

「いやぁ、その…さ。一緒に任務いかね? コンゴウの討伐任務だよ」

 

流石に、彼の口から明確なアラガミの名前を聞くとは思っていなかったので、少し不自然さを感じる。何せ、少なくともイリヤが知っているコウタは、「あの恐い顔した二本脚の白いヤツ」とか「動かないアレ、針とかなんか変なので攻撃してくるヤツ」、「風船と女の子の上半身のヤツ」と言ったアホを丸出しの表現を使うのだ。その差違に違和感を覚える。

 

「……どうしてまたコンゴウなんだ?」

 

色々と含みのある質問を投げかけてみる。

 

「い、いやぁ……この間アイツにぼこぼこにされたからさ! そのリベンジだよ、リベンジ!」

 

(嘘臭ぇな)

 

そこまで考えて、それでも、まぁどうでも良いかと流してしまう。

 

神機の修理も終わっているし、彼本人としては久々に舞い込んできたストレス発散の機会だ。これを逃す手は無い。

 

「……分かった。任務受注はお前が済ませてくれ。俺は少し準備してくる」

 

「いや、もう受注は済んでるんだ。早く行こうぜ!」

 

やけに手際が良いことに、また不自然さを感じたが、やはりどうでも良いか、と流してしまっていた。

 

 

 

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2人が降り立ったのは廃寺エリア。比較的標高の高い地域にあるエリアで、その特性として未だに雪が溶けていない、通常のエリアよりもや空気が薄いと言ったことが挙げられる。

 

しかし、ゴッドイーターのヒトを遙かに上回る身体能力はそれしきの環境条件で怯むことは無い。

 

(雪、か……)

 

久しく忘れていた、情緒的な感想。

戦場に立っている方が気が休まる、それが異常であるという自覚が無いわけでは無い。しかし、今の彼にとっては外の世界にいる方が、よほど人間らしい感情を取り戻せるのだ。

 

「な、なぁ、イリヤ。どんな感じで行く?」

 

おもむろにコウタが訊いてきた。

 

その声は震えている。流石にその薄着なら寒くても仕方ない、と思いつつ恐らく寒いだけでは無いだろう、と察していた。怯えの震えだ、彼は経験的にそう判断した。しかし、それが何に対する怯えなのかまでは分からなかったが。

 

「まず気を付けることだが、ヤツはやたらと耳が良いらしい。移動中は極力音を立てるな。あと、戦闘が始まればコウタは一掃射ごとに、ポジションを移動しろ。同じ場所に突っ立ってるな。前衛は俺がやるから、お前はそのバックアップをメインに頼む。俺がお前の盾だ」

 

「分かった」

 

よし、とお互いの拳をぶつけ合う。

 

 

イリヤが前衛に立ち、5歩後方をコウタが続く。神機使いの、基本的なバディポジションだ。曲がり角にさしかかると、イリヤが“待て”のハンドサインを出す。そっと顔を覗かせて、視界にとらえられる範囲を素早く確認する。

 

(いねぇ……が、気配はする)

 

ズン、ズン、と重量を感じさせる足音のような音が彼の耳に入る。

 

“敵、姿確認できず。されど気配あり。要警戒”のハンドサインをコウタに飛ばす。数秒してから右肩を2回叩かれた。これは、了解の意味だ。

 

2人は、静かに進みはじめた。

 

坂を上って行くにつれて、徐々に例の足音が鮮明かつ存在感を明確にしていく。

 

“敵、近し。戦闘用意”

 

ハンドサインを送り、了解の返答。

壁に張り付き、僅かに顔を覗かせる。

 

すると、ノルンの資料でしか見たことの無かった中型アラガミ“コンゴウ”が確かにそこにいた。背中をこちらに向けていて、2人の存在に気付いた気配は無い。

 

“敵発見。スリーカウントで突入”

 

身体を壁に隠して、コウタに向き直るとそのハンドサインを示す。コウタは、頷くことで了解の返答。

 

壁から少し離れて、3本指を立てた拳を出す。

 

“……3、2、1”

 

2人は同時に躍り出た。

 

コウタは、コンゴウを見つけるなりすぐに銃撃を開始。イリヤもガンフォームに変形させて射撃しながら対象との距離を詰めていく。

 

適度に近付いた瞬間、ソードフォームに変形。同時にポーチからスタングレネードを取り出し

 

「対閃光、対音響!!」

 

叫びながらコンゴウに投げつけた。

 

スタングレネードはやや直線的な軌道を描き、コンゴウの目と鼻の先で炸裂。アラガミとて、確かに物理的な破壊は不可能だが光刺激や音刺激はちゃんと認識できる。下手な生物より鋭敏化された五感には、なおのこと効果的なのだ。

 

両手で顔を覆いながら、数歩後ずさりうずくまる。

 

(そこ)

 

ステップと同時にコンゴウの横っ腹を切り抜く。すぐに身を切り返し、更にもう一撃を加える。どの傷も、さして深くない。

 

(手数)

 

ただひたすらに、隙がある場所に向かって切り込み続ける。感触は金属製の板を浅く削りえぐるような手応えの薄いものばかりだが、そんなことはどうでも良いのだ。

 

ひたすらに、手数で攻める。

 

スタン状態からは既に立ち直っていたが、イリヤにはそんなことは関係ない。ひたすら切り込む。

 

手数戦方は本来バスタータイプのブレードに向いていないものだが、イリヤはそれをステップを用いた一撃離脱戦法で成し遂げる。下手なブレードパーツよりもよほど重たいバスタータイプはそれだけでも、充分にダメージを与えられる。

 

(少し疲れた……)

 

息が上がってきた頃合いだ。

これ以上続けるとスタミナ切れを起こす。例えほんの一瞬であろうと、不動の時間を敵に晒すわけには行かない。

 

「コウタ!! 少しそっちに引きつけてくれ!!」

 

「分かった!」

 

コウタの銃撃がコンゴウの顔面に集中する。

 

痛覚からきているのか、コンゴウが呻き声を上げる。しかし、次の瞬間コンゴウが攻勢に転じた。

 

(ん?)

 

コンゴウは、少し身を引いた後小さく跳躍した。

 

 

そして_____

 

 

「コウタ避けろっ!!!!」

 

 

反射的にガンフォームに変形させて、縦スピンでコウタに直進していくコンゴウにレーザーを撃ち込む。

 

僅かにバランスを崩し、コウタはそれを見逃さずに回避する。そして、更に銃撃。

 

少しずつ削られていくオラクル細胞制の表皮。コンゴウは何カ所からか体液を流していた。

 

(もう少し圧高めの攻め)

 

コンゴウの全体的な傷の程度を見て早判断すると、彼は、コンゴウと自分を結ぶ線の上にホールドとラップを設置。

 

「コウタ! こっちまで来い!!」

 

コウタに向かって叫ぶ。彼もイリヤが何を狙っているのかを即時に理解し、攻撃を中断して後退する。

 

イリヤは、トラップを設置した場所からワンステップ後退する。コンゴウが彼と正対した。

 

(来い…!)

 

しかしイリヤは見誤っていた。まだ、コンゴウの攻勢は続いていたのだ。

コンゴウが、重心を後ろに下げて頭を下に下げて体制を作る。

 

(何だ?)

 

コンゴウの目の前で、大気の渦が形成されていく。

 

やべぇ!! そして彼はコウタの前に位置取った。

 

すぐさまシールドを展開。

 

ドウッ、と言う音が聞こえた瞬間シールドに信じられないほど重たい衝撃が襲いかかった。そして、更に重たい衝撃が襲いかかり、イリヤは耐えきれずに弾かれた。

 

 

「ぅがはっ!?」

 

 

石壁に叩きつけられ、小さなクレーターの中に埋まる。

 

肋骨を何本か折られた、脇腹に広がる鈍痛に戦闘とは別な思考がそう判断する。奇跡的に頭部の負傷は免れ、脳しんとうにはならなかった。

 

「チクショォーーー!!!!」

 

コウタの怒声と共に、複数の銃弾がコンゴウの側面に襲いかかる。

 

「あぁ、まったくもって畜生だ」

 

うっかりと相手の攻撃を許した自分に畜生。相手の攻撃を受けて怪我をした自分の間抜けさに畜生。

 

コウタを、自分の大切な友人を傷つけようとしているコンゴウに畜生。

 

ユラリ、と立ち上がる。

 

意識が、混濁する。

 

幻聴が聞こえる。

 

ハッキリとは聞こえないが、きっと自分の陰口に違いない。それに、ちゃんと聞こうとも思わない。

 

あぁ、うぜぇ。

 

苛々する。自分にも。敵にも。

自分に都合の悪い全てに苛々する。

 

発散しねぇと。

 

 

 

爆発しちまいそうだ。

 

 

 

 

 

        ……このド畜生が。

 

 

 

 

 

彼は、神機を握り直しただ目の前の“敵”に向かって突っ込んだ。

 

コンゴウの側面から、シールドで打撃。体制が崩れた瞬間を見逃さず、更に打撃を加える。

 

 

うぜぇ。

 

 

きえろ。

 

 

苛々する。

 

 

ド畜生が。

 

 

 

盾が使い物にならなくなった瞬間、斬撃に切り替える。

 

ガンっと言う硬質な反発や、グシャリと言う肉を潰すような感触が、不規則に柄から全身へと伝わる。

 

 

気持ち悪ぃな。

 

 

さっさと。

 

 

くたばれよ。

 

 

クソッタレが。

 

 

返り血の雨を全身に受けながら、腕の筋肉がきしみを上げている中、それでも一切手を緩めること無く、力任せに斬り付けていく。

 

 

ゴシャッ。

 

 

グチャッ。

 

 

「…イ!」

 

 

ズシャッ。

 

 

「オイ!」

 

 

ドスン。

 

 

「おいイリヤ!」

 

 

ズンっ。

 

 

 

ズンっ。

 

 

ガシッ。

「しっかりしろよイリヤ! コンゴウはもう死んでるって! どうしたんだよ!?」

「!?」

 

 

気が付けば、コウタに止められていた。

目の前の少年は、心配そうに、本当に心配そうな目でイリヤの目を見続けている。

 

イリヤには、何が起きたのか理解が出来なかった。

 

 

「イリヤ、落ち着けよ……な?」

 

 

「あ……え、あ」

 

 

「ほら、深呼吸だよ」

 

言われた通り、何回か深呼吸をする。

 

「……落ち着いたか?」

 

「あ、あぁ。大丈、夫……だ。」

 

「ほら、さっさとコア取り出して帰ろうぜ」

 

「そう、だな」

 

落ち着きを取り戻し、グチャグチャになったコンゴウの死体に向かって捕食形態を取る。

 

その瞬間、ゾワリと背中に悪寒が走った。

 

「!?」

 

振り返り、神機を構える。

 

「どうしたんだよイリヤ? もうこのエリアは」

 

「……いやいる」

 

「え?」

 

             ・・・

「コウタ、この任務。本当にお前が受注したか?」

 

 

その瞬間、聞いたことの無い咆哮が響いた。

 

暴力的なまでの威圧感を孕んだそれは、全身に鳥肌を立たせるほどに恐ろしく。

 

生物の本能が“逃げろ”と叫ぶ。

 

同時に、“何が”が飛び降りてきた。ドシンと言う音と共に地面が揺れ、雪が舞う。

 

 

雪煙の中に隠れていたのは_____

 

 

 

 

「……ヴァジュラか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                ~続く~    

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