GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
(あぁ、昨日のことを無かったことにしてぇ)
イリヤはエリアの合流ポイントで1人、どんよりと曇りきった空を見上げながらぼんやりとそんなことを考えていた。彼が言っているのは、前日、彼が部隊復帰をリンドウに報告したときのアレのことだ。
(黒歴史だ……)
半ば達観したような心境で、あの出来事に付箋をつける。つけたところで、心の底にあるブラックボックスに厳重に封印するだけだが。
ふぅ、と溜息を吐いて
身体の中に溜まりかけていた陰鬱な空気を吐き出し、空気を一新する。
彼は今、鉄塔の森と呼ばれる地域にいた。
ことの発端、と言う言い方も変だが、それは昨日の晩にまでさかのぼる……黒い箱が蓋を開けそうになった。危ない。
『復帰して早々悪いが、お前には明日任務に行って貰う。なに、卵みたいな形した小型アラガミをぶっ殺すだけの任務だ』
(ザイゴートのこと、なんだろうな)
リンドウもたまに、本人が自覚してるかは知らないが、コウタのように物の正式名称では無く、形や特徴で表現するときがある。しかし、そうだと言ってもコウタとリンドウを同列のアホの子としては扱わないが。扱えるわけが無いが。
『あぁ、あと悪いがその任務には俺は同行できない。別の任務があるんでな。そこで、代わりと言っちゃあなんだが、うちの部隊から2人同行者を出す。1人はまぁ、根は悪くないんだが少し不器用なヤツでな。もう1人も、多少変わってはいるが良いヤツだ。安心しろ、2人とも実力はある』
(思い出せば出すほど不安になるのは何でだ?)
どっちがどう、とかそう言うのでは無く、どっちの人物も少し微妙な印象を植え付けられたのだ。恐らく会ったことが無い、もしくは見たことが無いから、そこから来る先天的な警戒も多分に影響しているだろう。
(味方云々なんて求めねぇから、せめて敵じゃ無ぇ人間でありますように)
ガラにも無く、割と本気で心の中で祈る。とは言っても、彼には信奉する神などいないのだが。
曇りきった空。どんよりと、憂鬱な灰色の雲にまみれたその中に、数カ所、雲が薄いのか淡く光が差し込んでくる場所もいくつか見受けられた。
(まぁいけるだろ)
再び降り積もりかけていた憂鬱な気持ちを気合いで消し飛ばす。悪いように考えるから、結果も悪くなるのだ、そう言い聞かせながら。
___そのとき
「やぁ! 待たせてしまったようだね、キミが噂の新型の新人クンかい?」
自信と生起に満ち溢れた、もう少し言えば、これもアホの子の臭いを醸し出しす、そんな声が飛んできた。高々と話す、と言う実例を耳にした気分になれる、そんな口調だ。
誰だ、と思って振り返ると。かなり対照的な雰囲気を放つ2人組の男達が歩み寄ってきた。
(あ、さっきのはこっちの人か)
イリヤは、赤髪にサングラス、胸を開いたジャケットに、胸にタトゥーを彫り込んだ、“愉快そうな人”を見てそう判断した。何を以てそう判断したのかは言わないでおく。
「初めまして。僕はエリック・デア・フォーゲルヴァイデだ。エリックと呼んでくれ。こっちの少しぶっきらぼうな雰囲気の子は」
「ソーマだ。別に覚えなくても良い」
少し空気が冷たくなったような感じがした。
「……と、言うわけだ。今回の任務はよろしく頼むよ、新人クン。共に華麗なるゴッドイーターとして華麗に戦おうじゃないか!」
差し出された手は、これがまた意外なことに形も綺麗なのだがちゃんと親しみやすさも内包した、一言で言えば凄く丁寧な形をしていた。
(悪いヤツじゃねぇみたいだな)
そう判断して、イリヤも差し出された手をしっかりと握り返した。
「イリヤ・アクロワ。よろしくお願いします」
「おい、仲良しごっこやってる暇があったらさっさと任務終わらせるぞ」
ソーマ、と名乗った少年のその言い方にイリヤは少しイラッとしたのはまぁ当然として、それでもどう言うわけか“これはこれで愉快そうな人”と見た目からは到底考えつかないような印象も抱いた。
「……彼はね、あんな言い方をよくするけど実は優しい人間なんだ。どうも他の人はそれに気付かないみたいだけどね」
ソーマの後ろに続いて歩くイリヤに、エリックがそう耳打ちした。
「彼の場合は、少しぶっきらぼうが過ぎるけど、ただ不器用なだけなんだよ。だから、キミも出来れば彼と仲良くしてやって欲しい」
そう耳打つエリックの声は、少し寂しそうな物だった。
「……敵じゃねぇんなら別に良いですよ」
色々な想いを込めて、イリヤはエリックの頼みにそう返した。
「……ありがとう。君は優しい人なんだね」
「おい。ちゃんと周囲を警戒しろ」
かなり小さな声で話していたはずなのに、ソーマには聞こえていたらしい。ゴッドイーターの強化された聴覚だと、さっきのトーンですらやはり聞こえるのだろうか。
しかし、そう言うわけでは無い、とその直後に教えられる。
ソーマが突然、険しい表情で振り返った。
「エリック、上だ!」
「え?」
イリヤとエリックも、ソーマの視線につられて後ろを振り向いた。
振り向くと、その直後に周囲が影に覆われた。
視線を上に向けると___
オウガテイルがその凶悪に大きな口をガッパリと開けて、今にもイリヤに食いつこうとしていた
(___あ、死ぬ)
_____ガチンッ
「___ソーマが間違えるとは、珍しいね」
目をつむったのと同時に聞こえたのは、重量物が勢いよく固い何かにぶつかったときの衝撃音と、エリックの至極冷静な声だった。
「___せっ!!」
エリックは極限まで小さく固められた気合いと共に神機を横薙ぎに振るい、オウガテイルの横っ腹に叩き込み、その身体を真っ二つにかち割った。勢いをつけすぎたその一撃で、コアもろとも破砕させてしまう。
「イリヤ君も、さっきのはマイナス1点だね。人間の目は前に付いているんだから、警戒はむしろ背後の方に注意しなきゃ。ソーマも、気付いたのは良いけど言う相手を間違えるのは良くない」
「……チッ……悪かったな」
イリヤは、自分の脳味噌の中で今目の前で起きた一連の流れを整理することが出来なかった。ただ、1つ理解できたことはエリックという男はかなり強い、と言うこと。
(てか……銃身パーツでアラガミを叩き切ったのか!?)
少し深呼吸をして、動揺をおさめる。
まずは、自分が助かったことを認識しなければ。
「あ、ありがとう、ございます……」
「気にしないで良いよ。それよりも……結構集まってきたみたいだね」
「え?」
気が付けば、自分の目に見える範囲全体にザイゴートが複数姿を見せていた。宙を舞う全ての邪眼が、確実にイリヤ達3人をとらえている。
「ざっと10体程度か……」
「フン、何体いようが全部叩っ切るだけだ」
長い付き合いなのだろう。2人は、特に示し合わせることも無くごく自然と背中合わせの状態になっていた。
「イリヤ君は遊撃手をやってくれ。くれぐれも、誰も味方から離れすぎないようにね」
エリックの、神機を掴んでいない方の手が拳を成して高々と突き上げられる。立てられた指は、3本。
(スリーカウント……!)
___3…
___2…
___1…
拳が振り下ろされた。
「僕の華麗なる戦いの前に散るが良い…!!」
「……全部ぶっ殺す…!」
___2匹の獣が駆けだした。
それぞれが求める物は、殺戮、その先にある“勝利”。それを勝ち取るためならば、いくらでも血溜まりの上を駆け巡る。いくらでも返り血を飲み下す。
イリヤは、その2人の姿に背筋が冷えるような感覚を覚えた。
何のための勝利かは別に、2手に分かれた2人の背中にはそれぞれの覚悟が垣間見える。
自分には無い、求めるもの確かにあるのだ。
それを勝ち取るために手段などを選ばない、その冷徹なまでの情熱にイリヤは恐怖すら感じた。
・・
(これが………闘い)
人類を蹂躙する神為らざる神を、人類が蹂躙するその様に鳥肌が立つ。正に、神への反逆。
(だったら……やることは1つだよな……)
何も言わず、神機をガンフォームへ変形させる。
(よろしく頼むぜ___シノ……!)
心の中でそう唱えて、より多い数を相手にしているソーマの方に銃身___オーカ・ニエーバ改を向ける。イリヤの視線の先にいるのは、巨大なノコギリのような凶悪な形状をしたバスターでザイゴートの群れをなぎ倒していくソーマ。だが、やはり死角はある。
それを見逃すほどアラガミも優しくは無い。
ならば。
それ以上の冷徹さと冷淡さをもって
___アラガミを屠るだけだ
「___そらっ」
超高密度の光弾が帚星の如く太く力強い尾を引いてザイゴートの土手っ腹に直撃。そのまま貫通して、ザイゴートの身体にバスケットボールより一回り大きいくらいの風穴が穿たれる。あの一撃で力尽きたとは思っていないが、ソーマの背後に陣取っていた驚異は排除できた。
「チィッ、イリヤ君! そっちに1体逃してしまった! 始末してくれ!!」
エリックの警告を聞いて、瞬時にソードフォームに変形。振り向けば、ザイゴートが高速で迫ってきていた。距離にして30mほどあるが、敵の速度を鑑みるに数秒で到達する。
攻撃? タイミングを外せば命取りになる。
防御? 遅い。
___ならば、回避
一直線に突っ込んでくるザイゴートに対して、左側へ2ステップ。唾液をまき散らしながら迫っていた巨大な口は、虚空を噛み砕いた。
突如視界から消えたエサを探してキョロキョロとしているザイゴートの背後に回り込み、跳躍。
「っやりゃあぁ!!!」
神機の重みと重力と自身の筋力をもって、縦一文字に刃を振り下ろす。
以前より更に強化洗練された刃は、ザイゴートの背中を深々と切り裂き、返り血を咲かせる。
人のそれよりも黒みの強い液体がイリヤの顔を、髪を汚す。
過剰なダメージを負ったザイゴートが、無様に地面に墜ちる。
3ステップ後退して、ガンフォームに変型。3発の銃声が轟く。
3発の至近弾をまともに受けたザイゴートはもはや肉屑のような有様になっていた。
焼け焦げた中の肉の隙間から、明らかに質感の違う発光体を見つけた。
(コア……)
またソードフォームに変型させて、捕食形態に移行。
ズルリ、と下手なアラガミよりも醜く凶悪な黒い顎が現れる。ポタポタ、と黒い液体を滴らせるその姿は、エサを目の前に舌なめずりする肉食獣のそれだ。
「___喰っちまえ」
黒い獣は、ザイゴートの肉ごとまるまる飲み込み捕食した。相手はほぼ死体だったようで、バースト状態にはなれなかった。
(まぁ、良い)
『こちらエリック、僕の方は全て始末したよ。1匹取り逃したのは華麗とは言えなかったね……他の皆は?』
『……こっちも全部片付けた』
「見える限りは全て排除」
『よし、じゃあイリヤ君のいる場所で合流だ』
しばらくすると、やはりアラガミの返り血に汚れた2人がイリヤのもとへ駆け寄ってきた。
すると唐突に。
「おいテメェ」
ソーマに胸ぐらを掴まれた。
「俺みたいな化け物を援護する暇があるならエリックの方を援護しろ……俺に構うな___」
___死にたくねぇならな
怒り、と言うよりも憎しみに近い感情。
イリヤはソーマの言葉からそれを感じ取った。それも、イリヤ本人にも向けてはいるのだが、同時にソーマ自身にも向けていて。
だから、イリヤは何も言えなかった。
「ソーマ」
エリックの、少し厳しい口調にソーマは舌打ちをしながら掴んでいた襟を解放した。
「___俺に構うんじゃねぇ」
ソーマは再びそう言うと、1人で歩き出した。
「まぁ、彼も色々気難しいところがあるんだ。あまり悪く思わないでやってくれ」
「……はい」
エリックにそう言われて、何となくそう返事をするイリヤだったが。
・・・・
(……見えねぇなぁ)
ソーマの背中を見つめながらそう感ていた。
そして、ソーマはこの時、彼の人生に関わるレベルの大誤算をしてしまったのだが、それはまた別の話。
よし、エリック死亡ルート回避!!
それが出来ただけで満足じゃぁ~い(*´∀`*)
頑張っていきます!!