GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
「___このっ」
(?)
最初に感じたのは振動だった。それは、イリヤの身体に直接襲いかかるものでは無く、別の場所で発生した揺れを感じている感覚。
「___さっさと」
(え?)
彼がその一瞬で理解できたのは___
「くたばりやがれっ!!!!!」
ソーマが駆けつけてくれた、と言うことだった。
次に聞こえたのは、重量物が勢いよく肉に叩きつけられる音。そして、肉が引き裂かれ千切れていく音。大量の液体が噴き出し、地面にまき散らされる音。
コンゴウの、悲鳴。
「チッ」
コツン、とイリヤの体に何かが投げつけられた。腹の上にのっていたのは___
「……回復、錠……?」
「さっさと使いやがれ……!」
「え?」
何も訊く暇も無く、ソーマはコンゴウへ向かって距離を詰めていった。まるで、喋る暇があったらさっさと回復しろ、と言わんばかりの勢いで。
へへっ、と笑いながら回復錠を口の中に流し込む。
即効性の鎮痛剤と微量のオラクル活性剤が一瞬でイリヤの体中を駆け巡り、負傷した組織を素早く修復させ、同時に痛みや疲労感を一時的に誤魔化す。
のそり、と崩れた壁の中から立ち上がる。
「へへっ………こりゃあ」
ユラリ、ユラリとシノに近付いていく。
「___ちぃとキレた」
シノの柄を掴んだ瞬間、イリヤは目にもとまらぬ速さで駆けだした。見据える先にいるのはコンゴウ。
「だぁりゃぁぁああああ!!!!!」
ソーマに気を取られて、背中を向けているコンゴウに向かって力尽くの一太刀を加える。その一撃は予想以上に重たく、一発でコンゴウの背中の管状の器官を粉砕した。
「バカッ!! 出しゃばんじゃ___っねぇ!!!」
イリヤが攻勢に加わったことに気付いたソーマは、それでも自身の攻撃の手を緩めることも無く、イリヤの加勢を咎めた。そこにどんな感情を込めているのかは知ったことでは無いが、少なくとも快くは思っていない。
「うっ___せぇっ___よっ!!!!」
イリヤも負けじと斬撃を加えていく。
シノ専用のバスターブレードパーツ“ギルィティーナ”が、その名に恥じぬ勢いでコンゴウの肉を切り裂いていく。
刃にこびりついた肉片が飛び散り、赤黒い体液が溢れかえって飛沫をあげる。
白銀の刀身が、赤く汚れていく。
「チッ!! おい、離れろっ!!!!」
ソーマの警告が耳に入った瞬間、振り抜こうとした神機を無理矢理止めてシールド展開させる。
コンゴウの回転ラリアットをダイレクトに受け止め、4m程の電車道を作る。
(やべぇ、へばった!!!!)
先の一撃をまともに受け止めたせいで、イリヤの身体に残っていたスタミナを全て使い切ってしまう。脚がガクガクと震え、そのまま膝をついてしまう。
「___バカがっ」
ソーマは、イリヤが潰れた瞬間を見逃さず、すぐに彼とコンゴウの間に身体を挟み込んでイリヤを護る。
「うぜぇんだよっ!!!!」
ソーマのバスターブレード“イーブルワン”が、猛威を振るう。ノコギリ状の刃がコンゴウの肉に深く食い込み、そして引き裂く。
「へばってるっ___っ暇がっ___あんならっ____さっさとっ______持ち直せっ!!!」
ソーマは必死だった。
一撃一撃の合間を使ってイリヤに檄を飛ばす。早く立ち上がれ、そんなところでへばってくれるな、と。
「分かってるよ………急かすんじゃねぇ」
そんなソーマの必死の檄を聞きながら、イリヤはむしろ不気味なほどにゆっくりと立ち上がった。
(OPは……満タン……全部叩き込んでやる)
イリヤはガンフォームに変形させたシノを構えて、狙いをコンゴウに定める。
「_____射線空けろぉっ!!!!」
イリヤの怒声を聞いたソーマは、すぐさま身を退く。そして、その次の瞬間、スナイパーの銃身にあるまじき速度でレーザーがコンゴウの身体に撃ち込まれていく。
1発。
表面を抉る。
2発。
初弾と同じ位置に着弾。更に抉る。
3発。
表層が結合崩壊。体液が噴き出す。
4発。
更に周囲の組織を破壊。傷を拡げる。
5発。
肉を抉る。
6発。
更に深く肉を抉る。
7発。
体液が飛沫をあげる。
8発。
コンゴウ、痙攣。
9発。
更に痙攣。
「______Пошли На Фуй(失せろカス)」
10発目の銃声が木霊した。
コンゴウの胴体には、人間1人が潜れそうなくらいの穴がポッカリと穿たれていた。
「あぁ、やっちまった、コアも消えたか」
_____コンゴウ、絶命。
イリヤがそうぼやいた途端に、コンゴウのボディが黒い粒子となって風に吹かれて原形の輪郭を崩していく。まるで、砂で造り上げた城が風化して姿を消していくように。
「オイ」
輪郭が崩壊していくコンゴウの屍をぼんやりと眺めていると、いつの間にかソーマがイリヤの後ろに立っていた。
「新入り、テメェ、言ったよな? 出しゃばんじゃねぇって」
また胸ぐらを掴まれる。
「まぁ、仕方ねぇだろ? 散歩してる途中で出くわしたんだからさ。つぅか、もう1体はどうしたんだよ」
「とっくに殺した」
「おぉ凄ぇ!」
「テメェ、ふざけんじゃねぇぞ」
イリヤは口を噤んだ。ソーマの瞳が、彼が思っている以上に重たく濁り、そして真剣な光を鈍く放っていたから。
「もう、金輪際、俺に関わるんじゃねぇ」
ソーマの声は、悲痛だった。
「『死にたくねぇならな』ってか?」
だから、イリヤはそれが気に入らなかった。
「俺はまだ死んでねぇぞ? お前に助けられたってのもあるが、まぁそれでも死んでねぇことに変わりはねぇ」
イリヤは、何となく察しがついた。
ソーマは、単に他人が恐いのだ。自分と一緒にいて、今も生き残っている人が余りにも少ないから。自分と一緒にいた誰かが、目の前で死んでいくから。
目の前で誰かが死んで、そのたびに死神と貶されるくらいなら、いっそ関わりを絶てば良い。だから、他人も自分に関わるな。
ソーマは、ただそこに逃げ込んでいるだけなのだ。自分の近くにいた誰かが死ぬのを見たくないから。
それを間違っていると言うつもりは全く無い。
むしろ、イリヤはソーマが何を怖がっているのか、何を嫌っているのかが手に取るように分かるから、それを否定しようとも思わない。何せ、今の自分だってソーマに説教を垂れられるほどじゃないから。
だが、それでも1つだけ気に入らなかった。
「お前といたらソイツが死ぬって言う、その辺な思い込みはやめろ。不愉快だ。俺はまだ良い。どうせ簡単に死ぬつもりはねぇからな。だが、エリックさんはどうなんだよ。あの人と付き合い長ぇんだろ? 流石に失礼だ」
だから、俺に関わると死ぬ、なんて口にすんな。
胸ぐらを掴んでいたソーマの手が急に放されて、イリヤはその場に尻餅をついた。
「チッ____戻るぞ。それと___」
_______それでも俺に関わるな
ソーマは静にそう言い放って、イリヤに背を向けて歩き出した。
「流石に、新入りがチョコッと何か言っただけで変わるわけねぇか」
気長に付き合うか、と独り言ちながら立ち上がりイリヤもソーマの後を追った。