GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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ピジョンズ・ベル児童園。

そこでイリヤが見つけたのは___


変わらない、変えられない

イリヤは、神機使いになってから初めて私用での外出を認められることになった。とは言え、建前なのかそうでないのか引率者同行が条件だったが。

 

「……」

 

「……」

 

同行者はソーマ。

いつも通りの藍色のパーカーに黄色のワイシャツ、黒いネクタイ、少しダボついたカーゴパンツという出で立ちに、暑くねぇのかコイツ、と感じてしまう。

 

アナグラの中は空調設備が整っているからそれほど暑さ対策や寒さ対策は必要ないのだが、外は訳が違う。まず、昼間はクソ暑い。ギリギリ熱中症にならない程度で、むしろ逆に鬼畜的な気温とも言える。やるならひと思いにやってくれ、そう言うレベルだ。そして、夜は死ねるほどに寒い。本当に人が死ぬ。昨日生きていたホームレスが次の日凍死体で見つかるなんてのはざらにある話だ。全ては、“人類最後の愚決”が招いた代償だ。

 

余談だが、件の凍死体はすぐに消える。そして、昨日死にそうになっていたホームレス達は少し元気を取り戻している。そこにどんな因果関係があるのかは、イリヤは気付かないふりをしている。

 

乾燥した少し砂っぽい空気。

 

巡回の治安部隊隊員から敬礼されるあたりに、自分がフェンリルの神機使いなのだな、と改めて感じさせられる。何せ、どちらかと言えばフェンリルの目の敵にされていた時間の方がまだ長いのだ。違和感やら、変な感慨深さやらで複雑な気分になってしまう。

 

住民から浴びせられる視線も、正にカオスだ。憎かったり、妬みだったり、恐怖だったり、憧れだったり。1つ確かなことと言えば、歓迎さてれる空気では無いと言うことだ。

 

2人は、何も言わずに足を進める。

 

 

「……」

 

(おぉ、不機嫌そうな顔……)

 

 

深く被ったフードの影から見え隠れするその目は、明らかに不機嫌で、更に言えば他者を寄せ付けまいとする敵意にも似た威圧感があった。

 

見ていて、恐い。

 

 

すると___

 

 

「…………チッ」

 

 

(お!? 何でだ!?)

 

 

少なくともイリヤにとってはいわれの無い舌打ちを受けて、少し動揺する。恐らく自分のお守りをさせられているのが気に食わないのだろうが、それはツバキに言うべき文句であって、イリヤに向けるべきものでも無い気がする。

 

誰かと一緒にいてイラッとくるときはたまにあったが、恐いと感じたり、萎縮しそうになるのはこれが初めてである。それほどに、ソーマは攻撃的な拒絶をあらわにしているのだ。

 

ピリピリとした棘みたいな空気を隠そうともしない少年と、その空気を恐ぇと思いながら受け流すことに徹する少年。

 

これはこれで、なかなかカオスだ。

 

 

(なんつーか、いやに濁った目だな……何やったらこんな目になれるんだか……普通はなれねぇ目だぞ、おい)

 

 

フードの影から盗み見るようにして観察していて、イリヤはそんなことを思っていた。そして、イリヤはいつの日かこんな目をした人間に会ったことがあったのを思い出した。

 

 

イリヤがフェンリルに入る随分前のことだ。ある雨の日に、1人の男を見かけた。その男はガリガリに痩せこけていて、骨と皮と内臓が布きれをまとって歩いてあるような酷い体つきだった。その男は、常に小さな声で何かをずっと呟いていた。何を呟いていたのかはついに知ることは出来なかったが、今際の際だけは聞いた。その男を見かけるようになってから数日後。何の偶然か、その男の最期をイリヤはたまたま看取ったのだ。呆然と見ていた、とも言えるが。その男は死ぬ間際に、

「あの外道共め!! 滅べ! 滅んでしまえ!!!」

そう叫んでいたのを今でも覚えている。何に対して言ったのかは知らないが、その男の目が死ぬその時まで、鉛の様に重苦しく冷たく濁っていたのだ。

 

(あの頃の俺等にしてみりゃ、外道なんていくらでもいたからなぁ……一概にフェンリルとは言えねぇよな)

 

と、インパクトの強かった記憶を思い出しながらそんなことを考える。ホームレスや未登録者達からしてみれば世の中全てが外道のようなものだったから、男が呪っていた対象も思い当たる節はいくらでもある。

 

 

それはともかく。

 

 

その男が死んでから、以来ずっとあの目を見ることは無くなっていたが、まさか今になって再びアレと同じ目を見ることになるとは、イリヤは全く思っていなかったのだ。

 

(ワケあり……なんだろうな)

 

まぁきっとろくな目に遭ってなかったんだろうな、と言うことだけは何となく察した。そうで無ければ、なかなかお目にかかることの無い目なのだ。かと言って、ソーマがどんな過去を持っていようと同情する気もさらさら無かったが。

 

イリヤから言わせてみれば、ソーマがどんな人生を歩んできたかなど、そんなことはどうでも良いのだ。彼が、イリヤの敵で無ければ、それで良い。

 

 

そうは言えども、ソーマの濁った瞳が気になってしまうのはやはりイリヤも、根がお人好しだと言う証明なのだろう。

 

 

 

 

そうしているうちに、目的地であるピジョンズ・ベル児童園に着いていた。

 

 

「……ほぉ」

 

 

着いたときに、イリヤはその正門をみて“うまいな”と感じた。正門は閉じられているが、だからこそ1つのレリーフが浮かび上がる。

 

(正に平和の鐘、だな……)

 

西洋風の鐘とその上に止まって翼を広げている鳩。構図としては至ってシンプルだが、だからこそ力強い印象も同時に感じる。

 

「おい、何突っ立ってんだ。早くしろ」

 

(人間語喋った!!)

 

と言う場違いなツッコミは口にせず、あぁ、と至って普通のトーンで返す。心の中では、声も不機嫌そうだな、と考えていたりする。

 

イリヤは正門のすぐ側にある扉を開けて、敷地の中へ入った。

 

少し広めの運動場のような広場。今のご時世には珍しい、本物の花。よく見ればヒナゲシがほとんどだが、パンジーやホウセンカなどもちゃんと植えてある。

 

「凄ぇ……」

 

生まれて初めて嗅ぐ花の匂い。感想は、臭くは感じないが落ち着かない匂い、と言うものだ。だが、イリヤの心は思いの外癒やされていた。確かにノルン経由でも様々な娯楽を得ることは可能だが、それもほぼ全てが映像媒体による娯楽だ。こういう、ヒーリング系の娯楽は無いと言って過言では無い。

 

「はぁ~………」

 

感嘆の溜息。いや、実に良いものを見れた。そう結論づけようとしたとき___

 

 

「……ん?」

 

 

彼は、気になる花を見つけた。

 

 

(コイツは………)

 

 

 

 

 

 

玄関は、児童用と職員用の2つがあり、児童用はこれがまた牧歌的な優しいデザインのものだった。そこをあの子供達がくぐるのだ、と考えると自然と笑みがこぼれる。まぁそれも、ちゃんと手続きを踏まないとただの夢だ。だから、それを現実にするために粋も味も無い質素なデザインの職員用玄関のベルを押した。

 

ビー、とレトロな音が鳴る。

 

しばらくすると、奥からドタドタと足音が近付いてきた。

 

そして、勢いよくドアが開け放たれた。

 

「あ、あの、すみません、出るのが送れちゃって」

 

中から姿を現したのは、少し茶色がかったボブヘアーの女性だった。太い黒縁の眼鏡。白と水色の横縞のシャツに、ジーンズ。失礼ながら、胸は少し残念。例えるなら___スパナが飛んできそうな気がするので例えない。

 

「あぁ、すみません。こっちも何の連絡も入れずに訪れちゃったんで……」

 

イリヤが話すと、女性は驚いたような顔をした。もう少し隠せよ、とは思うが仕方ない。この女性も、自分のことを第一印象で女だと誤認したに違いない。慣れっこだ。もはや何も言うまい。

 

「自分、フェンリル所属のイリヤと言います」

 

フェンリル、と言う単語を口にした瞬間、女性の目が据わった。身にまとう空気も、少し冷たくなっている。

 

(あぁ、この人もフェンリル嫌いか)

 

と、冷静に観察する。

 

「私は、当孤児院責任者の長瀬ケイと申します。お見受けしたところ、ゴッドイーターさんのようですが……こちらに何の用件でしょうか?」

 

女性___長瀬ケイはイリヤの右手首の腕輪を細めた目で軽く睨み付けたあと、石のように冷たく重たい声で言った。明らかにフェンリルに思うところがあるらしい。フェンリルが、彼女に、この孤児院に何をしたのかは知ったことでは無いが。

 

知ったことでは無いからこそ、彼には関係が無い。何にせよ、話を聞いてもらわねば。

 

「あぁ、その……とりあえず、警戒解いてもらえませんかね? 恐いです。用件も、俺の子供……兄弟? を入園させて欲しいって言う……」

 

長瀬は怪訝そうな表情を浮かべるも、どうぞ、と渋々イリヤを中へ案内した。

 

案内されたのは、園長室だった。

やはり質素な光景だが、こっちには温みがある。職員用玄関とは何かが違っていた。

 

「フェンリルの、と言うかゴッドイーターさんが何故フェンリル庇護下の孤児院をご利用なさらないのか、そこが私としては分からないんですけれど」

 

もっともと言えばもっともだ。彼女の言っていることは理にかなっている。とは言え、だからといってそれに従う理由も無いわけで。

 

「まぁ、率直に言えばフェンリルの支援が入った孤児院があまり好かないってだけです。自分もフェンリルの人間ですけど、もともとは外部居住区に住んでいましたし。元テロリストみたいなものなんでね」

 

長瀬は眉をひそめた。恐らく、自分という人間を見抜こうとしているのだろう。別に隠すような後ろめたいことも無い。

 

「自分、捨て子でしてね。ちゃんと覚えてねぇんですけど。まぁ、その関係でいわゆる“闇子”だったんです。で、食い詰めてテロまがいなことやってて、とうとう捕まった。それでも運が良かったのか、自分ゴッドイーターの適性があったらしくて、それになる代わりに罪を帳消しに___まぁ司法取引ですかね」

 

長瀬はまだ黙ったままだ。

 

「んと、子供の話に関しても、俺が保護者みたいなポジションにいるってだけです。条例上にそれを保証する項目は無いんで。何分、自分も未成年なもんでしてね」

 

えっ、と長瀬は声をあげた。イリヤが話し始めてから、初のリアクションだ。

 

「まぁ、結局のところ自分がフェンリルを好いていないって話に落ち着くんですけど」

 

適度なところで話を切り上げる。見抜こうとしたんだ。何も隠さずに話した。あとは、相手がどんな対応を取るかでその都度捌けば良い。

 

「___なるほど」

 

長瀬は静に、ただそれだけを言った。

 

(まぁ、大方どうしたら良いか分かんなくなってんだろうな)

 

しばらくすると、長瀬が口を開いた。

 

「分かりました。正式な手続きはまだ出来ませんが、入園を受け入れます」

 

「ありがとうございます」

 

素直に、ぺこりと頭を下げる。

 

「ただ、私たちの方も経済的な面で苦しいところは多々あるので、子供達の生活は質素なものになりますが……」

「ちょい待ち」

 

イリヤは、恐らくどこかで金の面に関する話が出てくるだろうと睨んでいた。それも、経済的に苦しい、と言うフレーズで出てくるだろう、と。だが、この孤児院は質素ではあるが経済的に困窮している様子は無い。おもむろ花壇に花など植えられている時点で、やや裕福とさえ言える。

 

そして、イリヤはずっと軽く握っていた左手を差し出した。

 

 

手を開くと____

 

 

「なっ!?」

 

 

ヒナゲシによく似た形。サイズは、ヒナゲシよりも一回りか二回りほど大きく、花弁の色は赤では無く紫。

 

 

 

 

 

「___ケシ、だな?」

 

 

 

 

 

ケシ。正確にはアツミゲシ。20世紀の黒い遺産、その原材料。これから作り出される物質によって、かつて1つの王朝が滅亡させられた。

 

 

「勘違いしないで欲しいのは、別にこれを通報する気は無いってことだ。ただ、足洗って、まっとうな方法で金を稼いで欲しい。それだけのことです」

 

 

旧世紀の黒い遺産___アヘン。その取引価格は今でも高値が付く。そして、それに足を踏み入れて戻ってこれなくなった者、もしくは廃人寸前までたたき落とされた者は今の世でもいる。

 

イリヤも、かつて、その日を生き延びるのに必死だった時代、コレに呑まれかけた。呑み込まれる前に、ソッチの世界から捨てられたのだが。

 

 

「高値で取引されてるのは知ってる。でも、駄目だ。コイツは手を出すべきじゃ無い」

 

 

そう言って、左手を強く握りしめた。

 

 

「経済面で困ってるなら、俺の給料から毎月20万寄付する。ただの善意だから気兼ねなく使ってくれ」

 

 

そう言うと、イリヤは立ち上がった。

 

 

「気が変わったのなら、今回の話は白紙にして貰っても構いません。それと、ケシの話も口外はしません。約束します」

 

 

失礼しました、そう言ってイリヤは孤児院を出た。

 

 

「遅ぇぞ」

 

 

「悪ぃな」

 

 

(やっぱそう簡単に変わるもんじゃねぇよな)

 

 

久しぶりに戻った外部居住区は、彼がいた頃と比べても良くも悪くも変わっていなかった。

 

 

 





さて、なんか変に重たくなったな……

まぁ、次に何かあるかな、多分。

頑張ります!!
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