GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

43 / 57
極東支部を巻き込んだ麻薬事案に収束がつき始めていた。

そして、イリヤは再び____


芋掘り大会 閉会 ~花咲く未来が来ますように~

「………」

 

イリヤは、外部居住区を歩いていた。1人で。

いつの日も、雨が降っていなければ空気が砂っぽい。それは、イリヤ達がかつて住処にしていた場所も、今歩いている保護特区も変わらない。違うことと言えば、保護特区の方が全体的に小綺麗な建物である、と言うところか。

 

 

___あら、あの子前も来てなかった?

 

___やぁねぇ……ついこの間も治安部隊の人達が来てたのに、また何かやるつもりなのかしら?

 

___フェンリルって言ったら、ついこの間凄い問題を起こしたって言ってなかった?

 

___そうそう、麻薬、だったかな。俺等から金だけ取りやがって、ろくでもねぇことしやがる……

 

___こんなんじゃ税金の払い損よ……!

 

___フェンリルだからってでけぇ顔しやがって……

 

 

歩きながら、耳に入ってくる戯れ言を___戯れ言だと認識している時点で褒められないが___今日は、何となく心の中に迎え入れていた。慈愛だとか、そんな大層な理由では無く、単に気が向いただけだ。

だが、真正面から受け止めたその言葉は、やはりイリヤの心には棘が多いきらいがある。イリヤだけ特別、と言うわけでは無いのだろう。きっと、彼等はフェンリルの人間なら無差別に嫌いなのだ。

 

(でけぇ顔したつもりもねぇよ……)

 

等と、心の中でうそぶく。

 

やはり、イリヤにとっては神機使いよりも治安部隊の隊員の方が激務に思える。巡回の度に忌避の目で見られ、ついうっかり耳を澄ませてしまえば自分達に向けられる棘だらけの言葉を受け止める羽目になるのだ。きっと、その内慣れてしまうのだろう。だが、慣れてしまった時点で心のどこかが麻痺してしまっているのだ。

 

まるで、いつかの自分のように。

 

イリヤは、残酷なことを言ったな、と少しだけ悔やんだ。そう、彼は相葉に言ったのだ。軍人も警察も仕える相手は住民であって役人では無い、と。だが、実際はどうだ? 仕えるべき住民から、それこそいわれの無い仕打ちを受けているのだ。

 

(なんつーか………これは確かに役人が役人に依存するわけだ)

 

こんな現実を目の当たりにして、それでも住民に尽くせるのはよほどの善人だ。そうで無ければ、耐えられない。耐えたくも無い。

 

(相葉とかも、これでよく仕事が勤まるな)

 

きっと相葉も心のどこかにある敏感な部分を麻痺させているのだろうな、とイリヤは思った。それが意識的なのか無意識なのか、又は壊れた結果なのかは知らないが。相葉という男は、イリヤの印象的には、一言で言えば心が弱い男だ。いや、もしかすると相葉くらいの心の強度が普通なのかも知れない、と考える。少なくとも、イリヤはもう自分の心のどこかが壊れていることは自覚している。何せ、これだけ忌避の視線に晒されながら、それに対してどう傷つけば良いのか、を考えてしまっているのだ。その時点でおかしいと言える。しかし、そんなイリヤに対して相葉は優しすぎた。そして、自分の心に鈍感すぎた。だから、いつの間にか組織に依存するようになり、だから、組織に裏切られたときに酷く傷つく。

 

(きっと、相葉くらいが普通なんだ)

 

そう、きっと彼くらいに回りに振り回されやすいのが普通の人間の心なのだ。人間、心の底から忠誠を誓える、誠意を尽くせる相手など、片手で数えるくらいしか持ちきれないのだ。その相手に、住民は大きすぎる。

 

耳から入ってくる様々な戯れ言や、体中で感じる忌避の視線を、意識的に感じ取りながら、そしてそれに対して特にリアクションを示すことも無く流していく。消化では無く。

 

 

そうしながら歩いて行くと、いつの間にかピジョンズ・ベル児童園に着いていた。

 

 

門は開かれていた。

 

 

「今日は平和が真っ二つ、か」

 

 

そんなことを呟きながら敷地に足を踏み入れた。

 

運動場の入り口はテープで封鎖され、花壇の花も全て掘り返されていた。

 

(何も他の花まで抜かんでも良いだろうに……)

 

イリヤは花壇まで歩み寄ると、その場にしゃがんで花壇の土をすくった。よくよく考えれば、イリヤは、彼が覚えている限りでは、初めて土を触ったことになる。そのことに、少し感動を覚えつつ土の感覚を楽しむ。

 

(………何か柔らかくて、少し湿気てるのな)

 

手のひらの上で弄んでみたり、少し握ってみたりして土の感覚を感じる。

 

(………これくらいが自然なんだよな)

 

ふと、土の柔らかを心の脆さに重ねる。

 

これくらいに柔らかくて、これくらいに潤ってて、そして崩れるときは一瞬で崩れる。きっと、それくらいの心が普通で、だからきっと自分の心は少し壊れているのだ、と自虐的な気分になる。

 

はぁ、と溜息を吐いてその場に立ち上がる。

 

 

「さて………」

 

 

イリヤは職員用玄関へ足を運ぶ。

 

玄関は、前来たときと同じように、やはりどこか味の無い薄寂れた様子でイリヤを迎えた。

 

玄関のベルを押すと、やはりこの前と同じ様な、ビーと言うレトロな音を響かせた。

 

しばし待つと、弱々しい感じに扉が開けられた。

 

「はい、どちら様で………っ!?」

 

出てきたのはやはり長瀬だった。

ただ、この前と違うのは、どちらかと言えば今日の方はフェンリル嫌いでは無く、怯えている感じであった。飼い主に暴力を振るわれた犬のように、卑屈な感じの上目遣いで長瀬はイリヤを見ていた。

 

「どうも、お久しぶりです」

 

目の前の小柄な女性に、内心舌打ちをしたい気分になりながらもそれを堪える。イリヤは、長瀬のその怯えきった目つきが気に入らなかった。

 

「あの……何の用でしょうか…?」

 

「まぁ、この間も相談した内の家族の件ですよ」

 

「……っ、すみません。お引き取りを……」

 

そう言って、逃げるようにドアを閉めようとする。

 

だが、イリヤはそれを許さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___逃げんな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

長瀬の表情は、驚きの色を滲ませたまま硬直していた。

 

「犯罪にまでてぇ出して子供を、孤児院を守ろうとしたクセに、今更逃ようとか考えてんじゃねぇ」

 

イリヤは長瀬の怯えきった目つきが気に入らなかった。何故なら、彼女のその目は、大昔に鏡越しに見つめた自分の目つきにそっくりだったからだ。何もかもに怯えて、守りたいものさえも忘れきった、人形の目に。

 

「あんな手を使ってまで守ろうとしたんだ、アンタは。それなのに今更逃げるな。守ろうとしたものを手放すな、忘れるな、裏切るな……!」

 

 

何アツくなってんだ、と少し自分の行動を省みる。

 

 

「……相談だけでも聞いてもらえますか?」    

 

 

それを最後に、イリヤは長瀬の反応待つことにした。

 

 

 

「……中へどうぞ」

 

 

 

しばらくして、長瀬は少し冷静さを取り戻した様子でイリヤを中へ案内した。迎え入れられたのは、前の時と同じく職員室だった。

 

 

 

「前のときはろくなおもてなしもせずにすみませんでした。コーヒーでよろしいですか?」

 

 

「はい、それでお願いします」

 

 

 

無言の流れの中に、コーヒーを入れる日常的な音がささやかに流れ込む。

 

 

「……結局、悪いことに手を出すべきじゃ無かった、そう言うことでした」

 

 

お待たせしました、と言いながら長瀬が淹れたてのコーヒーをイリヤの前に置いた。長瀬の方も、イリヤと正対するように座る。

 

「……と言うと?」

 

イリヤはコーヒーをすすりながら、訊く。

 

「アツミゲシの大量生産で得ていた収入が消えた瞬間、一気に赤字に落ち込んだんですよ」

 

そう話す長瀬の表情は、どこか哀愁が漂っている。

 

「今までお金を寄付して下さっていた方達からも愛想を尽かされまして。振る袖も無いとは正に、ですよ」

 

「そう、ですか………」

 

まぁそれはそれで仕方ねぇだろう、とイリヤは考えていた。当然、長瀬だって気付いているはずだ。今まで支援していたところが、実はろくでもないことに荷担していました、なんて知れば支援する気も失せる。

 

「だから、悪いことに手を出すべきじゃ無かった、と言っているんです。後の祭りですけどね」

 

その苦笑はやはり儚げで、そしてイリヤはそれが長瀬の素なんだろうな、と感じていた。きっと、目の前の女性は、大切な者を守るためならいくらでも危険なことに踏み込める強さと、それをしてから初めて怖じ気づく憶病さを持った強がりなんだ、と。

 

「これからはどうするつもりなんですか?」

 

だから、イリヤはむしろ単刀直入に訊いた。

 

「そう、ですね………正直に言うとまだ何も決められていないんです。ここを閉鎖するか、しないか。今いる子供達をどこに任せるのか、それとも任せないのか……本当に、何も」

 

そう話す長瀬の目は、どこか遠いところを見ているような、そんな印象をイリヤに与えていた。ただ、それよりも憑き物が取れたような雰囲気も携えていて、結局、目の前の女性は現実と向き合わざるを得ない状況なのだな、と理解する。

 

「例えば、あなたは死ねと誰かに言われて、はい分かりましたって言いながら死にますか?」

 

「え?」

 

「いや、まぁ……長瀬さんはこの孤児院を閉鎖しろと誰かに言われたら素直に従うんですかって話です」

 

「それは…………」

 

「従うのも従わないのも、どっちでも構いません。そこはあなたが決めることで、自分にはどうでも良いことですから。ただ……」

 

「ただ?」

 

「個人的には、また本物の花が見たいな、と思うところはありますね。うちの家族にも、本物の花が見れる場所で育って欲しいし」

 

おっと長居しすぎましたね、と言いながらイリヤは随分ぬるくなったコーヒーを一気に飲んで、席を立った。

 

 

 ・・・・・・・・・

「花に溢れている未来が来ると良いですね」

 

 

イリヤはそう言うと、職員室を出た。これ以上言うことも無い。後はあの女性がどう言う判断をするのか、どんな道を選ぶのか、それ次第だ。

 

(街は花でいっぱい、ってな)

 

できれば家族がここに任せられるように、そう心のどこかで願いながらイリヤはアナグラへの道を辿り始めた。

 

 




芋掘り大会と言うタイトルを選んだ自分の、致命的なセンスの無さに絶望してます。

芋掘りって……芋掘りって……(T-T)

もうそろそろ話の方も動き始めたら良いな……

頑張っていきます!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。