GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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それは、確実に迫ってくる。

誰にも気付かれぬまま、そこはかとない気配だけを漂わせて。




崩壊の足音

____外部居住区

 

 

「……ここも駄目、か」

 

スクラップの山の影に隠れながら、アナグラの物資搬入ゲートの様子をうかがう少年がいた。

 

名を、トモキ。

 

姓は無く、彼が唯一分かることは娼婦の息子で、気が付けば捨てられていた、と言うこと。

 

イリヤの最初の拾い子であり、つまりイリヤの子供達の中で1番彼との付き合いも長い。

 

その当のイリヤも、1週間前に失踪してから行方が分かっていない。

 

おそらく、捕まってしまったのだろう。

 

少なくとも、イリヤが自分たちを見捨ててどこかへ行ったと言う可能性は無いし、そもそもそんな風に考えたくない。

 

トモキは、心からイリヤを慕っているのだ。

 

1人の人間として。

 

彼から教わった、生き残る術。家族を守るための術。

 

どれもこれも大切で、そしてどれもこれも現状の自分達には必要不可欠な物ばかりだ。

 

フェンリルの職員等に見つからないように、そっとその場から離脱する。

 

「冷蔵庫の中には、500弱の食料があった。1週間、前までと同じペースで食べていって300数十……そろそろどこかで補わないと拙い」

 

廃墟が点々と残る荒野を歩きながら、今目の前に差し迫っている最大の問題について考える。

 

(今のところはまだごまかしが利く。だけど、近いうちに余裕が無いという現状を悟られる。確実に)

 

まだ、子供達は無邪気でいられている。

 

それも、一重にノゾミが子供達の面倒をちゃんと見てくれているおかげだ。

 

そのことに感謝しつつも、だからこそ何も結果を残せていない自分が情け無く思えた。

 

そして、彼にはもう1つ懸念事項があった。

 

自分達がホームタウンとしているあの区画一帯の雰囲気が、どうにも怪しいのだ。

 

日を追う毎に、ホームレス達が移住してきている。

 

しかも、どことなく集団として共通の目的があるかのように、だ。

 

「まさか、な」

 

少年は、彼の頭で考え得る最悪の状況を想像してしまい、何て馬鹿馬鹿しいことを、と誤魔化すように頭を振った。

 

大丈夫だ。

 

何の根拠も無いが、そう心の中で唱え続けた。

 

そうでないと、自分が思い描いてしまった最悪の状況が、現実になってしまう気がしたから。

 

 

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「ノゾミお姉ちゃん?」

 

アスカの心配そうな声で、彼女はようやく現実に戻ってこれた。

 

分かり易いくらいに呆けていたのだろう。

 

何となく、自覚はある。

 

突然姿を消してから、ずっと戻ってこないイリヤ。

朝早くに出て行って、半日以上経っても帰ってこないトモキ。

 

そして、自分達の周囲を取り囲む、何とも言えない不気味な空気。

 

この空気自体は、少し前から漂ってきていた。

 

最初の頃は本当に微々たる物だった。

だが、日を追う毎にその空気は濃くなっていき、その中に明確な悪意を見ることが出来るほどになっている。

 

(銃は……地下室にちゃんとある。使い方も、分かる)

 

最近はそんな物騒なことばかりを考えてしまう。

 

(イリヤやトモキがいないときは私が1番年上なんだ。いざという時は、ちゃんとあの子達を守らなきゃ)

 

無邪気な笑顔を絶やさぬ子供達を遠目に、彼女は、本来抱くべきで無い決意を抱く。

 

そして、その決意がいかに脆い物なのか。

 

彼女は、まだ気付いていない。

 

 

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相も変わらず不衛生な独房。

 

彼は、正気を保つことで精一杯だった。

 

「んん? 最近はずいぶんと自分の感情に正直になったみたいだが、今日は1段と酷ぇな。苛立ちを隠そうともしねぇ」

 

「煩い」

 

「おぉ、おっかねぇ」

 

これも相変わらず人を不愉快にさせる笑い方だが、今回ばかりはケンジでも口を閉じた。

 

今のイリヤは、本気で苛々していた。

 

何故か?

 

居住区に残してきた子供達の安否が分からないからだ。

 

彼があの街に住んでいた頃、ホームレスとイリヤ達の間で1つの“約束”が決められていた。

 

『お互いに干渉するべからず』

 

ちなみに、干渉しよう物なら、その者がどうなろうと自己責任。リンチに遭おうが、殺されようが、どんな目に遭っても自己責任。

 

破れば恐ろしい代償がまっているから、彼らはお互いに不干渉を保っていた。

 

しかし、それはイリヤという男がいたからこそ維持できた社会だ。

 

つまり。

 

イリヤがいない今、件の約束が守られ続けている保証は無く、それはつまり子供達を危険にさらすことと同義なのだ。

 

(……クソッタレが)

 

無論彼とて、いつこんな状況になっても構わないように、それなりの備えはしてきた。

 

子供達の1番年長の者、トモキとノゾミ。

 

この2人には、地下室の冷蔵庫の存在、銃の扱い方、アナグラの全ての物資搬入ゲートの場所と、トラックの襲撃要領と引き際、ステゴロの技術。

 

市民という、社会的に自身の存在を証明する術を持たない者が生き残るために必要な技術。

 

それは一通り教えてきた。

 

だが。

 

それでもなお、彼は不安を拭いきれなかった。

 

何せ、あの13人の中で年齢的にも体格的にも、まともに大人とやり合える人間など、トモキしかいないからだ。

 

トモキとノゾミはお互いに15歳だ。

 

そして他の子供達は、10歳であれば良い方。

ほとんどは、10歳に満たない無力な子供ばかりだ。

 

彼の不安は募るばかり。

 

そして、その不安は決して杞憂などでは無く。

 

 

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投獄されてから、どれくらいの時間が流れていったのだろう。

 

唯一分かるのは、かなり長い時間は過ぎてる、という実に曖昧な事実。

 

そんなある日。

 

イリヤが入れられている独房の扉が、唐突にどつかれた。

 

小さな鉄格子の窓からは、いつの日かイリヤが少し怖がらせた看守が顔を覗かせていた。

 

「おい、囚人! 起きろ!! 今日、貴様の裁判が実施されることが決定した。そこから出てきて、監視員の指示に従え……間違っても逃げようとか考えるなよ?」

 

「____煩い黙れ」

 

凄みも何も無い、平坦な声。

しかし、その声は酷く冷酷なようにも聞こえて。

 

今回は情け無い声出すことは無かったが、それでもしっかり尻餅をつく羽目になった。

 

その様子を察してか、向かいの独房からはケヒャヒャヒャヒャ、とこれまた薄気味の悪い笑い声が響いてくる。

 

何とか立ち上がった看守は、自分の醜態を無理矢理塗り潰すかのような勢いでがなり立てて、イリヤを牢から出した。

 

今回は、看守1人では無く、武装警備員3名もついてくるという厳戒っぷり。

 

4人ともサブマシンガンを3点スリングでぶら下げて、その気になればいつでも撃てるぞ、と暗に脅してくる。

 

よほど、イリヤのことを警戒しているらしく、そしてその警戒はあながち的外れでは無い。

 

独房を出て、次に向かわされたのはシャワールームだった。

 

「15分やる。済ませろ」

 

警備員は彼の特殊手錠を解くと、次の着替えとタオルを無理矢理持たせて、シャワールームに押し込んだ。

 

今逆らってもどうにもならない。

 

それを理解しているから、イリヤは不愉快ながらも言われたとおりに動いた。

 

済ませることを全て済ませて、彼はシャワールームから出てきた。

 

「付いてこい」

 

また特殊手錠を彼にかけて、移動を始める。

 

付いた場所は、駐車場だった。

 

「貴様は、これからアナグラ本部棟にある裁判所で、正式に捌かれることになる。まぁ、下手な真似はしないことだ」

 

無駄に高圧的な武装警備員の態度。

 

それに、決して小さくない不愉快を感じながらも、彼は我慢して誘導に従った。

 

 

 

_____絶望は、すぐそこまで迫っていた。

 





しばらくシリアス、と言うかやや残酷な展開になりそうです。

まだ笑いの要素は少ないかもですが、楽しんで下さい。

よろしくお願いします!
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