GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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イリヤはその名を聞いた。

___死神

それがどう言う意味なのか、彼はまだ知らない


死神と言うあだ名

シャクシャク、シャクシャク___

 

リンゴを咀嚼する音だけに満たされる病室、と言うシーンもわりとシュールだ。しかも、リンゴを食べている男女は、男の方は真顔、女の方は酸っぱそうな顔をして少し悶えている、とあればもはやネタと言っても良い気がする。

 

狙ってか否か定かでは無いが、ミコトが楊枝を用意していなかったのもあり、2人とも手で摘まんでリンゴを口に運ぶ。

 

2人の指先は、リンゴの果汁に濡れていた。

 

「……イチゴは甘かったのに……」

 

ミコトのぼやきに、イチゴとリンゴじゃ種類が違うだろう、と変なツッコミを心の中で入れてしまう。

 

イリヤは確信した。今、自身の右隣で一緒にリンゴをつまんでいるこの女は間違いなくアホの子だ、と。

 

そんなイリヤの心の中身に気付くことも無く、ミコトは口の中を襲撃する酸味に、未だに悶え続けていた。

 

(ノルンが……嘘ついた……許さないんだから……!!)    

 

一体誰を許さないのだろうか。

少なくともノルンをぶち壊したとして、間違いなく懲罰棒に放り込まれる未来しか待っていない。

 

羽黒ミコトは、甘党であり辛党である。しかし、酸味に対する体制は、ほとんど無い。彼女が嫌いな食べ物の代表例は、梅干しだ。極東支部では支部設立当初から食事の中に含まれていた万能食品だが、ミコトはこれが、全くと言って良いほどに駄目だった。

 

(何でコイツ普通に食べられるんだろ……)

 

味覚においてのみ、個人の正義が通用する。それに従えば、ミコトにとってイリヤは本気で信じられない味覚の持ち主に思えた。

 

「あ、随分濡れたな……」

 

指先を見つめてそんなことをぼやくイリヤを、チラッと見やると。

 

彼はペロリと、指先についた果汁を舐めとった。

 

その姿が、イリヤの容姿やら少しはだけた患者服やらの視覚的な影響も相まって、かなり官能的に映ってしまった。

 

(ちょ、何でそんなにエロいのッ!?)

 

口にも顔にも態度にも出していないから、その心の叫びがイリヤに察せられることは無かったが、ミコトは妙な気分になってしまった。

 

男にしては、細く、そして長い指。

 

その指先を濡らす果汁ですら扇情的に見えてしまう。そして、その果汁を舐め取るときのあの仕草の色気は、下手な風俗嬢の誘惑よりも官能的で___言葉を選ばなければ___エロかった。エロく見えてしまったのだ、ミコトには。

 

無論、イリヤは狙ってやっているわけでは無い。確かに彼は、そう見える術、は心得てはいるが、別にそれをやっているわけでは無いのだ。

 

「ぁ、最後か。ミコト、お前が食えよ」

 

心の中で真っ赤になっているミコトに、イリヤが何も察することも___はずも___無く、至っていつも通りのトーンで最後の1切れをミコトに譲った。

 

「へぁ? え、何?」

 

だが、頭の中が淡いピンクの霧に霞んでいたミコトはその声すらまともに聞いていなかった。

 

「いやだから、最後の1切れを譲るって話だ」

 

大丈夫か、と言いたげな目をしながらイリヤがミコトの顔を覗き込んだ。しかし、身につけてしまったポーカーフェイスが彼女の心の内をイリヤに悟らせることを許さない。

 

「い、良いわよ別に。アンタが食べなさいよ」

 

それじゃあありがたく、とイリヤは最後の1切れをつまんだ。スッと、最短距離を通ってリンゴを口へ運ぶ。そして、リンゴの先端をかじった。

 

 

___シャクッ

 

 

そして数回咀嚼してから、更に残った部分を口の中に放り込んだ。その際に、人差し指が唇に触れる。その姿ですら色っぽく見えるのだから、イリヤが相当無意識にエロいのか、ミコトがそうなのか。少ししてから、飲み込む。

 

彼は、もう一度指先を舐めて、唇も少し舐めた。

 

その仕草全てに、ドキッとしてしまう。恐らくミコトの方が過剰に反応し過ぎなだけだろう。無論、イリヤがエロくないとは言わないが。

 

(エロ過ぎでしょアンタ!!!)

 

何故か心の中で怒鳴ってしまう。何度も言うが、口と顔と態度には出していないので、イリヤにはバレない。

 

「ごちそうさまでした」

 

そう言って律儀に合掌する姿に、ミコトは意外さを感じた。言ったら悪いから口にしないが、彼がそう言った風習的なマナーを守るような人だとは思っていなかったからだ。本当に失礼なことである。

 

少ししてから、ミコトが口を開いた。

 

「あのさ、自分で用意した手前なんだけど、このリンゴ美味しかったの?」

 

酸っぱい物が駄目なミコトにとっては、やはりイリヤがこのリンゴをちゃんと食べたことが一種の怪奇現象のように感じられるのだ。

 

「ああ。普通に美味かった。つーか、リンゴ食ったのこれが初めてだからな。良い物食えた」

 

「そ、そう、なら良いんだけど」

 

そして、また無言の時間が流れ出す。

 

別に、お互いに何か話したいことがある訳でも無いし、聞いて欲しいような悩みがある訳でも無い。いや、2人とも悩みはあるが、お互いにそれを口にすることを苦手としているだけなのだが。

 

すると、唐突にイリヤが起こしていた上体をボスッとベッドに沈めた。あまりに突然すぎるアクションにさすがのミコトも少し大きく反応してしまう。

 

 

「ん? あぁ、悪ぃ驚かせたか?」

 

 

「いや、大丈夫……」

 

 

少し、広めにはだけた胸元に目が行ってしまったが、すぐに視線を逸らした。

 

「なぁ」

 

おもむろにイリヤが口を開いた。

 

「何?」

 

「他の奴等……コウタとか最近どんな感じだ?」

 

「コウタ……あぁ、あのアホの子。随分調子を取り戻したみたいよ。第1部隊の隊長さんとかツバキ教官とかあたりにそこはかとなく守られてるし。きっと本人は気付いてないでしょうね」

 

「守られてるってのは、どういうことだ?」

 

「少し前まであの子、アンタとセットにされていじめの的にされてたからね。それを見かねての結果よ」

 

「なるほどな」

 

恐らくそのいじめている輩は、この間自分を任務に乗じて死なそうとした輩と同じ人間か、ソイツの仲間だろう、とイリヤは予想した。

 

そして、顔にこそ出さないが確かな怒りを感じた。

 

(俺の親友に手ぇ出すとは、馬鹿が)

 

退院したら確実に何らかの形で報復を実行する、と心の内に誓う。彼の大切な物を傷つける輩は、ただでは済まないのだ。

 

「アンタのことに関しては、相変わらず。印象最悪のまんま」

 

「だろうと思った」

 

先ほどとは打って変わって、心底どうでも良さそうな態度。イリヤは、自分のことにはあまり関心が無いのだ。それこそ、自分に害が無ければ。

 

そうは言っても、だからこそ自分でも気付かないうちにストレスを溜め込んでしまうのだが。

 

(シノやリッカに迷惑かけるのも何かな)  

 

まぁ、周囲が自分に対してどう言う態度を取るかで身の振り方を変えよう、と以前より少し能動的な対応にしようと考える。

 

「そう言えば、ミコトは第1部隊への正式な転属っていつなんだ?」

 

ふと、思い出し、訊く。

 

「明日。___ふふっ、これで第1部隊はアナグラの死神大集合よ」

 

「?」

 

最後の言葉の意味が分からず、首をかしげる。

 

「退院したら嫌でも分かるわよ。アタシ、アンタ、そしてもう1人」

 

「もう1人ってのは誰だ?」

 

「さぁ? それじゃ、アタシはここら辺で」

 

そう言うと、ミコトは席を立って部屋を出て行った。

 

(死神、ねぇ)

 

少なくとも気分が良いあだ名では無い。いや、確かに死神という名が称号になり得る可能性も否定はしないが、これには悪意を感じる。何せ、自分が嫌われているという自覚があるのだ。良い意味でとらえろ、と言う方が無茶である。

 

(アナグラの雰囲気ってのは割と陰湿なのか?)

 

そう思わずにはいられないような、いやな感じがイリヤの中でうごめいていた。





さて、そろそろ次のステージに行こうかね……!!

行こう、かな……?


行きたい、な……


頑張ります!!!
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